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残雪の上高地にケショウヤナギを訪ねる

2001,4,2





ケショウヤナギは,極東からユーラシア大陸の高緯度地方にまで,広く分布するヤナギ科ケショウヤナギ属の1種だ。分類上,1属1種ということになっており,この一点を見ても,特異なヤナギ類とみなすことが出来る。

本種の,他のヤナギ科樹木との分類上の識別点は,雌花子房の基部に腺点が「ない」と言うところにある(詳細はもよりの図鑑などを参照されたし)。

ケショウヤナギを除くヤナギ科樹木に共通したこの腺点の,生活上の機能はあまり定かではないが,やはり何か香りの分泌に関わっているものと見られており,ために,ヤナギ科樹木は一般に,この匂いに惹かれた虫を媒介として受粉する,虫媒花とみなされている。
ケショウヤナギだけは,違うらしい。

地球上の本種の分布域は広大だが,日本列島に限ってみると,長野県上高地および北海道十勝地方に「隔離分布」する種として,あまりに名高い。この特異な分布は,氷河期の遺産とされる。

北海道では,札内川,歴舟川などをはじめ,十勝地方の多くの河川に広く生育し,広大な河畔林をつくっている(フィールド&実験室:参照)。
長野県でも,上高地及びその周辺で幾つかの河川で生育が見られるようだが,やはり,ケショウヤナギと言えば,梓川だ。





ケショウヤナギは,急な斜面に挟まれた平坦な河畔に,小径木を主体にやや小規模な群落をつくり,他のヤナギ類やハンノキ類などの群落とモザイク状にすみ分けているように見えた。河童橋周辺にはかなりの大径木も散在する。

4月になったばかり。
山の春はまだ浅い。河畔にはたっぷりと雪が残り,流れる水がぬるむ日はまだ遠い。ただし,季節の動きは駆け足だ。

ケショウヤナギはその名のとおり,若い枝を白粉で飾った外観に特徴があるのだが,この時期,ケショウヤナギの枝は鮮やかな赤みを帯びていて,遠望してすぐにそれと解る。赤が霞むような河畔の光景が,新緑も間近であることを,予感させてくれる。

新緑の頃には多くの人でにぎわうに違いない上高地も,いまは訪れるものも少い。
足跡もない河原を,私たちは思い思いに,散策した。
ケショウヤナギの群落はさらに上流へと断続的に続いているらしい。
更新・成長特性などをはじめ,まだ解明すべき課題が多く残されている本種だが,その保全のために,いまきちんと彼らの生態を知っておく必要がある。
などと思いつつ梓川を歩く。
時折とどく日差しにはぬくもりがあったが,白銀の穂高連峰が,冷たい風を運んできた。





下は観光地として著名な,大正池と焼岳。荒削りな火山の豪快と静かな水面が調和した風景がすばらしいが,実はこの景観を維持するために,山腹の浸食防止・流路の安定など流域全体にわたって,入念な人為が投入され続けていることを,知っておきたい。
一方で,ケショウヤナギは礫の優占する河畔に更新する。つまり,ある程度の頻度で起きる強度の攪乱が,彼らの生活の場を保証してきたと考えられるのだ。攪乱を抑えた河川で本種は存続できるのだろうか。
これが河川管理上,いま非常に重要な課題となっている。






大正池から,もう一度穂高を振り返ってみる。
幾分雲がうすらぎ,仄かに陽もさし始めた。

(左の写真をクリックすると,大きな画像を見ることが出来ます)

今回の見学にさいしては,建設省松本砂防事務所職員各位にさまざまな面で便宜を図っていただき,現地を案内していただきました。また信州大学・丸谷知巳教授,宮崎敏孝助教授にも入山の準備から当日の案内まで,お忙しいなか大変お世話をおかけしました。季節はずれの見学希望を実現させていただいた皆様に,衷心より感謝いたします。


Phot by Y. Watanabe & T. Yajima


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