環境昆虫学概論  2回目          10月20月、2005

○ 昆虫の体制の進化
昆虫はどのようにして現在の形態を持つに至ったのか? 系統学と発生遺伝学との関わりについて述べる
 今回のDrosophilaの話しは、生物一般のモデルで、植物の発生でもヒトの発生でも似たようなモデル
 が当てはまる

昆虫の分類学上の位置----節足動物門、昆虫綱 に属する。
節足動物門とは?--- 体が節(segment)に分かれ、脚を持つ、脚も節に分かれている無脊椎動物
    蛛形綱、(クモ、ダニ、サソリ)、三葉虫類、甲殻類(エビ、カニ、ワラジムシ)、
   多足類(ムカデ、ヤスデ)、有爪類(カギムシ)、昆虫類(無翅昆虫、有翅昆虫)を含む

節足動物に近縁な生物は、環形動物門(ミミズ、ゴカイ)--- 体が体節から成り立っている点で節足動物と共通。脚がない点で区別    系統関係は、分岐図によって表現できる(図1)

昆虫の体節の特徴ムムム祖先(多足類)の均一な体節に比べて不均一化(節の融合や退化や大型化)
   祖先の体は均一な体節のつながりから成り立っている。しかし、昆虫では顕著な分化
      ・例えば、昆虫の頭部は、祖先(多足類)の前方5つの節が融合したもの
      ・昆虫の口器のひげーー祖先の脚と相同の形質(かつては脚だった)
 [突然変異] 昆虫の口器のひげに生じた突然変異ムム脚に変わる(祖先の遺伝子は保持されている)
突然変異の特徴を調べると、その遺伝子が正常な状態でどのような機能を持っていたかが推測できる

 発生の過程で、節ごとに異なる遺伝子が活性化することが明らかにされている----遺伝子の差異的発現
 このために、すべての細胞で同じ遺伝子を持っていても、節ごとに異なる形状が作られる

ショウジョウバエDrosophilaでは、数多くの突然変異を調べることによって、節(segment)間の不均一を生み出すメカニズムが明らかになっている

Drosophilaは3対の染色体を持つ。Drosophila の第3染色体(最も短い染色体)には、次のような、体節の形状を決める遺伝子群が並んでいることが知られている

Ubx  Abd-A Abd-B

Ubx bxd iab-2  iab-3 iab-4 iab-5   iab-6 iab-7 iab-8
--------+---------+----------+-----------+-----------+----------+------------+----------+---------+-  
これらは、まとめてBithorax-gene complexと呼ばれる 双胸遺伝子複合体
こうした遺伝子は他の遺伝子の発現を調節しているので「調節遺伝子」と呼ばれる

  Bithorax-gene complex(BX-C)は体の後半の節の形状を決めている
  一方、同じ染色体にあるAntennapedia-gene complex (ANT-C)は体の前半の節の形状を決める 
  あわせて homeotic gene complex(HOM-C)と呼ばれる
    調節遺伝子は「転写調節因子」(タンパク質)を合成し、他の遺伝子の発現を調節する
    (キーワード:エンハンサー配列、プロモーター領域、RNAポリメラーゼ、転写)

後胸(T3)の形状が生じるには、その細胞でUbxが働く必要がある
腹部1節(Ab1) の形状が生じるには、その細胞でUbx+bxdが働く必要がある
腹部1節(Ab2) の形状が生じるには、Ubx+bxd+iab2が働く必要がある
ムムムムム
腹部1節(Ab8) の形状が生じるには、Ubx+bxd+iab2+ -----+iab8が働く必要がある
中胸(T2)の形状を作り出すには、BX-Cのどの遺伝子も必要なし
 
体節            [ ○は遺伝子が活性  ×は遺伝子が不活性 ]
T2 × × × × × × × × ×
T3 ○ × × × × × × × ×
AB1 ○ ○ × × × × × × ×
AB2 ○ ○ ○ × × × × × ×
AB3 ○ ○ ○ ○ × × × × ×
AB4 ○ ○ ○ ○ ○ × × × ×
AB5 ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × ×
AB6 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ×
AB7 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ×
AB8 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
  UBX bxd iab-2 iab-3 iab-4 iab-5 iab-6 iab-7 iab-8
              BX-遺伝子群
           
尾端に近いほど多くの遺伝子が活性化(発現)しているーこれは遺伝子発現を引き起こす物質の濃度勾配
     (発生運命決定因子と呼ばれる)のためと考えられてきた
近年、この物質が同定され、機能が明らかにされたーーナノスタンパク質と呼ばれる。ナノスタンパクは幼虫の胚子発生の一番初期に機能を発揮する
 
・ショウジョウバエの雌の卵巣内では、卵に発生する卵母細胞が育っている(卵巣小管内)
・受精前の卵母細胞において、尾端部のろ胞細胞からナノスmRNAが卵内に送り込まれる
・ナノスmRNAに濃度勾配(尾端部で濃度が高い)
・受精後タンパク質合成が進みナノスタンパクが作られるー濃度勾配ム尾端で活性化する遺伝子が多い
・同様に頭部方向では、保育細胞からビコイドmRNA -> ビコイドタンパクが合成され、濃度勾配
・ナノス、ビコイドmRNAを作り出すのは母親の遺伝子

したがって、中胸 (T2) の形質が最も原始的な状態を残している

BX-CとANT-Cは同じ染色体の異なる部分に乗っている遺伝子群ムム遺伝子重複による進化の例 
1つの遺伝子が、その周辺に重複し、遺伝子群を作って、やがて各遺伝子の役割が分化
遺伝子重複 --> (1) 染色体不等対合、あるいは(2)遺伝子変換によって生じる

「証拠」 元々は1つの遺伝子であったため、BX-C遺伝子群の各遺伝子はよく似た塩基配列を持つ
 各遺伝子間で、よく似た配列の部分を「ホメオボックス」と呼ぶ 180塩基対

○ 遺伝子の共通性
ショウジョウバエの体節形成遺伝子はヒトにもみられるーーヒトの脊椎で発現する Hox遺伝子群
DrosophilaのHOM-Cと脊椎動物の Hox 遺伝子群 は相同(同じ起源)であることが証明された
ムムム遺伝子のレベルではヒトもハエもさほど大きな違いはない

別の例、マウスのsmall eye突然変異: sey/sey 目がつくられない、sey/+ 目が小さい
ショウジョウバエにもeyeless (ey) 突然変異が知られている。塩基配列を調べると、マウスとショウジョウバエでほぼ同じ遺伝子であることがわかった。哺乳類とハエで、ほぼ同じ遺伝子が目を形成している

昆虫の発生における形態形成遺伝子
(1) 体軸の決定ムムビコイドとナノス
(2) 背腹軸の決定
(3) 分節化(ギャップ遺伝子、ペアルール遺伝子)
(4) 体節の個性化(homeotic gene complex: BX-C, ANT-C)

ビコイドとナノスによって体軸(前後軸)が決まると、次に、背側でDppタンパク質が作られ、逆に腹側ではSpitzタンパク質が作られる。これらも体中央部に向かって濃度勾配が生じる
体の中央部で両タンパク濃度が低くなる。この領域に沿ってdll遺伝子が発現し、脚が作られる時の目印となる

○ 節足動物の系統ム近年の成果
昆虫に最も近いグループは、こっれまで多足類(ムカデ、ヤスデ)と考えられてきたが、甲殻類が最も近いと主張する研究結果が相次いで発表されている。
 甲殻類は、エビ、カニを含むだけではなく、ワラジムシ、ダンゴムシなどの陸上性腐食性の種も含む
 こうした陸上性のものが昆虫類の祖先となった可能性がある。

古い時代に分岐した生物の系統関係を明らかにすることは、DNA配列の比較でも極めて難しい。
変異が飽和しており、系統関係を示す情報が得られにくいためである。むしろ、近縁種間の系統関係の方が分子系統では容易に分析できる。

○ 双翅目昆虫の後胸とネジレバネの起源に関する議論 

質問とその答 (Oct 13, 2005)
●昆虫の種数の多い理由がわかっておもしろかった。しかし昆虫のすべてが植食性ではないので、植食性昆虫の全昆虫種中における割合が気になった。 答:約半分です。昆虫は多くのものが(すべてではない)生きた生物を餌としているので、共進化による種分化が起こりやすいと考えられるのです。
●昆虫にここまで多くの種があるのには、授業であった説明の他に、昆虫の体の小ささ等は関係していませんか? 
答:もちろん関係しています。昆虫が牛ほども大きければ、さまざまな消化酵素を持ちうるので、specialistにはならなかったはずです。小型だからこそ制約が生じてspecialistになる
●トビムシなど腐食性の昆虫では一般に種数は少ないのでしょうか。 答:そのはずです。トビムシの種分化はほとんどが地理的に隔離されることが原因になっています。
●未発見の昆虫が何千万もいるという話はにわかには信じがたいのですが、日本にも未発見の種はいるのでしょうか?僕は旅行が好きで北海道の山や湿原にもよく行きますが、新種を発見することもできるのでしょうか。
答:いくらでも新種は見つかります。例えば、草むらを網ですくってみると、小さいカやハエやハチの仲間がたくさん入りますが、これらの1/4くらいは未記載種(新種)か所属不明の種です。チョウや甲虫では、新種が見つかると新聞に出たりしますが、これは例外で、ほとんどのグループで未記載種はあたりまえに見つかります。小さいグループほど未解明。
●昆虫の種の数え方は、「チョウ」や「トンボ」を1つとして数えるのでしょうか。それとも○○チョウ、△△チョウを1つ1つとするのですか。最初の数え方だと多すぎるようで、後の数え方だと75万では足りないように思えるのですが。 答:後の方の数え方をしています。足りない?
●既知の全生物が141.3万種になっていて、その下に書かれている内わけと10万種ほどのズレがありますが、これはなぜですか? 答:すべての生物を載せていないからです。モネラという生物グループが知られているが、これは載せていません。
●実際には、1千万~1億種の生物が存在するといわれているとありますが、それはどのように推測したのでしょうか?
答:毎年新種が報告されますが、よく解明されている生物グループでは、年とともに新種として見つかる種の数が少なくなるはずです(減衰カーブを描く)。一方、未解明のグループでは、長い期間新種が次々と発見されるということが続くはずです。新種発見率が年とともにどのように推移するかをまず調べ、新種発見率がどのくらいの種数のところで頭打ちになるかを推測するのです。
●落ち葉を利用する多足類は葉と昆虫が共進化してる影響を受けないのですか?
答:まず、ほとんど受けないでしょう。多足類の利用する落ち葉は、完全に死んだ状態なので2次的代謝物質もすぐに分解されてしまうでしょう。
●共進化の身近な例があれば知りたいです。 答:後の講義で紹介します。数限りなくある。
●なんで日本にはカブトムシの種類は少なく、クワガタは多いのか?植物との共進化と関係があるのですか?
答:これはそういう問題ではないです。多い少ないの比較は、同じ進化的時間を経ているグループに対して行わなければならないですが、おそらくカブトムシとクワガタでは比較できないでしょう。カブトムシはコガネムシなので、コガネムシのある群とクワガタのある群を比較してどっちが多いかということになるはずです。
●昆虫の半分の種数は植物の種数よりも多いのに植物は絶滅しないのだろうか。答:昆虫の種数が多いということと、食害を与える程度はまた別のことなので、昆虫の種数と寄主植物の絶滅との間には直接関係がありません。
●昆虫は生きた植物を食べる点で近縁なグループと異なるということですが、昆虫の頭部・胸部・腹部に分かれていて足が6本という形と、昆虫だけが生きた植物を食べるということには関係があるのですか?
答:昆虫の体制と植食性とは直接の関係はないです。ダニのあるグループはやはり植食性ですが、脚は8本
●カブトムシの幼虫などは生きた植物を利用していないと思うのですが、ほとんどの昆虫が生きた植物を利用しているのですか。答:カブトムシの幼虫などは落ち葉食なので腐食性。もちろん昆虫の中には、腐食性のものも多いのです。このような群は多様性があまり高くないはずですが、----調べてみる必要あり。
●トノサマバッタの群生相ではあらゆる植物を食害すると聞きます。この場合、トレードオフの関係ははたらいていないのでしょうか。 
答:バッタの群生相では体型や生理状態が変化し、食性の幅が広がることもあると思います。しかし、バッタはもともとspecialistではなくgeneralistです。バッタのこうした変化は、可変性としてとらえることができますが、可変性によって食性がspecialistからgeneralistに変化する例は知られていません。バッタの場合、群生相になったことの(トレードオフを介しての )影響は、産卵数の減少、成長までの時間の長さが関わってきます。
●アメリカシロヒトリなどもかなり広い範囲の寄主植物があるように思えるのですが、国内で分化などは見られるのですか。
答:アメリカシロヒトリのような多食性の昆虫では、寄主植物による分化はありません。日長に対する地理的な変異は見つかっていますが。
●「トビイロウンカ」はどんな虫ですか?
●トビイロウンカは梅雨前線で運ばれるが、その間エサ(食物)はとれないはず。昆虫が食物をとらずに生きられるのは(種によって差があると思うが)およそ何日くらいなのか?
答:数日で日本まで到達するといわれています。移動中は摂食しなくても良い生理状態に変化する。
●現在はトビイロウンカに対してどのような防除をしているのですか。
●結局、トビイロウンカは外国から飛来してくるということだったが現在では具体的な駆除法は発見されているんですか?
答:最も効果的な防除は当然ながら農薬(殺虫剤)によるものです。毎年侵入してくる昆虫ですので、根本的に数をコントロールすることができません。
●日本における害虫災害はトビイロウンカ以外にもあったのでしょうか?またその対策はどのようにとられたのですか? 答:トビイロウンカ以外には、飢饉を引き起こすような大害虫は知られていません。しかし、個々の作物を見れば、大きな被害を与える害虫はたくさんいます。これまではさまざまな種類の殺虫剤によって数をコントロールしてきましたが、消費者の意識の変化もあり、できるだけ化学農薬を使わない方向への防除が模索されています。現在はかつてに比べると、農薬の使用量は大きく減っています。
●現在植物病害というと菌類を中心に起きているようですが、現在でも昆虫による大きな被害は日本でもおきているのですか? 答:大きな被害というほどではありませんが、見栄えの良い作物を市場に出さなければ利益が出ない状況があるので、すべての昆虫を除去するために多量の農薬が使われているのです。現在は、虫害によって収穫量が減る事が問題なのではありません。
●ブドウの根を腐らせるアブラムシは、病気を媒介して腐らせるのですか。
答:いえ、アブラムシ自体の摂食(吸汁)によるものです
●日本でもブドウの産地はあるが、そこではフィロキセラの被害はないのか?ないとしたら日本のブドウは北米産なのか、フィロキセラは日本にはいないのか。
答:日本のブドウ栽培でも北米のブドウを台木として使っています。日本ではフィロキセラの被害はゼロに等しい。
●接ぎ木以外にフィロキセラへの対抗はできないのか?毎年接ぎ木をするのは大変そうだ。北米産の木の研究をしたりして。 答:接ぎ木は毎年行うわけではないです。1度だけ。
●オーストラリアのフィロキセラの被害は接ぎ木法を使っても防除することはできないんですか?
●フィロキセラの被害についてオーストラリアではまだその被害が大きいといわれているが接ぎ木法によってある程度コントロールできるのになぜそのような状況になってしまうのか? 
●全く異なる種類のブドウ同士で接ぎ木が使えるのが不思議だと思った。オーストラリアでも接ぎ木法を利用すればいいのに、と思う。
答:正確なところはよくわかりませんが、オーストラリアでは、接ぎ木を行っていない株がかなり残っている可能性があります。以下のような文章を見つけました「オーストラリアは世界で最も古い幾つかのブドウ品種を誇りにしています。オーストラリアで100年以上経ったシラーズ を見ることは珍しいことではありません。なぜならオーストラリアは、カリフォルニアやヨーロッパほどフィロキセラの被害を受けなかったので、幸いなことに今日まで同じ自根から成長しているブドウ品種が残っているのです」。これに加えて、大面積での栽培なので、ヨーロッパに比べて、農薬量が少ないのかもしれません。
●接ぎ木法は誰がどうして思いついたのですか?
コメント:これはよくわからない。古くからある農民の知恵なのではないか?
●今でも接ぎ木というのは根がだめになったらその都度北米産の根を持ってきて接ぎ木を行うのか。
答:北米からその都度持ってくるのではなく、どの国でも北米産の台木用のブドウを育てている。
●ヨーロッパのぶどうはフィロキセラによって絶滅したとおっしゃっていましたが、では純粋なフランス製のワインは100年以上前のものしか残ってないのでしょうか?少しは純血種が残っていたりはしないのでしょうか?
コメント:純血種とは?フランスのブドウはフィロキセラによって絶滅させられたが、同じ品種の株が外国で栽培されていたのでそれをフランスに戻すことによって再び栽培が始まったわけです。フィロキセラによって完全に絶滅してしまった品種もあると思いますが。
●害虫の防除に非常に興味があります。フィロキセラの「接ぎ木法」による防除等。病理学でも防除については聞きましたが、あまり詳しくなかったので。昆虫の多様性、共進化によることはなんとなくわかりましたが、具体的な例があるとより理解できたように思います。 コメント:後の講義で詳しく紹介します。
●ある種の昆虫と人は同じ作物を消費する点で競争関係にありますが、将来的にこの関係が食い分け、共生、どちらかの絶滅などによって解消されることはありえますか?
答:どこまでも競争関係は続くでしょうが、これからは両者の共生を目指した農業が一般的になるでしょう。
●植物にとっての益虫とはどんなものがいるのか? 答:植物体を食う昆虫を捕食したり、寄生したりする昆虫です。
●1枚目のプリントの「Linnean・・・=族」の[族]は誤字ですか? 
答:誤字ではないです。族=tribe, 属=genusです。
●植物病理防除学で、病原菌の分類がDNA解析で大変複雑になりつつあると聞いたが、昆虫の分類に関してもDNAでの分析が行われることで体系が大きく変わるようなことはあるのか。
答:もちろん大きく変わります。系統学と分類学との関係は、今最もホットな話題です。
●遺伝子を調べて系統関係を調べるとき、遺伝子のどの部分を比べるかは決まっているのでしょうか?
答:調べる対象によって使い分けます。近縁種の場合はミトコンドリアのDNA配列を調べ(一般に進化速度が速い)、古い時代に分岐したグループを扱う場合には核遺伝子の進化速度の遅い領域を使うという、使い分けをします。
●ヒトやイネなどのゲノム解読が既に行われましたが、昆虫のゲノムも解読されたものはありますか?
答:解読が終わったものはまだないかもしれませんが、Drosophilaゲノムの解読などは時間の問題でしょう。
●最近飛んでいるユキムシはどんな虫ですか?
●北海道に来てユキムシがたくさんいるのを見ましたが、本州でも似たようなものがいるのを見たことがあります。本州にもいるのですか?また雪の降る前にたくさん飛ぶのは、その時期に繁殖期が重なるとか特別な理由があるのですか?
●秋元先生の専門とする昆虫は何ですか?
答:ユキムシはアブラムシです。夏の間トドマツの根で育ち、今有翅型が現れてヤチダモに移動しているところです。本州にはユキムシ(トドノネオオワタムシ)そのものもいますし、その近縁種もいます。私の主要な専門はアブラムシで、現在はユキムシおよびその近縁種を使って研究しています。
●三葉虫は体の構造はどのようになっているのか?
答:体節構造。昆虫のように場所ごとに体節が大きく分化することはない。
●昆虫(動物)にも人間でいう性同一性障害みたいなものっているんですか?例えばメスとまちがえてではなく、オスに求愛するオスとかいるんでしょうか?
答:Drosophilaでは突然変異として、オスに対して求愛するオスをつくる遺伝子が明らかになっています。昆虫の場合は単純で、単一遺伝子の突然変異でhomosexualityが発現してくるのです。ヒトの場合も遺伝的基盤はあるだろうといわれていて、遺伝子の位置を特定したという報告もありますが、いろいろな議論があるようです。
●ゴキブリは昆虫なんですか?   答:もちろんYes!なんだと思ったのだろうか?
●イナゴとバッタは違うものですか?
答:イナゴ(何種か含まれる)はバッタ科に包含されます。イナゴはバッタ、逆は真ならず
●海の中の生物に昆虫に近いものは無いのだろうか?海虫(仮)と海藻の軍拡競争があったら面白そうだが・・。
答:詳しくはわかっていないですが、巻き貝類と海草間には軍拡競争があるはずです。
●(図入りの質問です)プラタナスの葉っぱにつく、緑色の甲羅のような形をした毛虫みたいなのはどういう虫なんですか?  コメント:絵を見ただけではわからないですね。現物が必要です。
●今回の授業でふれられた虫コブに興味があります。自宅にあるカイドウに丸いコブがよくつくんですよね。取って切断しても虫はみつからず(おそらく)病気であると思っていたのですが、いくつかそのような事例をあげてもらえれば、と思います。
コメント:丸いコブはタマバチのゴール(虫こぶ)だと思います。ゴールはさまざまな昆虫によって形成され、形、構造がそれぞれ異なります。アブラムシ、タマバチ、タマバエ、ダニによって形成されます。ゴール形成者は最も典型的なspecialistです。カイドウに丸いゴールができるという報告は、稀だと思いますが、これも現物を見たいものです。
●この前の学外研修で、2匹の虫がお尻をぴったりくっつけて歩いていて、離そうとしてもなかなか離れなかったんですが、あれは何をしているのでしょうか?片方がもう一方を引きずりながら歩いていたので、交尾には見えなかったのですが・・。実際に見ないとわからないかもしれないですね。
答:見なくてもわかります。それは交尾です。カメムシではないだろうか?
●「種の定義」はあいまいだと感じました。
答:簡単に紹介しすぎたので、あいまいと感じたかもしれませんが、実際はそのようなことはないのです。種に関する概念はたくさんありますが、実際上分類学者の分類は十分に信頼されています。わたしは「種の定義」問題にも興味を持っています。たとえば、秋元信一「種とは何か」講座ー進化7 東京大学出版会 1992
●日本の博物館はなぜ貧弱なのか?
答:日本では、自然史に対する伝統がない。一方、歴史関係の博物館は多い。

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