北海道大学FSC 生物生産研究農場(札幌)

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 生物生産研究農場(北大農場)での研究紹介

北海道札幌市の中心に位置する北大農場では、広大な圃場と利便性から水田や畑地での詳細な調査・研究を行っています。

北大農場のある札幌市は北海道の日本海側に位置し、1991年から2020年の年平均気温は9.2℃、年平均降水量は1146mm、年平均日照時間は1718時間、年平均の積雪深は479cmと、夏は涼しく冬は寒く積雪の多い日本海型気候です。また、土壌タイプは豊平川の扇状地末端から少し離れた沖積性の灰色低地土に分類されます。

北大農場での研究

北大農場では水田、小麦畑、大豆畑において、炭素や温室効果ガス等の物質動態について、資材施用や圃場管理手法の影響について研究を行っています。

水田では、鐵鋼スラグ施用によるメタン発生および水稲の生育や収量・品質への影響についての研究を実施しています。鐵鋼スラグは製鉄過程で生じる副産物で、ケイ素や鉄、マンガン、カルシウム等を多く含みます。農業用にはこれまで、主に水田へのケイ酸供給を目的とした資材が製造・販売されてきました。

近年、スラグ資材の水田への施用が水稲栽培期のメタン発生を抑制する可能性が指摘効果が指摘されるようになりました。韓国における長期連用試験をまとめた研究では、スラグ資材の1.5 t/haの施用でメタン発生量を15%程度低下させることを報告しています(Lim et al. 2022. Science of The Total Environment, 806, 150961)。これはスラグ資材中の鉄やマンガンが土壌の還元化を抑制しメタン生成量を低下したためと考えられます。日本ではこれまで、水田からのメタン発生抑制対策として秋の稲わらすき込みや稲作期の中干しが技術として確立されてきました。しかしながら寒冷な北海道では、秋の早い積雪による稲わらの秋すき込みが困難であったり、稲生育に対する低温や冷害対策のための深水管理や比較的冷涼な気候で土壌が乾きにくいことがあったりと、これらのメタン削減策の導入が難しいことがありました。そのような北海道の水田において、スラグ施用がメタン発生抑制に効果的であるか、またそのメカニズムの解明を進めています。加えて、近年北海道でも夏期、特に水稲の出穂期以降に気温が高くなってきたことから、高温障害による米の品質低下への懸念も強まってきています。スラグに多く含まれるケイ酸は、稲の光合成能力を高め高温障害を緩和することも知られています。この研究では、スラグ資材の施用がお米の品質維持や向上だけでなく、メタン発生抑制による温暖化抑制にもなるかどうかを調査しています。

小麦畑では、バイオ炭(もみ殻炭)の施用による圃場の物質循環や温室効果ガス動態、小麦生育への影響についての研究を実施しています。この研究では特に、バイオ炭の連用や効果の持続性についての評価を目的としています。

バイオ炭は近年、土壌への炭素貯留技術として注目を集めています。J-クレジットでも方法論として登録され、土壌へのバイオ炭施用が炭素クレジットとして販売対象となったことも高い注目を集めることとなっています。そもそも農地への炭の施用は昔から行われており、土壌改良資材としても木炭類が登録されています。古くはくん炭を糞尿と混合させたくん炭肥料を用いる天理農法(小柳津天理農法)が提案されていました(森塚 2016. 日本土壌肥料学雑誌, 87, 289-296)。木炭の代表的な効果は、土壌の水はけを良くし適度な保水性を保つことがあげられます。しかしながら、バイオ炭はその材質や製造方法、形態がさまざまであり、農地に施用した時の効果については明確には示されてきませんでした。最近になり、様々な研究報告結果の解析により、土壌炭素貯留だけでなく保水性の向上や温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)の発生抑制、また圃場からの硝酸溶脱の抑制効果が期待できることが示されるようになりました(Blanco-Canqui 2021. GCB Bioenergy, 13, 291-304.)。これらのことから、バイオ炭の農地土壌への施用は作物の生産性の改善だけでなく、CDR(Carbon Dioxide Removal)やN2O発生抑制による温暖化緩和や硝酸による地下水汚染の抑制への効果も期待されるようになっています。一方で、まだ残されている課題にはバイオ炭の連用効果と持続性があります。

バイオ炭は酸素制限環境下で350℃以上の温度でバイオマスを加熱して作られた固体物質と定義されています。すなわち、高い温度での炭化で原料に含まれる炭素が大きく減ることになり、炭化により元の30%程度に減少するとも言われています。そのために、作物生育に効果のある量を施用するには資材を多く必要とします。バイオ炭による作物生育改善やクレジット化が広がるとバイオ炭の需要も高まりますが、一方で材料はそう簡単には増えません。その様なバイオ炭需給の逼迫は価格の高騰や入手が困難な状態になりかねず、結果的にバイオ炭の利用について意識的にも量的にも縮小していくことが懸念されます。バイオ炭の炭素は生物が利用しにくい形態のため、土壌中に長期間残ります。従って、バイオ炭の施用効果はある程度継続することが考えられます。効果の持続性を適切に示すことは、無駄な施用による資材コスト増や需給逼迫を改善することになり、そのために、地域にある炭化資源を効率良く配分し、また効率良く施用するためには、バイオ炭の持続性を考慮することが重要です。そのような理由から、この研究ではバイオ炭の連用効果や持続性を明らかにするために、長期的な計画に基づいた圃場での試験を実施しています。

大豆畑では、大豆栽培に対する緑肥や不耕起管理の影響について、土壌炭素や温室効果ガスの動態、大豆生育への影響についての研究を実施しています。

※Under construction(編集中)