環境昆虫学概論  5回目             11月17日、2005

○ 気管系 (trachea)  昆虫は飛翔などの高い活動性を保証するために多量のエネルギー消費を行う
 このために多量の酸素を必要とする
   血液によって酸素を運搬する方法は血液の粘性のために問題が生じる(scalingの問題)
   そこで、昆虫は酸素をチューブで直接組織まで運搬する方法を採用ムムガス交換の効率はよい

問題点ムム体のサイズを大きくできない 体サイズがa倍になると、気管の総延長をa3倍にのばす必要がある。しかも、気管は体表が内部に貫入しているので、クチクラに覆われており、脱皮する
長い気管を脱皮させることは困難
   air sacによる能動的な酸素の送り込み
 昆虫はなぜ大きくなれないのか?-----「気管系による体サイズに対する制約」
 これに対して、エラ呼吸(+血液による酸素運搬)を採用する甲殻類はより巨大なサイズに成長する

○血管系  昆虫は開放血管系で特徴づけられる  栄養分・老廃物の運搬が目的で、呼吸は行わない
        背脈管による血液の循環
 昆虫の血液 ---開放血管系のため血液と組織液の区別がないーー血リンパ 
 血リンパは 血球(細胞成分)と血漿(液体成分)に分けられる
   ・血球は、もっぱら生体防御の役割を果たす
       食作用と包囲作用
   ・血漿による生体防御
        メラニンによる生体防御
メラニンはチロシンやドーパなどのフェノール性物質が空気中の酸素の存在下で酸化され、生じたキノン類が重合した複雑な化合物。フェノール性物質の酸化反応を触媒するのがフェノール酸化酵素
昆虫類のフェノール酸化酵素はヘモシアニン(甲殻類の血液に見られる。ほ乳動物の血液中に存在するヘモグロビンのように酸素を運搬する機能を持つ銅タンパク)と相同なタンパクーー昆虫と甲殻類の類縁性

◎ Biodiversityと生物間相互作用
  Pollination(送粉) 「利害対立」としての相互作用
 生態系において、進化を進める原動力となるのは「利害の対立」です。生物界にはさまざまなレベルで利害の対立が起こっており、送分・受粉をめぐる植物と花との関係でも、両者の利害は対立します。こうした利害の対立が、対抗的共進化を生み出し、種分化のきっかけにもなります。

    昆虫にとっての利益    --- 採蜜量/時間  → 最大化      利害の相反
    植物(花)にとっての利益 --- (送粉+受粉)/蜜 →最大化

   植物にとっての利益を分類する (送粉量と受粉量と繁殖成功) 
    1)他個体からの花粉の移入 --- メス機能を通じての繁殖成功
    2)他個体への花粉の移出  --- オス機能を通じての繁殖成功
    3) 隣花受粉      --- 自家受粉(自殖)あるいは不和合
    4) 他種への花粉の移動  --- 繁殖失敗

 3)、4)を防ぐ必要がある、このために植物はさまざまな仕組みを進化させてきた
 3)について、雌雄成熟の時間差、二型花柱性、pollinatorを移動させるための蜜の配置
 4) 忠実な昆虫を引きつける  ---同種の花の形状に関して学習能力を持つ社会性ハナバチ類の利用

隣花受粉  自殖の危険性
   1)自家不和合性   自殖を未然に防ぐ遺伝的な仕組み (近親交配を防ぐ適応の結果)
   2)inbreeding depression (近交弱勢) 実際に近親交配が起こってしまう植物では不利益

他種への訪花をふせぐ
   マルハナバチBombus search imageを作り、特定の花に専門化(majoring)
   (社会性ハチ---ハナバチ(bee)、カリバチ(wasp)に分かれる;受粉にはハナバチが重要)
  
    1)開花特性 --- 大型の花、色彩、香り、多量の蜜、えさ用花粉
    2)蜜の分泌時間を限定 ヤブガラシ
    3)花形態の特殊化と共進化
・実例、南アフリカ Rediviva beeとDiascia (Scrophlariaceae)
・昆虫受粉者と植物の1対1の関係 --- arms raceに基づく種分化モデル(特殊化にもとづく種分化)

  runaway processはどのように働くか?(正のフィードバック過程による特殊化)
 花の距の長さと昆虫の口吻の長さの間に見られる対抗的共進化ムどちらも長くなる方向へ選択される
            
・昆虫受粉者と植物の多対多の関係 --- 拡散された共生関係
 一般の植物は多くの昆虫類から受粉を受けるように進化している。特定の昆虫だけとの共生関係を作り上げると、環境の変動に対してマイナスの影響を受けやすい。昆虫も特定の植物との関係を作り上げると餌不足に陥りやすい。その結果、多対多の関係が進化するのが一般的。

・マルハナバチをめぐる植物種間の競争
    植物個体内の開花特性ムム時間による咲き分け
    マルハナバチ訪花群集の開花特性ムム種ごとの咲き分け
    ハナアブ類訪花群集の開花特性ムム大群落を作るのが特徴

  訪花性昆虫の種類により、花の形状が異なる。
    マルハナバチ訪花性、ハナアブ訪花性、スズメバチ訪花性、双翅目訪花性

質問とその答 (11月10日, 2005)
●なぜユキムシは複雑な生活環をもつのか。
●ユキムシの生活環が驚きでした。生活環を一周するのに何世代くらいかかりますか? 時間としては1年ですか?
●ユキムシは何のためにわざわざヤチダモに移動するのですか?
答:ヤチダモを含む落葉広葉樹では、春の時期の新葉の栄養状態(アミノ酸レベル)がたいへん優れていますが、初夏以降葉の栄養状態が悪化します。そこで、栄養の悪化を避けるために、別の植物に移動し、夏から秋までの時期を過ごすと考えられています。根に寄生するのは、栄養の面だけでなく、暑さよけ、好適な湿度、少ない捕食者などの理由があると考えられます。1年で何世代を過ごすかは正確にはわかっていませんが、6-7世代は発生しているようです。ユキムシが秋にヤチダモに移動するのは、春の好適な新葉を利用するためです。
●ユキムシについてよく分かりました。しかしなぜ、自殖すると遺伝的なバラつきがでるのですか?
答:近親交配を行っても、集団中の遺伝子の頻度は変わりませんが(例えば対立遺伝子Aとaの頻度)、遺伝子の組み合わせの頻度が変わります。ヘテロ接合体(Aa)の割合が減り、逆にホモ接合体(AAあるいはaa)の割合が増加します。このためにこれまで集団中にあまり存在しなかった劣性ホモ接合体(aa)の割合が増え、表現型全体のばらつきが増えます。有害遺伝子は一般に劣性ですので、有害遺伝子の効果も表現型として現れてきます。
●アブラムシやユキムシは何を目印にして寄主植物を見分けているのだろうか?しばらく前に布団を干したところ、大量のアブラムシが付着していたが何がアブラムシを布団に引きつけたのだろうか?
答:おそらく風によって吹き飛ばされたのが原因です。寄主でないところに止まっても、再び飛び立っていきます。ただし、黄色には特に誘引されることがあります。黄色あるいは黄緑色の布団ではなかったですか?
●またまたユキムシについての疑問なのですが、ヤチダモの木に向かってユキムシは飛ぶということなのですが、トドマツはたくさん見かけますが、ヤチダモの木はそんなにたくさんあるものなのですか?街中を飛んでいるユキムシたちはちゃんとヤチダモまで行きつけているのでしょうか?また、そんなにたくさんの虫が木にいて、木は枯れないのですか?
答:ヤチダモは北大構内だとたくさんありますし、北海道だと湿地や川沿いにたくさん見られます。街中では、ユキムシは誤ってライラックに引きつけられ、子供を産んでしまうことがありますが、そこでは全く子孫は生育できません。そもそも、ヤチダモまで到達できるユキムシの数は極めて少ないはずです。無駄を見越して、多量にユキムシを作り出しているとしか思えません。ヤチダモ上でユキムシの幼虫がたくさん孵化しても、ヤチダモが枯れることはありません。ヤチダモの芽では密度調節機構が働き、一定数の幹母しか生き残れないからです。
●トドノネオオワタムシのことでまだ気になっていることがあります。昆虫がつくる飽和炭化水素はアリなどでは臭いを発して位置を知らせると書いていましたが、この虫や他の昆虫などでも同じような役割をしているのでしょうか。また、ゴールで生活する時に天敵がいたりしますが、翅を持った成虫(?)にも天敵はいるのでしょうか。いるとしたら、あの大きな飽和炭化水素があると不利になる気がするのですが。
答:トドノネオオワタムシの綿(ワックス)は、同種の個体を認識するのに使われています。ユキムシを1匹で容器に閉じこめてもなかなか子を産みませんが、複数の個体を容器に入れると、「安心して」子を産みます。同種個体がいるかどうかは、飽和炭化水素によって見分けているようです。ゴール生活ではワックスは、排泄物である甘露(しょ糖分の多い液体)が体に着くのを防いでいます。しかし、天敵であるヒラタアブの幼虫に対しては、ワックスが防御として役立っているとは思えません。
●ユキムシの話で、虫コブの中にアブラムシが10-20匹いるというのがありましたが、葉が巻かれる状態のときはアブラムシはどこにいるのでしょうか。
答:葉が巻かれた内部に100頭近くが生活しています。葉巻ゴールでは捕食者が容易に侵入して来ます。
●ケヤキフシアブラムシの天敵の話が出ましたが、ユキムシの天敵はいないのですか?
答:ユキムシは閉じたゴールを作らないので、一般的な捕食者の攻撃を受けます。ヤチダモでの天敵はヒラタアブの幼虫、テントウムシ類、クサカゲロウ幼虫などです。
●アブラムシの雌の腹の中にオスとメス両方が入っているという話がありましたが、腹の中に何匹もの成熟した個体が入っているということは、移動等に関して不利だと思いますが、何か対策はとっているのでしょうか?
答:移動に不利と言うことはありません。有翅のアブラムシでは、どの種も事情は同じで、腹部に成熟した胚子を入れて飛んでいます。初夏から夏に現れる有翅型では、腹部にはメスのみが含まれます。
●ユキムシのオスとメスがどちらも親のクローンだということでしたが、オスとメスとで染色体数なども同じですか?
答:ユキムシは単為生殖によってオスとメスを作りだし、その結果、同腹内のオスとメスは親のクローンです。しかし、正確に言えば、遺伝的にわずかな違いがあります。メスは性染色体をXXの形で持っていますが、オスはXを一つしか持っていません。母親の性染色体の一方が細胞外へはじき出されるとオスに発生します。したがって、オスとメスは常染色体に関しては同じセットの遺伝子を持っています。
●なぜ今年はユキムシが大量発生しているのですか?緑のない街の中でもユキムシがいるのはなぜか?
答:夏から秋にかけての気温が高かったから。この間にトドマツの根で単為生殖的に増殖します。ユキムシが町中でも見られるのは、風で長距離を流されていくからです。
●ユキムシが今年は大変でしたが、何か防御するいい方法などは見つかってるのでしょうか?
答:ケヤキフシアブラムシのことですか?これを防ぐのは簡単で、札幌中のケヤキをすべて切り倒せば、発生は収まりますが、そこまでする必要はないでしょう。
●単為生殖とは何なのですか?有性生殖との違いを教えてください。
答:単為生殖といっているのは、メスだけで繁殖を繰り返す繁殖方法のことで、親と子が完全に同じ遺伝子のセットを持ちます(クローン増殖とも言う)。メスの体内にある卵が未受精のまま発生を始めます。子供の間に遺伝的なばらつきはありません。一方、有性生殖では、遺伝的組み換えによって子供の間に遺伝的ばらつきが見られます。ユキムシの場合は、春から秋までが単為生殖で、秋の一時期オスがでて有性生殖を行います。
●アブラムシは密度が増えると翅が生えて飛んでいくと聞いたことがあるが、それは本当なのか?ユキムシの生活環を聞いて疑問に思った。
答:野菜に寄生し、単為生殖のみで生きているアブラムシ(モモアカアブラムシなど)では、密度効果によって有翅型が出現します。これは、教科書によく載っている事例ですが、実際にはいろいろなタイプが見られ、密度によって翅が生じる種もあれば、密度の影響を受けず、季節によって翅が生えるようにプログラムされている種もあります。モモアカアブラムシにしても、秋になると密度と関係なく、有翅のメスとオスを生み出します。
●今年はユキムシが大量に発生したが、ユキムシが大量に発生すると生態系に影響を及ぼすのですか。
答:多少はあります。大発生の影響は、その年以降に現れることが多いです。来春は、天敵にとっては良い年になるでしょう。ところが、その翌年は天敵が増えすぎるために、ユキムシにより大きなインパクトを与えるということもあり得ます(遅れの密度依存性)。
●アブラムシが遺伝子を操作、とかすごい話を聞いて面白かったのですが、それ以上に虫コブがすごくインパクト強かったです。なんとおそろしいものを作るんだろうか、こいつらは。先生は虫コブを割ったりすることもあると思いますが、気持ち悪いな、とかびっくりしたり思ったりしないのですか?やはり愛でカバーできるのでしょうか。
答:ええ、まあ、愛の力ですね。ゴールを作るアブラムシはかわいいです

●幼若ホルモンの量が不完全だと幼生が不完全なものができるというのを高校時代に習いましたが、エクダイソンにおいても量が不完全だと不完全な脱皮になるんですか。
答:正しい変態が生じないことが考えられます。
●ホルモンバランスが崩れて成虫になれなかった幼虫もある程度は生きられるのですか?
答:もちろんすぐ死ぬわけではありません。が、成虫にはなれず、子孫を残せません。
●無変態、不完全変態の昆虫の体内に成虫原基を入れたらサナギになるんですか?
答:完全変態昆虫の成虫原基を移植すると言うことですか?もちろん、不完全変態類では、成虫原基を発達させる能力がないので、サナギにはなりません。
●エビなどの甲殻類でも脱皮をしますが、それも同じようなメカニズムなんでしょうか?
答:甲殻類の脱皮に関しても同じメカニズムが働いています。
●ナナフシは不完全変態ですが若齢幼虫の時に失った足は脱皮を経て徐々に再生しますよね?これはどういう機構によるのでしょうか?
答:良い指摘です。再生はゴキブリ、ナナフシでよく知られています。リジェネクチンという物質が関与していることは知られていますが、詳しいことは全くわかっていません。少なくとも、不完全変態の昆虫にしか起こらないと思われます。
●完全変態昆虫は、幼虫の組織が全て溶かされて組織を完全に一新させるとのことですが、不完全変態昆虫の胚においてもそういったことがあるのでしょうか?もしそうなら無駄が多くなってしまうような気がするのですが、どうでしょう。
答:不完全変態類では幼虫の組織を溶かして、成虫の組織を作ると言うことはありません。幼虫から成虫へと組織は連続的に発育します。例えば、不完全変態類では、1齢幼虫から卵巣、精巣が見られ、齢とともに次第に大きくなります。
●この間、ユキムシを獲らえて顕微鏡で見たら、翅に毛ははえていませんでした。小さいのに、なぜですか?あと4枚翅のものと2枚翅のものがいた気がするんですが、どちらも正常なんですか?
答:ユキムシのサイズだとまだ大きい方で、空気の抵抗性はそれほど問題にならないのでしょう。翅の大部分が毛に変わってしまうのは、体長1mm以下のものが多いです。ユキムシを含むアブラムシ科の昆虫はすべて4枚翅で、2枚翅のものはユスリカではないでしょうか?ユキムシをとっているとたくさんユスリカが入ります。
●レイノルズ数の話で、飛翔する小さな昆虫(エアープランクトン)等は、空気の粘性を防ぐため、抵抗をおさえる形の翅をもっていると聞きました。それだとうまく飛べない気がするのですが、どうなのでしょうか?また、空中を漂うこういった昆虫は何を食べているのでしょうか?
答:超小型昆虫では、空気の粘性に適応した形状の翅を持っています。こうした昆虫は、飛ぶと言うよりも「空気中を泳ぐ」のに適した形状(オール型)の翅を持ちます。こうした昆虫は、成虫になってから全く摂食しないか、せいぜい水分ぐらいしか摂取しないものが多いです。
●昆虫と同じような翅の使い方をしている動物っていますか?やはり体重の軽い虫ならではの飛行方法なんですか?
答:小型の鳥は昆虫とほとんど同じだと思います。ハチドリのようなものです。
●翅を打ちおろす時と戻す時で翅の角度が変わるのは筋肉のはたらきによるのでしょうか?
答:角度が変わるのは、旗を打ち下ろすのと同じで、前縁にだけ支えが入っているからです。筋肉とは直接関係はありません。
●カブトムシなどの上側の翅は動かしてないように見えるが飛行の役に立っているのか。
答:甲虫の上翅は上下動しませんが、方向を変える時に用いられます。
●昆虫の飛翔の原理は、昆虫のように小さくないものでも空を飛ぶのに有効ですか?
答:昆虫のサイズから小型の鳥に共通した飛び方だと言えます。昆虫ー小型鳥類では空気の抵抗性が強すぎて滑空が困難で、常に羽ばたいていないと揚力を生み出しません(とは言っても大型のチョウ類ではうまく滑空するものもいますが)。大形の鳥は羽ばたきに加えて、滑空することでも揚力を生み出します。これは、翼の断面の形状に原因があります。
●昆虫の飛翔に関して、工学系の研究者が翅の運動を研究しているという話がありましたが、具体的にその実用例はあるのでしょうか。
答:残念ながら、まだないですね。
●昆虫の翅には筋肉や神経が通っているのですか?トンボの翅の奇妙な筋は血管ですか?
答:昆虫の翅は、もともと風船のようにふくらんだ形状であったものから空気が抜けてぺちゃんこになることで形成されます。昆虫の翅にはたくさんの脈が走っていますが、この脈に中には翅の上側を走るものと下側を走るものの2つがあります。翅の脈は羽を構造的に支えるのが目的ですが、もともとは気管であり、空気が通る管です。
●翅を数枚持つものは、どのように動かすのですか。
答:分類群によって使い方はまちまちで、前翅と後翅をフックによって繋いで一緒に動かす鱗翅目のようなグループと、前翅と後翅を別々に動かすトンボのようなグループの違いがあります。
●翅は昆虫においてエラとして進化し、後に移動のための道具として転用されたならば、エラとして働いていた翅の代わりになるものがその時にできたということなのでしょうか?
答:「翅の代わりになるものがその時にできた」という意味がわからないのですが、次のように考えてください。幼虫時にエラとして働いていた構造が、成虫になった時に消えずに残るという変異が生じたとします。このときエラは、エラとしては使えませんが(成虫は水中生活をしないので)、帆のような目的で使うことができたかもしれません。そこで、幼虫のエラのうち、胸についていた大きなエラが成虫になっても残るようになり、やがて大きく発達し、帆の役割を果たし、さらには滑空にも使われたのでは、という推測が可能だということです。
●始祖鳥のハネは昆虫のハネと一緒の理由でついたものなのか?
答:始祖鳥に関しては議論百出で、昆虫以上に難しいようです。地上を疾走していた小型恐竜がバランスをとるための器官だったとか、樹上性の恐竜が滑空するために用いたとかいろいろ言われています。
●昆虫の翅と動物の翼(鳥などの)は関係あるのでしょうか?
答:相同器官かどうかということでしょう。鳥、コウモリの翼は前脚が変化したものですが、昆虫の翅はそうではありません。よって、相同器官ではない。
●完全変態を行う昆虫の方が進化の過程の後に出てきたという理由はなんですか?逆には考えられないだろうか?
答:歴史的事象に関しては、完全な証明はできませんが、より確からしい仮説を考えることはできます。昆虫類に近縁の(例えば)多足類とか甲殻類を見ると、脱皮はしますが、顕著な変態は不完全変態同様見られません。したがって、不完全変態が祖先的状態で(より広いグループに見られる)、完全変態が派生的状態と判断できます(限られたグループだけに見られる)。
●完全変態をする昆虫の有利な点はどこか?
答:成虫と幼虫が異なる餌を利用でき、競争が生じないということはありますが、必ずしも完全変態だけに見られるわけではありません(下記)。ホントのところは、よくわかりません。
●セミやトンボは不完全変態ですが、成虫と幼虫の形が似ていません。これには何か理由はあるのでしょうか?
答:成虫と幼虫が異なる資源を利用しているからです。それぞれの環境に適応するために形態も分化しています。
●サナギになっているとき、敵から攻撃されないのでしょうか?
答:天敵からの攻撃は激しいです。最も脆弱な時期です。
●サナギや翅の起源について学んだが、節の起源についてはどうなのだろうか。
答:あまりにも根源的なのでたいへん難しいですが、祖先的状態では、1節からなる生物であったと考えて良いと思います(もちろん単細胞生物であれば必然的にそうなりますが)。こうした生物がいれば、節を繰り返すことによって、当時の環境によりよく耐えうるようになったのだろうとしか想像できません。
●サナギの進化について、サナギは全く新奇に起源したなら、進化の由来になったものがないということなのか?
答:全く新しく起源したならば、その有利性も、それが起源した形状も想像できないと言うことです。
●カブトムシやクワガタは幼虫からさなぎになるときに成虫の形ができあがっていると思うのですが、あれは外側だけできあがっていて中身の成虫原基は成長前ということになるのですか。また、さなぎの時の外側の部分は幼虫の時に作られるということになるのでしょうか。
答:外側の形状は先に出来上がり、その後で、サナギ内部で体制の作り替えが進行します。成虫の形状が作られるのはだいぶ後になってからです。サナギの外部の部分は、終齢幼虫の内部でJH+高濃度のエクダイソンの存在下で形成されます。

●ヤドリノミゾウムシのように、動物に対する寄生にも寄主特異性がありますよね?これも植物に対してのように、防御機構に打ち勝つ形質がトレードオフになるからですか?動物ー動物間の共進化は?
答:動物の寄生者も、寄主に対して特殊化していることが一般的です。特に、寄主内部に寄生するハチ類(内部寄生蜂)は、特定の寄主でないと寄生することができません。というのは、どの寄主も生体防御機構を持っており(本日の話題)、体内に生み付けられた寄生者の卵を殺すことができるからです。そこで、特殊化した寄生者は、寄主の生体防御機構を打ち破る能力を獲得する必要があります。寄主の生体防御と寄生者の生体防御打破能力との間には共進化が生じ、寄生者ー寄主ともに多様化する原因となります。
●先日の新聞に「師走紅葉」の話題があったが、2週間ほど紅葉が遅れるのが普通になってしまうと、在来の昆虫の生態にも変化をきたすのではないでしょうか?
答:紅葉が遅れること自体が昆虫の生態系に変化をもたらすと言うよりも、夏から秋にかけて気温が全体的に高い状態で推移することが重要です。年に多くの世代を繰り返す昆虫においては(例えばアブラムシ)、1年間の世代数が増え、個体数自体が増加します。
●春に部屋に入ってきたアゲハが、すぐ植木に卵を産み、夏にはふ化していました。北海道のチョウは1年に2度ふ化するのですか?
答:種によって異なります。アゲハは本州でも北海道でも年2化(1年に世代が2回)ですが、1化しかしない種も多いです。
●本州にはいて、北海道にはいない昆虫はいますか。
答:たくさんいます。カブトムシは本来北海道にはいません(現在は人為的に移入されて、たくさん見られるようになりました)。チョウではクロアゲハが北海道にはいません。ヒグラシ(セミ)もいません。
●シャクトリムシはおそらく蛾になるのだと思いますが、シャクトリムシはあの独特の動きをするものの総称なのか、それとも特定の種の蛾なのでしょうか?
答:シャクトリムシと言われているのは、シャクガ科の蛾の幼虫です。鱗翅目の幼虫は一般に、胸部の3対の脚の他に、腹部に腹脚と呼ばれる5対の付属肢をもっており、全てを使ってモコモコと歩いています。しかしシャクガ科ではほとんどの種で、腹部第6節と第10節以外の付属肢がありません。そのため歩く時には、体の前方にある胸部の脚と後方にある付属肢を使って体を曲げ伸ばししながら歩く、あの独特の動きになります。
●カイガラムシのたくさんついた観葉植物の周りがベタベタするのですが、あれはどんな物質なのでしょうか?
答:半翅目(アブラムシ、カイガラムシ、ヨコバイ、セミ、カメムシなど)には植物の汁を吸って生きているものが多いですが、水分を大量に摂取すると浸透圧によって体が水ぶくれになる危険があります。そこでこのような吸汁性の昆虫では、まず吸った汁を前腸に溜め(前腸の内壁は内胚葉由来ではなく、表皮がくびれ込んでできたものなのでクチクラの層に覆われている)、余分な水分を捨てて濃縮した液だけを中腸に送ります。カイガラムシのベタベタ、セミの「おしっこ」はこの排出された余分な水分です。糖分の豊富な師管液を吸うアブラムシ、カイガラムシ、ヨコバイなどでは、排泄した水分にも糖分が多く残っているのでベタベタします。アブラムシでは、この甘い排泄物(甘露)を求めて集まってくるアリが、ボディーガードの役を果たしてくれています。
●蚊が人間の血を吸うのはメスが産卵前にタンパク質を欲しているときだけで、普段は草木の汁を吸っていると聞いたんですが、本当ですか?信じられません!
答:蚊が血液を吸うのはほとんど卵の発育のためだけで、飛翔など普通の活動のエネルギー源は花の蜜、果汁、樹液などに含まれる糖分です。オスの蚊は吸血しません。
●家で植物を育て始めたのですが、北大の土を採ってきて育てているので土壌昆虫も生育してます。特に、シダ植物の裏に微動1つせずひっついている虫が気になります。かなりきもちわるいです。成長して大きくなり始め。初め真白だったのが茶色くなりました。1mm-10mmだと思います。ジャンプもします。何でしょうかね?
答:虫ではなくシダ植物の胞子のうでしょう。成熟して胞子を放出する時に胞子のうがはじけるので、それがジャンプしているようにみえたのではないでしょうか。(この答はTAの大槻さんのものですが、秋元はトビムシではないかと考えています。ものを見ればすぐわかるのですが)
●前回の質問の答で、成虫になると餌をとらないものがいるとあったのですが、幼虫のときの蓄えだけで生活しているのですか?
答:そうです。カゲロウやカワゲラ、トビケラなどの水生昆虫の多くは、卵や精子の成熟と繁殖行動に必要な養分を蓄えてから羽化し、繁殖を行うとまもなく死んでしまいます。

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