COSY


基本的なCOSYシーケンス

basic COSY pulse sequence

前項で見たシーケンスを、二つのダブレットからなるAX系について測定することを考えてみる。

AX system

まず、Aに着目して、分極移動のときと同じように考える。Aのケミカルシフト位置νAを回転座標系の中心に置くとダブレットのそれぞれは+J/2、−J/2ヘルツの速さで回転する。π/2パルスでxy平面に倒された磁化はt1の間、ケミカルシフトとカップリングによって展開する。間にπパルスがないのでこれらはリフォーカスしない。t1の間、二つのスピンは互いに離れていき、ふたたびπ/2パルスがかかると、磁化の一部はXに移動し、一部はAにとどまる。

AX system

Xに移動した磁化は、検出期(t12)にはXのケミカルシフトをもっているが、t1の間はAのケミカルシフトを持っていた。これは二次元スペクトル上で、(t2,t1)=(νX、νA)の位置にJヘルツで分裂したダブレットシグナルを与える。Xに移動せずAにとどまった磁化は、検出期(t12)にもt1の間もAのケミカルシフトを持っていた。これは二次元スペクトル上で、(t2,t1)=(νA、νA)の位置、つまり対角ピークを与える。同じことがXに着目して見ても起こっている。結果としてできあがる二次元スペクトルは(t2,t1)=(νA、νA),(νX、νA),(νX、νX),(νA、νX)の4箇所にピークがある。

AX system

ところで下図のように、あるスピンのケミカルシフトがω0より大きいか小さいか、つまりω0をy軸に置いた実験室座標系のxy平面を回る向きを検出するには、x,yの二つの軸での検出が必要であった。一次元スペクトルや二次元のt2の間は二つの軸での検出が可能であるが、二次元のt1の間は二つの軸で同時に検出することはできない。そこで、絶対値表示のCOSYでは上記のシーケンスの二つのパルスとレシーバーの位相をスキャンごとに変化させ(位相回し)て和をとったり差をとったりしてどちらか一方が得られるようにしている。また、t1の間の縦緩和によるアーティファクトも位相回しによって消している。このため積算回数は最低4回必要で、4の倍数である必要がある。いっぽうグラジエントパルスを使うCOSY測定では位相をまわして足したり引いたりすることと同じことをグラジエントパルスによって行えるので、位相回しは不要となり、積算回数1回の測定が可能である。

phase detection

このやり方では絶対値表示のスペクトルしか測定できず、ピークの正、負の情報は得られない。ν1方向の完全な位相の検出法であるTPPI法では、t1を増加させるごとに、最初のパルスの位相をπ/2増やして測定し、t2でx軸、y軸でのデータにあたるデータを交互に取得する。これによってJ値によるアンチフェイズ情報の含まれたスペクトルが得られる。しかし、対角ピークは位相があわないこと、J値が小さい場合や複雑に分裂しているピークの強度が弱くなるという欠点もある。

AX system, phase sensitive

COSY45

COSY実験の2番目のパルスのフリップアングルを変化させると、相関ピークや対角ピークの現れ方が変化する。良く使われるのは2番目のパルス幅を45度としたもので、COSY45などと呼ばれることもある。これは対角ピーク付近やまたマルチプレットの相関ピークの微細構造も単純化される(分解能をあげても、分裂線の本数分の相関ピークが見えない)。

DQF-COSY

DQF COSY pulse sequence

COSYの第2のパルスの直後に第3のパルスを入れて適当に位相をまわすことで、多量子遷移を選ぶことが出きる。たとえばニ量子遷移以上を選ぶ(double quantum filter)と一量子遷移(シングレット)は除かれる。また、先ほどあわなかった対角ピークの位相も合わせることができる。しかし、欲しいシグナルも一部捨てることになって、感度は1/√2となる。三量子遷移以上を選ぶ(triple quantum filter)とそのほかにダブレットも除かれる。

リレーCOSY

relayed COSY pulse sequence

基本COSYシーケンスの第2のパルスのうしろに適当な待ち時間Δとπ/2パルスを挿入すると、AMX系のような場合、4の段階までにAの磁化がMに来ており、続く待ち時間とパルスがあたかももういちどCOSYをしたようにはたらき、MからさらにXへの磁化移動がおきる。Δの間のケミカルシフトをリフォーカスするにはΔの中央にπパルスを入れる。結果としてCOSYのあとにさらにもう1段階リレーしたシグナルもいっしょに得られる。このリレーをもう一度繰り返すこともできる。

ロングレンジCOSY

Long-range COSY pulse sequence

最初のほうで見たようにt1の時間は短いので、注目しているカップリングのスピンはxy平面上で互いに余り離れることができない。このため小さいカップリングは検出されないが、上図のように第二パルスの前後に適当な待ち時間を入れると、小さなカップリングも検出でき、J値が小さいピーク、遠隔カップリングが強調されて得られるようになる。

HOHAHA、TOCSY

たとえばz軸方向の磁化に(π/2)xパルスをかけてy軸上に倒した後、数十から数百ミリ秒などの長い±yパルスをかけることをスピンロックと言う。

Spin Lock

スピンロックパルスが無ければ横緩和が起きて個々のスピンがばらばらに開いていってしまうが、スピンロックしている間は横緩和は起こらずy軸上に保たれる。この状態で互いにスピン結合しているスピン同士で磁化移動がおこることを利用して相関スペクトルを測定することができる。これはHOHAHA、TOCSY等と呼ばれる。

TOCSY pulse sequence

スピンロックは通常のパルスより弱いパワーを用いる。TOCSYではπ/2パルス幅が40μ秒くらいのパワーを用いる。tpはトリムパルスの略で、通常数ミリ秒の長い矩形パルス(同じ強さでかけつづけるパルス)を用い、スピンロック軸に向いていない磁化を分散させて消す。MLEV-17は小さなパルスを組み合わせて構成されるコンポジットパルスで、構成単位Aを(π/2)-y(π)+x(π/2)-y、Bを(π/2)+y(π)-x(π/2)+yとして

ABBA BBAA BAAB AABB (π)+x

を混合時間(mixing time, τm)の間繰り返すものである。この間、スピン系が繋がっているプロトンへ次々と磁化が移動していく。アンチフェイズの磁化を相手に移す分極移動と違って、インフェイズの磁化を移動させるため、対角ピークと相関ピークの位相は同じである。混合時間の長さを変えることによってどこまでの磁化移動を起こさせるかをある程度制御できる。

測定上の着目点

位相回し

絶対値表示のCOSYでは位相回しのため積算回数は最低4回必要で、4の倍数である必要がある。たいていの二次元測定はこのように積算回数は最低何回、何の倍数という約束がある。これを守らないとアーティファクトが出る。いっぽうグラジエントパルスを使うCOSY測定では位相回しは不要となり、積算回数1回の測定が可能である。


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