環境昆虫学概論  6回目             11月24日、2005

◎ Biodiversityと生物間相互作用
他種への訪花をふせぐ仕組み
   マルハナバチBombus search imageを作り、特定の花に専門化(majoring)
   (社会性ハチ---ハナバチ(bee)、カリバチ(wasp)に分かれる;受粉にはハナバチが重要)
  
1)開花特性 --- 大型の花、色彩、香り、多量の蜜、えさ用花粉
2)蜜の分泌時間を限定 ヤブガラシ
3)花形態の特殊化と共進化
・実例、南アフリカ Rediviva beeとDiascia (Scrophlariaceae)
・昆虫受粉者と植物の1対1の関係 --- arms raceに基づく種分化モデル(特殊化にもとづく種分化)

 runaway processはどのように働くか?(正のフィードバック過程による特殊化)
 花の距の長さと昆虫の口吻の長さの間に見られる対抗的共進化ムどちらも長くなる方向へ選択される
            
・昆虫受粉者と植物の多対多の関係 --- 拡散された共生関係
 一般の植物は多くの昆虫類から受粉を受けるように進化している。特定の昆虫だけとの共生関係を作り上げると、環境の変動に対してマイナスの影響を受けやすい。昆虫も特定の植物との関係を作り上げると餌不足に陥りやすい。その結果、多対多の関係が進化するのが一般的。

・マルハナバチをめぐる植物種間の競争
    植物個体内の開花特性ムム時間による咲き分け(自殖を防ぐ)
    マルハナバチ訪花群集の開花特性ムム種ごとの咲き分け(種間競争の結果?)
    ハナアブ類訪花群集の開花特性ムム大群落を作るのが特徴

  訪花性昆虫の種類により、花の形状が異なる。
    マルハナバチ訪花性、ハナアブ訪花性、スズメバチ訪花性、双翅目訪花性

○ 第三紀初期(5千ー6千万年前)被子植物の大放散---社会性ハチ類の多様化と同時
○ 多様性保全とマルハナバチ
   マルハナバチは地域の多様性を維持する上で重要な役割を担う(keystone species)
 春から秋まで連続した蜜源の必要性   蜜源が継続的に存在しないとコロニーが維持できない
 孤立林の問題       マルハナバチの減少・絶滅  植物の遺伝的多様性の喪失

○ 種間相互作用の生態学
・3者以上の関係に注目した種間関係
   直接効果と間接効果
              植物 ← 植食者 ← 捕食者・寄生者

3者以上の系では、「敵の敵は味方」などの間接的な効果が生じる

1)ハダニ、寄主植物、チリカブリダニ
2)イヌガラシ 蜜  アリ類
3)花外蜜腺 と アリと植食性昆虫
4)アブラムシ、アリ、捕食者
5) 熱帯におけるアリ植物

○ 植物と植食性昆虫(phytophagus insects)
 寄主植物(host plant)の範囲はどのように決まっているのか?
  多くの植食性昆虫は、単食性か狭食性
※ 単食性(monophagus)、狭食性(oligophagus)、広食性(polyphagus)
   specialist < --------------------------------------------------> generalist

植物の2次的代謝物質
強心配糖体(トウワタ)、シアン配糖体(マメ科)、クマリン類(セリ科)、カラシ油配糖体(アブラナ科)
カクビタシン(ウリ科)、フェノール化合物(樹木)、テルペン類(樹木)

寄主植物は進化的・歴史的に変化する;寄主の交替(host shift )--オオニジュウヤ                              ホシテントウの例 ミヤマニガウリからジャガイモの害虫へ

植食性昆虫の寄主の範囲はどのように決まるのか?
  2つの主要な要因
     preference(親がどの植物を好むか?)、
     performance(幼虫がその植物でうまく育つか?)
 
・実例 モンシロチョウ属の寄主植物選択---preference/performance 不一致
    (モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、エゾスジグロシロチョウ)
       エゾスジグロは幼虫の育ちが悪い植物に卵を生んでいる!

・preference/performance 不一致の原因をまとめる
  1)進化の途上、時間不足
  2)寄主植物の不安定さ、「保険」をかける
  3)天敵よけ、競争を避ける

質問とその答 (11月17日, 2005)
【気管系】
●気管までもが脱皮をするということは知りませんでした。脱皮をする際は気管を使うことができるんですか?脱皮中の酸素運搬の仕組みはどうなっているんでしょうか?
●気管が脱皮する時、一時的に呼吸が止まったりしないのですか?
●気管が脱皮した後、脱皮する前の気管はどうなるのですか。体外に排出されるのですか。
答:詳しい観察はされていないと思いますが、脱皮中でも、新しい気管が脱皮中の気管の下に作られていますから、空気の出入りが遮断されることはありません。ただし、毛細気管まで脱皮するかどうかはわかりません。気管の脱皮殻は、幼虫の脱ぎ捨てた脱皮殻に白い糸くずのように付着しています(セミの幼虫やヤゴの脱皮殻を見るとわかります)。
●飛翔する昆虫はガス交換。飛翔する鳥類は血液交換。両者の違いは何であろうか。
答:こうした違いは、系統的違いで説明します。生物は適応的にデザインされていますが、大枠は祖先の方法にそのまま従い、若干の改良を加えるだけです。ハチドリのように昆虫と大差のないサイズの鳥もいますが、ハチドリが気管呼吸を採用することはできません。というのは、血液による呼吸から器官呼吸に移るためには、中間段階を経なければなりませんが、前に述べたように、中間段階で不適応状態となるからです。
●昔大きい昆虫がいましたが(恐竜の時のトンボとか)、どのように気孔の問題を解決していたのですか?
●恐竜時代にいる大きいトンボっぽいものなども、気管で呼吸していたと考えられていますか?
●大昔、大型のトンボがいたと聞きますが、それも気管系を用いていたのですか?だとしたら、気管系の問題点をどのように解決していたのですか?
答:大型のトンボ(原トンボ目のメガネウラなど。現生のトンボ目とはちがう)が生息していた古生代石炭紀(3億年前)は植物の陸上進出と繁栄により酸素濃度が上昇した時期で(当時35%、現在21%)、昆虫の進化も進みました。こうした巨大トンボも気門を通しての気管呼吸を行っていました。メガネウラが生息できたのも、当時の酸素濃度の高さによると思われます。しかし古生代末には酸素濃度が再び減少し(15%)、原トンボ類も絶滅しました。もう一つの要因は、古生代の気温の高さで、気温が高いほどガス交換が容易になりますので、体が大きくても酸素が隅々まで行き渡った可能性があります。現在、熱帯に大型の昆虫が多いことを、この理由で説明する人もいます。
●昆虫類の個体のサイズが小さいのは、気管による制約があるからだということが分かって、なるほどと思った。甲殻類ではそれがないため巨大なサイズになるということだが、最大のものはどれぐらいの大きさになるのだろうか?
答:クモガニ科のタカアシガニ、大きいものでは甲羅の幅は30cm、脚を伸ばすと4mくらいあります。海水中は浮力があるので大きい体を維持していられるという点も巨大化を可能にしたと思います。
●前回の講義を受けて「ゾウの時間、ネズミの時間」を読み返してみました。そこには、「外骨格は表皮と骨格の機能をあわせ持っている。サイズの小さい昆虫などではこのように1つのものに多数の機能を持たせることが多い」と記述されていました。このような多数の機能を持つ器官には、他にどのようなものがありますか?
答:例えば、昆虫の脚は、歩行機能だけではなく、味覚や化学物質のセンサーとしても機能しています。脚の先端の節(tarsus)にはたくさんの毛が生えていますが、これらがセンサーです。
●昆虫って実際に水没させてもなかなか死なないのはどうしてですか?
答(TA):昆虫の体は水をはじくので気門付近に空気の泡がつきやすく、しばらく呼吸できるのでは?
●気管系による体サイズに対する制約で昆虫は大きくなれないなら、仮に飛翔などの高い活動生を捨てて、血液によって酸素を運搬する方法を得たら、人間サイズの昆虫が発生する可能性があるのか?
答(TA):外骨格のみでは人間サイズの体は支えられません。血液によって酸素を運搬して、内骨格も持てば・・昆虫じゃなくなりますね。昆虫では例外的にユスリカの幼虫(水中生活する)では、気管がなく血液が流れる鰓(血鰓)をもつものがいて、血液を通じたガス交換も行っています。汚濁した水域にいるものなので、酸素吸収の助けになっているのかもしれません。
●気管鰓を持つ昆虫は必ず幼生の時水中で生活しているのでしょうか。
答(TA):水中で幼虫期をすごす昆虫では幼虫期に気管鰓をもちます。成虫になると鰓は必要なくなるので、痕跡程度しか残りません。水中で幼虫期を過ごすものにも目立った気管鰓がないこともあります。逆に水中で生活しないのに気管鰓があるものはいないと思います。

【血管系】
●ユスリカ幼虫はヘモグロビンを持つと聞きました。これは甲殻類のヘモシアニンから派生したものですか?
答:ユスリカ幼虫はヘモグロビンに似たエリスロクルオリン(鉄を含む)を持ちます。これは、昆虫ではユスリカだけに起こった独自の進化です。この呼吸色素は血漿中に存在し、有機物の多い酸素不足の環境への適応として進化したものです。ヘモシアニンから直接変化したのではありません。脊椎動物とユスリカに鉄を含む呼吸色素が見られるのは、「平行進化」(parallelism)の結果です。
●昆虫間の組織の移植には拒絶反応が無いということですが、昆虫間の移植でどのようなことが研究できますか?
答:前回述べたアラタ体は幼若ホルモンを分泌する器官ですが、若齢幼虫のアラタ体を老齢幼虫に移植することによって、変態にどのような影響が生じるかを調べることができます。あるいは、昆虫では脳の移植実験も可能です。
●血漿(メラニン)による生体防御というのはどのように行われるのか教えて下さい。
答:昆虫に体内に寄生虫が侵入すると、寄生虫の体表の物質(タンパク質)に対してフェノール酸化酵素が反応し、寄生虫のまわりにメラニンの層を作り、空気を遮断します。
●甲殻類と昆虫が近縁であると推測されていることはよくわかったが、水生甲殻類(カニなど)と陸生甲殻類(ワラジムシなど)の中間(水生から陸生へ環境を変えることになった)のような種類は見つかっているのだろうか。
答:水性ではないが、水辺から離れない甲殻類は数多いと思います。フナムシなどはそうですし、ハマトビムシ、ハマダンゴムシなどもそうです。
●人間と違って昆虫には血小板はないのか?
答:ありません。血小板は止血の役割を果たしますが、昆虫の場合、血漿中のフェノール酸化酵素が空気中の酸素と反応することによってメラニンを形成し、止血が行われます。
●昆虫を潰したとき、青や緑の液体がでますが、あれは血球の色でしょうか?ヘモシアニン?でも気体の運搬はしないし・・ずっと血の色だと思っていました。
答:青や緑の液体は消化管内の植物断片から出てきたのではないかと思います。昆虫の血リンパは黄色みがかった透明で、外に出るとすぐにフェノール酸化酵素の影響で濃褐色に変化します。潰してしまうとすべてがいっしょになてしまうので、青や緑色に見えるのでは?
●昆虫は血リンパで免疫の役割をするときいて、昆虫も病気になったりするんだと思いました。たとえば植物では病気になると人間にとって困ることがたくさんありますが、昆虫が病気になっていることで人間が困ることもありますか?昆虫の病気は普段意識しないので、気になりました。
答:たとえばカイコやミツバチが菌病やウイルス病にかかると経済的にたいへんなことになりますので、昔からこうした病気の研究はたいへん盛んです→昆虫病理学

【Biodiversityと生物間相互作用】
●植物において、1つの花に雄しべ雌しべ共に存在するものはすべて自家受粉ですか?また、雄花・雌花に分かれているもので、自家受粉のみ進行すると、遺伝的に劣性になってしまうのですか?
答:いずれも、自家受粉が起こらないような仕組みを持っています。自家受粉のみが進行すると、近交弱勢は生じます。しかし、「遺伝的に劣性」という言葉は使わない方がよいです。遺伝学で使われる「劣性」は劣っているという意味はなく、優性の対立遺伝子と対になると(ヘテロ)その効果が隠されるというだけです。
●自家不和合性の特徴をもてば花粉が伸びないわけだから自殖の危険性がほぼ防げるのに、なぜ全ての花が自家不和合性の特徴をもたずに雌雄成熟の時間差や二型花柱性というリスクがありそうな防護策をとるんでしょうか?
答:これにも系統的な制約があります。自家不和合性が発達しやすい系統群とそうでない系統群が見られます。
●二型花柱性やマルハナバチの話は北大の入試問題の過去問にありましたが、あの問題は先生がつくったのですか?
ノーコメント:これはトップシークレットなので答えられないです。クビになるで、ほんま(笑)
●ツリフネソウの自殖個体は生殖的に隔離された、と言えますよね。この形質が今後淘汰されなかった場合、別種となることもありえますか?また、それはどのくらいの時間を要しますか?
答:生殖的に隔離されています。植物では、このような仕組みで種分化が生じることは昔から知られていて、跳躍的種分化(quantum speciation)と呼ばれています。外交配を行い広い分布を持つ母種の周辺に、内交配的な娘種がごく狭い範囲に分布することが北米のアカバナ科のClarkia属で報告されています。母種と嬢種は染色体の形にも違いが生じています。こうした種分化はごく短期間に(数世代といったところでしょうか)完了してしまうので、関心を持たれています。ツリフネソウの場合も、突伝変異集団が長く存続すれば、別種になるチャンスといえます。もちろん、ほとんどの場合は短期間で絶滅し、記録に残らないわけですが。
●スライドのツリフネソウはトラマルハナバチがいなくなって自家受粉になったと言ったが、10年後(?)も残っていることから自家受粉でもきちんと生存していることがわかる。しかし、それではなぜ最初から自家受粉を行わなかったのか。
答:外交配(他家受粉)の方が子孫の適応度が高いからです。外交配的な生物が自殖を始めると、初期段階で激しい近交弱勢が生じます。自殖タイプは外交配タイプよりも適応度(生存率や繁殖率)が低くなるために、一般には自殖に向かう進化は起こりません。ところが、自殖が強制された場合には、何世代か経過すると、近交弱勢の程度がしだいに弱くなり、自殖だけでも生活できるように変化します。つまり、自殖による生活は、それが確立してしまえば何とかやっていくことはできますが、自殖になりきるまでの中間段階において大きな不利益が生じるのです。
●外交配が起きにくくなると内交配で植物は種子を作れるように変化していくそうですが、それは変化したもののみが生き残るのかそれとも生き残るために変化していくのかどちらなのでしょうか。それはわからないところでしょうか?
答:「変化したもののみが生き残る」が正解です。生物は、生存に都合の良いように突然変異を誘発することはできませんから、「生き残るために変化する」ことは不可能です。ツリフネソウの花の形状の変化も遺伝的変化です。
●それぞれの植物種が受粉のために特定の昆虫と共生関係を持っていることが分かった。昆虫は、何を目印にして特定の種の花を見分けているのか?色、形、臭い、化学物質?
答:ハナバチなどは、色、形、臭いすべてを記憶します。こうした記憶能力があるからこそ、各種の花は、それぞれが独特の形状、色彩、匂いを持つと言えます。
●植物は、ポリネーターとして忠実な昆虫を引きつけると聞きました。植物にとっての利点は分かりますが、ポリネーターにとって同種の花に集まることに利点はあるのでしょうか?
答:ポリネーターの側でも、特定の種の花だけに集まることによって、採蜜の効率が高まることが知られています。だがらこそ、記憶能力も進化したのでしょう。
●小さくて地味な花を咲かす植物はpollinatorを利用しないのですか?
答:小さくて地味な花の中には風媒花もありますが、それを別にすれば、地味な花でも独特のポリネーターを呼んでいることが知られています。小型のハエ、アブなどが重要なポリネーターとなっている場合がありますし、スズメバチをポリネーターにしているツルニンジンの例も知られています。
●なぜマルハナバチは下向きの花が好きなのか?
答:下向きの花というのはアブやその他の昆虫がなかなか利用しにくい形状なので、むしろマルハナバチだけを呼ぶための適応ではないかと思います。
●マルハナバチのsearch imageとは1個体で1種を持つものでしょうか。同じ巣の別の個体でも別のイメージを持っているのでしょうか。
答:個体が異なれば別のイメージです。記憶ですから。
●ハチの記憶力や社会性はおもしろいと思います。ハチの色の見え方は確か特殊だったと思いますが、search imageには影響はないのですか?
答:ハチは紫外線A(UVA 315~400nm)を見ることができます(ヒトの可視光線:波長400~780nm)。このため花びらの一部に紫外線を吸収する部位(中心部)と反射する部位があり、これがハチにとってのマークとなっている場合があります(人の目ではわからない)。ハチはこのマークをsearch imageとして記憶するようです。
●昆虫と植物の受粉関係が興味深かったです。北大内にそのような一例はありますか?
答:北大キャンパスのように、植生が孤立している場所では、元いたマルハナバチがすでに減少してしまい、自殖にむかう傾向が促進されているはずです。
●通常蜜を出さない花はないのですか?
答:種によっては、蜜を出さない花もあります。サルナシの花は、花粉だけで蜜を出しません。しかし、マルハナバチは幼虫のためにサルナシの花粉を採りに訪花します。
●ハチは眼で見て蜜のある花が分かるときいたことがあるのですが、そうすると蜜のない花にはハチは来ないのではないですか。
答:それは不可能でしょう。とりあえず、口吻を差し込んで蜜があるかどうかを調べます。
●友達が家の中でアロマテラピーをしていたら、ハチが窓から入ってきて近くによってきたという話をしていました。ハチはにおいに誘われたとしても、その後人工的なものと蜜の香りを区別・認識する能力を持っているのでしょうか。
答:アロマテラピーで用いる香りは、人工物ではなく、自然物だからハチがよってきたのではないでしょうか
●花が必要性に応じて突然変異するのは動物より不思議な感じがしたのですが、それは徐々に変わっているものなんですか?
答:必要に応じて突然変異したわけではありません。突然変異はどの個体にも起ここりますが、一方それを必要としている個体により高い確率で起こるわけではありません。ツリフネソウの花の形状の変化は、ごく少数の突然変異によるものだと思います(だとすれば、急に変化したはずです)
●花の蜜は種によって味が違いますか?
答(TA):違うと思います。花の種類によってとれるハチミツの味(というより香り?)が違いますよね。
●ハチやアブばかりが花を受粉させるばかりでなく、甲虫やガもそのような働きをしていることにびっくりしました。全く関係のないことなのですが、花と同じように木も蜜を出すと思いますが、樹液にはたくさんの虫が群がります。あれは木が虫を集めようとして意図してやっているものだと考えられているのでしょうか?
答(TA):カブトムシなどがなめている幹の樹液は、樹が幹についた傷をふさぐために分泌するものです。樹液の良く出ている部分は、ボクトウガの幼虫が餌となる小昆虫を誘引するために樹幹に掘った穴を加工して、常に樹液が出るように操作していると言われています。ボクトウガがいない木では樹液はでません。一方、ミズナラなどでは枝の基部に蜜腺があり、葉を補食するハマキガなどを捕ってくれるアリを誘引するために、木が蜜を出しています。
●昆虫もまた、花の花粉を運ぶために、体に花粉を付着しやすく進化したのでしょうか?
答(TA):多くのハナバチでは、体表面の毛は羽毛状になり、脚の脛節には長毛が密生していて、花粉を運びやすくなっています。ミツバチ科では脛節の部分が花粉をためるバスケット状に発達していて、大量の花粉を運ぶことができます。

【その他】
●4mの昆虫がいるっておっしゃいましたね?ちょっとそんなグロテスクなものは想像できないのですが・・。ほかにも想像を超える大きさの昆虫はいますか?スライドで見せていただけるとありがたいです。
答:4mを超えるのはカニです。昆虫はそこまで大きくなれません。
●組換えをおこさないsuper geneの仕組みをすごいと思いました。他にもsuper geneの例があれば教えて下さい。
答:数限りなくあるはずですが、他にわかりやすい例が思い当たりません。緊密に連鎖した2つの遺伝子座で、それぞれ異なる機能を持てば、スーパージーンと言えるでしょう。
●有害な遺伝子はどのようにしてでてきたのですか?何かの役に立つ場合というのはありますか?
答:ランダムに起こる塩基の置き換わりの結果です。その結果、あるアミノ酸が別のものに置き換われば、タンパク質の機能が変化することが考えられます。最適でないタンパク質を作る遺伝子は、みな有害遺伝子の範疇に入ります。適応進化の過程で、祖先の持っていた遺伝子が残っていることもあるかもしれません(劣性の場合)。ある環境では有害のように見えても、環境が変われば有利となる場合はあります。害虫の殺虫剤抵抗性遺伝子はこのような種類の遺伝子です。
●アリなどの昆虫では1つの巣の中の集団に、ある一定の割合で全く働かない”働きアリ“がいると聞いたのですが、これにはどういう意味があり、どのように進化してきたのでしょうか?先生の意見をお聞かせ下さい。
コメント:これは動物生態の長谷川先生のテーマです。余剰のものがいないと、餌集めの効率がかえって落ちてしまうのではないでしょうか
●昆虫が脱皮するのにはかなりのエネルギーを消費するというのを聞いたことがあります。本当でしょうか。人間でいうとどのくらいの運動に相当するほどのエネルギーですか?
答:「人間でいうと」と言うところが答えにくいですが、捕食率も結構高いので、昆虫にとって、脱皮はつらいと思います
●ハチとアブの違いはどこですか?また、どうしてハチもアブもあのようなシマ模様を持つのですか?
答(TA):比較的分かりやすい区別点は、ハチ(膜翅目)は翅が4枚で、アブ(双翅目)は翅が2枚です。模様に関してですが、昆虫の最大の天敵は鳥で、鳥は視覚捕食者なので、昆虫は様々なタイプの擬態をして視覚的防御をとっています。保護色によって環境にとけ込むタイプもありますが、ハチの場合はわざと目立つ警戒色をもっています。一度ハチをついばんで刺された鳥は、その後黄と黒の縞模様のものを食べなくなるという実験もあり、多くの種のハチが同じような模様を持つのも、その効果を増すためと考えられます(ハチの種ごとに模様が違えば、それぞれの鳥は出会ったハチの全種を一度は食べようとするだろう)。ハチとアブの模様が似ているのは、アブが鳥の捕食を避けるようハチに擬態しているためです。人間も視覚第一の生物ですから、昆虫の擬態によくだまされます。
●冬虫夏草というものがよくわからないのですが、何なのですか。名前通り、冬に虫で夏は草になるとしたら、想像がつきません。セミタケみたいなものとは違うのですか。
答(TA):冬虫夏草は昆虫に寄生するキノコの総称です(ただし本来はチベットやヒマラヤの高山地帯のガの一種に寄生するものをさした言葉で、薬学分野では現在も厳密にこの1種を指す)。寄主昆虫などの体内で養分を摂取して成長し、やがて虫の体を突き破ってキノコ(子実体)を生じます。中国では古くから漢方薬などとして珍重され、冬には昆虫の姿であったものが夏には草になると考えられていたので、この名がつきました。寄主となる昆虫は、セミ、ハエ、カメムシ、トンボ、ハチ、アリ、クモ類、ダニ類など様々ですが、菌の種類ごとに寄生する相手がだいたい決まっています。セミタケも冬虫夏草の1種で、ニイニイゼミにのみ寄生します。
●北海道に元々いなかったカブトムシが最近北海道で繁殖しているとのことですが、今までいなかったのはなぜでしょうか?温暖化ということなら函館は札幌より多少暖かいので、温暖化した札幌で大丈夫なら昔の函館でも大丈夫な気がします。人間が本来いなかったのを持ち込んだとしても、昔は北海道と本州ってつながっていた気がするのですが。※10年位前から札幌付近でカブトムシ見てます。
答(TA):確かに北海道と本州はつながっていた時期があります。70万年位前から現在までには数回の氷期があり、氷期には海水面の低下により大陸や島間で陸橋が形成されました。生物は氷期には南下し、暖かくなる間氷期には北上することを繰り返しました。それによって北海道は、サハリン経由で入った大陸由来の北方の生物と本州から北上した生物が入り交じる、特殊な生物相を有しています。北海道と本州が最後に陸続きになった時期は(諸説入り乱れていますが)最終氷期(2万年前)よりもずっと古い10-15万年前であると考えられています。一方北海道とサハリンはもっと最近(1万5千年前くらい)まで陸続きの時期がありました。そのため北海道の生物相は北方大陸系の要素が濃く、北海道と本州以南では動物相に大きな違いがあり、津軽海峡にブラキストン線と呼ばれる生物地理境界がひかれています。本来暖かい環境に住む昆虫では、かつて北海道にいたことがあっても氷期の間に(北海道の個体群が)絶滅し、以後は暖かくなっても津軽海峡があるため入って来られなくなったものも多いのではないかと思います。カブトムシは30年くらい前から北海道で見つかるようになり、最近は多くなったようです。カブトムシがかつて北海道にいたことがあるのかどうかは分かりませんが、現在の北海道で生息できる体制をそもそも持っていたのかもしれません。ただ、近年に人為的に導入された生物の場合では、その地に強力な競争者や天敵がいないために急速に数を増やすことがあります。
●この前東京に行った時部屋の中でゴキブリを発見したのですが、日本におけるゴキブリの北限(例えば、青森まではいるが、北海道から北にはいない等)というのはあるのですか?あったら是非教えて下さい。あと、日本に生息するゴキブリの種類も知りたいです。
答:クロゴキブリ、チャバネゴキブリというのは人間生活に密着していて、分布も人為的分布です。このような種に関しては、北限を調べても意味がないです。ちなみに、どちらも札幌のビルにはいます。日本には60種のゴキブリが分布します。もちろん、ほとんどのものが森林に生息していて、なじみがないでしょう。
●カメムシの天敵っているのでしょうか?食べた場合、体の中でとんでもないことが起こる気が。
答(TA):鳥やクモには、あの臭いにもかかわらず捕食するものがいるようですし、卵寄生蜂は大きな天敵です。またカメムシには小さくて臭いの弱い種も多く、補食されることも多いと考えられます。そのような種はあの毒々しい警戒色ではなくて、見つかりにくい保護色をもっています。
●うちの犬が虫を食べていましたけどそういうものですか?
答(TA):キツネも昆虫をよく食べるので、そういうものかもしれません。でもうちの犬は、追いかけるのか楽しいらしくて虫をよくつかまえますが、動かなくなると食べずに捨ててしまいます。うちのネコはバッタが好きだ(秋元)

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