13C-NMRスペクトルの見方

NMR-4

<NMRで観測できる炭素原子>

NMRで測定では、有機化学上最も重要な炭素核を観測することもできる。ただし、天然存在比の多い12Cは観測できず、13Cが観測対象となる。
同位体天然存在比
12C100
13C1.11

天然存在比が低いため13C-NMRは低感度である。また、13C-13Cが隣り合う確率も同様に低いため、13C核同士のカップリングは通常観測されない。

下図は、没食子酸26mg/ 0.5ml methanol-d4溶液の構造および13C-NMRスペクトルである。

structure and 13C-NMR spectrum of gallic acid

<シグナルの数>

最も高磁場(右)のシグナルは、溶媒に用いた重水素化メタノールのメチル基の炭素シグナルである。1H-NMRスペクトルと同様、化学的に等価な核は同じケミカルシフトを持つ。没食子酸には7個の炭素があるが、2と6、3と5は同じシグナルを与えるので5本のシグナルが現われている。

<シグナルの位置>

1H-NMRスペクトルと同様、ケミカルシフトは、そのカーボンがどんな環境にあるかを表し、各炭素の混成状態、隣接するヘテロ原子についての情報を与える。( E.プレシュら「有機化合物スペクトルデータ集」講談社サイエンティフィクp.7など。)

1H-NMR同様、その核の置かれた化学的環境とケミカルシフトの相関については、おおざっぱにいえばプロトンでの傾向と似ているので、同時に覚えると良いだろう。Silverstein第6版p.243付録B(第5版p.238付録B)に両者を合わせて書いてある。もっと詳しい表は必要に応じて使えるようにしておこう。

<シグナルの強度>

1H-NMRスペクトルと違い、プロトンデカップリングによるNOEでNMRシグナルの強度が増大しているので、ピーク強度は炭素数に比例しない。

<シグナルの分裂>

〜そのカーボンに何個のプロトンが結合しているか〜はデカップリングで消している

隣接する13Cと1Hは100数十Hzでカップリングしている。プロトンから見ると、隣接するカーボンが12Cである方が100倍多く、12Cと1Hはカップリングしない。このため1H-NMRスペクトルではこのカップリングは問題にならない。13C-NMRスペクトルでは通常プロトンデカップリング(COM、complete decoupling)を行っているのでこのカップリングは観測されない。デカップリングをしないで13C-NMRスペクトルを測定すればシグナルの分裂が観測できる。隣接する13Cと1Hの100数十Hzのカップリングのほかに2〜3本の結合を介した13Cと1Hによる数ヘルツの分裂もあり、スペクトルは複雑、かつ感度の低下が起こる。

隣接プロトン数の情報はDEPTスペクトルにより得る。DEPT90°はCHシグナルのみが得られる。DEPT135°はCH2シグナルがCH、CH3と逆下向きに得られる(通常CH2を下向きに書き出す)。COM、DEPT90°、DEPT135°の結果からカーボンシグナルがメチル、メチレン、メチン、4級カーボンのいずれであるかを知ることができる。ケミカルシフトを読むにはtableを使う。また、DEPTスペクトルで近接するシグナルのどれが上(下)向きになっているのかわかりにくいときもtableのピーク強度(の正負)を見る。

dept scheme

?下図はカルボンのCOM、DEPT90°、DEPT135°スペクトルである。これをもとにそれぞれのカーボンがメチル、メチレン、メチン、4級カーボンのいずれであるか区別せよ。 →回答例 13C NMR spectrum of carvone

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COM
Peak List Date:  2.07.2000    Time: 16:34
File Name: c:\mydocu~1\carvone\picccarv\4\pdata\1\1R
Peak Results saved in File: -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC: 1.00
Noise: 1510652
Sens. level: 6042608
Peak Picking region:
Start(ppm) Start(Hz) End(ppm) End(Hz) MI(%) MAXI(%)
241.47 30366.1 -23.59 -2967.2 -2.19 100.00
Peak Picking results:
Peak Nr. Data Point Frequency PPM       Intensity  %Int.
1        5195       25081.51  199.4429  53480088   10.4
2       11743       18420.54  146.4763  98893680   19.3
3       12001       18158.08  144.3893  242522784  47.4
4       13138       17001.47  135.1922  115118200  22.5
5       16221       13865.28  110.2538  511853920 100.0
6       20300        9715.91   77.2589  52221456   10.2
7       20332        9683.35   77.0000  58008776   11.3
8       20363        9651.82   76.7493  52745144   10.3
9       24543        5399.70   42.9373  444707264  86.9
10      24626        5315.27   42.2659  346092416  67.6
11      26015        3902.31   31.0303  462889120  90.4
12      27340        2554.45   20.3124  329808192  64.4
13      27937        1947.15   15.4833  351545792  68.7

DEPT90
Peak List Date:  2.07.2000    Time: 16:35
File Name: c:\mydocu~1\carvone\picccarv\2\pdata\1\1R
Peak Results saved in File: -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC: 1.00
Noise: 1374074
Sens. level: 5496294
Peak Picking region:
Start(ppm) Start(Hz) End(ppm) End(Hz) MI(%) MAXI(%)
155.30 19530.3 4.13 519.9 30.71 121.37
Peak Picking results:
Peak Nr. Data Point Frequency PPM       Intensity  %Int.
1       11998       18161.11  144.4134  400744512  87.0
2       24627        5314.23   42.2576  460779552 100.0

DEPT135
Peak List Date:  2.07.2000    Time: 16:36
File Name: c:\mydocu~1\carvone\picccarv\3\pdata\1\1R
Peak Results saved in File: -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC: 3.00
Noise: 1462016
Sens. level: 17544190
Peak Picking region:
Start(ppm) Start(Hz) End(ppm) End(Hz) MI(%) MAXI(%)
241.46 30366.1 -23.59 -2967.2 -82.44 100.00
Peak Picking results:
Peak Nr. Data Point Frequency PPM       Intensity   %Int.
1       11999       18160.09  144.4053   211343520  40.1
2       16220       13866.27  110.2617  -408187040 -77.4
3       24543        5399.68   42.9371  -362534208 -68.7
4       24627        5314.23   42.2576   214526304  40.7
5       26015        3902.28   31.0301  -434872320 -82.4
6       27340        2554.42   20.3122   527510720 100.0
7       27936        1948.14   15.4912   434333088  82.3
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ケミカルシフトの計算

炭化水素、置換ベンゼンなどにおいては置換基の効果の加成性が認められており、計算によってケミカルシフトを予測することができる。例えば、置換ベンゼンの場合の表( E.プレシュら「有機化合物スペクトルデータ集」講談社サイエンティフィクp.120等)を使って没食子酸の炭素ケミカルシフトを計算してみよう。

calculation of 13C chemical shifts of gallic acid

この表は、Xの位置の置換基が結合した場合、1, 2, 3, 4の炭素のケミカルシフトへの影響をまとめてある。たとえば、-COOHが置換したベンゼンでは、カルボキシル基の根元の炭素(1の位置)のケミカルシフトはは2.4ppm基準値(128.5ppm)より増え、オルト位への影響は1.6ppm、メタ位への影響は-0.1ppm、パラ位への影響は4.8ppmである。多置換ベンゼンの場合、それぞれの置換基からの影響を加算して、ケミカルシフト基準値に加える。下図は元の構造式と同じ向きになるように置換基を配置し、Z1からZ4の値を書きこんである。

calculation of 13C chemical shifts of gallic acid

それぞれの炭素への効果の和を基準値に加えてケミカルシフトの計算値を求める。たとえばC1=128.5+2.4+1.4-7.3+1.4=126.4である。同様に C2 111.5, C3 144.0, C4 134.8ppmとなる。

calculation of 13C chemical shifts of multi-substituted benzene?左の値を用いて、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、バニリンの各カーボンケミカルシフトを計算せよ。

calculation of 13C chemical shifts of multi-substituted benzene
→回答例
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