sucroseの帰属


糖のカーボンのケミカルシフトは良く調べられており、既知の糖であればデータを比較することによって構造を推定できることが多い。書籍、Carbon-13 NMR Spectroscopy, E. Breitmaier, W. Voelter 著, VCH, にたくさんのデータが掲載されている。ここであげたsucroseの帰属も二糖の項に掲載されている。また、methyl-α-glucopyranoside と D-fructose の重ねあわせともほぼ一致する。ここでは帰属の手順を解説するモデルとしてsucroseを選んだが、実際の構造解析ではデータ集、過去の文献を活用してほしい。

ケミカルシフトの基準にはTSPを内部標準として用いた。水系溶媒の基準物質は他にも数種類があり、それらの値によってケミカルシフトが変わるので、過去のデータと照らし合わせる際には換算する必要がある場合がある。ぶんせきの友、「水系溶媒のケミカルシフト基準物質」のページに値を載せてある。

sucrose

1H-NMR

1H NMR spectrum of sucrose
1H NMR spectrum of sucrose
Peak List    Date:  1.08.2000    Time:  9:57
File Name:    f:\xwin_nmr\piccsuc\1\pdata\1\1R
Peak Results saved in File:    -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC:    1.00
Noise:    20890
Sens. level:    83559
Peak Picking region:
Start(ppm)    Start(Hz)    End(ppm)    End(Hz)    MI(%)    MAXI(%)
5.57    2784.0    3.27    1633.7    2.96    56.33
Peak Picking results:
Nr.  Data PointFrequency  PPM        Intensity    %Int.
 1    17819    2711.39    5.4214     58599220    30.8
 2    17835    2707.45    5.4135     56228112    29.6
 3    20242    2115.07    4.2290     58743120    30.9
 4    20277    2106.45    4.2118     73288184    38.5
 5    20561    2036.56    4.0721     32324242    17.0
 6    20596    2027.94    4.0548     60631412    31.9
 7    20631    2019.33    4.0376     31666050    16.6
 8    20885    1956.82    3.9126     15806547     8.3
 9    20900    1953.13    3.9052     19777648    10.4
10    20909    1950.91    3.9008     26656552    14.0
11    20925    1946.97    3.8929     25951196    13.6
12    20933    1945.00    3.8890     18419492     9.7
13    20943    1942.54    3.8841     20945610    11.0
14    20959    1938.61    3.8762     21217898    11.2
15    20983    1932.70    3.8644     16209837     8.5
16    20996    1929.50    3.8580     30285644    15.9
17    21009    1926.30    3.8516     23874572    12.5
18    21023    1922.85    3.8447     23362496    12.3
19    21039    1918.92    3.8368     38684452    20.3
20    21057    1914.49    3.8280    137842064    72.5
21    21070    1911.29    3.8216    165449808    87.0
22    21082    1908.33    3.8157    109989384    57.8
23    21148    1892.09    3.7832     28475798    15.0
24    21188    1882.25    3.7635     53714780    28.2
25    21226    1872.89    3.7448     37047912    19.5
26    21359    1840.16    3.6794    190243232   100.0
27    21569    1788.48    3.5760     38174412    20.1
28    21585    1784.54    3.5682     36138540    19.0
29    21610    1778.39    3.5559     31105444    16.4
30    21625    1774.70    3.5485     29512232    15.5
31    21738    1746.89    3.4929     33900840    17.8
32    21777    1737.29    3.4737     53534280    28.1
33    21815    1727.94    3.4550     26059848    13.7

sucroseには還元末端が無いため、1H-NMRスペクトルは糖2個分のシグナルのみが現れる。還元糖の場合、還元末端の糖の各アノマー由来のシグナルが存在比に応じた強度で現れる。両アノマー間で還元末端でない糖残基由来のシグナルも異なれば糖4個分のシグナルがあらわれ、スペクトルは大変複雑になる。

ここで注目すべきシグナルは、アノメリックプロトンである。sucroseの場合、glucoseのアノメリックプロトン(δ 5.42ppm)の一個所で、2位とのカップリング定数(4Hz)から結合様式がαであることがわかる。

13C-NMR(COM)

13C spectrum of sucrose

糖の場合、DEPTを測定してメチル、メチレン、メチン、4級カーボンを区別しなくとも容易に解析できる。DEPTも含め、13C-NMRは現在のところ最も時間のかかる測定なので、これらが容易に判断できる場合はDEPTは測定しない。

Peak List    Date:  1.08.2000    Time: 11:12
File Name:    f:\xwin_nmr\piccsuc\2\pdata\1\1R
Peak Results saved in File:    -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC:    1.00
Noise:    6207423
Sens. level:    24829690
Peak Picking region:
Start(ppm)    Start(Hz)    End(ppm)    End(Hz)    MI(%)    MAXI(%)
117.16    14733.9    53.95    6785.1    -9.20    135.23
Peak Picking results:
Nr.  Data Point Frequency PPM         Intensity    %Int.
 1    17056   13394.16   106.5079     321171904    73.4
 2    18479   11946.61    94.9973     422521568    96.6
 3    19815   10587.56    84.1903     401305216    91.8
 4    20428    9963.99    79.2318     307364928    70.3
 5    20726    9660.84    76.8213     341605920    78.1
 6    20903    9480.79    75.3895     397089376    90.8
 7    20924    9459.43    75.2196     390768064    89.4
 8    21088    9292.60    73.8930     437329920   100.0
 9    21317    9059.65    72.0407     370932416    84.8
10    22164    8198.03    65.1893     407757472    93.2
11    22290    8069.86    64.1701     313456352    71.7
12    22442    7915.24    62.9405     317328864    72.6

COSY

cosy spectrum of sucrose cosy spectrum of sucrose

まず、1H-NMRではっきりしているglucose 1位のプロトンからCOSYスペクトルの相関を辿っていく。5位のメチンプロトンと6位のメチレンプロトンの3個分がほぼ同じ位置に重なっているように見え、このことは後のHMQCによって確認できる。

fructoseの1位は孤立メチレンであり、スピン系がつながっているのは、3位から6位までである。3位から6位までのうち3位が4位とのカップリングのみによってダブレットとなることから、これをδH 4.22 ppmのシグナルと帰属できる。fructoseのCOSYの解析はここからはじめ、6位までの相関を辿ることができる。

のこった孤立メチレンがfructose 1位である。化合物中3組のメチレンプロトンは、すべて偶々ほぼ等価に現れている。

HMQC

HMQC spectrum of sucrose

COSYですべてのプロトンが帰属できているので、それに直接結合するカーボンが帰属できる。4級炭素が一本残り、これがfructose2位炭素で, そのケミカルシフトからフラノース構造をとっていいることがわかる。

HMBC

HMBC spectrum of sucrose HMBC spectrum of sucrose

すべての糖残基のシグナルの帰属ができたので、それを縦、横に添えてある1Dスペクトルに書いておく。また、直接結合するプロトンとカーボンに由来するダブレットに印をつけておく。

次に、二つの糖がどのように結合しているかを調べる。HMBCスペクトルでは2本または3本の結合を介したカーボンとプロトンを検出することができるので、グリコシド結合を介したプロトンとカーボンにも相関が現れるはずである。実際、糖残基間で相関ピークを与えているのは glucose の1位のプロトンとfructose 2位のカーボンであるから、G1→2Fのつながりが明らかになる。また、fructose 2位のカーボンは1位の孤立メチレンのプロトンと相関を与えこの帰属が確認できる。

以上をまとめてテーブルを作る。

ここでは二糖を取り上げたが、基本はすべてのオリゴ糖に共通である。


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