環境昆虫学概論  4回目             11月10日、2005

脱皮のメカニズム
昆虫の成長過程では、体がある大きさになると脱皮によって外皮を脱ぎ捨てる。脱皮を繰り返してある成長段階に到達すると、完全変態昆虫では蛹へと変態し、その後に成虫へと変貌を遂げる。

幼虫脱皮や変態ムムムホルモンによって制御されている
  ・幼若ホルモン (juvenile hormone, JH)
  ・ステロイドホルモンであるエクダイソン (ecdysone)、
  ・エクダイソンの生合成を刺激する前胸腺刺激ホルモン(prothoracicotropic hormone,  
    PTTH)

   幼若ホルモンーーーアラタ体と呼ばれる器官で合成されるー幼生の生理状態・形態を保つ
   エクダイソンーーー前胸腺で合成されるステロイド
              脱皮時および変態時直前に濃度が上昇  脱皮および変態の引き金

 幼若ホルモン(+)、 エクダイソンの誘導(+)ムムム「脱皮」
 幼若ホルモン(ー)、 エクダイソンの誘導(+)ムムム「変態」(蛹化、羽化)
 前胸腺でのエクダイソンの生合成は、脳神経細胞から分泌される PTTH によって誘導される
「エクダイソンと幼若ホルモンのホルモンバランスが、昆虫の発育を主にコントロールしている」

・昆虫の活動
・てこの原理を用いた高度な活動
・昆虫の飛翔の方法
 大型昆虫ム独特の翅の動かし方
 小型昆虫ム数ミリの昆虫では空気の粘性が問題

レイノルズ数ムム空気の粘性(粘っこさ)の指標 生物のサイズが小さいほど、空気の粘性の影響を強く受け、レイノルズ数も小さい
 グライダーは風を受けて上昇できるが、タンポポの綿毛以下のサイズだと、風に向かってとべない。効力を使って飛行している

昆虫が翅を打ち下ろすことで揚力と推進力が得られる

翅を打ち上げる場合にも揚力と推進力が得られる

昆虫では翅の前縁が硬くなっていることが
非常には重要(打ち下ろした時に仰角を生む)           

昆虫型飛翔ロボット?
昆虫の翅の起源-----有翅昆虫の最大の特徴  鍵形質ム新たな生態的地位を獲得
 進化的に新しい形質はどのようにして進化してきたのか?

進化における中間段階の謎
・翅のような形質は、ごく短い段階から少しずつ大きくなったはずである(漸進的進化観)
・しかし、進化の中間段階には、翅は飛翔に利用できなかっただろう(中途半端な構造物)
・だとすれば、翅は進化しないはずである
  翅の進化をどのように説明するか?
中間段階の有利性ムム前適応exaptation 「翅」は別の用途で発達し、後に別の用途
(飛翔)に転用された、と考える。では、翅の前適応とは?

水生昆虫(カゲロウ)のエラから起源した可能性が高い
さらに祖先を遡ると、甲殻類の脚の付属物にたどり着く可能性が遺伝子の働きから指摘されている

「翅は昆虫においてエラとして進化し、後に移動のための道具として転用され、滑空の道具を経て、上昇力を生み出す形質に進化した」

○昆虫における変態の進化
 昆虫には大きく分けて、不完全変態、完全変態 の区別がある。蛹の段階を持つものが完全変態
 難問:完全変態におけるサナギはどのようにして生じたのか?   
  幼虫の英語表現 nymphー不完全変態
      larvaー完全変態
 
サナギの進化に対する仮説
(1)サナギは全く新奇に起源
(2)不完全変態昆虫のnymph起源説
  蛹は、不完全変態であった祖先の幼虫(nymph)が変化したもの。一方、完全変態昆虫の幼虫
  (larva)は、祖先における卵内の胚の最終段階が「そのままの形で」外へ現れたもの

不完全変態昆虫の卵内の胚が示す形状ムム前幼虫(pronymph)

ホルモンレベルの変化から(2)が正しいだろうと考えられている
つまり、
祖先(不完全変態) egg pronymph nymph    adult
完全変態類     egg larva pupa(蛹)  adult

    pronymphからlarvaへの変化
  成虫原基(imaginal disc)が形成されるようになる
  heterochrony(ヘテロクロニー)で説明できる 祖先の発育遅滞

質問とその答 (10月27日, 2005)
●冒頭で「捕食者の不快感」とありましたが、視覚ではなく味覚に訴えるものはいるのですか?テントウムシなどが出す黄色い液体もその1つに含まれるのでしょうか?
答:味覚的に不味い、あるいは有毒な昆虫は数多いです。これも捕食者に対する適応の一つで、テントウムシの黄色い物質もその例です。しかし、昆虫にとっては、食われる前に,食う気を起こさせないことがより重要でしょう。ヒトの先祖は、昆虫を食物の一つとしていたわけですから、その食物に対して「気持ち悪く」感じるのは実に不思議です。移動できない幼虫が進化的に「気持ち悪い形状」に変化したのはありうることだと思っています。
●遺伝子型sey/seyのマウス個体の目がつくられないというのは眼球がつくられないのか。
答:目全体が発生してきません。seyは目が発生するための最初のきっかけを与える遺伝子です。
●重力が濃度勾配を決める要因ではないといったが、ではどんなものがこれを決めているのか。
●卵細胞にはタンパク質の濃度勾配がありますが、少しでも変わってしまったら奇形ができたりしてしまうんですか?また、濃度勾配はどのように保っているのですか?
答:卵細胞内には細胞骨格と呼ばれる構造が存在しています。卵細胞はただの液体で満たされた状態ではありません。細胞骨格は親細胞から伝達され遺伝子発現の空間配置を決めます。卵細胞などでは細胞骨格による空間編成が遺伝子発現に先立ち起こり遺伝子発現の空間配置をリードすることが知られています。細胞骨格はタンパク質繊維系でできており、マイクロフィラメント、微小管、中間径フィラメントから成り立ちます。こうした構図物に、mRNAあるいはタンパク質がくっついて濃度勾配を作っています。だから単純に重力だけでは勾配が作られないのでしょう。
●それぞれの節の数は遺伝子により決定されているのですか?節の数というのは個体を判別するために重要なこととなるのでしょうか?
答:節の数は遺伝子によって決まります。しかし、節の数は、個体を判別するためには重要ではありません。同じ種では、節の数は決まっており、個体間で節の数が異なることはないからです(属ぐらいのレベルでおなじです)。
●節足動物の系統で昆虫に最も近いグループは甲殻類だという考えが主流になってきたのはどうしてですか。
答:決定的な情報はDNA配列から得られました。DNAの配列といっても、早く変化している部分と、ゆっくりと変化している部分がありますが、このような大昔に分岐した群の系統を決めるには、ゆっくりと変化している部分を使います。
●昆虫に最も近いグループは甲殻類であるという説が有力だそうですが、分岐したのはいつごろでしょうか?また、見た目だけでは昆虫と多足類の方が、昆虫と甲殻類よりも近く感じるのですが、より昔に分岐したものの方が形状が似てくるのは、住む環境が似ていたためでしょうか?
答:分岐した時期は古生代ですが、この時期化石がたくさん出るわけではないので、正確な分岐時期はわかっていません。甲殻類といっても、ワラジムシのような陸上性の甲殻類を考えれば、昆虫と多足類の方が見た目に似ているとも言い切れません。「より昔に分岐したものの方が形状が似てくる」こと(祖先形質共有による類似性)は、生物進化ではごく普通に見られます。この現象が、分類を混乱させる原因となっています。その原因は、指摘されているとおり、生息環境が似ていて、大きな進化的変化が生じなかったためです(進化的停滞)。
●トビムシが昆虫から甲殻類と、見方が変わったのはどんな点からですか?
答:これもDNAの比較に基づくものです。形態の面でも、複眼の構造、触角の特徴において、トビムシと甲殻類との近縁性を示唆する証拠が挙げられています。
●「scaling」について、水分保持のこと以外の例があったら教えてください。
コメント:本日の話題ですが、飛翔、呼吸、血液循環などです。scalingはすべての物理現象に関わっており、1立法メートルのとうふは作れない(くずれてしまう)、ことでわかるでしょう。別の例では、ウルトラマンのような巨大化した生物は、あのプロポーションのままでは立ち上がれません。
●実際に小型の昆虫は水中に多いのですか。
●小型になるほど水辺から離れられないなら、虫が中心街にいるのは大丈夫なのか?
●小型になるほど水辺から離れられない、とありますが、翅があるとその制約は少しは緩くなるんでしょうか?
答:小型昆虫が水中に多いわけではありません。しかし、水分の多い環境である植物体内、土中、落ち葉の下に多いとは言えるでしょう。昆虫に関しては、すでに乾燥化に対する適応を身につけているので、多足類などに比べれば、小型でも、乾燥地域へ進出できます(中心街でも大丈夫)。昆虫の多くは、植物との関係が強いですが、植物から常に水分を取り込んでいることによって、一見乾燥した地域でも生活できるわけです。
●昆虫は食べるとき以外にも水分をとるのでしょうか?
答:普段から植物や動物の汁をよく吸うような昆虫ではあまりないでしょうが、成虫では、植物についた露をなめたりして水分をとる昆虫もいます。水生昆虫の成虫では口器が退化して食物をとらないものもいますが、水を飲むことはできます。
●発生上の単位となる節と、見かけ上の節が分離していることで何か不都合なことはあるんですか?
答:不都合ということはありません。発生上の単位となる節と、見かけ上の節の分離が生じたのは、適応のためです。
●脱皮はどんな昆虫がするのですか?成虫がするんですか?
答:幼虫が脱皮しながら大きくなり、成虫になると脱皮しません(例外もある:カイガラムシ)。昆虫は、水分保持と体の強度のために外骨格を厚くしましたが、成長には不都合となり、脱皮が必要となりました。
●そもそもなぜ脱皮するのですか?大きくなるためでしょうか?外表皮はかたくなってしまうなら、大きくなれないんじゃないですか?
答:大きくなるために脱皮します。外表皮は乾燥した陸上で生活するのに必要ですが、成長する時にはそれを脱がなくてはなりません。脱皮直後に新しい外表皮が固くなる前の、まだ白くて柔らかいときに体が膨らんで、大きくなった状態で固まります。
●脱皮時には内原表皮が溶かされるとありましたが、脱皮のメカニズムを詳しく教えてください。
答:脱皮時の変化は前回簡単に説明しましたが、脱皮をコントロールしているのはホルモンです(今日の話題)。内原表皮は真皮(生きた細胞)から分泌されるタンパク分解酵素によって分解されます。
●脱皮後、未分化の表皮はどれくらいの周期で完全となるのだろうか。セメント、wax層は1~4μmで種によって変化するようだが、内外表皮は200μmでどの種でも同じなのだろうか。
答:種によって異なるが、表皮が形成される速度は極めて速い。脱皮と脱皮の間に、数日間で完成する場合が多いだろう。
●もしも突然変異で溶原液を作れないもしくは不十分量しか作れない等の理由で、脱皮が出来ない個体がいたらどうなるのでしょうか。成長をとめる機構が働いたりするのか、もしくはつぶれてしまうのか。あまり脱皮そのものに失敗するという話は聞かないので、安全装置のようなものがあるのだろうか。
答:そうではありません。脱皮というのは昆虫にとって大変危険を伴い、失敗も多いのです。農薬の一種、昆虫成長制御剤(IGR)は、キチンの合成を阻害することによって、脱皮できなくし、害虫を殺すものです。この薬剤はキチンを持つ生物にしか有害でないので、ヒトには安全です。大型の昆虫になるほど脱皮が困難になるので、昆虫は大型化できないという説もあります。
●昆虫の中に、外部からの衝撃を外骨格で吸収して、内部組織を守る構造をもつようなものはいますか?
答:昆虫の外骨格はどれも多かれ少なかれ内部組織を守る役割を果たしています。甲虫類は特に外骨格を厚くして前翅にもその役割をもたせているため、土中や木材の中にも生活の場を広げられています。
●蚊やハエなど小さい虫でも固い外皮をもっているようには見えないが、本当にこのような構造をしているのか?それとも水分蒸発を抑えるwax層のみが発達しているのか?
答:カやハエの体も固いキチン質で覆われています。顕微鏡で見るとわかります。柔らかそうに見えますが、小さい昆虫は物理的な原因(スケーリング)から、硬い体を持つ必要はありません。柔らかい体で十分高い運動が可能です。
●脱皮して、脱ぎ捨てた古い外原表皮等を利用する昆虫はいるんですか?食べるとか。やっぱキチン質だと昆虫にとって栄養にはならないのですか?
答:鱗翅目の幼虫は、自分の脱皮殻を食べてしまいます。資源の再利用です。
●節間膜は薄いだけで層状の構造は固い部分と変わらないのでしょうか?
答:節間膜には外原表皮はほとんど存在せず、内原表皮から成り立っています。外原表皮がないということは、キチン質があまり含まれないということです。
●(有翅)昆虫が飛べるのは生まれつきですか。鳥類は飛ぶ練習をするようですが、昆虫は羽に支障がなければ生まれてすぐ飛べるのでしょうか。
答:普通は羽化後、すぐに飛ぶことができます。遺伝的に決まっている
●羽がたたまれているときは背縦走筋と背腹筋は動かないのか、それとも支点と力点が羽をたたんだことにより失われるのか。後者の場合、背縦走筋と背腹筋は他の働きをもっているのか。
答:羽をたたんでいるときは背縦走筋と背腹筋は動きません。両筋肉には他の働きはありません。はねの微小な動きは翅に付着している別の筋肉に働きによるものです。
●昆虫のもつ筋肉というのは人間の筋肉と同じようなものですか?
答:筋肉の基本的な構造(Z膜、アクチンとミオシン)やATPのエネルギーを用いて収縮する機能は、昆虫と脊椎動物で共通しています。ただ、昆虫では一本の筋肉が1-20の筋繊維から成っている(脊椎動物は数千本と格段に多い)こと、昆虫の飛翔筋などでは1本の神経が複数の筋肉を支配しており一回の刺激が複数の収縮を起こすこと、などの違いがあります。
●プリントの飛翔に関するグラフのところ(来週ですか?)レイノルズ数とか揚力、抗力がわからないので少し気になります。
コメント:今週の話題です。
●翅についてですが、トンボなどは4つの翅をもちますが蚊では2つで下の2つの翅は別の器官へ変わっています。今日はねじれ翅について授業でとり扱いましたが、カブトムシなどの甲虫も一枚目の外側の翅は飛翔にはあまり役立っているように思えません。外部から身を守るものに見えますが、これとねじれバネでは下の2つの翅が飛翔に発達したという点で近いといえますか?
答:双翅目(カ、ハエ)では後翅が平均棍になっており、ネジレバネでは前翅が平均棍になっていますので、ネジレバネが2枚の翅で飛ぶようになったメカニズムは甲虫より双翅目に近いと考えられます。翅は2枚の方が飛翔しやすいようで、双翅目は飛翔が非常に上手ですし、チョウやハチでは前翅と後翅を留め金のようなものでくっつけて飛んでいます。甲虫では前翅が完全に固くなっていて、飛翔の際はバランスをとる機能しかありません。これは飛翔能力向上のため(2枚の翅で飛ぶため)に前翅が退化したというより、保身のための変化です。
●チョウは体に比べて羽が大きいですが、筋肉だけで動かしているのですか。他の昆虫よりも大変そうです。
答:チョウは左右の翅を上と下で合わせることを繰り返して飛んでいますが、その翅の動きは前翅の前縁から始まり、次第に後方に移ります。だから左右の翅をべったり合わせているのではなく、広い翅の間にはさまる空気を後ろに押し出すような飛び方をしています。翅を動かしているのは筋肉だけですが、昆虫では翅に直接筋肉がついているのではなく、箱状の胸部を内部の筋肉(背腹筋と縦走筋)でぺこぺこ動かすことによって胸部につく翅を上下に動かしています。その力を元にして、翅の角度を微妙に変えるなどして複雑な飛び方をすることができます。トンボは翅に直接筋肉がついていて、それぞれの翅を独立に動かすことができます。
●今カブトムシなど外来の昆虫が問題になってますが、日本の気候でも生存できるのでしょうか?また、今後日本の固有種にとって脅威になりそうな種はなんでしょうか?
答:東南アジアから多くのクワガタ、カブトムシが輸入されていますが、種によっては、熱帯高地を生息地としています。このような種は、日本に定着する可能性が高いと考えられています。ヒラタクワガタの仲間は、日本産のものと交配するので、影響が大きいです。
●人間がもし外骨格をもってたらどうなるのか?
答:人間の体サイズで内骨格がなくて外骨格だけだったら、体を支えられなくて潰れてしまいます。
●現存する体長が最大の昆虫(幼虫期も含めて)は何ですか?
現存する最大の昆虫はオオカブトムシ(ヘラクレス)で体長18cm。最大のチョウはヨナクニサン(体長15cm、翅を広げると30cm)。古生代石炭紀(30億年くらい前)には体長75cmのメガネウラというトンボの祖先にあたるものがいましたが、そのくらいが限界ではないかと思われます。前の質問にあったとおり外骨格という基本設計が大きくなれない要因ですが、もうひとつは昆虫の呼吸系です。昆虫は血管系がなく体の各組織は体内に張り巡らされた気管と直接ガス交換をしますが、体が大きくなると酸素が体の奥まで届かなくなってしまいます。
●タマムシのような形をした体長約2cmの、ひっくり返すと頭部を使って跳び上がる昆虫の名前は何というのですか。
答:コメツキムシ科です。
●ユキムシはある一時期(一週間程度)しか見ない気がするのですが、セミのような生活スタイルなのでしょうか。先週の一時期の2日間はとても大量にいたのに、今日はほとんど見ません。あと、ユキムシのふわふわしたものの形などを図入りで説明して欲しいです。
答:本日、説明します。
●昆虫の目をつくる遺伝子とほ乳類のそれとはにたような過程で発現しているというようなお話がありましたが、ほ乳類と昆虫の目はかなり違っている気がします。昔生物で軟体生物の目はほ乳類より優れている(盲点がないらしい)とききました。昆虫はよく複眼だと聞きますが、それぞれの眼のよい所、悪い所はどういうところなのですか?昆虫はあんなにたくさん眼を持っていて得しているのですか?
答:こうした有利・不利の比較は、あまり意味がないです。各器官は、それぞれの生息環境に対する適応と系統関係(系統的制約)によって決まります。先祖から受け継いだものを急に大きく変えるわけにはいかないのです。昆虫の複眼は、動くものに対して鋭敏に反応しやすいと言われていますが、本当のところはよくわかりません。
●甲殻類のなかでエビ、カニは食用になりますが、いずれも水で生活するものです。陸上の甲殻類に食用になるものはないのですか?あるけどマイナーなだけですか?余談ですが、以前日本に北ドイツ人数人に食事としてカニを出したら気持ち悪がって誰も食べませんでした。クレイジーだと言っていました。
答:甲殻類はほとんどが水環境(多くが海)で生息しており、陸上の甲殻類は少なくて、ワラジムシやアカテガニの成体などごく一部だけです。ワラジムシはともかく、アカテガニは食べられるかも。
●昆虫も甲殻類も共に外骨格に覆われていますが甲殻類はおいしそうに見えるのに昆虫はそう見えないのはただの偏見ですか?本能か何かですか?
答:おいしそうに見えるのはおいしいのがわかっているからではないでしょうか。前の話にあったようにカニやエビを食べる習慣のない地方の人にはおいしそうに見えないようです。昆虫食の分化の中で育てば昆虫もおいしそうにみえるようになるかもしれません。しかし、昆虫の場合、有毒物質をため込んで、自分を不味くしている種がいますから、本当にうまくないものも多いはずです。昆虫が有毒物質をため込めるのは、植物が2次代謝物質を合成するからです。
●昆虫の外骨格の成分を利用して新しい素材を作れないのでしょうか?
答:昆虫ではないですが、カニなど甲殻類の殻のキチンが精製されて利用される試みがあるようです。溶解性が低いため、誘導体化、ポリマーブレンドなどに有利です。また生物由来の物質で枯渇の恐れがない、安全性が高い、生分解性である、比較的高い強度と柔軟性を持つ、などの利点から、手術用縫合糸として利用されています。昆虫も大きくて入手しやすければ使えたでしょう。
●変異により体の半分がオス、もう半分がメスの個体は、卵細胞や精細胞をつくることはできるのですか?
答:できません。雌雄同体のようにはならず、生殖器官は未分化となるようです。
●昆虫はとても小さいけれど、動物と同じ暗い複雑な遺伝子機構や筋肉組織や皮膚をもっていることに驚きました。こんないろいろな機能があるということは、痛みの感覚もあるんですか?小さい頃何も知らなくて、足とれてても気にしていなかったのですが・・。
答:たぶん痛みの感覚もあるでしょう。表情は変わりませんが。脚がとれるのは、自切の可能性が高く、これは痛くないはずです。
●エビの足に生えている毛は何の役割があるのでしょうか?水中だと不要な気がするのですが。抵抗になりそうですよね。
答:脚には毛が生えている方が泳ぎやすいです。毛が無いと、泳いだ時に脚の下流になる側で水が渦を巻いて抵抗になってしまいますが、そこに毛があると渦を作らずに水流をうまく後ろに流してくれます。
●無翅昆虫では飛翔という活動は見られないと思うのですが、外骨格が飛翔以外の活動に役立っていたりするのでしょうか。
答:飛翔時以外でも、活動するためには体の強度が必要です。また、水分保持の役割も重要です。
●昆虫ってのは落としたりハタいたりしても気絶するくらいで、よっぽどのことがないと息絶えないですよね。例えばハエですが、どれほどのスピードで素手ではたくと息絶えてしまいますか?
答:おもいっきり叩く
●自動車会社が昆虫の構造を調べているということですが、他に昆虫の構造が工業的に利用されている例はあるのですか?
答:昆虫の飛翔機能は、利用に向けて良く研究されていると言えます。しかし双翅目昆虫のような自由なホバリング(空中停止)、急速な速度変化や方向転換など高度な飛翔技術は実現が難しいようです。
●従来の分類で、昆虫・多足・カギムシのグループと、クモ型・甲殻のグループを分ける特徴はアゴがハサミ形かどうかだったと思います(間違ってたらごめんなさい)。新しい分類法ではこれらがバラバラに表れているようですが、アゴの形が昆虫・多足・カギムシで似ているのは偶然ですか?それともATGC→AAGC→ATGCのような変化が起こったためでしょうか?収斂?
答:節足動物は大きく2つのグループに分かれます。大顎類(昆虫類、多足類、甲殻類)と鋏角類(クモ、サソリ、カブトガニ、三葉虫)です(カギムシはその外に出る)。鋏角類には顎はなく、触角もありません。代わりに鋏角を持ちます(はさみ型というのはこのことでしょう)。昆虫と最も近いのは多足か、甲殻かという問題ですから、大顎類内での話しです。すべて大顎を持ちます。
●昆虫はどうして足が6本で羽が2~4なのですか?進化上有利だったのですか?
答:6本脚は4本脚や8本脚よりも有利なのかという問いには、うまく答えられません。祖先で偶然固定したものが引き継がれたこともあり得ますから。機械的な合理性だけでは、答えられない問題もあると思います。
●昔、十数年土の中で過ごすセミの話を耳にしたんですが、幼虫期をそんなに長く過ごす理由は何かあるのですか?成虫であるなら生殖器官が長くなったりといいことがあると思うのですが・・。
答:北米の周期ゼミで17年とか13年の周期で羽化します。この周期は重なりにくく、大量に羽化して捕食者を呼び寄せることを避けているのではないかという説がありますが、理由はよくわかっていません。
●北海道に来てから今の時期にもよく見るのですが、とても飛翔できそうにない小さな翅を持つバッタを見ることがあります。初めは幼虫かと思ったのですが今の時期から脱皮して成虫になって生殖は遅すぎるのでは・・。これは果たして幼虫なのか、幼虫だとすればこの形のまま越冬するのか、それとも今から成虫になって生殖するのか、そもそもこの形で既に成虫であるバッタなのか、よくわかりません。
答:それはサッポロフキバッタかあるいはミカドフキバッタです。翅が退化したバッタで、成虫でも小さい翅しかなく、飛ぶことができません。10月下旬には死に絶えます。サッポロフキバッタは私の研究材料の一つで、これを使って種分化の研究を行っています。翅が退化しているために移動力が低く、このため北海道内でも地域ごとに遺伝的分化が顕著に生じます。道東に分布するサッポロフキバッタは札幌あたりのものとは別種のレベルにまで分化しています。
●たまに春にユキムシが発生することがありますが、あれは間違って発生してしまったものなんでしょうか?
答:ユキムシ(トドノネオオワタムシ)は、春にはヤチダモ上で越冬卵が孵化し、幹母に成長し、これが単為生殖で150頭くらいの子供を産み、その子供は有翅型に成長します。有翅型は6月ヤチダモを離れ、トドマツに飛んでいきます。
●ユキムシはヤチダモよりケヤキに集まっていましたよ。ケヤキのどこにひかれているのでしょうか?彼らは何を食べているのですか?
答:一般にユキムシといわれているムシは、7-8種類くらいいます。最も大型で大きな綿を付けているものはトドノネオオワタムシといい、ヤチダモで子を産みます。ケヤキに集まるのはケヤキフシアブラムシで、ササの根で育ちケヤキに向かって飛んでいくのです。翅を持つ成虫になると、摂食しません。ケヤキの葉から出る揮発成分を感知してケヤキに集まります。
●最近ユキムシが大発生して大変な時があったのですが、どのような時に大発生するのですか?
答:夏から秋にかけて気温の高い年です。トドマツの根で単為生殖によって世代を繰り返すので、気温が高ければ、夏から秋にかけて世代数が増えます。単為生殖ですからねずみ算式に増えていき、世代が一つ増えただけでたいへんな数になります。
●ユキムシはどのようにしてヤチダモと他の木を区別しているのですか?
答:植物の葉や幹から出る揮発成分を触角で感知します。ユキムシはヤチダモの香りが存在しないところでは、産子しません
●バンガローに泊まったらカメムシが大量にいたんですが、カメムシは少しでも暖かいところで越冬するのですか?その間何を食べるのですか?
答:暖かいところで越冬するので冬に家屋に入ってくることが多いです。越冬中は食物は採りません。
●カメムシが大量に集まって越冬しているところを見つけたことがあるのですがカメムシは通常何年くらい生きるのですか?
答:1年のものが多いです。寒さに強い成虫のステージで越冬していますが、冬を越して繁殖を終えると死んでしまいます。暖かい地方では年に数世代繰り返す(1世代が数ヶ月しかない)種もあるようです。ただ、カメムシでは農業上有害な一部の種でしか生活史が調べられていません。
●授業とは関係ないが、雪の降っているときアリなど一年を通じて生活している虫はどのようにしているのか?エサなどはとれるのだろうか?
答:アリは雪の降る時期は巣の中でじっとしています。活性が下がって食物もあまり採らなくなります。冬の厳しい地方では、昆虫は越冬卵や成虫、蛹など、それぞれ最も耐寒性の強いステージで冬を過ごします。多くは活性が下がってほとんど活動しない状態となりますが、セッケイカワゲラやクモガタガガンボ、一部のハエ類などのように、冬期に雪渓上で摂食、繁殖を行うものもいます。
●コオロギのオス同士はどちらかが死ぬまで闘い続けると聞きましたが、どうやって闘うのですか?武器になるようなものがコオロギにはない気がするのですが。
答:中国で闘蟋(とうしつ)と呼ばれるコオロギ相撲がありますが、繁殖期のオス同士が組み合ったり蹴飛ばし合ったりするようです。長い時は勝負が一日中続くこともありますが、そのうち勝ちと負けをお互いの虫が悟り、敗者が去って勝者は翅を震わせて鳴きます。他の動物のオス間闘争のように、しばらくすると優劣がついて負けた方が逃げるのが大半で、どちらかが死ぬまで闘うということはあまり無いのではないでしょうか。
●セミはどうしてあんなに鳴き続けるのですか?だまっていればもっと長生きできる気がします。あと、セミのお腹は空っぽだと小説に書いてありましたが本当ですか?
答:オスのセミがメスを呼ぶために鳴いています。鳴かなければ寿命は延びるでしょうが、繁殖ができないまま死ぬことになってしまうので、鳴かない性質をもつものが出たとしても子孫を残せず、そのような性質はすぐに途絶えてしまいます。お腹が空っぽなのはオスのセミで、鳴いたときに音を大きくするための共鳴室が大きいので腹腔内が空っぽに近い状態になっています。メスは腹腔内は大きな卵巣で満たされています。
●「蟻」というベルナール・ウェルベールの小説を読んだが、蟻は実際はどれほどの意思疎通が可能なのか。
答:「意思疎通」といえるものはないと思います(小説のようなロマンはないですが・・)。アリ同士のコミュニケーションは社会生活を成り立たせるために重要ですが、基本的にフェロモンの発散と感知による餌場などの情報伝達、体表炭化水素組成(コロニーによって組成が違い、臭いでそれを嗅ぎ分ける)によるコロニー構成員か否かの感知と警戒フェロモンの放出、それに刺激されての攻撃、など、「感覚」とそれに対する「機械的反応」が組合わさって成り立っているだけです。
●カマアシムシを初めて見ました。おもしろい虫ですね。どんな所にいるのですか?
答:土や落ち葉層の中にいて、菌根を食べています。森林、草地など緑のあるところにはどこにでもいて個体数も多い(日本の森林での密度は1㎡あたり100~1000個体)ですが、大きい種でも2mmくらいで透明なものが多く、みつけにくいです。
●ミミズはどのようにふえるのですか。「わく」みたいなことを聞いたことがあるのですが、何もない所から出来るはずがないと思うのですが、あれが分裂するとも思えません。また、ミミズにも種類があるらしいのですが、どのような種がいて、どのような違いがあるのですか。
答:ミミズは雌雄同体で1個体にオスメス両方の生殖器があります。多くの大型ミミズ類では、環帯(頭の方の帯みたいな部分)より前方の腹面に雄性生殖孔が、環帯の腹面に雌性生殖孔があり、2個体が行き違うように逆向きに並んで、互いの精子を雌性器に注入し合います(交接)。交接後、ミミズは環体の表面に筒状の卵包を分泌し、受精卵を産卵して栄養物質を分泌してから卵包で密閉します。
私たちが普段見かけるミミズは大きく分けて二つのグループのミミズ(それが日本のミミズの二大グループ)です。ひとつは釣り餌用に使われるシマミミズを含むツリミミズ科、もうひとつは大型のミミズのグループで、最も普通種のフツウミミズを含むフトミミズ科です。各節の剛毛や交接器で種を同定しますが、難しいようです。

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