装置・器具・溶媒など


NMR装置

NMRは核磁気が外部磁場中に置かれたとき、それと平行あるいは逆平行であるエネルギー差を検出する。外部磁場を大きくしエネルギー差を広げれば測定感度は向上する。これを実現するため、外部磁場にはいぜんは永久磁石や電磁石が用いられたが、現在は低温で電気抵抗がなくなることを利用した超伝導磁石が用いられている。コイルは液体ヘリウムで冷やされ、さらにこれと室温の間に液体窒素を満たして(高価な)液体ヘリウムの蒸発量を押さえている。この磁石の真中に、パルスを出したり信号を検出するコイルの入ったプローブを挿入し、そのコイルの内側にサンプルチューブがちょうど入るようになっている。

高磁場化にともない、外部漏洩磁場がますます問題になってくる。NMRの近くには他の機器は設置できないが、その部屋だけではなく階上、階下の部屋にも影響が及ぶ。これを小さくするため、従来型よりシールドの強い磁石が開発・実用化されている。これにより従来のスペースにもっと高磁場の磁石を設置できるほか、LC(液体クロマトグラフ)-NMRの実用化の一助にもなった。

NMR table

プローブのすぐ外側にシムコイルがあり、外部磁場の不均一性を補正するように電流を流す(シム調整)。

プローブは、試料管の径や観測する核によって使い分ける。dual,カーボン観測などと呼ばれるものは内側、つまりサンプルのすぐ外側にカーボン用のコイルが、その外側にプロトン用のコイルが巻かれている。インバースプローブなどと呼ばれているのはこれとは逆にプロトンが内側である。内側にまいてあるほうが感度がよい。カーボン専用コイルではなく他核一般が測定できるコイルが巻かれている場合もある。

観測コイルの抵抗が少なければより高感度にシグナルを観測できる。最近、観測コイル全体を冷却しこれを実現した超伝導プローブが実用化され、実際に用いられている。観測コイルのみを冷やし、試料は室温のまま保つか、通常のプローブ同様温度可変実験もできる。

分光器はコンピューターによって制御され、ロックシグナル(2H)発振・受信およびシム調整・FIDレシーバー・観測パルス発振・デカップラーなどからなる。二つの核にパルスを与える測定法をこれまで多くとりあげたが、いずれも観測パルスとレシーバーの位相が同期していなければならない。以前の装置では観測パルスはいろいろな周波数を発振できたがデカップラーはプロトンの周波数のみであった。こうするとホモデカップリングやNOE差も測定できるし、カーボン(などのX核)観測の完全デカップリング、DEPTや二次元も測定できる。インバース法を測定する場合にも同様にデカップラーからプロトンパルス、観測パルス発振器からカーボンパルスを出し、レシーバーの位相をデカップラーに同期させるように装置を設定した(インバースモード)。レシーバーの位相をデカップラーに同期させられない装置もあり、そのような装置ではインバース法は測定できない。また、デカップラーのかわりにパルス発振器が2個以上あり、どちらもいろいろな周波数を発振できる装置もあり、この場合はインバース法でも装置の設定は変えなくてよい。

固体NMRは試料の回転やパルスのエネルギーが溶液とは異なり、固体専用の装置で測定する。

プローブと試料管

試料管の径は原則としてプローブの径と同じ物を用いる。広く一般に使われているのは内径5mmのものである。同じ濃度の溶液を用いるなら内径が大きいほうが感度が上がるので、溶解度に限りがある場合は太い径のプローブと試料管を用いたり肉薄の試料管を用いるとよい。試料の絶対量が限られているときは、径が太ければ濃度が低下することになるため、内径の小さなプローブ(ミクロプローブ)を用い、濃度をあげるのが有効である。

チューブの中のサンプル溶液を観測コイルの部分だけにいれる微量試料管というものもある。これでプローブは同じでも半分程度まで溶媒を減らせる。濃度が約2倍になるので測定時間に換算すれば4倍分となる。

溶媒

FT-NMRでは重水素ロックをするため重水素加溶媒を用いる。ロックしないとしても、試料と溶媒の量比を考えれば、普通のプロトンを持つ溶媒を使うとそのプロトンシグナルが大きく現われて目的シグナルの観測を妨げることは容易に想像できよう。重水素加溶媒は重水素化率の異なる何種類かが用意されているので、試料量や目的によって使い分ける(余裕があれば常に重水素化率最高品を用いてもよい)。

では、カーボンの場合はどうか。試料も溶媒も13Cの存在比はおなじであるから、重水素加溶媒ではない溶媒でプロトンを測定するときと同じだけの強度比にはならないのであろうか。前項で述べたように重水素が結合していることでカーボンのシグナルは分裂しているうえブロードニングして強度が低下している。このため重水素加溶媒ではない溶媒でプロトンを測定するときのような妨害はないのが普通である。それでも濃度が低いサンプルで問題になるときには、13Cの濃度を低めた重水素化溶媒というのが売られているのでこれを利用するとよい。


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