花粉散布の範囲やそれによる遺伝子流動は,景観の変化によって影響をうけることがある.特に虫媒花の 場合は,成木の密度と送粉昆虫の種類・量などに影響されるので,これまでの結果でもその結果はまちまち であった.Sork et al. (2005) は,Missouri Ozark Forest Ecosystem Project の一環として,森林施業 が虫媒のflowering dogwood (Cornus florida L.) の花粉散布に及ぼす影響を調べた.
皆伐,択伐,無施業の3 つの処理区(各処理2 反復) で,種子親33-74 個体から種子を10 個ずつ採取し, 合計1500 の実生のアロザイム8 遺伝子座に基づく遺伝子型を特定した.実生の遺伝子型のうち,父親由来 の遺伝子型を調べることによって,花粉親の構成を知ることができる.ここでは,TWOGENER (Smouse et al., 2001) というモデルを用いて,母樹間の花粉親構成の違いから,有効な花粉散布の範囲を推定した. 花粉親の構造は,皆伐区でいちばん大きく(Φc = 0.090, p < 0.001),択伐区(Φs = 0.125, p < 0.001), 無施業区(Φu, p < 0.001) の順に小さかった.花粉親の構造から有効な花粉親の数Nep が推定できるので, 比較してみると,Nep は,皆伐区でいちばん大きく(Nep = 5.56),無施業区でいちばん低い(Nep = 2.87) ことがわかった.また,筆者が独自に構成したブートストラップ検定の結果によると,花粉親の構造は,皆 伐区と無施業区の間で有意に異なり(ΦC < ΦU, p = 0.034),森林施業によって,花粉散布範囲が広くなっ たことがわかった.
この研究では,花粉の有効散布範囲の推定に,近年開発されたTWOGENER (Smouse et al., 2001) と いう間接推定モデルを用いている.これはAMOVA (Analysis of MOlecular VAriance; Excoffier et al., 1992) によって,花粉由来の遺伝子型の変異を母樹内と母樹間に分解したとき,母樹間の変異の割合Φft が,有効な花粉親の数Nep に反比例することを利用して,花粉の有効散布距離を推定する方法である. Sork et al. (2005) は,さらにいくつかの補正方法を用いているが,ここではもっとも単純な例について原 理を解説することで,参加者に解析のイメージをもってもらい,理解の助けとなることを期待したい.
ミズナラ(Quercus mongolica Fisch var. grosseserrata Rahd. Wils.)の純林や混交林のミズナラ樹冠下で雑草が成長しない事から、アレロパシーの存在が考えられたため、ミズナラ樹冠下の土壌を用いて幾つかの作物種について栽培実験によるアレロパシー作用の検討を行った。その結果ミズナラ樹冠下土壌は作物種に対し50%から90%の成長阻害効果を示した。この土壌から中性物質とフェノール性物質を抽出し、それぞれ酢酸エチルとブタノールで4つに分画し、作物種について生物実験を行った。するとこれら4分画のうちでフェノール性物質の酢酸エチル抽出の分画が、作物種に対し最も大きな阻害効果をもたらした。
この分画からHPLC,EI-MS,H-MNR等により3,4-dihydroxybenzoic,p-hydroxybenzoic,vanillic,ferulic acids等9種の成長抑制物質が同定された。ミズナラ生育土壌中の生育阻害物質であるフェノール性物質の総量はササやエゾマツ、その他作物種生育土壌中のそれよりも高かった。しかしアカマツ生育土壌中よりは低かった。
以上の結果より、ミズナラ生育土壌中のフェノール性物質は他感作用を持ち、森林群種および林床植物の分布に大きな影響を及ぼしていると考えることができる。