一次元(1D)測定では取り込んだFID(時間の関数)をフーリエ変換して周波数軸を一つ持つ1Dスペクトルを得る。2D測定にはこれにあたるFIDの取り込み時間(t2)に加えてもう一つ時間軸(t1)があり、これら二つの時間に関してフーリエ変換して二つの周波数軸ω2、ω1をもつ2次元スペクトルを得る。一般に2D実験は、preparation、evolution(t1)、mixing、detecionから成る。
t2、t1は緩和時間のT2、T1と混同しないように。
では、二次元スペクトルができる仕組みを、上記のパルスシーケンスで、単一のシグナルを持つサンプルを測定する例で見てみよう。π/2 x パルスで磁化をxy平面状に倒す。まずt1がとても短いとき、続くπ/2 xパルスで磁化は-z 方向に向いてしまい、このスペクトルはピークが見えない。次の実験でははじめのπ/2 x パルスで磁化をxy平面状に倒してからt1を少し長くおいてからπ/2 xパルスをかける。t1の間に磁化が少し時計回りに回転する。この周波数は、通常の一次元(上図の上段のパルスシーケンス)で測定したときの取込時間中のそれと同じである。次のパルスの影響を見るために、3の状態の磁化をx,y軸方向それぞれに投影して分けて考える。y軸に投影した成分は第2のパルスで-z 方向に向いてしまい、x軸に投影された成分が検出される。
次の実験ではt1をもう少し長く置くと、検出される成分は前より少し強くなる。このようにしてそれぞれの実験でt1を少しずつ長くしていって取り込んだFIDを(t2について)フーリエ変換して並べて描くと以下の様になる。
赤で示したようにこのピークの頂点を結ぶと、時間t1についてのFIDのようになっている。これをt1についてフーリエ変換すると、シグナルの元もとの周波数位置にピークを持つスペクトルとなる。実際に二次元スペクトルを得るには上図のすべてのω2の位置について同様のフーリエ変換を行う。通常はこのような立体的な図ではなく、地図のように等高線で表す。
縦方向(t1 incrementsと言うこともある。Brukerではtd[1]):t1を変化させたFIDをいくつ取り込むか。上の文中ではそれぞれの実験と表現している。t2についてフーリエ変換したスペクトルがこの数だけできる。ここを多くすれば縦方向の分解能が上がるが、トータルの積算時間も増えてしまう。
横方向(Brukerではtd[2]):t2で取り込むFIDのデータポイント数。t2についてフーリエ変換してできたたtd[1]個のスペクトルを、このポイントごとに縦に結んで得たFID様のものがtd[2]個できる。それぞれをt1についてフーリエ変換して二次元スペクトルを得る。
t2で取り込むFIDの積算回数。ダミースキャン(DS)は最初のFIDに対してのみ入れる場合と、毎回入れる場合がある。