北海道大学 微生物生理学研究室
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担当講義
>> 微生物発酵による有用物質生産の効率化
>> アミノ酸アナログ変換酵素の探索と機能解析
>> 腸内細菌と胆汁酸の相互作用に関する総合的研究
>> ビフィズス菌の遺伝子操作系の開発


微生物発酵による有用物質生産の効率化

 微生物発酵による有用物質生産の効率化や、新規酵素反応プロセスの開発に資する基盤情報を得ることを目的として、微生物代謝機能の制御、新機能の開発に関する教育研究などを行っています。微生物発酵を効率化するには特定の代謝産物の生合成経路の活性のみならず、糖代謝活性を含めた中枢代謝活性の向上が重要です。当研究室のこれまでの研究により、解糖系の活性化にはエネルギー代謝の変異が有効であることが明らかになってきました。現在、産業上重要な微生物である大腸菌やグルタミン酸生産菌を用いてさらに詳細な研究を進めています。この研究はバイオプロセスによる有用物質生産という応用性と、微生物のエネルギー代謝の仕組みを解明するという基礎的な二つの面を持っており、興味が尽きません。




アミノ酸アナログ変換酵素の探索と機能解析

 古細菌から高等動物まで、あらゆる生物に分布しているアミノ酸変換酵素(ラセマーゼ、アミノトランスフェラーゼ, etc, etc….)。やり尽くされた感もありますが、ちょっと変わったアミノ酸に注目して研究を進めています。具体的にはアスパラギン酸アナログの3-ヒドロキシアスパラギン酸、プロリンアナログのアゼチジン-2-カルボン酸などを変換する酵素を探索しています。古典的な土壌分離から初めて、新しい研究のネタを探します。

分子中に2つの不斉炭素を持つ3-ヒドロキシアスパラギン酸は哺乳類の神経細胞の興奮性グルタミン酸トランスポーターの競争的阻害剤として知られており、特にL-threo体が生理活性が強いことで知られています。D-threo体のみを分解する酵素が見つかれば、有機合成されたDL-threo混合物であるラセミ体からD-threo体のみを酵素を用いて分解しL-threo体を得るという酵素的光学分割法に応用できるかもしれません。(図1)

またこの研究の過程で2つの新規酵素、L-threo-3-ヒドロキシアスパラギン酸デヒドラターゼ(Pseudomonas sp.T62由来)とD-threo-3-ヒドロキシアスパラギン酸デヒドラターゼ(Delftia sp. HT23由来)を発見しました。これらの酵素は認識する基質の立体化学が異なるだけですが、1次構造上の相同性はなく(図2)酵素科学の基礎的な発見としても興味深いと考えています。




腸内細菌と胆汁酸の相互作用に関する総合的研究

 近年、乳酸菌やビフィズス菌はプロバイオティクスとして重要視されています。プロバイオティクスが十分に機能を発揮するためには、消化管内のストレス要因である胃酸や胆汁酸等に耐性を持ち、生きて腸管内に届き増殖できることが求められます。胆汁酸は十二指腸から分泌される胆汁の成分で、界面活性作用を持つため脂質を乳化し、その消化吸収を補助しています。また同時にその界面活性作用のため、腸内細菌に対する毒性も大変強いことが知られています。当研究室ではこの胆汁酸に焦点を当て、プロバイオティクス等の腸内乳酸菌のみならず、広く腸内細菌と胆汁酸の相互作用に関する研究を展開しています。人の健康に関わる微生物研究の分野として、大変エキサイティングな領域です。

■乳酸菌、ビフィズス菌の胆汁酸耐性機構の解明
 プロバイオティクスとしての乳酸菌やビフィズス菌がどのようにして胆汁酸に耐えて腸管内に生息しているのかについての基礎的な知見を得ることを目的に研究を進めています。例えば、ある種の乳酸菌が胆汁酸と接触した時におこる細胞の生理的学的変化を、生理生化学的手法やゲノム情報を基盤とした解析手法(DNAアレイ、プロテオーム)を用いて明らかにしようとしています。ここから得られる成果は、より良く機能できるプロバイオティクスの開発に生かされることになります。

■迅速な腸内細菌叢解析方法であるFISH-FCMの開発
 ヒトや動物の腸内に生息する細菌は酸素を嫌う嫌気性菌であり、in vitroでの培養が困難な種が多く存在しています。腸内細菌叢の解析はこれまでは培養により行う方法が取られてきましたが、上述の理由により、実際の腸内における菌叢を正しく反映しているとは言えないことが分かってきました。そこで、培養を介さない腸内細菌叢の解析手法として、私たちは蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)による特定菌種の検出と、フローサイトメトリー(FCM)による迅速な菌数計測を組み合わせた手法であるFISH-FCM法を確立した。この手法はFCMの迅速計測性をFISHの種特異的な検出特性と合体させたもので、大変効率が良く、今後広く活用されることが期待される所です。当研究室ではこの手法を用いて、プレバイオティクスとしてのオリゴ糖の投与がヒト糞便中のビフィズス菌叢に与える影響を種レベルで初めて明らかにしたほか、現在は胆汁酸が腸内菌叢に与える影響を調べています。

■二次胆汁酸生成菌の探索
 上記の胆汁酸はある種の腸内細菌によって腸管内で様々な二次胆汁酸(化学構造が多少変化した胆汁酸)に変換されることが知られています。二次胆汁酸の中には、発ガンプロモーター活性を持つものもあれば、胆石や肝臓疾患の治療薬として用いられるものなど、私たちの健康に大きな影響を与えているものと考えられます。一方で、腸内細菌は培養が難しく、まだまだ未知の菌がたくさん存在します。そこでこのような様々な二次胆汁酸を作る腸内細菌を分離してその変換機能を調べ、二次胆汁酸生成機構の解明をめざして研究を進めています。絶対嫌気性という取扱いが難しい微生物を相手にして、その胆汁酸代謝を解明することは骨が折れますが、オリジナリティーの高い、大変やりがいのある仕事です。



ビフィズス菌の遺伝子操作系の開発

 ビフィズス菌はヒトの大腸に存在する善玉菌として知られ、腸内環境の正常化や、免疫の賦活化など、ヒトの健康に対する様々な有用効果を持っていることが分かっていますが、それらの分子レベルでの詳細なメカニズムははっきりしていません。その原因の一つは、ビフィズス菌において遺伝子欠損株の構築や、変異導入などの遺伝子操作の手法が未だ確立されていない点にあります。そこで当研究室では、ビフィズス菌の遺伝子操作系を開発し、有用な遺伝子機能を解明することを目的とした研究を開始しています。

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