環境昆虫学概論 11回目 1月12日、2006
1) 農薬に依存した農業の問題
○撲滅剤から選択性農薬へ
・有機リン剤
・カーバメート剤 神経系に作用する。神経系は昆虫もヒトも
・ピレスロイド剤 大きな違いは見られない
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新しいタイプの殺虫剤
・昆虫成長制御剤(IGR)
・BT剤 昆虫独特の生理機構に作用する
・性フェロモン剤 ヒトに対する毒性は完全に無視できる
○農薬の作用機構
交差抵抗性・複合抵抗性
抵抗性の遺伝 (2つのケース)
1遺伝子座---メンデル性の単一主働遺伝子
ポリジーン---量的遺伝
新薬剤開発の経済的コスト
リサージェンス ----- 農薬を散布すると害虫が散布前より増える現象
害虫そのものよりも、その天敵を殺してしまったことから生じる。
農薬ローテーション、協力剤、農薬混用
○農薬の危険性?
通常の作物にも植物の2次代謝物質が含まれる----天然の農薬様物質 52物質のうち半数は発ガン性
ヒトが摂取する農薬様物質の99%は天然由来
○ 総合的害虫管理
「すべての適切な防除手段を相互に矛盾しないかたちで使用し、経済的被害を生じるレベル以下に害虫個体群を減少させ、かつ低いレベルに維持するための害虫個体群管理システム」(FAO,
1967)
総合的害虫管理の方法(耕地の生物多様性を高める方法) 単一作、一斉耕起、一斉防除からの転換
物理的方法---捕殺・誘殺・マルチ・不妊化処理
化学的方法---殺虫剤・誘引剤・交尾阻害
耕種的方法---栽培時期の調節・発生環境・耐虫性品種、輪作、混作、
生物的方法---生物農薬・天敵利用
IPMの実例ムムキャベツの害虫、ミナミキイロアザミウマの防除
耕種的方法 -- 混作・混植
稲作 イネの複数の品種を混ぜて栽培 → いもち病に対する抵抗性が増す
・中国
いもち病抵抗性の品種と抵抗性を持たない品種を混植 → いもち病発生率94%低下
アジア各国で試みられるようになった
・日本
いもち病に対して異なる抵抗性遺伝子を持つササニシキの複数品種を一定の割合でブレンドする
----ササニシキBL 同様の例がコシヒカリBL これによって殺菌剤を減らせる
混植 害虫の発生を抑制する機構
(1) 単作では害虫の資源が集中 移動分散にコストがかからない
混作では大きなコスト---害虫の分散を増大させる
(2) 天敵の多様性が保たれやすい
*日陰、土壌病菌、害虫忌避
・IPMではジェネラリストの天敵を重視する。スペシャリストの天敵では害虫の発生を抑えきれないため
・生物農薬としての天敵、天敵生産会社
*不妊化処理
ウリミバエ、ミカンコミバエの完全防除
・IPMとトマト施設栽培用受粉昆虫 セイヨウオオマルハナバチ
・有機農産物 日本農林規格(有機JAS規格)
「播種・植付け前2年以上(多年生作物では収穫前3年以上)農薬を使用せず(別途指定された農薬を除く)、外部からの農薬の飛散や流入を防ぐ明確な区分などの処置を講じていること等を認証機関によって認定された圃場において生産された農産物」
○ 遺伝子組み換え作物と遺伝的多様性
・RR大豆*の問題----除草剤(ラウンドアップ*)耐性雑草の出現
米国南西部(アイオワ州など)では、大豆の85%、ワタの95%がRoudup耐性。ラウンドアップ耐性雑草の出現が問題になっている。ラウンドアップの使用によって雑草相が大きく変化。他の除草剤の開発は事実上とまっている。多種の除草剤を使うピーナッツ栽培をローテーションに組入れることで問題を回避している(農薬ローテーション)
*ラウンドアップ。有効成分名はグリホサート。EPSP(5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素、EC 2.5.1.19)阻害剤で、植物体内でのアミノ酸(トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン)の合成を阻害する(シキミ酸経路参照)。吸収移行型(接触した植物の全体を枯らす)で、ほとんどの植物に効力を有する(非選択型)。
*遺伝子操作により、ラウンドアップに耐性を有する作物が開発されている。これはラウンドアップで阻
害されない細菌のEPSP遺伝子を用いる。ラウンドアップ・レディー(RR)と総称される。
RR作物の利点ムム耕地の耕起を減らすことが可能で、保全型農業が可能。土壌の浸食を防げる。除草剤
使用量を減らせる(この利点は失われつつある)
RR作物の欠点ムム除草剤への依存を増やし、農耕地の多様性を失わせる
・BTコーンと種子の汚染
抵抗性アワノメイガを防ぐための避難所の設定
○ 個体群動態学からの予測
指数的増加、内的自然増加率(r)、自己制御、収容力(K)
ロジスティック曲線
内的増加率 r ≒ ln R0/T T --- 平均世代時間 R0 ---メスが次世代に残す平均メス数
世代時間の短さがrを高める
*専門化した天敵は害虫の大発生を防げない:害虫ー天敵の関係
ロトカ=ボルテラ方程式 ------- 食うものと食われるものとの関係を数式で記述する
害虫密度の振動;リミットサイクル
生物の数は、天候とは無関係に変動する
遅れの密度依存性 個体数の振動(振幅)を増幅する
殺虫剤のマイナスの効果
リサージェンスはロトカ=ボルテラ式から予測できる
* 広食性捕食者の有効性
天敵密度を常に高く保つ--耕作地での生物多様性の維持
天敵の代替餌を確保することが重要
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環境昆虫学レポート
テーマ:講義を聴いて興味を持てそうなテーマを自分で設定し、それについてさらに調べて、考察を加えること。自らテーマを設定するのが難しい場合、以下のテーマを選んでください
「害虫の薬剤抵抗性はどのように発達するかを述べ、害虫の総合防除について概説すること。これからの農業について意見を述べること」
・言語 日本語、英語どちらでも可
・長さ レポート用紙で3枚以上。 上限はないが、長いほどよいというわけではない
・締め切り 1月30日(月)5時まで
・提出先 南327(3階) 秋元の研究室 右横のレポート箱 提出した人はレポート箱の名簿に丸をつ
けて下さい
・評価する点 オリジナルな考え、説明のしかた、感想がどれだけ含まれているか(どれだけ自分の言
葉で説明しているかが重要。ホームページの文章のペーストや参考書の丸うつしはダメです)
・その他 各種の資料を参考にすることはもちろんかまわないが、引用文献として挙げること。
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質問とその答 (12月22日, 2005)
●コナガやハダニは2~3年で抵抗性をもち、BT剤やIGR剤にも抵抗性を示し始めているとのことですが、新薬の開発が追いつかないような気がします。現在一番有力な防除・駆除方法はどういうものですか?農薬のローテーションで何とかなっているのですか?
答:農薬のローテーションで何とかなっています。どんな薬も効かず、作物を食い尽くしてしまう害虫は現在では見られません。しかし、抵抗性の発達のために、最近では全く新しいタイプの(BT,
IGRにつづく)新薬の開発は行われていないようです。
●コナガ・ハダニは2~3年で新薬に対する抵抗性を獲得するということでしたが、過去に獲得した薬剤抵抗性は維持されているのでしょうか。
答:いえ、その薬を用いなければ、抵抗性は低くなっていきます。薬剤抵抗性の個体というのは、殺虫剤が撒かれている環境では強いのですが、殺虫剤が存在しない環境では、感受性(一般タイプ)個体との競争に簡単に負けてしまいます。
●ウンカやハダニなどが薬剤に対する抵抗性を獲得するのが他の昆虫より早いのは、単に体が小さくて薬剤にさらされる頻度が多いために選択圧が高くなるからですか?トウモロコシなどを食害するアワノメイガの仲間などには、今のところBT菌の毒素に対する抵抗性が生じているとは耳にしていませんが。
答:ウンカやハダニが抵抗性をすぐ獲得してしまうのは、年あたりの世代数が多く、抵抗性タイプの選抜が短期間で可能なためです。年1世代の害虫であれば、抵抗性の発達は翌年以降にしか見られませんが、年に何回も世代を繰り返す昆虫であれば、その年のうちに抵抗性個体が現れます。アワノメイガはトウモロコシの害虫として有名ですが、BT-トウモロコシに対してもすでに抵抗性を持つ(BT-コーンを食べる)タイプが出現しています。抵抗性アワノメイガの蔓延を防ぐために、どのようなことが行われているのかについて講義で紹介します。
●農薬ローテーションをやることだけでは、病害抵抗性害虫の大量発生という問題は解決されないのですか?
答:そこそこ解決されていると見るべきでしょう。もう農薬が使えないという状況ではありません。1種類の撲滅剤を用いていた時代には、抵抗性害虫はきわめて脅威でしたが、現在は複数の作用機構の異なる薬剤を用いることで、かなりの程度、害虫を抑えることができます。ですから、現在の農薬でもわれわれが生きている間くらいは十分に害虫を抑えることはできると思います。
●抵抗性をもつ害虫に対抗するため農薬のローテーション使用などを行い、害虫を殺すのではなく発生数を管理し低いレベルに抑えるというのは、今のところはいいと思いますが、いつか全ての既存薬剤に耐性をもつ昆虫がたくさん出てきそうで不安なのですが、どうなのでしょうか?
答:BTやIGRが登場してからすでに何10年にもなりますが、すべての薬剤に対して耐性を持つ害虫は登場していないです。神経系に作用する殺虫剤と、消化器系に作用するBTでは働きが全く異なりますし、さらにIGRを加えると、さまざまな防除方法を考えることができます。最近では、農薬の使用量が全体として減少しており(食の安全性のためと農家の経済的問題のため)、このことが抵抗性害虫の出現をむしろ減らしていると言えるようです。
●農薬は害虫の抵抗性を高めますが、それに対する対策はあるんですか?
答:対策は、農薬ローテーションということです。あるいは、その農薬に対して、昆虫に抵抗性を発達させにくくする「協力剤」を見いだすことですが、なかなか良いものが見つかっていないようです。将来は、農薬と協力剤を同時に撒くと、害虫に効き、なおかつ抵抗性も発達しないと言うことが可能になるかもしれません。
●新農薬の開発コストはなぜそんなに大きくなるのですか?必要とされる技術力の高さ、規制の厳しさによるものですか。
答:新しい薬剤を見つけることは、多くの化合物の中から選抜するわけですから、後の時代ほどむずかしくなるのは理解できるでしょう。もちろん、農薬は「農薬規制法」によって厳重に規制されていますから、ハードルはどんどん高くなっています。
●IGRは糸状菌の細胞壁のキチン合成を阻害する、殺菌剤としても働くことはないのでしょうか。
答:良い視点ですね。IGR自体が効くかどうかわかりませんが(たぶん効かない)、糸状菌のキチン合成を阻害する物質を探求する研究は行われていて(キチン結合性蛋白質)、昆虫と糸状菌の両方に効く薬剤が探索されています。植物体に入り込んだ糸状菌であれば、植物が根から吸い上げるタイプの薬剤を使わないとまずいわけですが、昆虫用のIGRは根からは吸収されません。
●夏によくハエに殺虫剤をかけます。毎年新しい殺虫剤が出回りますが、あれはやはりハエに薬剤抵抗性が出現してきたからでしょうか?
答:家庭で使う殺虫剤はピレスロイド系だと思いますが、家庭ではすべてのハエに薬剤をかけるわけではないので(数匹殺すだけなので)、抵抗性は発達しないでしょう。毎年新しい殺虫剤が出回るのは別の理由だと思います。
●リサージェンスの害虫が増える場合の原因も天敵なのだろうか。フェロモン剤などでも薬剤抵抗性はつくのか?
答:リサージェンスの原因は天敵が減少したためです。フェロモン剤では抵抗性は現れません。もし「抵抗性」を獲得してしまうと、オスはメスのフェロモンに引きつけられなくなり、子孫を残せないからです。
●リサージェンスによる、今まで害虫ではなかった昆虫の害虫化の例ではどのような例が知られてますか?
●リサージェンスの問題にならなかった昆虫の害虫化について、具体例などを教えて欲しいです。
答:アザミウマを防除するために殺虫剤を用いると、ハダニの発生が誘導される例が有名です。
●農薬散布後になんでもない虫が害虫となってしまうのはどのような仕組みで起こるのでしょうか?
答:天敵である寄生蜂、捕食者は農薬に弱く、抵抗性を発達させられないために、農地環境では天敵類がまず絶滅し、それに伴って、薬剤抵抗性を示す害虫の大発生が生じます。
●薬剤抵抗性をもつために必要な因子とは、どういったものでしょうか?農薬の毒性を解毒化できる機構があるということですか?あるとすれば、どうしてそれをもつようになったのでしょうか?
答:生化学的な機構がすべて明らかになっているわけではないですが、神経性に影響を与える化学物質はさまざまな種類があり、寄主植物の2次的代謝物質も神経系に影響を与える毒の一つです。植食性昆虫は植物の2次代謝物質を解毒することによって生活しています。殺虫剤による毒物質もそうした毒の一つですから、植食性昆虫は、通常の遺伝的変異の中で新たな毒物質に対抗できると言えるでしょう。これに対し、寄生蜂は毒物質に取り巻かれているわけではないので、集団中に毒物質を解毒する遺伝的変異を含んでいないのだと理解できます。
●劣勢の抵抗性遺伝子とはどのようなものですか?タンパクを作れなくなることで抵抗性をもつということですか?
答:遺伝学でいう「劣性」は理解していますか?ある遺伝子座でヘテロの組み合わせA1/A2が生じた時に、このヘテロ接合体がホモ接合体A1/A1と同じ形質を発現させるか、A2/A2と同じ形質を発現させるかで、A1が優性か劣性かが決まります(前者の場合が優性)。適応度とは関係ありません(劣っているという意味ではない)。ヘテロになった場合に、A1とA2のどちらが表現型により大きな影響を与えるかを示す概念です。A1が薬剤抵抗性遺伝子だとすると、優性の場合も劣性の場合もありますが、劣性であればその遺伝子はゆっくりと増加し100%に達します。一方、優性であれば急速に100%近くまでは行きますが100%には達しません。この場合、優性遺伝子も劣性遺伝子もタンパク質を合成しています。高校で生物を習わない人が多いためか、対立遺伝子の劣性と優性について理解していない人が多いように思えます。ぜひ理解しておいてください。有害遺伝子は、ヒトを含めてどの生物にも一定の割合で見られますが、有害遺伝子が生物集団に保たれ、遺伝的多様性の大きな要因となっているのは、有害遺伝子が多くの場合「劣性」を示すからです。
●RR大豆の問題で、除草剤耐性雑種の出現とあったが、これは遺伝子組み換えをしたことにより進化したということなのか?
答:今回述べますが、RR大豆を栽培すれば、除草剤をまいてもその大豆は枯れずに、雑草だけが枯れていき、都合がよいわけです。しかし、農家はつい多めに除草剤を撒いてしまうために、除草剤に対して抵抗性を示す雑草が現れたということです(殺虫剤抵抗性の昆虫の出現と全く同じ仕組みです)。抵抗性雑草の出現は、遺伝子組み換え作物による直接の影響ではなく、農薬の撒きすぎから生じた問題です。
●以前に沖縄かどこかで害虫の不妊処理をして防除したというのを聞いたことがありましたが、今では一般的に使われているのですか?
答:これも今回述べます。面白い方法ですが、一般的な方法ではありません。
●雑食性の家屋性ゴキブリも薬剤に強い(抵抗性を獲得する)イメージがあるのですが、本当のところはどうなんでしょうか?
答:家庭にいるゴキブリは薬剤抵抗性は発達していないと思います。常に薬剤散布を受けている集団だと、抵抗性を身につけたものもいるかもしれませんが、ちょっと考えにくいです。
●生物農薬として最も普及しているものはどんなものですか。
答:ミナミキイロアザミウマに寄生する寄生蜂だとおもいます。施設栽培(温室など)のピーマン、トマトを加害するミナミキイロアザミウマの個体数を制御するために用います
●農薬の影響は、耕地のまわりの森林などの生態系にも及んだりしないんですか?
答:農薬の飛散距離についても調べられていますが、現在使われている農薬に関しては、ほとんど心配する必要はないようです。
●昆虫の体内にいる細菌によって農薬の薬剤耐性を獲得することはあるのですか?
答:これまでの報告では、共生細菌が薬剤耐性と関係しているという報告はありません。寄主昆虫と共生細菌とは栄養物のやりとりが主なので、薬剤耐性に関しては関連性が薄いようにも思いますが、将来は何か見つかるかもしれません。例えば、エンドウヒゲナガアブラムシにおいて、クローバーに寄生する系統は特別な共生生物を持っていて、この共生生物がいるためにクローバーに適応できることが明らかになっています。同じように、ある種の殺虫剤に抵抗できる性質は、特定の共生生物を持っているためだ、ということが将来ひょっとするとわかるかもしれません。
●前回の質問の続きなのですが、自分の意志でオス・メスの卵を生み分けるというのはどのような意味なのかわかりません。また最適な性比とは、どのような環境でも同じなのか?ある環境ではWolbachiaの寄生による性比が適応のピークにあたることもあるのではないか?
答:奇妙なことに、膜翅目(ハチやアリ)のメスは、自分の意志でオスとメスを生み分けることができます。膜翅目は独特の性決定様式を示し、オスは半数体(n)で、メスは倍数体(2n)です。つまり、メスの卵巣にある卵が受精せずに生まれると、そのままオスに発生していきます(卵を実験的に卵巣から取り出してもオスに発生する)。一方、受精嚢において卵が精子と融合し、受精が起こるとその卵はメスに発生します。したがって、産卵中のメスは、卵をメスに(娘)にしようと思えば、精子を蓄えている袋(貯精嚢)から精子を送って受精させます。卵をオスに発生させようと思えば、受精をさせずに卵をそのまま生み出します。膜翅目の研究者によると、産卵中のメスバチの行動を見ていると、次生まれる卵がオスになるかメスになるかが区別できるのだそうです(メス卵を生むほうが時間がかかる)。
大きな集団で、多数のオスとメスが交配し合う環境ではオス:メスを1:1で生むことが最適性比となります。ところが、少数の集団内で交尾し合う種では、オスよりもメスを多く生んだ方が有利です。というのは、小集団だとあるメスが生み出すオスの子供(息子)同士が特定のメスをめぐって争う状況が生まれてしまうためです(local
mate competitionという)。こうした性比の片寄りは、Wolbachiaなしでも起こります。しかし、もしWolbachiaが存在していると、寄主が望むよりも、さらにメスを多く生ませるやり方がWolbachiaにとって有利となります。したがって、寄主の昆虫にとっては、適応的でないやり方を強いられていることになります。
●植食性の昆虫は植物2次的代謝産物の解毒作用をもっているということでしたが、植物の2次的代謝産物を非感受性の植食性の昆虫が体にためて武器として使うことはできるのでしょうか?
答:もちろん可能です。多くの昆虫は植物から有毒物質やその前駆体を取り込んで、捕食者に対して防御を行うことが知られています。例は、数限りなくあります。有毒植物を食べている昆虫のほとんどは、何らかの毒を持っているを考えても良いと思います。
●遺伝子組み換え作物は、現在食料としてどれくらい作られていますか?
答:ナタネ、大豆、とうもろこし、わた、じゃがいも、トマトが主要な組み換え作物として利用されています。全世界の生産量でみると、遺伝子組み換え作物の割合は大豆が40%、トウモロコシが20%、ナタネが40%、ワタ25%となっています。国別ではアメリカが断トツで、世界中の遺伝子組み換え作物の生産量の72%を占めています。
●寄生蜂に寄生するハチがいたと記憶しているのですが、その蜂はなぜ寄生相手を寄生蜂にしたのでしょうか。もともとは寄生相手が同じだったが、一方が相手を変え寄生関係になったということはあるのですか。
答:難問ですね。寄生蜂に寄生するハチを2次寄生蜂と呼びます。2次寄生がどのような進化過程を通して生じたかは、興味深い点ですが、あまり詳しくわかっていないだろうと思います。いろいろなケースが考えられますが、指摘の通り、元々はある昆虫の1次寄生蜂どうしであった2種が、やがて一方が2次寄生蜂へと進化した場合もあるようです(2種が比較的近縁な場合)。しかし、2次寄生蜂は、1次寄生蜂とは別の分類群であることが多いので、大多数のケースでは、もともと同じ昆虫に1次寄生蜂として寄生していたことは考えにくいです。ハチ類も古い時代から何度も適応放散を繰り返してきたので、2次寄生という戦略は、後の時代になって獲得されたことが多いと思います。
●今回のプリントにのっていたダニの仲間の「疥癬」の読み方を教えて下さい。
答:「かいせん」 人の皮膚内部に寄生するダニで、これにとりつかれるとダニが皮膚の下を動き回り、極めてかゆいらしいです。普通は感染しませんが、老人が集団で生活している場所では、現在の日本でも稀に発生するようです。
●応用昆虫の教授の先生は学部長の先生ですか?
答:昆虫体系分野(私のところ)の教授の諏訪先生は、学部長・研究科長を務めておられます。