NOESY、ROESY


NOESY

noesy sequence

NOESYはNOE現象や化学交換を観測するための二次元法であり、一次元のNOEが遷移を飽和させることによったのに対し、磁化を反転させて(z軸上におく)NOEを起こさせる。二つの核AからXへのNOEを仮定すると、t1の間にAのケミカルシフト情報を持っていた磁化が第二のパルスで-z軸を向く。AとXがスピン-スピンカップリングしていた場合にどうなるか、COSYの項を思い出してみよう。t1の間にダブレットがxy平面上で互いに開いていくが、COSYではベクトルの分解をしてx軸上にあったアンチフェイズだけをみてy軸上にあった成分は無視したが、NOESYではこちらをみる。第二のパルスで-z軸を向いた磁化はτmの間にXへ移動し、最後のπ/2パルスでふたたびy軸に戻されt2の間は今度はXのケミカルシフトをもって検出される。スペクトルは通常対角ピークを負(赤)にあわせる。相関ピークは正のNOEであれば正のピーク、負のNOEは負のピークで得られる。化学交換ピークも負である。

このシーケンスはDQF-COSYやリレーCOSYと同じ形である。COSY相関ピークの一部は位相回しでNOE相関ピークと区別することができない。これを除くためにτmの長さをランダムに変化させて測定する。NOEや化学交換に由来するピークはτmの変化に鈍感だが、COSYピークは敏感に変化するためτmの異なるデータを足し合わせれば相殺される。測定の分解能が高ければCOSYピークは位相検波COSYでみたようなアンチフェイズにあらわれる。

ROESY

NOESYでは負のNOEは化学交換のピークと区別できずに問題となることがある。また、NOEがゼロ付近となるような場合もある。このようなときはROESYが有効である。NOEが-z軸をむいた磁化同士の磁化移動であったのにたいし、ROESYはxy平面にスピンロックされた状態での磁化移動である。スペクトルは対角ピークを負にあわせと、ROE相関ピークは正のピークで得られる。

noesy sequence

このシーケンスは、TOCSYのものと同じである。シーケンスに用いるスピンロックスピンロックはTOCSYより低パワーのもので、その種類もTOCSY磁化移動がおきにくい矩形パルスやDANTEパルスが用いられている。しかしTOCSY由来のピークがあらわれることがあり、これは負の位相で得られるのでROEとは区別が可能である。しかし、TOCSYで磁化移動してさらにそこからROEがあった場合(TOCSY-ROESYピーク)は正で出るためROEと区別できない。スペクトル中に負のTOCSYピークがあればTOCSY-ROESYピークがあることを疑い、以下の点を改めて測定する。

NOESY and ROESY spectra

測定上の着目点

前項でも述べたようにNOE強度と符号は観測核の磁気回転比、分子相関時間τC(分子の運動しにくさ、一般に高分子ほどτCが大きい)と外部磁場強度に依存する。NOEがゼロになることがある点に注意する。これに対しROEはτCによって強度がゼロとなることはない。

population after cross relaxation

NOESY、ROESYのτmの設定

NOESY、ROESYで得られる相関ピークの強度はτmに大きく依存している。分子量の小さい化合物から中程度の化合物ではτmが縦緩和時間T1程度が良く、また早い交換や負のNOEとなるような場合はそれより短くする。

T1は次のようなシーケンスによりVDを次第に長くして行き、z軸方向の磁化の強度変化を観測し、得られた結果を曲線を解析するルーチンによって求める。ゼロを通る点がT1のほぼ0.7倍であるから、簡単にはVDに適当な待ち時間を設定し信号強度がゼロになる点を求めても良い。

t1 sequence

ROESYではy軸上にスピンロックされている磁化同士のNOEである。この状態での緩和速度はTとよばれ、次のようなシーケンスにより磁化の減衰を直接観測し、得られた結果を曲線を解析するルーチンによって求める。

noesy sequence

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