本化合物はFABMS(+)でm/z=581、HR-FAB-MSでC27H33O14を与え、分子量580、分子式はC27H32O14、不飽和度は12である。
NMRスペクトルを概観すると、1H-NMR、13C-NMRから、この化合物には糖が2個あり、糖以外の部分は芳香環を有することが容易に推定される。ここでは
Peak List Date: 11.08.2000 Time: 14:21 File Name: f:\xwin_nmr\piccnari\1\pdata\1\1R Peak Results saved in File: - Peak Picking Parameter: Peak constant PC: 1.00 Noise: 30743 Sens. level: 122973 Peak Picking region: Start(ppm) Start(Hz) End(ppm) End(Hz) MI(%) MAXI(%) 7.39 3698.3 5.75 2873.3 5.58 11.94 5.75 2873.3 4.95 2476.6 1.61 5.58 5.14 2568.2 5.08 2540.9 1.25 1.98 4.00 2001.4 3.25 1624.1 0.58 10.29 3.46 1729.7 3.45 1724.3 0.90 1.26 3.19 1593.1 3.05 1524.7 0.40 2.49 2.78 1391.8 2.65 1325.1 1.15 3.12 1.32 662.3 1.12 561.4 10.35 18.42 Peak Picking results: Nr. Point Frequency PPM Intensity %Int. 1 13707 3653.76 7.3056 39647668 52.1 2 13741 3645.39 7.2889 42516096 55.9 3 14705 3408.14 6.8145 53523620 70.4 4 14740 3399.53 6.7973 50981684 67.0 5 16039 3079.83 6.1581 35456084 46.6 6 16070 3072.20 6.1428 43785712 57.6 7 16079 3069.99 6.1384 29789136 39.2 8 17674 2677.44 5.3535 11635808 15.3 9 17684 2674.98 5.3486 10033905 13.2 10 17727 2664.40 5.3274 12089177 15.9 11 17736 2662.18 5.3230 9846827 12.9 12 17895 2623.05 5.2447 24635636 32.4 13 17901 2621.58 5.2418 24629508 32.4 14 17914 2618.38 5.2354 12336708 16.2 15 17920 2616.90 5.2324 11413609 15.0 16 18204 2547.00 5.0927 8447722 11.1 17 18239 2538.39 5.0755 21955364 28.9 18 18271 2530.51 5.0597 18058824 23.7 19 20559 1967.42 3.9338 21131664 27.8 20 20566 1965.69 3.9304 22392988 29.4 21 20572 1964.22 3.9274 21426160 28.2 22 20578 1962.74 3.9245 15989297 21.0 23 20610 1954.86 3.9087 3327942 4.4 24 20635 1948.71 3.8964 9174108 12.1 25 20660 1942.56 3.8841 12229961 16.1 26 20674 1939.11 3.8772 11864126 15.6 27 20699 1932.96 3.8649 22730888 29.9 28 20724 1926.81 3.8526 7852482 10.3 29 20745 1921.64 3.8423 16652243 21.9 30 20751 1920.16 3.8393 15222818 20.0 31 20847 1896.54 3.7921 4537220 6.0 32 21058 1844.61 3.6883 6194573 8.1 33 21070 1841.65 3.6824 11090084 14.6 34 21092 1836.24 3.6715 11369159 15.0 35 21107 1832.55 3.6641 6349652 8.4 36 21120 1829.35 3.6577 10673596 14.0 37 21130 1826.89 3.6528 14144859 18.6 38 21141 1824.18 3.6474 13619980 17.9 39 21168 1817.54 3.6341 18724074 24.6 40 21178 1815.07 3.6292 10543110 13.9 41 21199 1809.91 3.6189 16834696 22.1 42 21209 1807.45 3.6140 9930487 13.1 43 21238 1800.31 3.5997 18399318 24.2 44 21247 1798.09 3.5953 26568672 34.9 45 21281 1789.73 3.5785 33665944 44.3 46 21289 1787.76 3.5746 20551882 27.0 47 21318 1780.62 3.5603 12173112 16.0 48 21552 1723.03 3.4452 6429443 8.5 49 21566 1719.58 3.4383 6667445 8.8 50 21584 1715.15 3.4294 11400397 15.0 51 21592 1713.19 3.4255 12760122 16.8 52 21605 1709.99 3.4191 12306735 16.2 53 21645 1700.14 3.3994 27189612 35.8 54 21684 1690.54 3.3802 42963080 56.5 55 21723 1680.94 3.3610 16815656 22.1 56 21841 1651.90 3.3029 5539783 7.3 57 21847 1650.43 3.3000 7491624 9.9 58 21854 1648.70 3.2966 5494788 7.2 59 22104 1587.18 3.1735 3693819 4.9 60 22129 1581.02 3.1612 7137675 9.4 61 22157 1574.13 3.1474 4086094 5.4 62 22181 1568.23 3.1356 8796789 11.6 63 22199 1563.80 3.1268 8628684 11.3 64 22227 1556.91 3.1130 4240251 5.6 65 22251 1551.00 3.1012 7696560 10.1 66 22972 1373.55 2.7464 11853177 15.6 67 22984 1370.60 2.7405 12174880 16.0 68 23042 1356.33 2.7119 10674176 14.0 69 23053 1353.62 2.7065 9286863 12.2 70 25941 642.86 1.2854 76041176 100.0 71 25966 636.70 1.2731 73713072 96.91H-NMRを拡大してみると、δH=5.24ppm, 5.07ppmのアノメリックプロトンのそれぞれに、マイナー成分由来と思われるシグナルが見られる。試薬を精製せずに用いた(すみません)ためと思われ、このようなシグナルは他にカーボンの一部にも確認される。
Peak List Date: 11.08.2000 Time: 14:23 File Name: f:\xwin_nmr\piccnari\2\pdata\1\1R Peak Results saved in File: - Peak Picking Parameter: Peak constant PC: 1.00 Noise: 1028006 Sens. level: 4112023 Peak Picking region: Start(ppm) Start(Hz) End(ppm) End(Hz) MI(%) MAXI(%) 217.92 27405.4 8.02 1008.7 2.79 151.50 167.21 21028.3 165.81 20852.3 1.80 2.88 131.73 16566.6 130.05 16355.0 1.93 3.60 Peak Picking results: Nr. Point Frequency PPM Intensity %Int. 1 5492 24968.07 198.5412 15341209 3.4 2 5495 24965.02 198.5170 24582612 5.4 3 9447 20944.84 166.5493 23062532 5.0 4 9457 20934.67 166.4684 11548191 2.5 5 9646 20742.41 164.9396 21832190 4.8 6 9689 20698.67 164.5917 26313012 5.8 7 10372 20003.88 159.0670 13431597 2.9 8 10375 20000.83 159.0427 19988832 4.4 9 13864 16451.64 130.8202 28822066 6.3 10 13878 16437.39 130.7069 12588840 2.8 11 14067 16245.13 129.1781 42814800 9.4 12 14077 16234.96 129.0972 89647808 19.6 13 15654 14630.75 116.3409 88074744 19.3 14 17069 13191.34 104.8950 16431978 3.6 15 17071 13189.31 104.8788 19228644 4.2 16 17360 12895.32 102.5411 21399322 4.7 17 17367 12888.20 102.4844 42080080 9.2 18 17752 12496.56 99.3702 38702060 8.5 19 17759 12489.44 99.3136 18441726 4.0 20 17941 12304.30 97.8414 34024880 7.4 21 18076 12166.97 96.7493 44864548 9.8 22 20063 10145.69 80.6765 39067620 8.5 23 20069 10139.58 80.6280 16877032 3.7 24 20252 9953.43 79.1477 16586100 3.6 25 20270 9935.12 79.0021 36575320 8.0 26 20282 9922.91 78.9050 41652848 9.1 27 20386 9817.11 78.0638 48291316 10.6 28 20902 9292.21 73.8899 50800140 11.1 29 21119 9071.47 72.1345 89643488 19.6 30 21236 8952.45 71.1881 45868884 10.0 31 21388 8797.83 69.9586 48324320 10.6 32 22343 7826.35 62.2336 42611012 9.3 33 23916 6226.21 49.5096 68716608 15.0 34 23937 6204.85 49.3398 202983360 44.4 35 23958 6183.49 49.1699 399602464 87.4 36 23979 6162.13 49.0000 457440544 100.0 37 24000 6140.76 48.8301 381404448 83.4 38 24021 6119.40 48.6603 187558528 41.0 39 24042 6098.04 48.4904 59744852 13.1 40 24583 5547.71 44.1143 28750474 6.3 41 24613 5517.19 43.8716 14527393 3.2 42 27786 2289.44 18.2052 84213880 18.4
Sucroseの時と同様、メチル、メチレンとメチンの区別が問題になりそうもないのでDEPTは測定せずComplete decouplingのみ測定する。
このような場合、1H-1H TOCSYが有効である。TOCSYはHOHAHAともよばれ、スピン系がつながっているプロトンに相関が現われる。COSYは一般に隣のプロトンだけに相関が現われるが、TOCSYでは隣、その隣、さらにその隣へと相関が得られる。スピン系がつながっている中でどれだけ遠くまで相関が得られるかは、介在するスピン結合の大きさ(JHH)と、TOCSYの混合時間(ミキシングタイムτm)によって決まる。グルコースなど途中に四級炭素やJHHの小さいところがない糖では適切な条件で測定すれば、同一残基内すべてのシグナルに相関が得られる。 本化合物のTOCSYスペクトルでも、二つのアノメリックプロトンから、それぞれの残基のシグナルに相関が得られている。この結果を併せてCOSYを解析することができる。
糖1 | δC(ppm) | δH(ppm) | 分裂 | J(Hz) | 糖2 | δC(ppm) | δH(ppm) | 分裂 | J(Hz) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 102.5 | 5.07 | d | 8 | 1 | 99.4 | 5.24 | d | 2 |
2 | 78.9 | 3.63 | dd | 8, 7 | 2 | 72.1 | 3.93 | dd | 3, 2 |
3 | 72.1 | 3.58 | dd | 10, 7 | 3 | 79.0 | 3.58 | dd | 10, 3 |
4 | 71.2 | 3.38 | dd | 10, 9 | 4 | 73.9 | 3.38 | dd | 10,10 |
5 | 78.1 | 3.42 | m | 10, 6, 2 | 5 | 70.0 | 3.88 | dq | 10, 6 |
6 | 62.2 | 3.85 | brdd | 11, 2 | 6 | 18.2 | 1.28 | d | 6 |
3.68 | m | . |
糖1はアルドヘキソースで、J(H1/H2)、J(H2/H3)、J(H3/H4)とJ(H4/H5)が大きいことからβ-グルコースであると予想される。糖2の6位は積分比よりメチル基であるので、6-デオキシアルドヘキソースであることがわかる。天然界に多く存在する6-デオキシ糖はL-fucoseとL-Rhamnoseが広く分布している。J(H1/H2)とJ(H2/H3)が小さく、J(H3/H4)とJ(H4/H5)が大きいことからフコースよりはむしろラムノース(6-deoxymannose)であろうと推定される。(他の糖である可能性を否定できないので必要ならNMR以外の方法で確認する)。マンノースやラムノースはα-、β-アノマー間でJ(H1/H2)の大きさにあまり差がないため、ここではα/βの決定は保留とする。
この化合物の分子式C27H32O14から糖残基を除くとC15H10O5、アグリコンのみで存在する場合の分子式はC15H12O5、不飽和度10となる。
以上の部分構造の不飽和度は9、C15H9O2が含まれている。C15H12O5(不飽和度10)との差は、H3O3、不飽和度1で、3個の-OH、1個の環があると推定される。
アグリコン部分だけの相関表を作る。
相関表から、部分構造(A)の二つの四級炭素はeとfであろう。eはケミカルシフトから酸素が置換していると思われる。どちらがeでどちらがfであろうか。ここで、多置換ベンゼンの13C化学シフトの計算を行ってみる。これは、ベンゼン環の基準値に、直結、オルト、メタ、パラ位に結合している置換基の効果をそれぞれZ1, Z2, Z3, Z4として加算するものである。置換基ごとの数値はデータ集に載っているが、水酸基は、Z1=26.9, Z2=-12.7, Z3=1.4, Z4=-7.3である。水酸基のオルト位のカーボンのケミカルシフトは、基準値 128.5 に (Z2(OH)) -12.7 、Z3(CH3) 0.0 を加算し 115.8ppmを得る。同様にメタ位は130.7ppmとなり、h(116.3ppm)の隣が水酸基(e)、そのパラ位がf(130.8ppm)と推定できる。
さらにこのベンゼン環のプロトンgとカーボンlに相関があることから、部分構造(C)のlがカーボンfと結合していると推定できる。また、プロトンl, mとカーボンaに相関があり、両者がaと3結合以内になるよう、mとaが結合している構造(下記E)が推定できる。
残る部分構造(B)の4個の四級炭素はb, c, d, iで、ケミカルシフトからi以外には酸素が結合していると推定できる。プロトンj, kとこれら炭素の相関パターンを見ると、HjとCd、HkとCcに相関がなく、他は両方から相関がある。ベンゼン環のプロトンからはパラ位カーボンが4bondsで通常ここだけHMBC相関がでない。ただし、相関がなければパラ位と帰属してはならない。ここでは他の4炭素オルト、メタ位とも相関が出ているが、欠落することも多く、特にベンゼン環のオルト位カーボンとは相関が出にくい。
残る二ヶ所がカーボンb,iである。この帰属に再び多置換ベンゼンのケミカルシフト計算を行う。モデルとして1, 2, 3-trihydroxy-5-methylbenzeneと1, 3, 5-trihydroxy-2-methylbenzeneのメチンカーボンのケミカルシフトを計算すると、110.5, 95.8ppmとなり後者がj,kのカーボンのケミカルシフトの値に近い。よって(F)のような部分構造があると推定される。
部分構造(E)と(F)を先に求めたアグリコンのみで存在する場合の分子式C15H12O5と比較すると、これらが酸素ひとつを共有して環を形成するようにつなげばよいことがわかる。
プロトンm'とカーボンiにHMBC相関があることから、a-iの結合がわかる。残るカーボンb, c, d, l, e のうち二つが酸素を介して結合する。残念ながらこれらを決定できるHMBC相関は得られていない。四級炭素同士が酸素を介して結合するとき、これを証明できるプロトン/カーボンは4bonds以上離れてしまいHMBCで相関ピークを与えない。また、HMBCの相関ピーク強度はそのプロトン-カーボンの結合定数JCHに依存するが、3結合はなれたプロトンとカーボンの二面角が90度付近のとき3JCHの値がゼロに近くなり相関を与えにくい。
可能性のある5つのカーボンのうち、ひずみなく分子模型を組むことができるのはlとdまたはcが酸素を介して結合してできるフラバノン骨格である(下図G, H)。(G), (H)はk/j, c/dの帰属が入れ替わっただけで構造は同じものとなり、これをアグリコンの推定構造とする。後にHMBCの測定条件を小さなJCHに最適化(1/2(遠隔JCH)を設定する待ち時間を長くする)して再度測定したところ弱いながらHlとCdに相関が得られ、帰属は(G)が支持された。また、この条件では4結合はなれたHjとCa,HkとCaにもHMBC相関が得られた。このようにW字型に位置するプロトンとカーボンにはHMBC相関が得られることがある。
以上の構造の場合、3結合以内のプロトンとカーボンを相関表と同じ形式に書き比較する。
HMBCスペクトルで、ユニット間の相関ピークとしてHG1/Cb間, HG2/CL2間に相関が得られ、ユニットのつながりを下図のように決定した。
先に保留にしていたラムノースの結合様式(αかβか)を決定するためNOE差スペクトルを測定する。βならL1の照射によりG2の他L2、L3、L5へNOEが観測されるはずで、αならG2、L2へのみ観測される。L3はG3と重なっているが、分裂様式が異なっており区別できる。先にも帰属したとおり、G3はdd, 10, 7HzでL3はdd, 10, 3Hzである。L1を照射したスペクトルはG2, G3、L2にNOEが観測され、αであることが示唆された。一般にはNOEが出ていないことは根拠にすべきではないため、以下の1JCH測定を行った。なお、G1照射スペクトルでG2の位置に分散形のピークが現われているのは、SPT(selective population transfer)で、カップリングした相手に対し現われることがある。
糖のα/βをNMRで決定するには他にカーボンのケミカルシフトや1位のプロトン−カーボンの結合定数1JCHを用いる方法がある。しかしメチルラムノシドの1位のカーボンのケミカルシフトはデータ集ではα、βでほとんど差がない。
O(酸素), 2, 3, 5の作る面に対して、4が上、1が下のものを4C1、1が上、4が下のものを1C4と呼ぶ。 |
必要なら構成糖の確認も含め化学的手法を用いる。
以上によりアグリコンであるナリンゲニンと糖のラムノース、グルコースの帰属を行い、結合位置、結合様式を決定した。データをまとめておく。
δC(ppm) δH(ppm) 分裂 J(Hz) aglycon
2 80.7 5.34 brd 13
3 44.1 3.13 ddd 17, 13, 6
2.73 brdd 17, 3
4 198.5
5 164.9
6 97.8 6.14 d 2
7 166.5
8 96.7 6.16 d 2
9 164.6
10 104.9
1' 130.8
2', 6' 129.1 7.30 d 9
3', 5' 116.3 6.80 d 9
4' 159.0
Glucose
1 102.5 5.07 d 8
2 78.9 3.63 dd 8, 7
3 72.1 3.58 dd 10, 7
4 71.2 3.38 dd 10, 9
5 78.1 3.42 m 10, 6, 2
6 62.2 3.85 brdd 11, 2
3.68 m
Rhamnose
1 99.4 5.24 d 2
2 72.1 3.93 dd 3, 2
3 79.0 3.58 dd 10, 3
4 73.9 3.38 dd 10,10
5 70.0 3.88 dq 10, 6
6 18.2 1.28 d 6