環境昆虫学概論  9回目                12月15日、2005

・ 寄主特異性の遺伝的基盤---なぜgeneralistとspecialistがあるのか?
generalistになった方が、specialistであるよりも、利用できる資源を考えれば有利なはずだ。ところが、自然界はspecialistの数が圧倒的に多い。なぜなのだろう?この理由は完全には理解されていないが、大まかなところはわかりつつあるムムgeneralistであることにはコストがともなうらしい

「有利な遺伝子を1つ持つことに伴うコスト」の報告例
 多くの植物種は、病害虫抵抗性遺伝子群 R-genesをもつ。しかし、集団内でもすべての植物個体が持つわけではなく抵抗性遺伝子は多型状態を示すことが知られている(持つ個体と持たない個体(感受性個体)がある)。最近の研究ではR-geneを持つ個体にはコストがかかっていることが明らかになった。
 研究例 シロイヌナズナ Arabidopsis thaliana ---遺伝子操作によってR-genesの一つであるRPM1
を持たない個体の中に、RPM1遺伝子を組み込む。遺伝子操作により、RPM1を持つ持たない以外は
 全く同じ遺伝子を持つ2グループを作ることができる。2群間の適応度を比較した
 → その結果、RPM1遺伝子を持つグループの方が少ない種子をつけることがわかった。
 
○ 昆虫と微生物およびウイルスとの相互作用:寄生(感染)から共生へ
1) 弱毒化 
    突発性ウイルスはきわめて毒性が強い場合がある、しかしやがて弱毒化していくケースが多い 
    例、myxoma virus とアナウサギの関係
2) 敵対関係(antagonism) → 共生関係(mutualism)
  垂直感染と水平感染  
   母子感染(垂直感染)が継続すると寄主と寄生者の利害は次第に一致するようになる→共生
   他者への感染(水平感染)が一般的だと、寄生者は他の寄生者との増殖競争に勝つために、寄主
   にマイナスの影響を与えるようになる→寄生関係の継続
    ・ミトコンドリア、葉緑体と細胞内共生
 ・シロアリ、アンブロシアbeetle(キクイムシ)と菌との関係
      キクイムシはアンブロシア菌を親が運び、樹木の坑道内で繁殖させて子の餌にする
      母子間での菌の受け渡し
    ・寄生蜂とpolydna virusとの共生
      寄生蜂は特定の昆虫寄主にしか寄生できない。なぜかというと、寄主昆虫は血球包囲作用に
      よって一般昆虫の卵を殺すことができるからである。特殊化した寄生蜂は、自らが持つ
      ウイルスを用いて血球包囲作用を打ち破っていることが明らかになった。ウイルスは母子間
      で受け渡しされる
    ・アブラムシと細胞内共生生物
      アブラムシの餌である師管液は栄養に乏しい。アブラムシの細胞内に共生するバクテリア
Buchneraはアブラムシにとって不要なアミノ酸を使ってアブラムシにとっての必須アミノ
      酸を合成していることが明らかになっている。Buchneraは母子感染で伝わる

3)細胞内寄生生物 (主としてWolbachia )の影響:寄主の操作
  Wolbachiaとは、節足動物の細胞内にだけ特異的に見つかるバクテリア(細菌)で、細胞外では
  生存できない。きわめて小型のゲノムを持つ
   ・細胞質不和合性   アカイエカ、ゾウムシ、ウンカ、コクヌストモドキ
      集団間で交配させたときに方向性の不和合性(不妊)が生じる
      Wolbachiaは他集団に広がっていく
   ・SR因子--- male killing  ショウジョウバエ各種、テントウムシ、寄生蜂
      オスだけを殺してしまう因子が細胞質に含まれている
      テントウムシではオス卵が孵化しないので、メスは卵塊内のオス卵を共食いすることで
      生存率を高められる。
   ・感染性性転換 寄生蜂(キョウソヤドリコバチ)、アワノメイガ
      オスをメスに性転換させてしまい、産卵までさせてしまう現象
      Wolbachiaにとって不要なオスをメスに変えてしまうらしい。
   ・雌性産生単為生殖  寄生蜂(タマゴヤドリコバチ科)
      単為生殖を引き起こす原因はWolbachiaの影響だった
      単為生殖で増殖する昆虫は多い。いろいろなグループで見られる。この理由はWolbachia
 の寄生に原因があるのかもしれない
 
質問とその答 (12月8日, 2005)
●コストとベネフィットの関係は生物の進化においてあらゆる場面で出てくる気がします。これって関数などでモデル化したりして、この辺に形質が落ち着くだろう、なんて予測はされていないのでしょうか?需要ー供給曲線のようなグラフが書けそうな気がします。需要ー供給曲線なら、グラフの交わる点に落ち着くということになっていますが、自然界ではどのようになっているのでしょうか。グラフから導かれる点になっていたらおもしろいと思いますし、違っていてもおもしろいと思います。
答:指摘の通りです。コストとベネフィットの変化に対して仮定が立てられれば、モデルを作ることができ、最適値を予測して現実の値と比較することも可能です。こうした予測がたてられるのは、生物が選びうる変数が連続変数の場合です。これに対して、どの寄主植物を選ぶかに関しては、類別変数であって、実際に調べてみないと予測をたてることができません。そのため、この場合はモデル化は困難です。
●Rhus属の樹木は葉をハムシに食われ、それによって木の根元の栄養シュートをカミキリムシに食われるとありましたが、それらに対して抵抗するようなことはあるんですか?また、食われることに対しての利点などはあるんですか?
答:Rhus属の樹木も食害に対しては誘導防御などによって抵抗しますが、その樹木に特殊化した昆虫は誘導された物質を解毒することができます。食われることに対しては、利益はちょっと考えられませんね。
●Rhus属の樹木はハムシに食われ、カミキリムシに食われと散々なようだが、逆にハムシやカミキリムシにもらう恩恵などはないのだろうか?
答:植物の側は、食われるばかりで、プラスの影響はあまりないようにも思えますが、食われた葉の量と光合成の損失分は比例するわけではないようです。低いレベルの食葉はほとんど光合成量に影響しません。植物は、昆虫にある程度葉を食われることを予測して葉を多めにつけています。しかし、そうはいっても、植食性昆虫によって植物がプラスの影響を受けることは考えにくいです。植物にとってプラスかどうかわかりませんが、リンゴなどのPrunus属植物は、長枝が昆虫によって食害を受け枯れることが刺激となって、側枝に実をつけることが知られています。
●Rhus属は一体何のためにシュートを伸ばすんだろう・・・?
答:激しく食害を受けると(これは相当の食害の場合です)、光合成産物が不足するので、それを補うために新しくシュートを伸ばし、光合成産物を増やそうとするのです。
●栄養シュートは、どんな成分でできているのですか。
答:春に伸びるシュートと大きな違いはありませんが、フェノール等の防御物質はあまり含まれません。また、このシュートには花、実は付きません。植食性昆虫の中には、そうしたシュートを主に利用している種類も知られています。
●間接効果の1)の例(Rhus属)では木が弱る一方のようなのですが、そのうち枯れてしまったりしてハムシやカミキリムシに不利益があったりしないですか?
答:特定の樹木個体は枯れてしまうこともあるでしょう。しかし、その種全体から見ればごく一部なので、植食性昆虫が不利益を被ることは考えにくいと思います。植食性昆虫は、移動することにより、よりよい植物個体を見つけます。
●ヒトリガの食害よりも別種のガによる食害の方が大きいと予測できて、ヒトリガの食害がかえって別種のガの食害を避けることにつながり、結果的にLupinusにとって正の効果を与えるようなことはないのでしょうか。
答:後の時期に出現するガの食害が常により激しければ、ヒトリガの存在は植物にとって有利となるでしょう。しかし、植食性昆虫の発生量は、年により大きく変動します。後期に現れるガの数が常に多い、とは仮定できないので、植物にとっては、どのガであれ、ガの発生はプラスにはならないでしょう。
●生物間相互作用で、植物と2種以上の昆虫間で全てにとってプラスとなる場合もあるんですか?
答:そういう例は知られていないです。あったとすれば、そうした組み合わせの生物が地球上を覆い尽くすでしょう。
●ナミアゲハとクロアゲハの食草選択は、食草の生えている環境の明度(明るいとナミ、暗いとクロがつく)と本で読んだことがあるのですが、これは本当でしょうか?このような選択があった結果、産卵刺激物質の変化が現れたのでしょうか?
答:確かに、そのような傾向があります。母親が食草探索を行う環境がまず異なります。その結果、両種の産卵刺激物質の違いには、異なる光環境に生えるミカン科植物の違いが反映されているのでしょう。
●チョウの母親が卵を産む植物を決めるときに視覚に頼ることはありますか?
答:あります。まず視覚によって植物を認識し近づきますが、この段階での識別は厳密ではありません。匂い物質が寄主と異なっているとすぐに離れます。
●産卵刺激物質は植物にはどのような効果(作用)があるのですか?
答:一般的には、抗菌物質であったり、一般的な昆虫に対する防御物質であったりします。しかし、その植物に特殊化した昆虫は、そうした防御物質であるallerochemicalを逆手にとって、寄主探索の手がかり(cue)として用います。
●アゲハの産卵刺激物質に似た物質を人工的に作り、産卵を促進させることはできるのですか。
答:できます。実際に試みられていると思います。
●選好性が変化した後、もう一度変化してもとの寄主を選好することは、可能性としてありますよね。実際そういうケースはありますか?1つの植物体にどのくらいまで同時に寄生できますか?
答:「選好性が変化した後、もう一度変化してもとの寄主を選好する」ことはあり得ます。選好性にrevarsal(逆転現象)が生じたといいますが、残念ながら、確かな例は知られていないと思います。この問題は、詳細な系統樹が得られれば解決できますので、やがては見つかるでしょう。1つの植物体に何種まで寄生できるかということですが、これはその植物が草本か木本かによっても競争の程度が異なるので何とも言えませんが、いろいろな例を見てみると、鱗翅目では1種の植物に同属種は数種類まで、アブラムシでは5-6種が限度でしょうか。
●クルミホソガはクルミ集団内、ネジキ集団内でもそれぞれ交配すると思いますが、クルミ集団のメスとネジキ集団のオスしかF1を残せないとしたら、初めからメスとオスの比はクルミの方がメスが多くてネジキの方がオスが多いようになるんですか?
答:いえ、そうはなっておらず、どちらの集団でもオス:メスは1:1です。というのは、通常は集団内でしか交配が行われないからです。クルミ集団とネジキ集団間での交配の話は、仮にそのようなことが起こったとしても、遺伝様式のために遺伝的な交流は盛んになっていかないことを示したかったのです。
●2次的接触の時に生殖的隔離が不十分であると、遺伝的変異は均一になるのでしょうか。
答:2つの場合が考えられます。1つは、長い時間をかけて、均一になっていく場合です(遺伝的な分化がほとんどなかった場合)。もう一つは、2集団がかなりの遺伝的分化をとげていた場合です。2次的接触後、2つの集団が膠着状態に陥り、境を接して側所的に分布する場合があります。この境のことを交雑帯(hybrid zone)と呼び、ここでは両集団の交雑(hybridization)が生じます。交雑帯は数100mから数10kmの幅を持ちます。こうした現象は最終氷期後に、世界の各地で(日本列島でも)頻繁に生じたと考えられています。ヨーロッパ、アメリカでは、昔から交雑帯の研究が盛んでしたが、日本でもようやくこうした事例が明らかになりつつあります。日本列島では、最終氷期に避難所として働いた地域が1カ所(九州南部+四国南部+紀伊半島南部)に限定されていたため、こうした交雑帯が頻繁には発見されないのだと私は考えています。
●同所的種分化が起こるために少なくとも2つの遺伝因子が変化する必要がありますが、同時に2つも変異することは確率として小さく、珍しい現象なのですか?
答:同時に変化することは、まずあり得ません。突然変異は順番におきます。まず、新しい寄主を選択できる突然変異が元の集団で生じ、元の集団の中で遺伝的浮動によって広がります。ネジキを食べる集団はクルミも同時に利用可能です。したがって、まずクルミ集団の中にネジキを食べられる個体がわずかに生じたと考えられるのです。次いで、そうした個体のメスに別の寄主(ネジキ)を好む突然変異が起きたと考えます。その結果、ネジキを食べられる性質がネジキに運ばれ、ホストレースとして確立されたと想定しています。同所的種分化が起こるには、遺伝的な基盤に制約があり、実際の生物がそのような遺伝的基盤を持つのか否かが現在問題になっています。
●同所的種分化について、同所にすむ種の集団において、繁殖時期が異なる個体が生じることで種分化が生じた場合、同所的種分化とは言わないのでしょうか?
答:重要な指摘です。繁殖時期を異にすることから生殖的隔離が生じれば、これも同所的種分化です。寄主植物を代えた集団は、知られている限り、繁殖時期も異なります。植物種によって、成長時期が少しずつ異なるからです。寄主の違いに加えて、繁殖時期の違いが異なることから、生殖的隔離はさらに強まったと考えられています。
●より多くの遺伝子を持つことのコストというのは、DNAからタンパク質への翻訳により多くのエネルギーを使うということですか?
答:たぶん、そうではなく、もっと複雑な遺伝子間相互作用の結果です(詳細が明らかになったケースはないです)。例えば、通常の過程では遺伝子Aが作り出す産物が遺伝子Bを活性化し、生殖に重要な物質を作っていたとします。新しい遺伝子Cが加わった場合に、遺伝子Aが作り出した物質を遺伝子Cが別の目的で使ってしまい、遺伝子Bの重要な産物の生産量が低下したということが起こる可能性があります。いろいろな可能性が考えられるので、具体的に調べていく必要があります。
●ユキムシがずっとライラックとヤチダモを間違えているという話をしましたが。ライラックに産みつけられた方が死んでしまうのだから、遺伝的に片寄ったりしないのですか?それとも全く見分けがつかなくて近くにあった方に卵を産みつけてしまったりしているのですか?
答:ライラックを少しでも好む遺伝子があれば、それはすぐに排除されることになります。ユキムシはたいへん慎重で、ヤチダモの香りのあるところでないと絶対に子を産みません。ライラックとヤチダモを見分けられるような遺伝子は、逆に多くのヤチダモの木を拒絶するようにも働くので、ユキムシにはむしろ不利になる可能性があります。ここでかかっている選択圧は寄主選択に関わるものだけですので、遺伝的片寄りはあまり起きていないと思います。
●ユキムシはヤチダモではいいがライラックではなぜ成育できないのですか?
答:これはよくわからないです。師管液の成分が適合しないのではなく、口針を差し込む時に、アブラムシは味見をしますが、この段階で間違ったことに気づき、摂食を中止してしまうのだと思います。
●寄生としてキャベツなど栽培種を選ぶ際、人間の防除を受けると思うのですが、かなりその影響は大きいのでしょうか。
答:現在は、その影響は大きいです。モンシロチョウでは薬剤抵抗性があまり発達しないようですし、薬剤を散布されればほとんど死んでしまいます。モンシロチョウにとっては、薬剤が撒かれるか否かがわからないので、対処のしようがないでしょう。
●幼虫というのはよく植物の葉っぱを食べますが、幼虫の消化管の中にはどんな微生物がすんでいるのですか?
答:セルロースを食べるゴキブリやシロアリでは腸内に棲む細菌・原生動物がセルロースを分解し、寄主の手助けをしているのは有名な話しですが、食葉性昆虫に腸内細菌がいるという話はあまり聞きません。今度調べておきます。
●先生TVに出てましたよね?
答:秋に3回ほど
●ウルシは人が触れるとかぶれたりしてあまり関わりたくないものですが、ハムシがRhus属の葉を食べるということは、ハムシはウルシによるかぶれが効かない、またはかぶれを起こす物質に対する解毒酵素を作れる、ということなんですか?
答(TA):ラッコールという成分が哺乳類の皮膚にかぶれを起こします。昆虫には害にならないのかもしれません。
●熱帯には赤い葉の植物があるらしいです。この植物は花が赤いように虫を寄せつけたいのか、それとも寄ってきてほしくなくて赤い、のどちらですか?
答(TA):昆虫の可視波長は人間より短いほうにずれていて、多くの昆虫は赤色を識別できません。熱帯では昆虫より鳥の方が花粉媒介をしていて、そのような鳥は赤い花を好むので熱帯には赤い花が多いという説があります。(秋元):熱帯で赤い葉の植物は見たことないです。何の種類でしょうね?
●帰化生物というのは、どの時代に日本まで入ってきた生物が帰化生物なのでしょうか?
答(TA):帰化生物は人間活動を原因として国外から入ってきたものを指し、自然な働きで入ったものは含みません。時期としては人間活動が活発になってきた頃から現在まででしょうか。厳密な時期的区切りがあるものでもありません。
●日本でモンシロチョウの他に、以外にもこれが帰化昆虫だったのかと思える史前帰化昆虫はありますか?
答(TA):アオマツムシやキタテハも帰化昆虫だという説があります。
●以前、ミツバチがスズメバチに全滅に近い状態まで狩られてしまって、巣を新しくしても再び襲われて、ミツバチもそれに対して戦っていくというようなマンガを見たことがあるのですが、そこまで(1つの巣が全滅するまで)ミツバチをスズメバチが襲ったりするのでしょうか?
答(TA):スズメバチ類はミツバチの巣を集団で襲って成虫を殺し、幼虫や蛹を全て奪い取って自分たちの幼虫の餌にします。ニホンミツバチはオオスズメバチと戦う特殊な手段を持ち、かつ形勢が不利になったら全滅する前に、幼虫・蛹は明け渡して女王とワーカーが新しい巣を作るという対抗手段を身につけています。近年に導入されたセイヨウミツバチは対抗手段を持たないので、巣は全滅することがあります。
●昆虫は体が小さいので体積に対する表面積の割合が大きいと思います(他の陸生動物に比べて)。どのようにして水分を身体の中に保つのでしょうか?また、周囲の熱に左右されやすいと思います。クチクラで作った殻は水や熱を通さないのですか?気孔からの水分の発散はどうやって防ぐのですか?
答(TA):クチクラ(表皮)にはワックス層があり、水分が保持できます。ガス交換器官の気管も表皮が貫入した部分なのでワックス層が存在し、ここからはほとんど水分が抜けていきません。クチクラ層は熱は通します。体温を適温に保てるように、寒いときは陽に当たったり真夏の昼間は日陰に潜んだりしています。熱帯にピカピカの昆虫が多いのも、体温が上昇しすぎないよう太陽光を反射するためだと言われています。
●ハチとアリ以外にいわゆる社会を形成するものはありますか?
答(TA):この場合の社会は「真社会性」ということになりますが、不妊のカーストが存在することで真社会性と呼ばれます。シロアリ(昔から知られている)、アブラムシ類の一部とアザミウマ目の虫コブを作る種では不妊の兵隊カーストをもちます。甲虫目のキクイムシの数種でもワーカーがみつかっています。
●冬の間、虫(成虫)はどうやって寒さに耐えられるんでしょうか?
答(TA):凍らない仕組みをもつものと、凍っても死なないもの仕組みを持つものがいます。凍結を防ぐタイプは、体内でグリコゲンをグリセリンに作り替えて大量に蓄積し、過冷却点(凍り出す温度)を-20度以下に下げることができます。凍るタイプも重要な部分の凍結を防いでいます。また、雪に覆われた土の中は氷点下にならないので、ハチやアリなど土の中で冬を越すものもあります。
●某動物番組でヤマトシジミ(幼虫)とある種のアリが共生関係にあり、ヤマトシジミがアリに甘露を与えていました。アリマキと違い、植物の汁液がすすれそうにないヤマトシジミがアリに分け与えるほどの多量のブドウ糖を持っているとは思えません。ヤマトシジミとアリでは、やはりヤマトシジミが半分搾取されているような状態にあるのでしょうか・・番組では「ヤマトシジミがアリを手なづけている」のような説明になっていたので気になりました。
答:ヤマトシジミの幼虫は体内でアリの好む糖を合成していると思います。「ヤマトシジミがアリを手なづけている」というのは実態に合いません。
●先週の土曜日のみのもんたの動物番組で、ヤマトシジミがアリと共生しているという話をやっていたのですが、アブラムシと同じく体から甘い蜜を出してアリにボディガードしてもらっているということでしたが、ヤマトシジミにとって蜜は排泄物みたいなものといってましたが、アブラムシとはちがうのですか。
答(TA):ヤマトシジミの幼虫はカタバミの葉を食べますが、植物の師管液には糖分が多く含まれているので、それを利用して蜜をつくっているのでしょう。アリが随伴してくれないと生きていけないほど依存はしていないと思うので、それほど無理して蜜を作ってはいないと思います。(秋元):シジミチョウの仲間はアリと共生しているものが多く見られます。アブラムシの場合でもそうですが、アリを引きつけるために、シジミチョウの幼虫はアリが好む糖類を合成します。植物にはショ糖(2糖類)が多量に含まれていますが、昆虫の体内に取り込まれた段階で、単糖類のブドウ糖と果糖に加水分解されます。これまで知られた例では、幼虫体内でアリが好む3糖類であるメルチトース等を合成し、アリに提供している場合が見られます。ヤマトシジミ幼虫の場合も、かなりのコストをかけてアリの好む糖を合成している可能性があります。甘露の糖(あるいはアミノ酸)の分析が必要です。幼虫は不要の排泄物を提供しているという見方は、変える必要があると思います。
●中島公園のサクラに5月下旬頃、大量についている大きめの毛虫がいるのですが、それがチョウになるととてもモンシロチョウに似ているので今までモンシロチョウの仲間だと思っていましたが、アブラナ科以外の植物にモンシロチョウはつかないとあったので、あれはなんという種なのでしょうか?
答(TA):モンシロチョウと同じシロチョウ科のエゾシロチョウはサクラやリンゴなどで大発生することがあります。たぶん、エゾシロチョウだと思います。モンシロチョウに系統的には近いグループですが、属(genus)は異なっています。日本では北海道だけに見られます
●小さい頃に思っていたことなのですが、セミは幼虫時代が7年で成虫時代が7日(?)だと聞いたことがあります。この話は小学生の僕にとってはあまりにもかわいそうな話に聞こえたのですが、なぜセミは7日間しか生きられないのでしょうか?もう1つ、とてもたくさんセミが鳴いている中で、セミのメスは声の良し悪しを聞きわけてオスを選んでいるのでしょうか?
答:かわいそう?7年も生きるのだから十分ではないかと思いますが。結局、セミのメスは幼虫時代の餌で卵巣を発達させ産卵します。セミ成虫の餌は樹液(導管液)ですが、樹液は糖分が過剰でアミノ酸はあまり含まれていません。成虫になった後の餌の質が低いために、メス成虫は交配・産卵を終えるとすぐに死んでしまいます。一方、成虫になった後に、摂食して卵巣を徐々に発達させるタイプは長生きします。一般に、昆虫の成虫になってからの寿命は、卵巣の発達が成虫になる前に終わっているか否かに大きく左右されます。(TA):交配に関して:セミのメスはオスを選んでいるという報告があります。メスはオスをまず鳴き声で選び、近づいてからさらにオスの求愛行動を見て、交配するかどうかを決めます。オスに近づいてから交配を拒否する場合もけっこうあります。体サイズが大きく(大きい鳴き声をもつ)、求愛行動に時間をかけるオスが好まれるようです。
●クワガタは成虫になってから何年くらい生きるんですか?前、家で飼っていたコクワガタがだいぶ長生きしてました。
答(TA):(成虫になってから)オオクワガタで3-5年、コクワガタも3年くらい。
●アリジゴクはアリ以外食べないんですか?
答(TA):アリ以外にも、地上歩行性でアリジゴクの巣に落ちやすいダンゴムシ、クモなどを食べます。
●一番大きな虫はどんな虫ですか?
答(TA):オオカブトムシ(ヘラクレス)で、体長18cmあります。チョウではヨナクニサン(体長15cm、翅を広げて30cm)。
●食虫植物は自宅で育てることは可能ですか?もし育てるとしたらエサとなる虫はどれくらいあげればよいのですが?エサとして適する虫もよかったら教えて下さい。
答(TA):園芸店にも置いてあるような種は簡単に育てられるようです。他の植物と同様、光合成で生育しますので「食虫」しないと枯れるわけではないです。与えるとしたら食虫器官の部分より小さい虫がいいようですが、虫を無理に与えたりよく触ったりすると枯れてしまうらしいです。

戻る 10回目へ