同位体 | 天然存在比 |
---|---|
12C | 100 |
13C | 1.11 |
天然存在比が低いため13C-NMRは低感度である。また、13C-13Cが隣り合う確率も同様に低いため、13C核同士のカップリングは通常観測されない。
下図は、没食子酸26mg/ 0.5ml methanol-d4溶液の構造および13C-NMRスペクトルである。
最も高磁場(右)のシグナルは、溶媒に用いた重水素化メタノールのメチル基の炭素シグナルである。1H-NMRスペクトルと同様、化学的に等価な核は同じケミカルシフトを持つ。没食子酸には7個の炭素があるが、2と6、3と5は同じシグナルを与えるので5本のシグナルが現われている。
1H-NMRスペクトルと同様、ケミカルシフトは、そのカーボンがどんな環境にあるかを表し、各炭素の混成状態、隣接するヘテロ原子についての情報を与える。( E.プレシュら「有機化合物スペクトルデータ集」講談社サイエンティフィクp.7など。)
1H-NMR同様、その核の置かれた化学的環境とケミカルシフトの相関については、おおざっぱにいえばプロトンでの傾向と似ているので、同時に覚えると良いだろう。Silverstein第6版p.243付録B(第5版p.238付録B)に両者を合わせて書いてある。もっと詳しい表は必要に応じて使えるようにしておこう。
〜そのカーボンに何個のプロトンが結合しているか〜はデカップリングで消している
隣接する13Cと1Hは100数十Hzでカップリングしている。プロトンから見ると、隣接するカーボンが12Cである方が100倍多く、12Cと1Hはカップリングしない。このため1H-NMRスペクトルではこのカップリングは問題にならない。13C-NMRスペクトルでは通常プロトンデカップリング(COM、complete decoupling)を行っているのでこのカップリングは観測されない。デカップリングをしないで13C-NMRスペクトルを測定すればシグナルの分裂が観測できる。隣接する13Cと1Hの100数十Hzのカップリングのほかに2〜3本の結合を介した13Cと1Hによる数ヘルツの分裂もあり、スペクトルは複雑、かつ感度の低下が起こる。
隣接プロトン数の情報はDEPTスペクトルにより得る。DEPT90°はCHシグナルのみが得られる。DEPT135°はCH2シグナルがCH、CH3と逆下向きに得られる(通常CH2を下向きに書き出す)。COM、DEPT90°、DEPT135°の結果からカーボンシグナルがメチル、メチレン、メチン、4級カーボンのいずれであるかを知ることができる。ケミカルシフトを読むにはtableを使う。また、DEPTスペクトルで近接するシグナルのどれが上(下)向きになっているのかわかりにくいときもtableのピーク強度(の正負)を見る。
下図はカルボンのCOM、DEPT90°、DEPT135°スペクトルである。これをもとにそれぞれのカーボンがメチル、メチレン、メチン、4級カーボンのいずれであるか区別せよ。 →回答例
========================================================= COM Peak List Date: 2.07.2000 Time: 16:34 File Name: c:\mydocu~1\carvone\picccarv\4\pdata\1\1R Peak Results saved in File: - Peak Picking Parameter: Peak constant PC: 1.00 Noise: 1510652 Sens. level: 6042608 Peak Picking region: Start(ppm) Start(Hz) End(ppm) End(Hz) MI(%) MAXI(%) 241.47 30366.1 -23.59 -2967.2 -2.19 100.00 Peak Picking results: Peak Nr. Data Point Frequency PPM Intensity %Int. 1 5195 25081.51 199.4429 53480088 10.4 2 11743 18420.54 146.4763 98893680 19.3 3 12001 18158.08 144.3893 242522784 47.4 4 13138 17001.47 135.1922 115118200 22.5 5 16221 13865.28 110.2538 511853920 100.0 6 20300 9715.91 77.2589 52221456 10.2 7 20332 9683.35 77.0000 58008776 11.3 8 20363 9651.82 76.7493 52745144 10.3 9 24543 5399.70 42.9373 444707264 86.9 10 24626 5315.27 42.2659 346092416 67.6 11 26015 3902.31 31.0303 462889120 90.4 12 27340 2554.45 20.3124 329808192 64.4 13 27937 1947.15 15.4833 351545792 68.7 DEPT90 Peak List Date: 2.07.2000 Time: 16:35 File Name: c:\mydocu~1\carvone\picccarv\2\pdata\1\1R Peak Results saved in File: - Peak Picking Parameter: Peak constant PC: 1.00 Noise: 1374074 Sens. level: 5496294 Peak Picking region: Start(ppm) Start(Hz) End(ppm) End(Hz) MI(%) MAXI(%) 155.30 19530.3 4.13 519.9 30.71 121.37 Peak Picking results: Peak Nr. Data Point Frequency PPM Intensity %Int. 1 11998 18161.11 144.4134 400744512 87.0 2 24627 5314.23 42.2576 460779552 100.0 DEPT135 Peak List Date: 2.07.2000 Time: 16:36 File Name: c:\mydocu~1\carvone\picccarv\3\pdata\1\1R Peak Results saved in File: - Peak Picking Parameter: Peak constant PC: 3.00 Noise: 1462016 Sens. level: 17544190 Peak Picking region: Start(ppm) Start(Hz) End(ppm) End(Hz) MI(%) MAXI(%) 241.46 30366.1 -23.59 -2967.2 -82.44 100.00 Peak Picking results: Peak Nr. Data Point Frequency PPM Intensity %Int. 1 11999 18160.09 144.4053 211343520 40.1 2 16220 13866.27 110.2617 -408187040 -77.4 3 24543 5399.68 42.9371 -362534208 -68.7 4 24627 5314.23 42.2576 214526304 40.7 5 26015 3902.28 31.0301 -434872320 -82.4 6 27340 2554.42 20.3122 527510720 100.0 7 27936 1948.14 15.4912 434333088 82.3 =========================================================
炭化水素、置換ベンゼンなどにおいては置換基の効果の加成性が認められており、計算によってケミカルシフトを予測することができる。例えば、置換ベンゼンの場合の表( E.プレシュら「有機化合物スペクトルデータ集」講談社サイエンティフィクp.120等)を使って没食子酸の炭素ケミカルシフトを計算してみよう。
この表は、Xの位置の置換基が結合した場合、1, 2, 3, 4の炭素のケミカルシフトへの影響をまとめてある。たとえば、-COOHが置換したベンゼンでは、カルボキシル基の根元の炭素(1の位置)のケミカルシフトはは2.4ppm基準値(128.5ppm)より増え、オルト位への影響は1.6ppm、メタ位への影響は-0.1ppm、パラ位への影響は4.8ppmである。多置換ベンゼンの場合、それぞれの置換基からの影響を加算して、ケミカルシフト基準値に加える。下図は元の構造式と同じ向きになるように置換基を配置し、Z1からZ4の値を書きこんである。
それぞれの炭素への効果の和を基準値に加えてケミカルシフトの計算値を求める。たとえばC1=128.5+2.4+1.4-7.3+1.4=126.4である。同様に C2 111.5, C3 144.0, C4 134.8ppmとなる。
左の値を用いて、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、バニリンの各カーボンケミカルシフトを計算せよ。