直接結合する13Cと1Hは百数十から二百Hz程度でカップリングしている。このカップリングは、1H通常測定と同じパルスシーケンスでカーボン核を測定すればスペクトル上に現われる(下図、右上段)。メチンカーボンは二分裂、メチレンカーボンは三分裂、メチルカーボンは四本に分裂し、さらに遠隔カップリングも観測される。しかし、スペクトルが複雑で感度も悪いことから、このカップリングを消して(デカップリング)観測している。(下図、右下段)。1H-NMRスペクトルから見ると、あるプロトンの99%は12Cに結合していてカップリングは存在しないので、メインのシグナル上にはH/Cカップリングは見えない。1%は13Cに結合していてそのカップリングは、メインピークの両側のサテライトピークとして観測できる(下図、左)。このように同位体構成の違う異性体をアイソトポマーと呼ぶ。以下にトリクロロエチレンの炭素に関する4種のアイソトポマーとプロトンおよびカーボンのスペクトルを示した。このスペクトルでは4のようなアイソトポマーの13Cカップリング(数十ヘルツ)は観測されなかったが、プロトンの拡大のように、メインピークの両側に観測できることもある。
カーボンのパルス幅が極端に合っていないと感度に影響する。プロトンのパルス幅が合っていないと、デカップリングの効きが悪くなりピークが分裂したり、感度が落ちたりする。まったくデカップリングされていなければ、1JCHどおりの分裂幅となり、遠隔カップリングによりピークが細かく割れたりブロードになったりする。中途半端にデカップリングされていれば、1JCHより小さな幅となり、メチンカーボンは二分裂(d)、メチレンカーボンは三分裂(t)、メチルカーボンは四本(q)に分裂する。昔はこれを利用したオフレゾナンスデカップリング法でカーボンの帰属を行ったため、四級炭素をs、メチンカーボンをd、メチレンカーボンはt、メチルカーボンqと示すことがある。今はこれらの区別を後述するDEPTにより行う。
パルスを受けた磁化が定常状態に戻るための時間(縦緩和時間)は1Hより13Cのほうが長く、また、極端に長いカーボンが存在する。このため、30度パルスをかけてデータ取り込みとRDの時間を経ても完全に緩和しきれないで次のパルスを受けることとなる。これを繰り返しているとシグナルが飽和して観測されなくなったり強度が弱くなったりする。
図上段のスペクトルは通常のパラメータ(RD=2sec)で測定したニトロベンジルアルコールのスペクトルである。ニトロ基の付け根の四級カーボンは緩和が長いことが知られており、これが観測されていない。下段はRD=10secとしたスペクトルである。ここではニトロ基の付け根の四級カーボンも観測されている。RDを長くすれば緩和が長いカーボンも観測できるが、試料量があまり多くない場合にはRDを長くして積算回数が減ることは好ましくない。プロトン観測二次元でこのカーボンを間接的に検出できればよしとするか、RDを長くして測定するかはケースバイケースである。