プロトンシグナルが重なっていてCOSYが解析しにくいときにはH2BCが有効です。

(2016.11.28)

H2BC(N. T. Nyberg et al., J. Am. Chem. Soc., 127, 6154-6115 (2005) )は、隣り合うプロトンを検出して、スペクトルの縦軸を直結するカーボンの化学シフトとしたCH相関法です。似た名前のHMBCが2から3結合離れたCHをLRJCHを展開させて検出するのに対して、H2BCは2結合離れたCHを1H→1H→13C の磁化移動によって検出します。プロトンNMRシグナルが重なり合っていてCOSYの解析が難しいときに、縦軸をカーボンとすることで解析がしやすくなることが多いです。

図はラクトースの測定例です。ラクトースは還元性の二糖で、3種類の糖残基のシグナルが見えています。COSY(a)では、Aの糖は1位プロトンから、2,3,4とたどることができます。しかし、BとCは1位からたどっていくと、A,Bの3位以降はプロトンが重なりあっている領域にあって、読み進めることはできません。H2BC(b)では、C1プロトンからC2カーボン、C2プロトンからC3カーボン、C3カーボンからC4プロトンと、B1プロトンからB2カーボン、B3プロトンへ、B6プロトンからB5カーボン、B4プロトンへと順次帰属できます。

H2BCの積算回数はHSQCの2倍程度あれば良いです。また、JHHが小さい場合に、COSYよりも相関が得られにくいですので、COSYと併せて解析すると良いでしょう。

なお、オリゴ糖のようにプロトンのスピン系が数個程度に区切られている場合、最初にHSQC-TOCSY(図(c))でシグナルをグループ分けしておくと解析が容易になります。ラクトースでは、アノメリックプロトンをA1,B1,C1とし、そこと相関があったカーボンをA,B,Cに分類してから、次の解析に進みます。HSQC-TOCSYの積算回数はHSQCの数倍程度です。


図.ラクトースの(a)COSY, (b)H2BC, (c)HSQC-TOCSYスペクトル


GC-MS & NMR Lab. Home Page/ NMR利用案内