DEPT


CH, CH2, CH3, C(四級)の区別

前述のように、直接結合する13Cと1Hは百数十から二百Hz程度でカップリングしている。このカップリングを利用して、CH, CH2, CH3, C(四級)の区別を行うことが出きる。

古くはAPT(attached proton test), INEPT(Insensitive Nuclei Enhanced by Polarization Transfer)が用いられたが、不ぞろいな1JCHのために結果があいまいになりやすかった。これを克服したのがDEPT法である。

dept pulse sequence

τには1/2(1JCH)を設定する。赤で示したパルスが可変パルスθでこのパルス幅によって、CH, CH2, CH3の出方を変える。DEPT測定の仕組みをベクトルモデルで表現することはできないが、強度変化のθ依存性はINEPTのθ依存性と同じ形となる。

プロトンだけについてみれば、1から5まではスピンエコーの形になっており、プロトンケミカルシフトはリフォーカスされ、6以降はプロトンの磁化はz軸上にありそれ以上展開しない。カーボンだけについてみれば、3から7までがスピンエコーの形になっており、カーボンのケミカルシフトはリフォーカスされる。4から5までの間がプロトン−カーボン間の多量子コヒーレンス状態と呼ばれベクトルモデルでは説明できない。この間のプロトン−カーボンのカップリングの展開の仕方がカーボンの多重度により異なり、6で得られる状態は可変パルスθの角度に依存して変化する。(ineptではプロトン、カーボンのどちらか一方がz軸上、他方がxy平面にあった。これを一量子コヒーレンス状態と呼ぶ)。

θ=90度のスペクトル(DEPT90等とも呼ばれる)ではCHのみが得られる。θ=135度ではCHと CH3は CH2,と位相が逆になる。通常CH2を下向きに書き出す。これらと13C通常測定スペクトルを組み合わせれば、CH, CH2, CH3, C(四級)の区別を行うことができる。

CH, CH2, CH3 modulation
inept scheme

測定上の着目点

積算回数

DEPTはプロトンからの磁化移動を使っているため13C通常測定(COM)に比べて感度がよい。終夜測定でDETT90、DEPT135、COMを連続測定する場合は、DEPTをそれぞれ3-4時間、残りをCOMに充てる。

繰り返し時間(図、RD)

DEPTはプロトンからの磁化移動を使っているため、RDはプロトンの緩和時間によって決まる。13C通常測定(COM)のように、RDが不足してピークが出なくなったりすることはない。

パルス幅

プロトン、カーボンいずれかのパルス幅が合っていないとおかしな結果となる。 また、DEPT90においてCH2, CH3のピークが低く出ている場合はプロトンのパルス幅が微妙に合っていない。

それでも結果がおかしいとき

DEPTはCH, CH2, CH3, C(四級)の区別をパルス幅βによっておこなっているため、1JCHがふぞろいでも影響は少ないが、それでも1JCHが極端に大きなメチレンはDEPT90スペクトルにピークを与え、DEPT135では強度が弱くなる。下図は、大きな1JCH(173Hz)が知られているメチレンジオキシを有する化合物(セサミン)のDEPT90(下段),DEPT135(上段)スペクトルである。メチレンジオキシ由来のシグナルがDEPT90においてかなり強くでており、DEPT135では強度が小さい。

dept spectrum of methylene-dioxy compounds

←4へ5へ→
←目次へもどる