研究内容・イネいもち病

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札幌で開催された日本植物病理学会 平成18年度大会において、当研究室の三木慎介が第1回学生優秀発表賞を受賞いたしました(平成18年6月28日)。

イネいもち病菌の分子生物学的解析

イネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)とは、イネ科の植物に感染するカビ(子嚢菌門)であり、冷夏長雨の年に大発生し、水稲の大凶作をもたらす植物病原菌です。このいもち病の発生は、イネの大きな減収をもたらすため、日本だけにとどまらず、全世界的に問題となっています。

現在のいもち病の防除法は、いもち病に抵抗性のイネの品種を使用したり、農薬を散布したりするなど、「菌をやっつける」ことによる防除法です。しかし、これらの方法は、解決が非常に困難なある問題を抱えています。それは、それらに対する耐性を獲得したいもち病菌の変異株が発生してしまう、という問題です。そこで、当研究グループでは、分子生物学を駆使して、いもち病菌の遺伝子の突然変異機構を明らかにすることで、将来的には突然変異の発生を制御することによる、新しい防除法を生み出したい、と考えています。この防除法はいもち病菌を殺すのではなく、変異を起こさせなくするため、耐性菌の出現が抑えられると期待されます。我々の研究グループでは、この目標に向かって、イネいもち病菌の宿主特異性遺伝子の解析と、突然変異誘導のメカニズムについて研究を行っています。以下にその内容を示します。

(1)宿主特異性遺伝子の解析

いもち病菌には、様々なタイプがあります。例えば、菌株aはあるイネ品種Aに感染できますが、別の品種Bには感染できません。逆に、品種Bに感染できる菌株bは、品種Aには感染できない、といったことが良く見られます、この現象を、「宿主特異性」と言います。この現象には、イネいもち病菌とイネの各々に存在する2つの遺伝子が関与していることがこれまでの様々な植物病原菌の研究から考えられています。すなわち、植物が持っている「抵抗性(R)遺伝子」と、いもち病菌が持っている「非病原性遺伝子(Avr)遺伝子」です。抵抗性遺伝子は、菌の持っている非病原性遺伝子の産物を、病原菌の感染のシグナルとして認識し、植物が持っている菌への攻撃システムのスイッチをオンにすると考えられています。最初の、いもち病抵抗性の品種が、変異したいもち病菌に感染してしまう、という問題を遺伝子の面から考えてみると、いもち病菌の非病原性遺伝子が変異することで、イネによって認識されなくなった、と考えられます。つまり、非病原性遺伝子が、問題を解く鍵だということです。しかし、この非病原性遺伝子がどのような遺伝子か、また、その認識が抵抗性遺伝子によってどのように行われているか、と言うことに関しては、まだ解析されている数が少なく、よく分かっていません。そこで、我々は、イネのいもち病抵抗性遺伝子Pi-aに対応するいもち病菌の非病原性遺伝子「Avr-Pia」を見つけて、宿主特異性や、どのような突然変異が起こるかを解明しようと研究を進めています。

(2)突然変異誘導のメカニズムの解明

では、どんなときに非病原性遺伝子など、いもち病菌の遺伝子は変異するのでしょうか。あまりにも有名なダーウィンの「自然淘汰説」で、突然変異は生物進化の原動力とされています。その突然変異は、一般には一定の確率で起こり、環境や変異原など外的要因によってその確率が高まると考えられています。いもち病菌などの病原菌も、そんな運任せで起きる突然変異をあてにしているのでしょうか?時には10%以上もの高い確率で変異するともいわれているいもち病菌は、突然変異を高めるための特別な仕組みを備えていると、我々は考えています。その仕組みに重要な役割を果たす遺伝子として、我々はDNA組換え修復遺伝子やトランスポゾンに注目しています。

なぜ、これらの遺伝子に注目するのかというと、一つは、イネいもち病菌の染色体DNAの長さを調べると、菌株によってバラバラで、多様性に富んでいるからです。これは、いもち病菌が、自身の染色体を大きく変化させていることを伺わせます。染色体の変化をもたらすためには、DNAの組換えが必要です。このDNAの組換えを細胞内で行っているタンパク質の遺伝子が、DNA組換え修復遺伝子です。もう一つは、いもち病菌のDNAの中には、トランスポゾンという「動く遺伝子」がいくつもあって、それらがある遺伝子に挿入されると、突然変異を起こすことが期待されるからです。

いもち病菌が変異しようとしているときには、これらの遺伝子が大量に発現することが期待されるので、これらの遺伝子が、いつ発現するのかを解析することで、変異をいつ起こしているかがわかると考えられます。これまでに、いもち病菌を活性酸素ストレスにさらすと、これらの遺伝子の転写が活性化することがわかっています。活性酸素ストレスは、抵抗性遺伝子によって引き起こされる病原菌攻撃システムの初期に発生することが知られているので、いもち病菌は、イネからの攻撃を受けているときに、突然変異を起こしているのかもしれません。このような仮説を基に、研究を進めています。

最後に、この研究グループの所属は、大学学部では「生物機能化学科 応用菌学」ですが、大学院では「農学院 共生基盤学専攻 生物共生科学講座 植物圏微生物学分野」となります(実験・ゼミ等は、応用菌学と同じ部屋で、一緒に行っています)。

研究室紹介
研究室概要
担当科目
教員
近年の業績
研究内容
イネいもち病
永久凍土微生物
腸内細菌
オリゴ糖の生産
芳香属化合物の分解
稲わらからのバイオエタノール生産
アスペルギルスニガーのプロモーター解析
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