環境昆虫学概論  12回目                1月19日、2006

有機農産物 日本農林規格(有機JAS規格)
「播種・植付け前2年以上(多年生作物では収穫前3年以上)農薬を使用せず(別途指定された農薬を除く)、外部からの農薬の飛散や流入を防ぐ明確な区分などの処置を講じていること等を認証機関によって認定された圃場において生産された農産物」
・特別栽培農産物
農薬、化学肥料を慣行農業の5割以下に減らして栽培された農産物。有機栽培の条件以外で作られた無農薬農産物もここに含まれる

有機農産物に対する消費者・流通業者の期待は高い

北海道庁による有機栽培の推進と北海道の適性
 北海道は、本州に比べて害虫の発生数が少ない。農薬の使用量が少なくて済んでいる(積雪のため)
・害虫アブラムシの多くは、7月以降本州より津軽海峡を越えて飛来し増殖。秋に死滅を繰り返す
・コナガも本州から北海道まで夏の時期に移動する。しかし、北海道では越冬できない

有機農産物がそのまま「安全」とは言い切れない
・殺菌剤を用いないことから生じるカビ毒
・食害を受けた葉を利用する場合の安全性は不明

○ 遺伝子組み換え作物と遺伝的多様性
遺伝的均一性
・RR大豆*の問題----除草剤(ラウンドアップ*)耐性雑草の出現
米国南西部(アイオワ州など)では、大豆の85%、ワタの95%がRoudup耐性。ラウンドアップ耐性雑草の出現が問題になっている。ラウンドアップの使用によって雑草相が大きく変化。他の除草剤の開発は事実上とまっている。多種の除草剤を使うピーナッツ栽培をローテーションに組入れることで問題を回避している(農薬ローテーション)

*ラウンドアップ。有効成分名はグリホサート。EPSP(5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素、EC 2.5.1.19)阻害剤で、植物体内でのアミノ酸(トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン)の合成を阻害する(シキミ酸経路参照)。吸収移行型(接触した植物の全体を枯らす)で、ほとんどの植物に効力を有する(非選択型)。
*遺伝子操作によりラウンドアップに耐性を有する作物が開発されている。これはラウンドアップで阻
害されない細菌のEPSP遺伝子を用いる。ラウンドアップ・レディー(RR)と総称される。

RR作物の利点ムム耕地の耕起を減らすことが可能で、保全型農業が可能。土壌の浸食を防げる。除草剤
         使用量を減らせる(この利点は失われつつある)
RR作物の欠点ムム除草剤への依存を増やし、農耕地の多様性を失わせる

・BT作物-----耕地内の遺伝的多様性を高める取り組みが行われている。
 BT作物に対する抵抗性アワノメイガを防ぐための避難所の設定(Btコーンとnon-Btコーンの混植)
  Btコーン抵抗性(Btコーンを食べても死なない)は「劣性」遺伝子で支配されている。このため、優性の感受性遺伝子を残せば、抵抗性の出現は低いレベルに抑えることができる

さらに、Btとは異なる作用機構を持つ農薬を適用することによって害虫数を大幅に減らせるとの提案がなされている

遺伝子組み換え作物の功罪
・3つの危険性
1) 遺伝子組み換え作物が農地の雑草となったり自然生態系に侵入する危険性
2) 遺伝子が花粉により近縁の野生植物に移行しその子孫が雑草となる危険性
3) 人間や家畜、野生生物に対して、毒性をもつ、あるいはアレルギーを引き起こす

・Btコーンの花粉でBt遺伝子が発現。花粉は60m以上飛散するので昆虫に有害
Btコーンの花粉を畑で見られる密度になるようにトウワタの葉に振りかけ、オオカバマダラの幼虫に摂食させると、non-Btコーンの花粉に比べて有意に生存率が下がった(Bt 56%, non-Bt 100%)

・これに対して、Btコーンの花粉濃度では、オオカバマダラの集団に大きな影響はないだろうとの結果も発表されている
・Btコーンを食べたツトガの一種に寄生した寄生蜂に悪影響が現れるとする報告もある
・Bt遺伝子は可食部分でも発現している。ヒトが食べた場合、胃が酸性のためにBtタンパク質は分解される。ただし、病変があった場合、乳幼児への安全性は未確認
・Bt大豆においてはアレルギーが確認されている

結論:現在のGM作物は大規模単一作を前提にして設計されており、それによる弊害が大きい。IPMの理念と一致する新たな品種群への転換が求められる

○ 個体群動態学からの予測
  指数的増加、内的自然増加率(r)、自己制御、収容力(K)
  ロジスティック曲線

内的増加率 r ≒ ln R0/T   T --- 平均世代時間 R0 ---メスが次世代に残す平均メス数
世代時間の短さがrを高める

*専門化した天敵は害虫の大発生を防げない:害虫ー天敵の関係
  ロトカ=ボルテラ方程式 ------- 食うものと食われるものとの関係を数式で記述する
  害虫密度の振動;リミットサイクル
     生物の数は、天候とは無関係に変動する
  遅れの密度依存性    個体数の振動(振幅)を増幅する
  殺虫剤のマイナスの効果
   リサージェンスはロトカ=ボルテラ式から予測できる

* 広食性捕食者の有効性
   天敵密度を常に高く保つ--耕作地での生物多様性の維持 
    天敵の代替餌を確保することが重要

質問とその答 (1月12日, 2006)

【農薬の作用機構】
●害虫が薬剤抵抗性を獲得する過程で、アブラムシの解毒遺伝子の重複の話があったが、あれはその遺伝子がトランスポゾンの内部にあったりするため、重複が起こるのでしょうか。
答:遺伝子が重複する理由はいくつか想定されています。減数分裂の際の不等交叉と遺伝子変換が主要なものです。害虫アブラムシは有性生殖を行わないものが多いので、遺伝子変換が主要な役割を果たしていると考えられます。遺伝子変換とは、ある遺伝子が、酵素の作用によって自分自身のコピーをその遺伝子の近傍に作り出すことです。この2つの要因が関わっていると、遺伝子クラスターが作られます。トランスポゾンによってある遺伝子が別の場所に運ばれると言うことがありますが、その場合には別の染色体とか同じ染色体の離れた場所に運ばれることが多いと思います。
●昆虫が農薬に対して解毒によって抵抗性を示すとき、遺伝子重複による遺伝子の発現はどのように起こるのか?
答:どの遺伝子の場合も同じですが、薬剤に反応して(エンハンサー、プロモーターと複合体を形成し)遺伝子が活性化され、mRNAが転写されます。重複した遺伝子では、エンハンサー、プロモーターを共有している場合があります。
●害虫が獲得する抵抗性のうち、感受性の低下はどのように起こるのでしょうか。
答:感受性にも、個体によって変異があります。例えば、昆虫のアセチルコリンエステラーゼが薬剤によって分解され、シナプスでの化学伝達に障害が生じるという場合、アセチルコリンエステラーゼをもともと多量に合成している個体や比較的少ない量しか作らない個体が存在することが考えられます。もしそういうことがあれば、薬剤の効き方も違ってくると考えられます。また、特定の個体がアセチルコリンエステラーゼとその薬剤との親和性を低下させる性質を持てば、その薬剤はあまり効かないことになりますから、その個体が選抜されることになります。

【農薬の危険性?】
●天然の農薬様物質は動物性の食物にも含まれますか?
答:含まれません。ただし、古くなったものに関しては、別の発ガン性物質が作られることは考えられます。
●「天然の農薬様物質 52物質」とありましたが、これは植物の2次代謝物質の「一部」ですか?「(わかっているもの)全部」にしては数が少ないように感じたので。
答:植物の2次代謝物質は数限りなくありますが、そのうちのごく一部の、手に入りやすい52物質について調べたということです。
●図にある、薬剤などによる損失余命は、その量をどれくらい摂取した場合の数値なのですか?農薬類は人体に無害といっても、誤った量で使用したりした場合でも大きな害はないのでしょうか?
答:普通に生活している人が平均的に摂取する、あるいは暴露する量から推定しています。特定の化学物質に常に接している人に対しては、別の推定を行わなければなりません。もちろん安全な物質と言っても、尋常でない量を摂取すればすべて危険です(塩でも砂糖でも)
●ガン発生へのリスクのランキングがありましたが、作物が自ら作り出す抵抗物質によって最も影響を受けていることに驚きました。もし農薬を与え続けて植物に害虫がつかないようにしたら、植物がこのような抵抗性物質を作り出さなくなったりはしないのでしょうか?そうなればむしろ農薬を使った方が人が管理できるという点でも安心なような気がしました。
答:はい、日常利用している作物は味覚の点で人為選抜を受けてきたものですが、人にとっておいしく感じられると言うことは、植物の2次代謝物質をあまり持たないタイプを選抜したことになります(苦み、渋みを持たないと言うことです)。しかし、すべての2次代謝物質を除くことは困難です。指摘されているのは、植物の誘導防御(昆虫に食害を受けた時に誘導されるジャスモン酸などの物質)の影響のことだと思いますが、無農薬で作物を作れば、しばしば虫食いだらけの葉になります。このような作物を農薬が使われていない安全な食べ物と考える人もいますが、このような葉には誘導された化学物質が多量に含まれていることのリスクも考えておく必要があります。無農薬栽培では作物が糸状菌に覆われていることがあり、それを取り込むことのリスクも無視できません。現在のところ、虫食い葉のリスクは厳密には評価されていないようです。農薬を使えば、誘導防御によって作り出された物質が人体に取り込まれるリスクは減らせます。農薬を使うリスクも、使わないことに伴うリスクもあるということです。
●日常の食べ物にガンの原因となるものが多く、その理由が植物の2次代謝物質ということでしたが、ガンの原因としては、肉・魚よりも植物による原因が強いのですか?
答:植物は昆虫、菌、哺乳類に食べられないようにさまざまな化学物質を作り出しています。そのため発ガン性の物質も多いのです。新鮮であれば、肉、魚には植物ほどの発ガン物質はふくまれないと思います。ただし、製品化されたものには食品添加物が含まれますから、それはそれである程度の発ガンのリスクはあると思います(このリスクもさまざまに議論されているところです)。
●発ガン性の2次代謝物質で私たちがよく口にするものは何ですか?またその物質は何に多く含まれているのですか。
●日常の食べ物で特に発ガン性の高い食べ物は何でしょうか。
答:ピーナッツやピスタチアなどナッツ類のカビがこれまで知られた最強の発ガン物質です(熱帯地域では特に注意が必要)。ワラビやゼンマイのアクにも発ガン物質が含まれていると言われます。一般には、山菜類は農薬様物質を多量に含みます(植食者から身を守っているので当然ですが)。
●農薬の安全性はわかったが、ならばなぜ現在有機農薬が注目されているのか?話を聞いていると農薬を用いた農業でもいい気がする。
答:現在の農薬は基準通りに使っていればほとんど心配する必要のないレベルまで安全性が高まっています。これは「科学的主張」ですが、科学的な主張がそのまま社会に受け入れられるわけではありません。「社会の価値感」は「科学的主張」とは若干ずれている場合がよくあり、科学的に正しいからといって性急にその主張を押し通す必要はありません。長い時間をかけて、科学者・生産者・消費者が合意形成を得られるように議論を重ねるしかないと思います。議論の土台となるために、リスク評価が今後重要になってきます。農薬を使う場合のリスクと使わない場合のリスクを客観的に評価する必要があります。
 もう一つ忘れてはならない点があります。食の安全という点からは現在の農薬がそれほど心配するものではないとしても、日本の農薬使用量は世界的に見ても断トツに多いのです。人への影響はほとんどないとしても、環境全体を考えた場合には、できるだけ農薬を減らしていくことは絶対に必要です。農薬によって害虫以外の昆虫、節足動物を激減させたり、リサージェンスを引き起こしたりするわけですから、多様性を保全するという観点からは農薬は望ましくないわけです。
●農薬に対する過剰な悪いイメージを消費者から軽減するにはどのようにすれば効果的でしょうか?
答:気長に宣伝していくしかないと思います。実は、農薬の専門家はそれほど数多くいるわけではありません(遺伝子の専門家はたくさんいますが)。現在では、新しいタイプの殺虫剤が使われており、安全性は20年以上にわたって確認されているということをわかりやすく社会に対して伝える役割の人達を養成する必要もあるでしょう。政府もようやく本腰を入れて「サイエンスコミニュケーター」を養成することを考えているようです。長期的に農薬の使用量を減らしていくことは絶対に必要です。しかし、適切な量を、適した時期に使用することは、何の問題もないと私は考えています。

【総合的害虫管理】
●ミナミキイロアザミウマはキャベツにどのような害を与えるのですか?また、ナミヒメカメムシはもともと日本にいたのですか?
答:ミナミキイロアザミウマはキャベツには付きません。ナス、トマト、ピーマンなどです。摂食によって葉を黄変させたり、委凋させます。ナミヒメカメムシは日本在来種です。
●水田にカモを放して虫を防除するという方法を見たのですが、どの程度効果があるのでしょう?
答:小面積で試しにやってみるにはよいと思いますが、アイガモを飼うわけですからその手間はかなりのものだと思います。羽を切る、犬猫からの被害を防ぐために電線を張る、市場に出すための捕獲・処分など考えると、大規模に行うのはむずかしいのではないでしょうか。
●マルチシートでアブラムシの飛来を抑制したとして、マルチシートを敷いていないところにある植物に飛来数が増加するようなことはありますか?
答:いずれどこかに飛来するわけですから、他の植物により多く飛来するということはあるかもしれませんが、アブラムシが利用するのは作物ばかりではありませんから、あまりその点は深刻に考えなくても良いと思います。
●アスパラギンが少ないと被害が少ないということでしたが、ウンカ類はそれをどうやって区別するのですか。見ただけではわからないと思うので、においをかいだり食べたりするのですかね。
答:ウンカ類はセミと同じくストロー状の口を持っています。本格的に吸汁を行う前に、試しに吸汁し、好適でないとわかれば他に移動してしまいます。アスパラギンは摂食促進物質です。
●ミカンコバエでオス個体を不妊したということですが、どうしてオス個体に対して行ったのですか。選抜した理由は何なのでしょうか。
答:ミカンコミバエでは、フェロモントラップによって徹底的にオスを捕獲し、それによって未交尾メスを増やし、根絶に追い込んだのです。メスを捕獲するのは困難ですが、オスはフェロモントラップに簡単に引っかかります。
●沖縄のウリミバエなどは、根絶するまではその個体数はあまり変わらない(不妊化されたものを人工的に放すので)ようですが、根絶後は一気に0になってしまう。捕食者など、生態系への影響はなかったのだろうか。
●不妊化処理でウリミバエを根絶することで、生物多様性の面で悪影響はないのですか?
●ウリミバエを人間の勝手で全滅させてしまって、沖縄の生態系への影響はなかったのですか?
答:ウリミバエは沖縄在来の種ではなく、東南アジアから沖縄諸島に侵入した害虫です。沖縄には、ウリミバエに特殊化した寄生者はいません。したがって、ウリミバエを絶滅させても、生態系には大きな影響は生じないと考えられます。
●赴任虫放飼による害虫の根絶。すばらしいと思うが、放った瞬間の虫の数は莫大なのでは?
答:莫大な数です。最盛期には、一週間に2億匹を放したと言われています。
●不妊化処理でウリミバエは完全に除去することができるんですか?野生型が少しでも残る気がするのですが・・
答:ウリミバエは完全に除去することができました。わずかに残った野生型がいても、その個体のまわりは不妊虫ばかりですから、その野生型は不妊虫と交配し、結局子孫を残せなくなります。
●授業で紹介された例以外でも農薬を大量に使わずにうまく完全に防除できたような例はありますか?
答:不妊虫放飼によって害虫を根絶させた例は他にもあります。この方法はアメリカでラセンウジバエを根絶するのに用いられたのが最初です。ウリミバエの根絶事業の後はこのような試みはほとんど行われていないようです。
●実際、日本の農業における農薬の使用量は欧米と比べて多いのですか。アメリカなどでは遺伝子組み換え作物が一般的に認可されているようで農薬を少なくして栽培できているのでしょうか。
答:農薬に関しては、2002年耕地面積あたりの使用量の比較で、OECD加盟諸国のうち、日本が1位で1.50トン/k㎡、2位は韓国、ついで、オランダ、ベルギー、ニュージーランド。1994年のOECD資料では、オランダ2.0トン/k㎡で1位、ついで、日本1.7、フランス0.5、西ドイツ0.4、イギリス0.3、デンマークとアメリカ0.2です。オランダは、この間農薬使用の削減政策をとり、農薬量を半減させました。これは日本でも出来ることです。遺伝子組み換え作物は、農薬を減らせることをメリットとしていますが、実際には農薬使用量はそれほど減っていないというのが現状のようです。
●ササニシキとササニシキBLは、共にいもち病に抵抗性はもつものですか?そしてこの2つは「ササニシキ」として混合して売られているのですか?
答:ササニシキBLの方がいもち病に抵抗性を持つタイプです。販売上は、どちらも「ササニシキ」として扱われていると思います。品種としては同じですから
●ブレンド米というのは米を安くするためにではなく、全て病虫害対策のためなのでしょうか?
答:ブレンド米というのはいくつかの品種の米を混ぜて販売することだと思いますが、これは直接混植とは関係ないです。混植は栽培方法で、病虫害対策です。混ぜると言っても同じ品種内(コシヒカリなど)のsubraceです
●クモ類は害虫の天敵として農業上大変大事な存在ですが、衛生的にはどうなのでしょうか?部屋でクモを見かけるととても嫌なので。衛生的にはあまり問題ないのなら少しはかわいがろうかと思いますが・・
答(TA):クモは、ハエ・ダニ・カなどの衛生害虫のように病原体(細菌、ウィルス)を媒介するわけではありません。むしろ虫をとってくれるので、かわいがってあげてください。(秋元):IPMでは、generalな捕食者として、最も重視する生物です
●セイヨウオオマルハナバチが野外に出て行っているという話がありましたが、昆虫だと外に出て行ったものを殺すことは難しいだろうと思う。なぜ日本にいる昆虫ではなく、輸入したセイヨウオオマルハナバチを使うのですか?
答:マルハナバチを人工飼育することはたいへんむずかしいのです。まして、農家の注文に応じていつでも発送できる体制をとるには大きな企業でないと困難です。日本のマルハナバチでも、人工授粉用に現在改良が進んでいます。
●セイヨウオオマルハナバチのお話でこいつらが外に逃げたとき、具体的に何か対策(今度から気をつける、とかではなく、その逃げた個体そのものに対する対策)ってするんですか?放置すると確かにヤバめですが、かといって外に出て行った個体を全て見つけるのは相当がんばっても無理ですよね?
答:すべてを根絶させることは困難かもしれません。現在では北海道でもかなり見られるようになっているとのことです。環境省は現在、セイヨウオオマルハナバチを「特定外来生物」に指定するための手続きを行っていますが、正式に指定されると、環境省によって駆除が行われることになるでしょう。
●セイヨウマルハナバチの嫌がるフェロモンがあれば、それを出入り口に散布することで問題はなくなるのではないでしょうか?
答:今後は厳重にネットを張るなどの方法で野外への逃亡は防げると思いますが、すでに野外に逃げ営巣しているものに対しては別の方法を用いなければなりません。野外で、セイヨウオオマルハナバチは繁殖を行っています。
●トマト施設栽培用受粉昆虫でセイヨウオオマルハナバチがあげられていましたが、他に今使われている昆虫はありますか?
答:トマトに関してですか?トマトではセイヨウオオマルハナバチだけです。日本では、かなり古くからリンゴの受粉のためにマメコバチを用いてきました。リンゴ畑の中に、竹筒に入ったマメコバチの巣をたくさん置き受粉に使います。身近な例を忘れていましたが、これは重要なIPMの実例です。マメコバチを販売している会社もあります。
●昆虫体系学分野では、具体的にIPMの研究を行っているのですか?
答:行っていません。昆虫学あるいは応用昆虫学の研究室は他大学の農学部でもいくつかありますが、どこも生態学、生理学、病理学、分類・系統学などの基礎的な学問を行っています。IPMの研究は、国や都道府県の農業試験場が担当しています。

【個体群動態学からの予測】
●害虫密度の振動:リミットサイクルについて、生物の数は天候とは無関係に変動するとあったが、長い期間で考えて、例えばずっと雪が降るというような天候(気候)の場合、それなりに変動における関係はあるのでは?
答:今週の話題ですが、生物は食うー食われるの関係を通じて、常に数が変動しています。仮に気象条件が全く同じでも変動は起こるということでして、環境の変動が加われば、さらに変動の振幅は大きくなります。

【その他】
●本筋からややずれますが、化学物質のリスクにおいて、石綿とダイオキシンはどちらがリスクが高いのでしょうか。
答:現在のところは、石綿の方がリスクが高そうに思えますが、石綿に対しては、私は全然判断するデータを持っていません。本当のところは、数年たたないとよくわからないのではないかと思います。内分泌撹乱物質やダイオキシンの影響も、ようやく最近、客観的なデータを目にするようになりました。
●今年の夏もユキムシは大量発生するのでしょうか。
答:今年の夏がどれくらい暑いかによります。今はまだわかりません。
●虫にも痛覚はありますか?
答:それに似た感覚はあるでしょう。

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