これまでみてきた相関法のパルスシーケンスにはスピンエコー部分が挿入されていてスピンカップリングやケミカルシフトをリフォーカスさせているものが多かった。ここでは逆にスピンエコーによってスピンスピンカップリングを取り出す実験をとりあげる。
このシーケンスはスピンエコーの項で見たシーケンスのΔをt1/2に置き換えただけでのものである。1H/1Hカップリングのダブレットのケミカルシフト位置に回転座標系の基準を置き、何が起こるかベクトルモデルで考えてみよう。 π/2xパルスによってy軸上に倒れたスピンは互いに離れていく。t1/2ののちπxパルスをかけると早いスピンはx軸に対して対称な位置に移動する。同核種カップリングなのでカップリングの相手にもこのπxパルスがかかっているため、スピンの向きも変わり、早いスピンはz軸方向から見て反時計回りに、遅いスピンは時計回りに、t1/2時間のあいだ進むことになる。結局、スピンスピンカップリングはt1時間のあいだ展開し、ケミカルシフト、T2や磁場の不均一性はリフォーカスされる二次元実験でt1をだんだん増やしていけば、それに従ってスピンスピンカップリングの開き具合が大きくなっていき、従って縦軸はJカップリング、横軸はケミカルシフトというスペクトルが得られる。
このままでは相関が45度傾いた線上に乗るが、通常はスペクトルにtiltという演算処理を施してこれを垂直に並べる。このスペクトルをF2方向に足し合わせるとJカップリングのない、ケミカルシフト位置だけにシングレットピークのあるスペクトルとなる。カップリングパターンを解析する際は等高線スペクトルではなくスライスを取り出してJカップリングを読み取る。
スピンエコーでみたように、πパルスを異種核に同時にかければ異種核カップリングを取り出すことができる。
F1方向の分解能が低ければ、そのカーボンに直接結合しているプロトンの個数を知ることができる。また、F1方向の分解能を高くすれば遠隔CHカップリングによる分裂が観測できるがかなりの長時間を要するため、BIRDにより直結を除いて遠隔カップリングだけを残した方法や選択パルスを使う方法もある。
H/HJ分解スペクトルでは互いにカップリングしていない多重線が重なり合っている場合、これらを分離して観測できるが、二次効果が現われるようなAX系ではアーティファクトを生じるので注意する。