カルボンのNMR解析


以下のスペクトルをもとに、分子量150の化合物50mg/chloroform-dの構造を推定してみよう。

1H-NMR

1H NMR spectrum of carvone

拡大

1H NMR spectrum of carvone

table

Peak List    Date: 23.07.2000    Time: 19:18
File Name:    c:\mydocu~1\carvone\picccarv\001001.1R
Peak Results saved in File:    -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC:    1.00
Noise:    32624
Sens. level:    130495
Peak Picking region:
Start(ppm)    Start(Hz)    End(ppm)    End(Hz)    MI(%)    MAXI(%)
8.00    3999.5    1.29    643.0    2.53    100.00
Peak Picking results:
Nr. Data Point  Frequency  PPM      Intensity    %Int.
 1    14963    3337.67    6.6736     27086716     8.7
 2    14968    3336.44    6.6711     35306680    11.3
 3    14973    3335.21    6.6687     37279372    11.9
 4    14979    3333.73    6.6657     34489456    11.0
 5    14986    3332.01    6.6623     33366342    10.7
 6    14992    3330.53    6.6593     35162740    11.3
 7    14997    3329.30    6.6569     34355340    11.0
 8    15003    3327.82    6.6539     26249558     8.4
 9    18953    2355.69    4.7102     62156552    19.9
10    18958    2354.46    4.7077     85802184    27.5
11    18962    2353.48    4.7057     67766872    21.7
12    19055    2330.59    4.6600     91759640    29.4
13    23200    1310.46    2.6202      8393446     2.7
14    23216    1306.53    2.6124     14129872     4.5
15    23234    1302.10    2.6035     10980639     3.5
16    23259    1295.94    2.5912     20505156     6.6
17    23272    1292.74    2.5848     20971236     6.7
18    23314    1282.41    2.5641     16728186     5.4
19    23330    1278.47    2.5563     10132911     3.2
20    23447    1249.68    2.4987     28632508     9.2
21    23454    1247.95    2.4953     31499026    10.1
22    23462    1245.98    2.4913     26270152     8.4
23    23469    1244.26    2.4879     26280740     8.4
24    23512    1233.68    2.4667     36232664    11.6
25    23519    1231.96    2.4633     40337368    12.9
26    23527    1229.99    2.4593     33072406    10.6
27    23534    1228.26    2.4559     33496376    10.7
28    23681    1192.09    2.3836      9540554     3.1
29    23686    1190.86    2.3811     12694332     4.1
30    23692    1189.38    2.3781     12126224     3.9
31    23698    1187.90    2.3752     13473697     4.3
32    23704    1186.43    2.3722     18364512     5.9
33    23710    1184.95    2.3693     18702030     6.0
34    23716    1183.47    2.3663     13554173     4.3
35    23722    1182.00    2.3634     11613169     3.7
36    23728    1180.52    2.3604     12518781     4.0
37    23734    1179.04    2.3575      9960516     3.2
38    23755    1173.87    2.3471     14275933     4.6
39    23760    1172.64    2.3447     19216908     6.2
40    23766    1171.17    2.3417     17987342     5.8
41    23773    1169.44    2.3383     19553528     6.3
42    23778    1168.21    2.3358     27016288     8.7
43    23784    1166.74    2.3329     27995276     9.0
44    23790    1165.26    2.3299     20021972     6.4
45    23796    1163.78    2.3270     15915799     5.1
46    23802    1162.31    2.3240     16482788     5.3
47    23808    1160.83    2.3211     12883983     4.1
48    23889    1140.90    2.2812     60343096    19.3
49    23944    1127.36    2.2541     54230732    17.4
50    23954    1124.90    2.2492     48303076    15.5
51    23993    1115.30    2.2300      9891868     3.2
52    24009    1111.36    2.2221     51363824    16.5
53    24023    1107.92    2.2153     19844948     6.4
54    24034    1105.21    2.2098     10596482     3.4
55    24046    1102.26    2.2039     17143504     5.5
56    24057    1099.55    2.1985     23267278     7.5
57    24067    1097.09    2.1936     19341370     6.2
58    24076    1094.87    2.1892     15874001     5.1
59    24087    1092.17    2.1838     16531147     5.3
60    24097    1089.70    2.1788     11783644     3.8
61    24120    1084.04    2.1675     10248566     3.3
62    24131    1081.34    2.1621     14027268     4.5
63    24141    1078.88    2.1572      9946083     3.2
64    24998     867.96    1.7355      8215013     2.6
65    25025     861.32    1.7222      9620788     3.1
66    25090     845.32    1.6902    131456544    42.1
67    25095     844.09    1.6877    220382352    70.6
68    25100     842.86    1.6853    229085584    73.4
69    25105     841.63    1.6828    222891456    71.4
70    25111     840.15    1.6799    130892224    41.9
71    25158     828.58    1.6567    312158016   100.0

13C-NMR(COM,DEPT)

13C COM and DEPT spectrum of carvone
?tableも使って、カーボンのケミカルシフトと種類(CH3, CH2,CH,四級)の区別を記入せよ。ケミカルシフトが近接しているピークには、何本分か書いておこう。

table

File Name:    f:\xwin_nmr\picccarv\4\pdata\1\1R
Peak Results saved in File:    -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC:    1.00
Noise:    32624
Sens. level:    130495
Peak Picking region:
Start(ppm)    Start(Hz)    End(ppm)    End(Hz)    MI(%)    MAXI(%)
241.47    30366.1    -23.59    -2967.2    -2.19    100.00
Peak Picking results:
Nr.    Point    Frequency    PPM    Intensity    %Int.
 1     5195    25081.50    199.4429     53480088    10.4
 2    11743    18420.53    146.4763     98893680    19.3
 3    12001    18158.08    144.3893    242522784    47.4
 4    13138    17001.47    135.1921    115118200    22.5
 5    16221    13865.28    110.2538    511853920   100.0
 6    20300     9715.90     77.2588     52221456    10.2
 7    20332     9683.35     77.0000     58008776    11.3
 8    20363     9651.82     76.7492     52745144    10.3
 9    24543     5399.70     42.9373    444707264    86.9
10    24626     5315.27     42.2659    346092416    67.6
11    26015     3902.30     31.0303    462889120    90.4
12    27340     2554.45     20.3124    329808192    64.4
13    27937     1947.15     15.4833    351545792    68.7
DEPT90
Peak List    Date: 11.08.2000    Time: 11:28
File Name:    f:\xwin_nmr\picccarv\2\pdata\1\1R
Peak Results saved in File:    -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC:    1.00
Noise:    1510652
Sens. level:    6042608
Peak Picking region:
Start(ppm)    Start(Hz)    End(ppm)    End(Hz)    MI(%)    MAXI(%)
241.47    30366.1    -23.59    -2967.2    -13.53    100.00
Peak Picking results:
Nr.  Point    Frequency    PPM          Intensity    %Int.
 1    11998    18161.13    144.4136     400744512    87.0
 2    24627     5314.25     42.2578     460779552    100.0
dept135
Peak List    Date: 11.08.2000    Time: 11:31
File Name:    f:\xwin_nmr\picccarv\3\pdata\1\1R
Peak Results saved in File:    -
Peak Picking Parameter:
Peak constant PC:    1.00
Noise:    1374074
Sens. level:    5496294
Peak Picking region:
Start(ppm)    Start(Hz)    End(ppm)    End(Hz)    MI(%)    MAXI(%)
241.47    30366.1    -23.59    -2967.2    -82.44    100.00
Peak Picking results:
Nr.  Point    Frequency    PPM       Intensity    %Int.
 1    11999   18160.12    144.4055     211343520    40.1
 2    16220   13866.29    110.2619    -408187040   -77.4
 3    24543    5399.70     42.9373    -362534208   -68.7
 4    24627    5314.25     42.2578     214526304    40.7
 5    26015    3902.30     31.0303    -434872320   -82.4
 6    27340    2554.45     20.3124     527510720   100.0
 7    27936    1948.16     15.4914     434333088    82.3

以上のカーボン、プロトンの合計は、C10 H14 (式量134)であり、分子量150に16足りない。δ199.4のシグナルはカルボニル(C=O)であると推定され、分子式はC10H14Oと決定できる。不飽和度(C+1-H/2)=4であり、δ146.5から110.3の4個のカーボンが2つの二重結合と推定され、1個のカルボニルとあわせて残る不飽和度1が環によると推定できる。

COSY

COSY spectrum of carvone schematic view of COSY spectrum of carvone

横に書いてある一次元スペクトルに1H-NMRスペクトルのピークにアルファベットを振り、相関を表にまとめる。スペクトルに振ったアルファベットの根拠は次項のHMQCを参照。もし、COSYだけを解析するなら低磁場から順に振って同様に行う。


COSY correlation table
ここから、以下のような部分構造が明らかになる。
  1. j(CH3) - c(CH) (J値とcのδから考えてアリルカップリングと推定)
  2. i(CH3) - e'(CH2) (J値とcのδから考えてアリルカップリングと推定)。つまり i(CH3) - (C) = e'(CH2)
  3. 最初の部分構造を含め、 j(CH3) - (C) = c(CH) - h, h'(CH2) - g(CH) - f, f'(CH2)

1H-NMRとCOSYだけから、化合物の構造を推定できることもある。構造が推定できた時点でデータまたは標品を入手して同定を行う。本化合物も、ここでccarvoneであろうと推定できるが、以下未知化合物として続ける。

HMQC

HSQC spectrum of carvone HSQC spectrum of carvone
  1. カーボンの低磁場側からa, b, c....とアルファベットを振る。
  2. 直結するプロトンに同じアルファベットを振る。非等価メチレンの場合は1個のカーボンと2個のプロトンに相関が出るので高磁場側のプロトンに「’」をつける。

このスペクトルはカーボン軸の両端でデカップリングが不完全となり c、j のピークが完全にはデカップリングされていない。

HMBC

HMBC spectrum of carvone results of HMBC spectrum of carvone results of HMBC spectrum of carvone

HMQCで振ったのと同じアルファベットをスペクトルに書き入れる。

2本または3本の結合を介したカーボンとプロトンとの間には数Hzのカップリングが存在する(遠隔カップリング、long-rangecoupling,、LRJCH、2-3JCH)。HMQC同様測定に関与しないピークを「位相回し」や「グラジエントパルス」で消しているため、消え残りがスペクトル中に現れることがあるので解析にあたって注意する。直結するカーボンとプロトン間の相関が現れることがあるが、カーボンデカップリングを行っていないため1JCHにより分裂する (e, j, i)。その一方の位置にちょうどプロトンがある場合、これを遠隔の相関と見誤らないように注意する。下図のような相関表を作り、解析する。直結プロトン-カーボンにの位置にはQ、HMBC相関はOを記入。fとgのカーボンのようにケミカルシフトが近接していてどちらと相関を与えているのか判断できない場合は表の中でも欄にまたがって長丸を記入する。
HMBC correlation table
これまでに推定した部分構造をつなぐ相関に着目する。カーボン/プロトン= a/c, a/j, g/i により平面構造が導かれる。また、b/i, d/j により4級カーボンb, dが帰属できる。
plane structure

次に、導かれた構造式にHMBC相関を全て書き入れ、相関のつながっていないところがないかどうかチェックする。また、上の表と同様の表を作り、この構造であった場合に3本の結合以内となるプロトンとカーボンの本数を書き入れる。上の表と比較し矛盾がないか確認する。ここでは相関があるものに丸をつけた。HMBCの測定では1/2Jの遅延時間を設定する。その値から大きく外れるJ値をもつカーボン-プロトン間には相関が出にくい。遠隔カップリング定数の値はデータ集を参照。2,3本の結合を介したプロトン−カーボンであっても相関が出るとは限らない。しかし4本以上はなれているのに相関が出るのはW字型など理由が説明できなければならない。


HMBC correlation tableHMBC correlation

NOESY, NOE差スペクトル

NOESY spectrum of carvone

空間的に近接するプロトン同士を検出する手法である。相対立体配置、非等価メチレンの帰属を行う。NOESYスペクトルは対角ピークが負(赤)、NOEピークが通常は正(黒)で得られ、不要ピークとして交換ピークが負、COSYピークが分散形にあらわれることもある。特定のプロトンを照射しておこなう一次元のNOE差スペクトルも用いられる。照射位置が負、NOEが正にとなり、ちょうど照射位置がNOESYの対角ピークとなる位置の横断面図のようなスペクトルとなる。

立体化学を考察する際には分子模型を組んでみよう。

NOESYスペクトルでe,e'のメチレンプロトンに着目すると、e' は環上のプロトンと、eはiのメチルプロトンとNOE相関を与えていることからこの非等価メチレンの帰属ができる。  h, h', f, f' の非等価メチレンの帰属(gのプロトンと同じ側か逆か)には分子模型を用いる。gの炭素上の置換基がaxialとはなりにくいことから、置換基がequatorial、gのプロトンがaxialとなり、このとき、隣のメチレンプロトンはgのプロトンとcisのものがgと近く、transのものは遠くなることがわかる。g-b間は自由回転可能でありe, e' の一方は環上のプロトン h, h', g, f, f' と、他方はiのメチルプロトンと近づくことができる。

NOESY spectrum of carvone NOE差スペクトルで g の照射により h へのNOEが観測されたことから、これがgのプロトンとcisと帰属できる。


NOE correlation

f, f' については明確なNOE相関は得られていないが、プロトン間のJカップリングを用いて帰属が可能である。分子模型から、f、f'のメチレンプロトンのうちgとcisのものはgとの二面角が90°に近くなりgとのJ値が小さく、transのものは二面角が180°近くなるためgとのJ値が大きくなると予想される。メチレンプロトンの分裂のうち最大の分裂はgeminalカップリングであることに注意してこれらプロトンの分裂パターンを見ると、 f' が g とのJ値が大きいことがわかる。これらのことから相対立体配置を下図のように推定できる。f はgeminalプロトン1個、vicinalプロトン1個であるにもかかわらずdddに分裂している理由が、h プロトンとのW字カップリングであろうことも分子模型から推定できる。


structure

なお、gの炭素が不斉炭素であり、この化合物には2種類の光学異性体が存在するが、誘導化しなければ絶対配置をNMRで決定することはできない。


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