ホウレンソウ(Spinacia oleracea) は,雌雄異株として一般に知られていますが、実際には雄株および雌株の他に,様々な品種,系統および交雑後代から雌雄両方の機能を備えた間性株(雌雄同 株)が見出されます. また,間性株からは,雌花と雄花(または両性花)の着生比率に連続的な変異を観察することができます(詳しくは、こちら).
実は,ホウレンソウに見られる多様な「性」(雄性,雌性,間性)は,ホウレンソウF1品種の種子の生産(F1 採種)において、重要な役割を担っています。ホウレンソウのF1品種が市場に初めて登場した時代は,雌雄異株系統の雌株(種子親)に,別の系統の雄株の花粉 を受粉させてF1種子を採っていました.しかし,このF1採種法は種子親に用いた雌雄異株系統から,雄株を開花前(花粉放出前)に抜き取る必要があり,効 率性および経済性に欠点があります。この欠点は長年にわたる育種家の努力と工夫によって解消されましたが、その代わりにホウレンソウのF1親系統(種子親 および花粉親)の育成には高度な技術と多大な労力が必要とされるようになりました。
残念ながら、ここでは詳しくは述べることはできませんが、ホウレンソウのF1親系統の育成を効率化(省労力化)するために、私たちの研究グループではホ ウレンソウの性発現の仕組みを分子レベルで解明し、人為的に性発現を制御する技術の開発を目指しています。
ホウレンソウF1採種の詳細は、講義や学生実験、研究室紹介の際に詳しい解説をする予定です。どうしても、すぐに知りたい方は以下の文献をご覧ください(英文)。
Onodera Y, Yonaha I., Masumo H., Tanaka A, Niikura S., Yamazaki S., Mikami T., Mapping of the genes for dioecism and monoecism in Spinacia oleracea L.: evidence that both genes are closely linked. Plant Cell Report, (2011), 30 (6) 965-971Janick J (1998) Hybrids in horticultural crops. In: Lamkey KR, Staub JE (eds) Concepts and breeding of heterosis in crop plants. Crop Science Society of America, pp 45–56
van der Vossen HAM (2004) Spinacia oleracea L. In: Grubben GJH, Denton OA (eds) PROTA 2: vegetables/legumes. PROTA, Wageningen
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小野寺康之 onodera(at)abs.agr.hokudai.ac.jp