環境昆虫学概論 10回目 12月22日、2005
3)細胞内寄生生物 (主としてWolbachia )の影響:寄主の操作
Wolbachiaとは、節足動物の細胞内にだけ特異的に見つかるバクテリア(細菌)で、細胞外では
生存できない。きわめて小型のゲノムを持つ
・細胞質不和合性 アカイエカ、ゾウムシ、ウンカ、コクヌストモドキ
集団間で交配させたときに方向性の不和合性(不妊)が生じる
Wolbachiaは他集団に広がっていく
・SR因子--- male killing ショウジョウバエ各種、テントウムシ、寄生蜂
オスだけを殺してしまう因子が細胞質に含まれている
テントウムシではオス卵が孵化しないので、メスは卵塊内のオス卵を共食いすることで
生存率を高められる。
・感染性性転換 寄生蜂(キョウソヤドリコバチ)、アワノメイガ
オスをメスに性転換させてしまい、産卵までさせてしまう現象
Wolbachiaにとって不要なオスをメスに変えてしまうらしい。
・雌性産生単為生殖 寄生蜂(タマゴヤドリコバチ科)
単為生殖を引き起こす原因はWolbachiaの影響だった
単為生殖で増殖する昆虫は多い。いろいろなグループで見られる。この理由はWolbachia
の寄生に原因があるのかもしれない
○ 総合的害虫管理(IPM)から総合的生物多様性管理 (IBM)へ
戦後、有機合成殺虫剤の普及--塩素系殺虫剤(DDT, BHC)、有機リン剤(パラチオン)
・こうした薬剤による生態系への問題
・レイチェル=カールソン「沈黙の春」1962の批判--農薬規制法(米)
1) 農薬に依存した農業の問題
○農薬残留性
生物的濃縮 (ニカメイガに対するBHC---土壌0.93ppm,イネ 5.96,牛13.68)
○撲滅剤から選択性農薬へ
・有機リン剤
・カーバメート剤
・ピレスロイド剤
さらに ・昆虫成長制御剤(IGR)
・BT剤
・性フェロモン剤
○農薬の作用機構
薬剤とその一次作用点(ターゲットにしている生理機構)
神経系---ニューロンとシナプス
○薬剤抵抗性---進化過程としての抵抗性害虫の出現
LD50
交差抵抗性・複合抵抗性
抵抗性が問題となる害虫類
○抵抗性の遺伝 (2つのケース)
1遺伝子座---メンデル性の単一主働遺伝子
ポリジーン---量的遺伝
○新薬剤開発の経済的コストの大きさ
○リサージェンス ----- 農薬を散布すると害虫が散布前より増える現象
害虫そのものよりも、その天敵を殺してしまったことから生じる。
2)農薬利用でどこまで出来るか
・負相関交差抵抗性の利用
・協力剤、農薬混用、農薬ローテーション
3)総合的害虫管理
「すべての適切な防除手段を相互に矛盾しないかたちで使用し、経済的被害を生じるレベル以下に害虫個体群を減少させ、かつ低いレベルに維持するための害虫個体群管理システム」(FAO,
1967)
4) 遺伝子組み換え作物と遺伝的多様性
・RR大豆の問題----除草剤耐性雑種の出現
・BTコーンと種子の汚染
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環境昆虫学レポート
テーマ:講義を聴いて興味を持てそうなテーマを自分で設定し、それについてさらに調べて、考察を加えること。自らテーマを設定するのが難しい場合、以下のテーマを選んでください
「害虫の薬剤抵抗性はどのように発達するかを述べ、害虫の総合防除について概説すること。これからの農業について意見を述べること」
・言語 日本語、英語どちらでも可
・長さ レポート用紙で3枚以上。 上限はないが、長いほどよいというわけではない
・締め切り 1月30日(月)5時まで
・提出先 南327(3階) 秋元の研究室 右横のレポート箱 提出した人はレポート箱の名簿に丸をつけて下さい
・評価する点 オリジナルな考え、説明のしかた、感想がどれだけ含まれているか(どれだけ自分の言葉で説明しているかが重要。ホームページの文章のペーストや参考書の丸うつしはダメです)
・その他 各種の資料を参考にすることはもちろんかまわないが、引用文献として挙げること。
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質問とその答 (12月15日, 2005)
●RPM1を遺伝子操作によって導入されたシロイヌナズナは、次世代でもRPM1を獲得できるでしょうか。
答:もちろん獲得されます。導入された植物が種子を残せば、導入された遺伝子は次世代の子供に伝わります。導入遺伝子が伝わってしまうからこそ、GM作物の環境に与える悪影響が心配されているわけです(野生植物への遺伝子汚染)。
●だいたい何代くらいでウィルスは弱毒化するのか。
答:ウイルスは突然変異率が高いので、ごく短期間です。数十年の単位で、弱毒化が起こった例が報告されています。
【敵対関係(antagonism)→共生関係(mutualism)】
●ParasiteがHostと共生関係になる過程の話は非常に興味深かった。逆に、共生から寄生関係に移る例はあるのだろうか。(ー/ー,0/0)
→ +/+ → (+/0) → +/- 共生している方が相方への利益が大きそうなので、ほとんど起こりそうには思えないが。
答:あります。自然界は広いので、いろいろな例があるのです。前に少し述べた、yucca と yucca mothとの関係では、進化の初めはガがユッカに対して寄生的でした。後に共生関係を結ぶ種の多様性が増し(ガもユッカも)、さらに共生的なガの一群からユッカに寄生的なガが派生しました。こうした事例は、近年精密な系統樹が作られるようになったために明らかになりました。
●木材を食べるカミキリにも腸内にセルロース分解菌がいますよね?集団生活をしているわけでもないカミキリはフンによる伝搬ができない場合もあると思います。どのようにして伝搬させているのでしょうか?
答:うーん、難しい問題ですね。カミキリムシに関わる話は聞いたことがないです。だれか調べれば面白いと思います。メスが木質部に卵を生み込む時、同時に腸内細菌を卵のまわりあるいは卵上に塗りつけ、孵化した幼虫がその菌類を取り込む可能性があります。元カミキリムシ好きとしては、ぜひとも知りたいところだ。
●寄生蜂はpolydna virusがいないと卵を殺されてしまうので増殖できないんですよね?だとすると共生前は寄生蜂はどのように産卵していたのですか?
答:寄生蜂の中でも、卵を寄主の幼虫の体内に生み込む「内部寄生蜂」と外側に卵を生み付け幼虫が寄主幼虫を外側から食べる「外部寄生蜂」とが知られています。外部寄生蜂がおそらく祖先的で、そうしたタイプの寄生蜂が徐々にウイルスとの共生関係を獲得していったとしか考えられません。
●アブラムシがBuchneraと共生する前は、繁殖に必要なアミノ酸をどこからとっていたのか。
答:アブラムシになった時点ですでにBuchneraとの共生が成立していたと考えられています。実は、アブラムシ以外のカメムシ目の昆虫(ヨコバイ、ウンカ、カメムシ)は、ほとんどの種が共生生物を持っています。細胞外の場合(腸内に存在)も細胞内の場合もありますが、こうした共生生物が祖先となってBuchneraが生じたと考えられています。植物の樹液を吸うものは、みな共生生物なしにはアミノ酸を効率よくとれないのではないかと思います。
●アブラムシとBuchneraの関係について、最後のスライドにあったようにあんなにたくさんのBuchneraがアブラムシの細胞内で増殖しているのを見て、アブラムシ側のこの菌を増殖させるためのコストを考えると、寄生のようにも見えた。もしアブラムシに必須アミノ酸を与えると、細胞内のBuchneraはどうなるのでしょうか?必須アミノ酸を合成しなくなったり、あるいは細胞内から除去されたりするのでしょうか?
答:面白い視点です。十分な量の必須アミノ酸をアブラムシに与えるという実験は行われていないと思いますが、行ってみる価値があります。現在では、アブラムシは人工飼料で買うこともできます。必須アミノ酸が十分な条件下では、Buchneraは排除されていくかもしれません。一方、胚子はBuchneraから与えられる必須アミノ酸によってのみ発育するような生理的メカニズムが生じていると、アブラムシが口針を通して吸い込んだ必須アミノ酸は使われないのかもしれません。どちらになるでしょうね。このアイデア、どこかで使わせてもらいます。胚子発生のメカニズムに関して示唆が得られます。
●アブラムシはBuchneraに必須アミノ酸を合成してもらっていますが、アブラムシはBuchneraに生活場所を提供しているだけですか?すると相利共生ですか?
答:そうです。これも典型的な相利共生です。Buchneraはアブラムシの細胞内でしか生きることができません。
●アブラムシにとってのBuchneraは、我々のミトコンドリアの様に細胞内の器官であるとは言えないのですか?細胞内共生生物と細胞内の器官との間に明確な違いがあるのでしょうか?
答:寄主とは異なる独自のDNAをもてば、共生生物と考えて良いと思いますが、それを細胞内器官と見なすかどうかはセマンティックな問題で、どのように見ても良いと思いますよ(つまり、真か偽かにかかわらない)
●Buchneraから酵母に置きかわっても同じような働きをするのですか?
答:同じような働きをします。この例からわかるように、共生生物の座も安泰ではなく、別の生物の置き換えられてしまうことがあるということです。
●アブラムシと細胞内共生生物の話で、この共生生物の存在の有無はアブラムシとアリの関係に影響があったりしますか?
答:そうなのですよ、共生生物の存在がアリーアブラムシ関係に関与しているかどうかが一番面白い点です。同じ種のアブラムシでも、その共生生物Buchneraには遺伝的変異があることがわかっています。共生生物が違えば、アブラムシの甘露に排出されてくるアミノ酸の量とか種類が変わる可能性もあります。そうだとすれば、アリは、特定のBuchneraを持つアブラムシを好むようになり、そのタイプのアブラムシが優勢になるかもしれません。実は、このような事例を探しているところなのです。
●選択圧によって淘汰されない生物のみ生存できるので、寄生者ー宿主の関係が互いの生存率を高める共生関係を発展させることは妥当だと思いますが、寄生者ー宿主の関係が両者もしくは一方の絶滅によって破綻しそうな例となる生物ってどのようなものがありますか?
答:破綻しそうな例はたぶん数限りなく存在しているのでしょうが、報告例としては知られていません。また、かつては一方が絶滅したために他方も絶滅したというケースがあったと思いますが、現在では辿ることができません。あっ、ちょっと思い出しました:モーリシャス諸島の何とかいう樹木の種子は極めて硬くて、ドードー鳥の腸内を通過することの刺激によって発芽していたというのです。ところがドードー鳥が1681年に絶滅して以来、この樹木は生き残りが種をつけ続けているものの、自然状態では発芽せず、絶滅寸前という事例が知られています。特殊化した共生関係と、一方の破綻による悲劇の例です。
●以前カマキリの産卵後、体内から信じられないほど長い寄生虫が出てきて驚いたことがあった。あの寄生虫はおしりを水に浸すとすぐ出てくるそうだが、カマキリの大きさと比べるとカマキリには明らかに不利に働いていると思う。あの寄生関係はどのようなものなのでしょうか。
答(TA):カマキリに捕食寄生するハリガネムシです。水中に産卵し、幼虫が水生昆虫に寄生して、水生昆虫を食べたカマキリの体内で成虫になります。ハリガネムシはカマキリを水辺に「誘導して」腹部が水に浸かると腹を突き破って水中に泳ぎ出します。体長は数十cmあり、寄生されたカマキリは死ぬので強い寄生性といえます。
●日本に人に寄生する虫はいますか?テレビでアフリカの病人の身体から虫が出てくるのを見ました。
答:日本ではかなり減りましたが、海外旅行、流通機構の発達などによりしばしば海外から入ってきます。ギョウチュウ、カイチュウ、ジョウチュウ(サナダムシ)など。昆虫では外部寄生するものとして、シラミ。体表から内部に食い入るものは、ダニの仲間の疥癬くらいですからあんまり心配はいりません(疥癬は極めてかゆいらしい)。
【細胞内寄生生物(主としてWolbachia)の影響:寄主の操作】
●菌が寄主の行動を操作する例が出てきましたが、虫以外の動物等でもこのような例はあるのですか?
答:ささやかな例であれば、いろいろあると思いますよ。今思いつきましたが、人がかかる水虫。これは、かゆみを引き起こすことによって、ぼりぼり掻く。すると菌がついた皮がたくさんばらまかれて、感染のチャンスを増やすわけです。水虫菌とかゆみの組み合わせは、たいへん適応的でしょう(水虫菌にとって)。この組み合わせは偶然ではないと思います。
●Wolbachiaの細胞質不和合性のところについてですが、授業中に説明していたモデルで♂(非感):♀(非感):♂(感):♀(感)=1:1:1:1で交配したとすると、その子孫は感染:非感染=2:1となって結果的に割合が増えていき、n回交配して、n→∞とすると、全てが感染してしまうと思うのですが、そうならずに割合が保たれるのはなぜでしょうか。感染したものに不妊以外のリスクが働いているのですか。また、Wolbachiaの寄主となった昆虫にとってメリットは何かありますか。
答:現在知られているところでは、実際に、感染は拡大しつつあります。しかし、すべての昆虫がWolbachiaに感染しないのは、昆虫の遺伝子の中にWolbachiaからの感染を回避する能力を持つものが存在しているためだと考えられています。Wolbachia自体は寄生者で、寄主にとって有利になることはない、というのが多くの研究者の意見です。
●細胞内寄生生物の影響について、オスだけを殺したり、オスをメスに性転換させるとあったが、その寄生生物がオスとメスのどちらかを判断するのは遺伝子で読み取るのか?
答:まだ、全くわかっていません。遺伝子ということはないはずです。何らかのタンパク質でしょうが、詳細は不明です。
●Wolbachiaは、どのようにしてオスをメスに性転換させるのですか。
答:これも、まだ全くわかっていません。昆虫には性ホルモンは見られないので、ホルモンを操作するのではありません。どうしているんでしょうねー。
●メスがオスに性転換されるWolbachiaの現象はないのですか。
答:そのような例は知られていません。Wolbachiaにとっても、適応的ではないですね。
●Wolbachiaは昆虫にとって何の役に立っているのですか?昆虫はWolbachiaによってオス、メスの比率を制御しているという見方はできないのか?Wolbachiaがない場合とある場合でどちらが昆虫にとって有利なのか?
答:昆虫はWolbachiaがいなくても、状況に応じて性比を偏らせるための方法を持っています。ハチ(膜翅目)のメスはみなそうですが、産卵する時に、オス卵を生むかメス卵を生むかを自ら決めることができます。Wolbachiaは、ハチあるいは他の昆虫にとっての最適な性比をさらにメスに偏らせるので、昆虫にとってはあまりありがたくないはずです。
●テントウムシにとっては、Wolbachiaによってメスの生存率が高まり、しかしオスがいなくはならないことで生存に有利になったりするのですか?
答:いえ、テントウムシのメスにとっては、性比を1:1で生む方が有利です。メスだけがいればよいように思うかもしれませんが、そうはなりません。1:1の性比は多くの生物にとって「進化的に安定な戦略」となっています。
●テントウムシのmale killingの話で、オスはふ化しないという話でしたが、テントウムシはどうやって増殖しているのですか?単為生殖ですか?
答:Wolbachiaに感染したメスの生むすべての子供にWolbachiaが感染するわけではありません。娘の一部にはWolbachiaが乗り移らず、そうしたメスがオスを生みます。部分感染といいます。したがって、オスは低い頻度で生じます。
●Wolbachiaの寄主の操作の例が出てきましたが、オスを殺したりしてしまうと、寄主が有性生殖をできなくなり、寄主の多様性を失わせてしまう可能性がでてくるのではないでしょうか。その結果寄主が滅んでしまうとWolbachia自身も生きてゆけなくなるので、むしろマイナスの面も増えると思うのですが、どうなのでしょうか?
●(Wolbachiaに関して)寄主のオスを選択的に排除してしまうと、その次の代は子孫を残せないと思うのですが、どうなのでしょうか?
答:食うものと食われるものとの間の関係も同じですが、寄生者や捕食者が寄主にマイナスの影響を与え続けると、寄主が滅んで、自分も共倒れになります。このため、マイナスの影響を手加減するはず、という考えがあるかもしれません。ところがそうはなりません。寄生者間で、あるいは捕食者間で競争があるので、寄主に対して手加減する性質は残らないのです。このため、寄主共々絶滅に追い込まれる寄生者、捕食者は多いと思います。それもやむなし、といったところです。化石の記録には残りませんが。
●テントウムシのオスは集団でどのくらいになるのですか?また、SR因子はWolbachiaにとっては有利でもテントウムシにとっては不利だと思うのですが、長い目で見ると、テントウムシを繁栄させた方がWolbachiaにとっても有利ではないですか?
答:オスの比率が極端に低い集団もあるようです。性比は、場所ごとに違っています。後半の質問に対する答は、前と同じです。
●SR因子に関してですが、Wolbachiaに感染しないメスが多くないとテントウムシは数世代後にはメスばかりになってしまい、Wolbachiaには不利ですよね?しかし、オス:メス=1:1になるようになっているとしたら、それはそれでWolbachia自体の数はテントウムシの全体数が増加しない限り増えず、共生している意味がないと思うのですが。
答:おそらく、Wolbachiaの戦略としては、テントウムシにおいてメスの比率を高めることだけにあるのでしょう。オスがいなくなって、絶滅することは「考えていません」。手加減するとWolbachiaどうしの増殖争いに敗れてしまいます。
●Wolbachiaを排除して集団ができると不利な面があるのでしょうか?
答:寄主にとっては不利な面はないと思います。現在のところWolbachiaが寄主に対してプラスの効果を与えることはないようです。
●Wolbachiaにも、共生または母子感染するようになったものはいないのでしょうか?
答:現在のところ、共生といってよい例は見つかっていません。母子感染はかなり一般的ですが、水平感染も同時に起こります。
●どうして昆虫は単為生殖で増殖するものが多いのですか?動物ではあまり聞いたことがないのですが、その違いは何が理由なんですか?
答:比率として多いわけではありません。昆虫の種数が多いので、そのような印象があるのかもしれません。脊椎動物では、魚、トカゲが単為生殖を行うことで有名です。哺乳類では、ゲノムインプリンティングといって、父親と母親が配偶子のDNAに対して別のすり込みを行い(DNAをメチル化する)、その結果、受精卵は正常に発育します。実験的に単為生殖を試みさせても、母親からのインプリンティングしか受けないので、哺乳類の胚子は正常に発育しないといわれています。
●植物病害防除で使われている微生物農薬のように、昆虫と微生物・ウィルスとの相互作用を利用して、特定の昆虫だけに作用してその他の生物には影響を与えないような、化学薬品を使用しない生物を使った殺虫剤などは作ることができますか?
答(TA):生物的防御の一分野として、害虫の個体群に病原微生物を入れて害虫を減らす方法がすでに使われています。細菌がよく使われていて、特にBacillus
thuringiensisを農薬として製剤化したBT剤は、菌が生産した血漿性タンパク毒素が殺虫作用をもち、多くの食葉性鱗翅目を対象に使われています。しかし養蚕のカイコに伝染するのを避けるために使用に制約がある、害虫を完全に排除できない、効果がすぐには現れないなどの欠点もあります。(秋元):今回は農薬の話しをしますが、その時に詳しく話しをします。
●今日の、微生物たちが昆虫に寄生してその昆虫をコントロールしてしまうって話を、以前テレビで見たことがあります。体の組織を鳥に見つかりやすい色にしたり、鳥に見つかりやすくするために虫を高いところに移動するように操ったり。カニに寄生するのも同時にテレビでやってました。なんか脳に侵入して完全にカニを操ってる何とまあすごい話でした。まさかまさかまさかこんなすげー恐ろしいやつらが人間用に進化したりするんでしょうか。遠い未来。もしやすでにいるとか。それはヤバイ。
答:人の病原体に関しても、病原体による「操作」という観点から病徴を考える視点があります。人の寄生虫がおなかにいると、食欲が昂進するという例が昔から有名です。接触性の感染を引き起こすタイプの病原体に関しても、「操作」という観点から自分でいろいろ考えてみると面白いと思いますよ。
●性転換の話がありましたが、鯛などもたしか性転換を行うと聞いたことがあります。昆虫にも生存のための戦略としてWolbachiaなどと関係なく性転換を行うタイプはいるのでしょうか?
答:昆虫は自発的には性転換しません。性転換する生物には特徴があり、それは性的に成熟してからさらに体が大きくなるという特徴です。植物、魚ではこうした特徴が見られます。サイズが大きくなるとともにメスからオスへ、あるいはオスからメスに変わった方がより多くの子孫を残しやすい場合があります。昆虫は最終的な脱皮を行うと、それ以上は大きくなりません。こうした生物では最初から性が固定しています。
【その他】
●自宅で昆虫を飼育されていますか。
答:いろいろ飼っています。今はユキムシの卵だけですが。うちの庭はビオトープ状態なのでムシだらけです。魚を入れない池を作ると面白いよ。すごい数のトンボが発生する。
●以前、授業かそれ以外のものであったかは忘れてしまったのですが、アリの巣には一定の割合で働かないダメぐーたらアリが存在し、それらがいないと巣がうまく機能しないというような話を聞いたことがあるような気がするのですが、本当ですか。とても信じられないので間違っているとしか思えません。そもそもそんなダメアリがいるメリットはあるのですか。他のアリのモチベーションが下がってしまうのではないですか。アリがそこまで考えるのかはわかりませんが。
答:アリは一部の個体が餌探しをし、残りは巣で待機して、良い餌情報が得られた時には多くの個体が出動し、その餌を集中的に集めます。みんなが特定の仕事に専門化してしまうと、臨機応変に餌の運搬に対応できないのではないでしょうか。組織として、一定の個体を働かせずに待機させておくのは、よい餌の発見が予測不可能である場合に、適応的だと思います。これは、動物生態の長谷川先生が専門です。
●昆虫の関節はどうなってるんですか(殻が)?
答 TA(10/20、10/27の質問に対する秋元先生の答です):関節は節間膜(膜質部分)で結びついています。この部分は外原表皮がなく、内原表皮のみで成り立っていて、キチン質があまり含まれていません。
●夏と冬で対表の色が変わる昆虫はいますか?カマキリは緑色から茶色に変わっていた気がします。
答(TA):バッタやカメムシは冬越しの時に緑から茶色に変わります。カマキリは脱皮をした後に茶色に変わることがあるようです。鱗翅目の幼虫は、幼虫越冬する種の場合には、越冬時に夏とは異なる色彩に変わるものがいます。
●ミミズなどは雌雄同体といわれますが、これは期間により雌になったり雄になったりするのでしょうか?それとも、常に双方の機能を有しているのでしょうか?
答(TA):1個体にオスメス両方の生殖器があり、2個体がお互いに相手の雌性器に精子を注入し合います。自殖はせずに、外交配を行うところが面白いです。
●北海道で雪のシーズンに活動が活発になる昆虫はいますか。
答(TA):クロカワゲラ(セッケイカワゲラ)、クモガタガガンボ、フユシャク、フユユスリカなどは、成虫が冬に活動します。