現在、もっとも深刻な環境問題の一つに地球温暖化が挙げられます。2006年3月に閣議決定された、文部科学省第3期科学技術基本計画にも、中政策目標として温暖化問題の克服が挙げられています(文部科学省, 2006)。森林は主要な温室効果ガスであるCO2の吸収源であり、これまで森林を中心とした緑化の推進が行われてきました。そのような中、ドイツのKepplerらによって「好気的条件下における陸上植物からのメタン放出」が発見されたのです(Keppler et al., 2006)。メタンはこれまで、嫌気的な条件においてのみ発生すると考えられてきたため、この発見はこれまでの常識を覆す衝撃的なものでありました(文部科学省, 2006; Schiermeier and Peplow, 2006)。メタンの温室効果ポテンシャルはCO2の約25倍と言われており、もし森林樹木のメタン放出量がKepplerらの推定の上限値に近ければ、森林のCO2固定による温暖化抑制効果よりも森林からのメタン放出による温暖化促進効果が上回る事になります(Keppler et al., 2006)。この場合、森林のCO2吸収による温暖化抑制効果が認められた京都議定書は、根底から覆される事になってしまいます。また、これまで全く考慮されてこなかったメタン発生源が発見されたため、地球温暖化の将来予測に関する研究も大きな影響を受けています(Bousquet et al., 2006)。以上のように、植物からのメタン放出の発見は地球温暖化に関する対策・研究に、極めて大きな影響を与えています。したがって、早急に森林のメタン収支を正確に評価し、CO2収支と合わせて、地球温暖化に対する森林の役割を総合評価する必要があります。しかしながら、その評価の基になる樹木のメタン放出の実測値は、極めて限られているのが現状です(Keppler et al., 2006, 石塚ら, 2006, Kitaoka et al., 2007)。さらに近年の大気CO2濃度の増加によって、樹木の生理的・形態的な変化が引き起こされると予想されており、将来環境においては、樹木の葉におけるメタン放出速度が現状と異なる可能性が高いと言えます。
本研究は、現在その再生が急務とされている里山や中山間地域の積極的な利用を目的として、早生樹のオノエヤナギによる森林バイオマス資源の生産に関連付けて研究しています。また、材木やパルプの生産・そして荒廃地の緑化において、世界各地で重要な役割を果たしている植林樹種であるユーカリやアカシア属のメタン放出に関する研究も始めました。持続可能な資源である森林バイオマスの生産と、それに伴うメタン放出リスクの評価によって、森林および植林の地球温暖化に対する役割についての新たな知見が期待できると考えています。現時点での成果として、アカシア・ユーカリにおいて葉の面積当たりの乾重量である比葉重(LMA, Leaf mass per area)と暗条件におけるメタン放出速度の間に負の相関があることが明らかになりました。これは葉の特性とメタン放出速度の関連性を、世界で初めて指摘した報告です。
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