COSYのようなスピン結合を介した相関スペクトルを、互いにカップリングしている異種核で測定することを考えてみる。まずINEPTやDEPTでみたように、直接結合しているカーボンとプロトンの相関を、カーボン観測で行う場合を考えてみる。下図上段はCOSYの、下段は最初のCH COSYパルスシーケンスである。
プロトンとカーボンはケミカルシフトが非常に離れているのでAX系とみなすことができる。COSYで考えたようにまず、Aに着目してAのケミカルシフト位置νAを回転座標系の中心に置くとダブレットのそれぞれは+J/2、−J/2ヘルツの速さで回転する。π/2パルスでxy平面に倒された磁化はt1の間、ケミカルシフトとカップリングによって展開する。t1の間、二つのスピンは互いに離れていく。
COSYでみたようにこのJカップリングがプロトン同士のものであれば、プロトンへの第二のπ/2パルスがAにもXにもかかることによってAの磁化の一部はXに移動し、一部はAにとどまる。今は見たいカップリングはプロトン−カーボン間のものであるから、ここで磁化をカップリングの相手(カーボン)に移動させるには、分極移動の項で見たように、プロトンへの第二のπ/2パルスと同時にカーボンにもπ/2パルスをかければ良い。これによってプロトンAの磁化の一部はカーボンXに移動し、一部はAにとどまるが、観測しているのはカーボンであるのでAにとどまった磁化は見えない。
出来上がるスペクトルは縦軸(ν1)がプロトン、横軸(ν2)カーボンである。Xに移動した磁化は、検出期(t12)にはXのケミカルシフトをもっているが、t1の間はAのケミカルシフトを持っていた。これは二次元スペクトル上で、(t2,t1)=(νX、νA)の位置に縦方向にも横方向にもJヘルツで分裂したダブレットシグナルを与える。
縦方向にも横方向にもJヘルツで分裂したダブレットでは解析しにくいし感度も悪いので、両方向にデカップリングされたスペクトルを測定するほうが良い。ν2方向のデカップリングはINEPTと同じように、取り込みの前にリフォーカスのための待ち時間Δ2を挿入し、CPDデカップリングしながら取り込めば良い。ν1方向はどうだろうか。
t1のあいだに必要なのは、プロトンのケミカルシフト展開だけで、今、プロトン−カーボンのJカップリングは除きたい。スピンエコーの項を応用して考えれば。Jカップリングだけリフォーカスさせるにはt1の中央にカーボンのπパルスをかければ良いことがわかる。カーボンにもプロトンにもπパルスをかけた時と違って、スピンの位置はかわらず、符号の反転だけが起こりJカップリングはリフォーカスする。
これだと磁化移動に必要なアンチフェイズが無くなってしまうので、t1の後に、待ち時間Δ1を入れてこれを作り出す。待ち時間の最適値は、INEPTでみたように、Δ1=1/2J, Δ2=1/3〜4Jである。この手法をHETCORと呼ぶこともある。
これまで見てきたのは直接結合する(1 bond)カーボン、プロトンのJカップリング(1JCH)であったが、2〜3結合はなれたカーボン、プロトンのあいだにも数ヘルツのJカップリング(LRJCH、2,3JCH)が存在する。上記のシーケンスのΔ1, Δ2を遠隔カップリングに最適化して測定すれば遠隔(long-range)CH相関スペクトルが得られる。しかし、、t1,Δ1, Δ2が長くなると、横緩和のために感度が減少する。これを改善したのがCOLOCである。
最初のπ/2パルスから第二のπ/2パルスの間隔をΔ1で固定し、t1が増えるに従って、プロトン、カーボンのπパルスが後ろに移動していく。Δ1の中にt1を含ませることによって全体の時間を短くし、横緩和によるシグナルの減衰を押さえている。このように、t1が固定の待ち時間に含まれていて、t1が増えてもそれぞれのFIDを測定する時間が変化しないように設計された手法をコンスタントタイム法と呼ぶ。
プロトン-カーボン相関については後に述べるように感度の点から、プロトン側から観測する(インバース法)異種核測定HMQC, HSQC, HMBCに取って代わられたといってよい。しかし、カーボン側のほうがシグナルがシャープな場合はカーボン観測のほうが有利で、プロトンがかなりブロードニングしていてもカーボン観測で相関が得られることがある。また、古くからある装置ではインバース法に対応していないものもある。また、相関シグナルを与えない、分子中に13Cを含まない分子を消去する必要がないため、次に述べるプロトン観測の異種核相関法に比べてスペクトルがきれいである。