森林生理生態学的アプローチ

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−森林生理生態学の理念−

 各種環境と樹木とその集団の成長との関係を解明し、森林育成と森林生態系修復の基礎学となる体系を森林生理生態学と呼ぶ。増え続ける人口を扶養するために、森林域を改変して耕地面積を拡大してきたが、耕地面積の増加分と森林面積の減少分は、残念ながら一致しない。耕地にできず荒廃地となった土地が多く存在する。森林生理生態学の使命の一つには、この荒廃地の再生を目標として生態系修復を成功する体系の構築がある。
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増加し続ける世界人口と減少し続ける森林面積。そして僅かながら増加した農耕地。赤丸部分は荒廃地になる。この部分をどの様に修復するか?(内嶋善兵衛 1992)

 動物学を基礎に発展してきた体系では、体内の応答を重視した環境生理学(植物では生態生理学)という概念があり、固着性を特徴とする植物では、より環境を重視して生理生態学の体系が進展してきた。  私たちの森林生理生態学へのアプローチは、樹木の光合成活動を縦軸に、森林動態解析を横軸として樹木の成長から森林の発達へ迫るように心がけている。それは光合成産物がどのように分配されるか、という見方と考え方である。

 変動環境と森林の保全生態管理にむけて

人類は利便性を追及し、地球の資源を大量に消費して産業活動を行ってきました。しかしその結果、酸性雨、大気中CO2濃度の上昇、窒素沈着、オゾンホールの形成など、本来の自然環境からは大きく逸脱した環境条件が形成されつつあり、しかも、その進行速度は急加速しています。このような変動環境に対し、森林植物がどのように応答するのかを明らかにすることは、自然環境を保全する上でも、人類の生活環境を健全に保つためにも必要不可欠です。
 私たちは、野外実験と制御環境を利用して、大気CO2濃度の上昇や窒素沈着、特殊土壌に対する森林植物の応答を、北大北方生物圏フィールド科学センター森林総合研究所などとも協力しながら研究しています。また、近年では温暖化影響顕在化の一環として、世界レベルで問題となっている山火事跡地の再生メカニズムの生理生態学や侵入種の制御に関する研究をニセアカシアをモデルとして生態学生理的手法を用いて研究を始めています。

大気中の高CO2と窒素沈着に対する植物の応答

1981年5月、札幌郊外羊ヶ丘の外気CO2濃度は308ppmであった。2007年6月、380ppmを越えた(ハワイ州マウナ・ロアでの観測も同様の傾向)。地史レベルでは減少傾向にある大気CO2であるが(下左図)、変化が急すぎて生物の適応能力を越えている可能性が高い。目に見える現象として実感できないため、この「忍び寄る驚異」には敏感になれない(高月先生の鈍感のカエル)。一方、酸性雨の問題は、樹木の衰退・枯死現象などとして明確に認識されるため対策も進んだ。学生時代には、他の研究との比較のために光合成速度は300ppmに換算する事になっていたが(戸塚 1966)、今は390ppmになってしまった。
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減少する大気CO2濃度                         ゆっくり変化する環境への反応は鈍い     大日本加里KKパンフ

北国では温暖化して気温が上昇し生産期間が延び、光合成作用の基質である二酸化炭素(CO2)が増えることは、一見すると良いことのように思われる。しかし、「CO2施肥」の言葉があるようにCO2は肥料のような働きをする。これはLiebigの最小律の法則(上図右)で指摘されるように、成長は最も不足する養分によって制限される事を意味する。事実、大部分の樹種では高CO2条件で育成すると短期間は光合成速度は上昇するが、長続きせず、生育環境時のCO2濃度に見合った樹種固有の光合成速度を示す(詳細は温暖化応答へジャンプ)。
 一方、酸性沈着として供給される窒素酸化物(NOx)は、一時的にせよ窒素肥料の働きをする(門司・内嶋 1979)。この相乗効果が重要である。これまで高CO2濃度 × 窒素肥料の複合影響を制御環境で測定してきた(小池ら1995, 小池 1999)。しかし、実験に人為影響が入り込むことは不可避であった。特に根圏への影響を深刻であるため、野外でのCO2付加を行うFACE(Free Air CO2 Enrichment;開放系大気CO2増加)実験(小林 2001)が導入された(下左図)。現在、世界各地でFACE研究の成果のメタ解析(多くのFACE研究の成果をまとめて解析)が進んでいるので、近くその成果がまとまるであろう。現在までの成果は、大部分の樹木はC3植物であり、高CO2環境でも僅かであるがCO2固定速度は増加する傾向を示した(下右図)。
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北大FACE(2003年と2006年)                    New Phytol誌のメタ解析の例

森林にCO2の削減を期待する京都議定書の方針から、森林全体としてのCO2固定機能は樹木自体の生産量から土壌呼吸量を差し引いた値が求められる(NEP:純生態系生産量)。呼吸速度は、有る一定温度までは指数関数的に増加することから、温度上昇に伴う呼吸速度の反応を精密に推定する必要がある。土壌呼吸速度も例外ではない(伊藤 2002)。呼吸は、いうまでもなく光合成産物(グルコース等)を基質にエネルギー生産を行うプロセスであるので、温暖化条件での呼吸{消費}速度の評価が今後の課題である(Qu 2003)。一方、我が国は偏西風の風下に位置する。従って、急速な勢いで経済成長を続ける風上の国々からのNOxらに関連した対流圏オゾンによる成長低下も無視できない(伊豆田 2002,2006)

【参考文献】

山火事跡地の再生メカニズムに関する研究

 Under Constructing by Makoto Kobayashi (see here 小林真?)
2008年、札幌南区で発生した山火事(硬石山)
その後の様子は?山火事硬石山2ヶ月後へ、山火事硬石山6ヶ月後へジャンプ

なぜ、今山火事を研究するのか -北方林における山火事発生様式の変化−

 山火事は元来、北海道を含む北方林において、主要な撹乱要因として森林の更新・維持に重要な役割を果たしてきました。しかし近年、ロシアなどではタバコや焚き火の不始末が原因となって山火事が頻発する一方、スウェーデンやアメリカのイエローストーン国立公園などでは森林火災の管理体制強化から減少するなど、人為的な要因により、北方林における山火事の発生状況は変わってきています。

山火事が少なくなる? いいことじゃないか?

 一見、山火事が少ないことは森林の破壊をともなわないため“よいこと”のように思われます。しかし、極端な管理によって長期にわたって森林に火が入らない場合、有機物の分解速度の遅い北方林では土壌表層に落葉・落枝が過剰に堆積します。すると、一度何かの拍子で火災が発生しますと、堆積した有機物が大量の燃料となり非常に強度の火災へ至ります(小林 2005a,b)。
 強度の山火事の後には、大面積にわたって母樹ものこらず、また埋土種子の多くも死滅してしまう裸地が発生し、軽度の山火事に比べて植生の回復が遅れます。裸地では降雨の際に表層土の侵食および土砂の流出が起こりやすく、長期にわたって裸地のままとなってしまうことも少なくありません。このような裸地の発生は、裸地となってしまった生態系の植生回復はもとより、流域の水土保全的観点から見ても、大きな問題であります。
 また逆に、ロシアにおいて山火事が頻発することによって、各火災が弱度になることが植生へ与えるメカニズムについてもMakoto et al. (2007)のなかで考察しました。  

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調査地の様子。軽度の地表火後のシラカンバ林(左)と、強度の樹冠火後の林分の様子(右)。 極東ロシア・アムール州にて

今後、我々が行うべきこと。 山火事に伴う生態系レジームシフトを探る(註)

これらの山火事の発生様式(山火事レジーム)の変化は、木本植生のみならず、森林生態系内の様々な要素(土壌、水質、共生微生物、動物)へ影響を与えることが予測されます。山火事を巧みにコントロールし、持続的かつその土地にあった森林管理を行っていくためにも、我々は、強度の異なる火災が、森林生態系へ与える影響のメカニズムについて見解を深めていく必要があります。これまで、火災強度が変わることで、火災後の林床における種子の発芽率が変化することが示唆されました(小林ら 2007)。

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火災後に生成する炭、灰などの炭化物。これらによって土壌や更新してくる稚樹は様々な影響を受ける。

今後は土壌特性、および樹木と共生する菌根菌などの共生微生物に注目し研究を進めて行こうと考えています。その基礎として北方生物圏フィールド科学センター・天塩研究林にて山火事のモデル試験を実施しました!
火災実験へジャンプ)。
 なお、この試験地では温室効果ガスフラックス(CO2, CH4, N2O)については、森林総合研究所立地環境領域、北大農学院・環境資源学専攻・土壌学分野との共同で、土壌微生物の動態については北大北方生物圏フィールド科学センター研究員の里村多香美博士との共同により調査開始している。また、ロシア極東のアムール州、州都ブラガベシェンスクにある国立極東農業大学との共同研究(山火事後の森林再生)も地元のJ&B社などの支援を受けながら継続している。歩みは遅くても、この自然を次の世代に残すには、会うことがないであろう私たちの子孫に、この森林を残さねば、という思いは皆同じである(小林 2005)。

(註)レジームシフト:生態系では、生物間の相互作用を通して、数種の生物の個体数や物質量の平衡値が同調するように大幅な変化を示す可能性がある。このような現象は生態系の「状態」が急激に変化したと考えることができる。これを言う。(生態環境リスクマネジメントの基礎、浦野・松田共編、オーム社、2007)。

参考文献

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添付ファイル: file鈍感のカエル.jpg 1647件 [詳細] file高CO2.jpg 1376件 [詳細] fileLiebig.jpg 1262件 [詳細] fileメタFACE.jpg 1270件 [詳細] fileFACE1.jpg 1310件 [詳細] file人口と修復.jpg 711件 [詳細] filefire15.jpg 880件 [詳細] filefire12.jpg 822件 [詳細] fileP1040801.jpg 852件 [詳細] filefire11.jpg 840件 [詳細] filefire10.jpg 852件 [詳細] filefire9.jpg 792件 [詳細] filefire8.jpg 792件 [詳細] filefire7.jpg 784件 [詳細] filefire6.jpg 807件 [詳細] filefire5.jpg 731件 [詳細] filefire4.jpg 804件 [詳細] filefire3.jpg 762件 [詳細] filefire1.jpg 835件 [詳細] fileyoushi1.jpg 1306件 [詳細] filesumi2.jpg 1301件 [詳細] filesumi1.jpg 1368件 [詳細] filem45.jpg 1281件 [詳細] fileyoushi.jpg 760件 [詳細] filesumi.jpg 800件 [詳細]

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最終更新日: 2008-11-02 08:43:49 (日)
研究紹介/植物生理生態学