周波数スペクトルのデータポイントの間隔R(Hz/pt)とデータ取り込み時間Aq(sec)の間には次のような関係が成り立つ。
R=1/Aq
スペクトル幅F(Hz)をサンプリングポイントNで測定するとき、Nの半分は虚数部分なのでR=2F/Nである。以上二式よりN=2FxAq、サンプリングの間隔は1/(2F)秒である。
分解能をあげるためには、取り込み時間を長くするか、スペクトル幅を狭くするかすれば良いことがわかる。しかしこうすることは、1スキャンの測定時間がかかり全体として感度低下を招く。このため、取り込み時間を短めにして実データのFIDの後ろに振幅0のデータを補う、ゼロフィリングが有効である。プロトンやカーボンの通常測定では2倍程度、またとくに測定時間に大きく利いてくる二次元測定のF1方向は2倍またはそれ以上のゼロフィリングを行う。
インバース二次元測定のF1方向はLinear predictionを行うことで分解能が向上する(相関ピークが縦長にならない)。これは振幅ゼロのデータを補うのではなく、実FIDから推測したデータを補うもので、縦方向にはピークが数点しかないことから予測が可能になっている。Bruker のXwin-nmrの場合、いずれもF1方向の処理パラメーターを以下のように設定したのちフーリエ変換する。
信号の自然減衰はf=Aexp(-t/T2)であらわされる。もし、取り込み時間の終わりにFIDが減衰しきっていないとピークのすそにウイグルと呼ばれるノイズが発生する。これを防ぐには関数をかけてFIDのおわりで信号が0になるようにする(アポダイゼーション)。通常取り込みの間中ノイズは一定なので、FIDの前半には相対的にシグナルが大きく後半はノイズが目立つ。線幅の大きな成分(T2が短い)は後半には殆ど含まれていない。また、周波数の差が小さい二つの成分は後半に行くほど差が開いてくる。これらのことを考慮してFIDに関数を掛け算して特定の部分を強調することで欲しい情報を的確に得ることができる。この関数をウインドウ関数と言う。
プロトンやカーボンの通常測定には通常指数関数をかける。これにより減衰が早まり、みかけのT2が減少、すなわちシグナルの広幅化がおこると同時にS/Nが向上する。どのような指数関数をかけるかを、Line broadning factorとして設定する。
これに対して、関数の頂点がFIDの途中に来るようなsine, squared-sine, Lorentz-Gauss関数などをかけると線幅が減少しみかけの分解能が向上する。sine, squared-sineは山の頂点の位置を、Lorentz-Gauss関数は山の頂点と傾きを設定できる。山の頂点がFIDの始まりに近ければ指数関数と同様の効果が期待でき、また、FIDの終わりにシグナルが減衰しきるように設定する。これによって解析不能だった多重線構造を明らかにしたりできるほか、二次元スペクトルにおいてはスペクトルの質がまったく変わる。
COSYでは位相のゆがみに由来するピークのすその広がりを除くためにF1,F2方向ともにシフトしない(山の頂上がFIDの中心に来る)sine関数をかけるのが一般的である。NOESYなど位相検波ではもともとの線形がよいのでそのような必要は無く、π/2シフトしたsquared-sine関数(山の頂上がFIDの始まりに来る)をかけると良い結果が得られやすい。HMBCでは見たい相関が数ヘルツの遠隔カップリングによるものなので、F2方向は山の頂点が比較的後ろに行くような関数をかけるのが一般的である。最適なウインドウは試行錯誤でS/N、ピークの形状を見ながら最適化する。ウインドウを最適化する際、Interractive-modeなどと言って、結果を見ながらパラメーターを変化させることができるソフトもある。