個体群生態学的研究では、長期モニタリング・データを基礎にしたデモグラフィー(人口統計学)的研究が行われ、エゾマツとトドマツを中心にして定量的な解析が成された結果、新事実が明らかになってきました(森林の個体群動態学)。一方、植食者を対象に森林植物の食害抵抗性(被食防衛)の研究が進められてきました。主にこの2つのアプローチを紹介します。
植物個体群は様々な環境条件あるいは個体間の競争にさらされ、その姿を変えていきます。その、森林植物の個体群動態がもたらされる要因を明らかにすることは、森林管理を行ううえで重要な情報です。本研究室では、多様な森林生態系において、動態をもたらす要因を検討しています。
北海道にはエゾマツ(Picea jezoensis)やトドマツ(Abies sachalinensis)を主体とする、広大な針葉樹天然林が存在しています。この針葉樹天然林は、エゾマツの優良大径木を供給し、また、生物多様性を保全する上で重要な役割を果たしています。しかし、
から、近年、針葉樹天然林において新規個体の更新が不良であり、更新メカニズムを解明することが急務となっています。
そのため、本研究室では、エゾマツとトドマツを対象に、両樹種がどのような条件の下で更新が可能なのかを明らかにするための研究を行っています。 これまで、エゾマツとトドマツは似たような環境で更新しているとされてきましたが、調査の結果、更新に適した条件は、2種でかなり異なっていることが明らかとなってきました。
調査地は北海道日高支庁管内日高北部森林管理署110林班です。調査地内には1haのプロットが設置してあり、DBHが5cm以上の上木に関しては、約20年間毎木調査が行われています。
われわれは、2004年に、このプロット内に50m×50mのプロットを2つ設置し、基本調査区としました。
エゾマツ
トドマツ
このように、両種の更新に適した条件には違いが見られることが、具体的な条件の違いとして明らかになってきました。これらの結果は、特にエゾマツの更新補助を行おうとする際、どのような条件を形成したらよいか、ということに関して、有用な知見を提供できると考えられます。
本研究室では、1954年に発生した、洞爺丸台風による風害を受けた落葉広葉樹林の動態を、風害発生直後から継続して調査しています。風害後の林分の回復過程を明らかにすることで、北海道では頻度が低い、大規模攪乱が森林動態に与える影響を明らかにすることができると考えられます。
近年、森林の発達過程を明らかにするためには、長期的研究が重要であることが認識されるようになってきました。
1990年代に入ってからは林分動態の継続研究も数多く見られますが、まだ継続年数の少ない研究が多く、数十年規模の研究は少ないです。また撹乱レジームや個々の樹種特性、初期更新動態は明らかになりつつありますが、林分や個体群毎の胸高直径や胸高断面積の成長量、枯死量、進界量といった、より詳細な林分構造の動態を解明するために必要なデータは、まだ不足しています。
こうした中で、本研究室では、苫小牧研究林の落葉広葉樹林での風害後50年目の継続調査を行いましたが、このデータは50年間の動態を個体レベルで追っており、詳細な林分構造の解明が可能であるという点で大変貴重です。撹乱後の個体群の成長様式が明らかになることで、広葉樹林の林分発達過程の一端が明らかになるといえるでしょう。
本研究では、胸高直径(DBH)5cmごとの推移行列を作成し、これまでの林分動態の経過を解析するとともに、推移行列による将来の林分構造の変化を予測することで、大規模攪乱後の北海道の落葉広葉樹林の発達過程を明らかにすることを目的としています。
調査地は、北海道大学苫小牧研究林です。下の写真は1954年の洞爺丸台風による撹乱を受けた直後の苫小牧研究林(左)と、2004年の風害後50年が経過した苫小牧研究林(右)です。
なお、本研究の一部は、日本森林学会で発表しました(保存してご覧ください)。近々、投稿論文として発表する予定です。
近年、林業の停滞から、各地で針葉樹人工林が放置され、問題となっています。こうした針葉樹林に対し、広葉樹を侵入させることで、単に木材生産だけでなく、生物多様性の保全といった多面的な機能を発揮させる管理が盛んになっています。
このような針広混交林への誘導を行ううえでは、どのような条件の下で広葉樹種が針葉樹林に侵入するのかを明らかにすることが必要不可欠です。そのため、本研究室では、北海道で主要な針葉樹人工林である、カラマツ林やトドマツ林への広葉樹の侵入過程を研究してきました。