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IAPAS(アイパス)とは?

2008年11月8日に韓国済州島において、IAPAS(International Association of Protected Areas Stewardship)が設立されました。ここでは組織の設立経緯とその役割について簡単に整理しました。この組織は、自然公園研究会のアジア版のようなものですが、自然公園研究会はIAPASの下部組織ではありませんが、IAPASの日本事務局を行うとともに、IAPASの情報を日本語で分かりやすく伝える役割を担っています。

・設立経緯

世界自然遺産や国立公園、あるいは里山なども含む保全対象となる自然地域(以下、自然保護地域)では、管理にまつわる様々な問題が発生しています。多くの問題には人間の活動が深く関与していますが、日本では自然科学的な知見に基づき、自然環境そのものに対応がなされる場合がほとんどです。地域社会や地域経済、ツーリズムといった、社会科学がカバーする側面には目が向けられて来ませんでした。

・海外の状況

このような状況とは対照的に、海外では自然地域の管理を社会科学的にも分析し、管理に活かす体制ができています。例えば、北米にはIASNR(International Association for Society and Natural Resources)が存在し、Society and Natural Resourcesという学会誌を出しています(http://www.iasnr.org/)。欧州でも、MMV(International Conference on Monitoring and Management of Visitor Flows in Recreational and Protected Areas)という国際会議を隔年・持ち回りで開催し、プロシーディングスを刊行しています。これらの会議では、研究者だけでなく、国立公園局のレンジャーやNPOなども会議に参加し、意見を交換しています。近年は、自然環境の保全や持続可能な観光への関心の高まりから、世界的にこの分野での研究活動が活発化しています。

・アジア組織を作る必要性

我々もこれらの学会に出席してきましたが、問題点も見えてきました。まず、東アジアにおける自然保護地域の管理は、枠組が北米や欧州と大きく異なり、これらの学会では特殊事例と見られてしまうという問題です。例えば、登山道の侵食現場の写真を紹介すると、会場からは「なぜ歩道を閉鎖しないのか?」という質問が来ます。複雑な土地所有制度や縦割りの行政システムがそれを妨げているのですが、文化の壁もあり、それをいかに解決すべきかまで議論が進みません。同様の理由で、学会誌の投稿にも大きな困難が伴います。 また本質的な問題ではないものの、無視できない問題として言語の問題もあります。特に学生がこのような国際学会に出席して発表することは、かなり敷居の高い状況です。北米や欧州の学会ですので、予算的な問題もあります。

・IAPASの設立

このような点に関し、韓国や中国の研究者と意見交換したところ、実は状況はほとんど同じだということが明らかになりました。そこで、このようなアジアの自然保護地域の管理に関して、社会科学的な視点を中心として議論を行う場所を設けようということで、このIAPASが設立されました。まずは日本と韓国、中国の研究者が中心となり組織を立ち上げました。実はもともと、IAPASのSはStudiesだったのですが、研究者だけでなく、行政関係者や事業者などにも広く参加を促し、ネットワークを形成できればという意味合いを込めて、最終的にStewardshipとなりました。

・アジアのネットワークの形成

本組織の大きな目的はアジアのネットワーク形成ですが、アジア以外を排除することがないように、Asiaの文字は組織名からは外しました。またIASNRやMMVと連携が取れるように、またIUCN(世界自然保護連合)との連携も視野に入れて、各両組織の主要なメンバーには理事として組織に関わって頂く事になりました。各国の中心メンバーは、熊谷嘉隆(日本・国際教養大学)、金星一(韓国・ソウル大学)、楊鋭(中国・精華大学)です。 現段階では、三ヶ国の研究者がメンバーの中心ですが、行政関係者や事業者などの参加も呼びかけ、多面的なネットワークの形成を目指します。現時点では、国際エコツーリズム協会の理事である高山傑さんに理事として入って頂いています。韓国と中国の方では、すでに行政組織との話し合いも進んでいるようなので、こちらも早々に環境省に説明に伺う予定にしています。

・学会誌の刊行

本組織のもう一つの大きな目的は学会誌Journal of Protected Areasの刊行です。前述の理由により、アジアの事例研究を国際的な英文誌に掲載するには大きな障壁があります。一方で、特に若手の研究者は国際的な英文誌に論文を掲載することが強く求められており、業績審査への対応や若手研究者の育成のためには、国際的な英文誌に掲載された論文が必須です。この点に関しても、韓国や中国は同じ状況、あるいはより厳しい状況にあるようです。学会誌は社会学や経済学、観光学、造園学、政策学、行政学など、社会科学の幅広い分野をカバーできるようにしたいと考えています。 現時点では、学会誌はソウル大学出版会から刊行する予定にしていますが、アジアには、留学から帰ってきたこの分野の研究者が相当いると思われますので、ある程度の購読者が揃った段階で、Springerなどの出版社から刊行してもらい、最終的にはCitation Indexに載るようなものとしていきたいと考えています。 この研究会では、自然公園(国立公園・国定公園・都道府県立自然公園)や国有林をはじめとする、日本の自然地域の管理・政策について議論を行っています。日本では自然地域の自然科学的な知見に関しては様々な研究が行われてきましたが、自然地域と社会や経済とのかかわりについてはあまり研究が行われてきませんでした。

詳細は下記のページをご覧下さい。

http://sites.google.com/site/journalpas/Home