植物ミトコンドリアDNAの構造多型:ミニサテライト様配列を利用したミトコンドリアマーカーの作出

 

1.はじめに

 DNA塩基配列情報を得るのが現在よりも難しかった20世紀のお話である.当時の著者は,テンサイミトコンドリアに含まれるマスターサークルDNAの全塩基配列決定というプロジェクトに関わっていた.マスターサークルDNAはミトコンドリアゲノムのほぼ全ての塩基配列情報を網羅するので,当時これをテンサイミトコンドリアゲノムプロジェクトと呼んでいた.幸いなことに,マスターサークル全領域は既にクローン化(分割してラムダファージベクターやコスミドベクターに組み込み,必要に応じてそれらを大腸菌を利用して増殖させることが可能)されていた.あとは各クローンに含まれるテンサイミトコンドリア由来のDNA塩基配列を解読するだけである.しかし,そのころの研究室ではそれなりに技術と知識を要する実験であったので,大学院生や留学生が何人も参加していた.ある日,一人の学生が自分の担当する塩基配列を見ながら笑っていた.そこに著者が通りかかったのが,以下に述べる研究の発端であった.

 

2.テンサイミトコンドリアDNA中の繰り返し配列

 その学生は,32塩基対(bp)の塩基配列が,繰り返しすきまなく現れる領域を発見して面白がっていたのである.その繰り返し配列は,26SリボソームRNA遺伝子とメチオニンtRNA遺伝子に挟まれていた.この領域の塩基配列を図1に示す.

 


 当時の研究室ではミトコンドリアゲノム構造の違いや,それがいかなる形質として現れるのかを盛んに研究していたので,自然と「異なるミトコンドリア型でもこの繰り返し配列領域の構造は同じだろうか,それとも違うだろうか」という議論になった.

 

@繰り返し配列は「伸び縮み」する

 この領域を挟むようなオリゴヌクレオチドプライマーを設計し,別な実験からミトコンドリアDNAタイプが異なることが既にわかっているテンサイや近縁野生種を用いてPCRを行った.その結果,大きさの異なる増幅DNA断片が得られた.各々のDNA断片の塩基配列を解析すると,図1で示した系統では13回の繰り返しである(32 bp x 13回)が,その他に2から8回まで,様々な繰り返し数が見つかった.すなわち,PCR産物の長さの違いは繰り返し数の違いであることがわかった(図2).

 


 それでは,図2で示したような構造多型はミトコンドリア型に固有なのだろうか.それとも,より不安定で,極端に言えば世代を経る毎に変化するのだろうか.これについては,同じミトコンドリア型を持つことがわかっている集団を調査し,全99個体が同一の構造を持つことを確認した.どうやら,同じミトコンドリア型ならこの領域も同じ構造を示すようである.

 こうした特徴は,この領域がいわゆるミニサテライトであり(もし繰り返し配列の長さが5 bp以下であればマイクロサテライトと呼ぶべきであったろう[Buard and Vergnaud 1994]),しかも遺伝マーカーとして利用できることを示している.以降,この領域をmtTR1と呼ぶ.出芽酵母やヒトの核DNAから見つかっているミニサテライトと同様(Haber and Louis 1997)に,mtTR1の繰り返し配列の末端部(7 bp)は繰り返しが始まる直前と同じ塩基配列である(図1の四角で囲んだ塩基配列).このことから,mtTR1の誕生には,核DNAのミニサテライト誕生と類似の機構が関わっている可能性が高い.すでに動物ミトコンドリアDNAでミニサテライト様構造が知られていたこと(Lunt et al. 1998)がわかったときは少し落胆したが,植物ミトコンドリアDNAでは初めての発見であった.

 

Aミニサテライトは一ヵ所ではない

 mtTR1以外にミニサテライト様構造があるかどうか,決定したテンサイミトコンドリアDNA塩基配列を精査した.その結果,塩基配列そのものは異なるが,30から66 bpの配列が繰り返し現れる領域が新たに3つ見つかった.そこで,それぞれをmtTR2からmtTR4と名付け,前項と同様にテンサイや近縁野生種の該当領域を調査したところ,やはり繰り返し数が異なることがわかった(表1)

 

表1 テンサイや近縁野生種における各mtTRの繰り返し配列数

系統/アクセッションの名称

mtTR名称と繰り返し配列1つの長さ(bp

mtTR1

(32)

mtTR2

(33)

mtTR3

(66)

mtTR4

(30)

テンサイA

13

3

3

3

テンサイB

4

3

2

4

テンサイC

5

3

2

3

野生種D

8

3

3

5

野生種E

2

3

1

3

野生種F

6

3

3

3

野生種G

7

3

3

3

Nishizawa et al. (2000)に基づく.

 

表1より,mtTR1の繰り返し数が2から13までの7タイプあるのに対し,その他のmtTRではせいぜい3タイプしか見つからないことに気がつく.これは何に起因するのだろうか.mtTR1とその他のmtTRの違いは,ミトコンドリアDNA上の位置にある.すなわち,mtTR1のみが盛んに相同組み換えを生じていると思われるDNA領域から見つかっている.このことが不等交差を促進し,より多くのタイプを生み出す要因となっているのかもしれない.

 

2.テンサイ以外の植物ミトコンドリアDNAにミニサテライト様配列は存在するか

 以上を論文として投稿した(Nishizawa et al. 2000)が,審査員の一人から「植物ミトコンドリアDNAで,繰り返し配列の数が変わるり,構造多型を示すのは初めて見た」という内容のコメントをもらった.文面から海外の植物ミトコンドリアDNA研究者であることは明白だったので,自分たちの研究が認めてもらえたのは非常にうれしかった.しかし,それまでなぜ誰もミニサテライトに気がつかなかったり,その有無を調べようとしなかったのだろうか.様々な植物ミトコンドリアDNAを比較した場合に際立つ構造上の違いは,遺伝子の配置の変更や,比較対象にない固有の塩基配列の存在である(Gualberto and Newton 2017)から,まずはこうした点が研究者に注目された.一方で,当時は植物ミトコンドリアDNA塩基配列情報は乏しく,ミニサテライトがあるかどうか,あるいはその多型についてはほとんど注意がむかなかったのだろう.要するに,誰も調べたことがないと思われた.それでは,ミニサテライト様配列の存在と構造多型はテンサイのみの特殊な事例なのだろうか,それとも植物ミトコンドリアDNAに普遍なのだろうか.

 植物ミトコンドリアDNA関係の論文を読んでいると,他の植物種にもミトコンドリアミニサテライトが存在し,しかも構造多型がある可能性に気がついた.例えば,orf138orf125というミトコンドリア遺伝子がある(Bonhomme et al. 1992; Iwabuchi et al. 1999).これらは日本のダイコンから,もしくは日本のダイコンを親とするナタネから見つかった遺伝子で,塩基配列が互いにとてもよく似ている.両者の塩基配列上の違いはorf125における39 bpの欠失であるが,これがミニサテライトのようにみえるのである.すなわち,orf138ではこの39 bp配列とよく似た配列が3回繰り返されているのに対し,orf125では2回の繰り返しで,丁度1回だけ繰り返し数が減じている.こうした状況証拠から,ミニサテライト様領域が他にもあるだろうという感触を得た.

 マスターサークルDNAの全塩基配列が解読された植物種が増えたころを見計らい,テンサイ以外の植物種からミトコンドリアミニサテライトを探すことにした.その結果,調べた10の植物種全てよりミニサテライト様の構造が見つかった(Honma et al. 2011).続いて,発見したミニサテライトに多型があるかどうかを調査した.ここでは,アブラナ属の結果について紹介する.

 アブラナ属植物の遺伝的関係は,いわゆる()の三角形で表すことができる(図3).

 


セイヨウナタネのミトコンドリアマスターサークルDNA上から6つのミニサテライト様領域が見つかったので,図3に示す6つの植物種の該当領域を調べてみた.残念ながら,調べた6つのミニサテライトのうち,4つは全ての供試材料で同一の繰り返し数であった.一方,残りの2つについては2から3タイプが見つかった.ミトコンドリアの母性遺伝を踏まえると,両親間でミトコンドリアDNAの遺伝的組み換えはない.そうであるなら,多型が見つかった2つのミニサテライト領域は完全連鎖となる.従って,これらをまとめてハプロタイプとして扱っても良いことになる.例えば,ある材料において一つのミニサテライト領域における繰り返し配列の数が4で,もう一つの領域が2であれば,これを4+2というハプロタイプとみなしてよい.B. rapaは供試した6アクセッションが全てが4+2であった(Honma et al. 2011).一方,B. nigra3+2で,B. juncea4+2であった.すなわち,B. junceaのミトコンドリアDNAはどちらかというとB. rapaに似ていることになる(遺伝的組み換えがないとすれば,B. junceaの二つのミトコンドリアミニサテライトの片方がB. rapa由来でもう一つがB. nigra由来という解釈は成立しない).同様に,B. carinata3+2で,B. oleracea3+3であり,B. carinataのミトコンドリアDNAB. nigraに似ている.以上の結果は,葉緑体DNAの解析結果(Erickson et al. 1983; Palmer et al. 1983)と良く一致していた.すなわち,B. junceaB. carinataが成立する過程において種子親(母親)となったのは,それぞれB. rapaB. nigraであったとする通説を支持する結果となった.頭を抱えたのは,B. napusから見つかった4+54+3なるハプロタイプである.これらは供試材料の中から見つからず,従ってB. napusのミトコンドリアがいずれの祖先2倍体種に由来するのかはわからなかった.B. napusの種子親問題は大変難しいようで(Song et al. 1988; Flannery et al. 2006; Allender and King 2010),これ以上はアブラナ属の専門家に任せようとなった.

 

3.ミトコンドリアミニサテライトの利用

 これまでに様々な植物種においてミトコンドリアマーカーが開発されている.比較的多いものとして,あるミトコンドリア型に固有の特徴を標的とするものがある.例えば,Aというミトコンドリア型に固有のDNA塩基配列を標的とするマーカーを用いると,「Aである」もしくは「Aでない」という情報が得られる.しかし,AでないならBか,Cか,あるいはDか,というような詳細を知りたい場合は,このマーカーでは不十分である.これに対し,ミニサテライトは繰り返し数の違いに基づいているので,複数のミトコンドリア型に対応できるシステムである.実用的にも,ミニサテライトは繰り返し配列1つが比較的長い(30から66 bp)ため,ゲル電気泳動像の違いがわかりやすいという利点がある.そのため,手軽にミトコンドリア型を知るための指標として便利である.例えば,テンサイ品種改良の現場でミトコンドリア型を判別するために利用されている(Cheng et al. 2009など).最も力を発揮するのが,複数のミトコンドリア型が見込まれる多数の試料を扱うような集団遺伝学や進化学的な研究場面である.テンサイ,ガーデンビート,あるいはフダンソウと,近縁野生種の遺伝的関係がミトコンドリア型の観点から調べられている(Nishizawa et al. 2007; Cheng et al. 2011; Yoshida et al. 2012).フランスに自生する近縁野生種を材料とした生態・進化遺伝学的研究にも利用されている(Fievet et al. 2007; Fenart et al. 2008; Arnaud et al. 2009; De Cauwer et al. 2010; De Cauwer et al. 2012).テンサイや近縁野生種を合わせたグループからは,4つのミニサテライトのハプロタイプにより20種類程度のミトコンドリア型が発見された.このマーカーは今も使われている.

 

4.あとがき

 塩基配列解析技術は日進月歩であり,安価に多数の検体の全塩基配列が得られるような時代になれば,遺伝子座をいくつか選び出して比較するという実験は消滅するかもしれない.そうなればマーカーとしてのミトコンドリアミニサテライトの価値はほとんどなくなるだろう(ミトコンドリアDNAが構造変異を生ずる仕組みを調べるモデルとしては有用ではないかと考える).

 一方で,本稿に研究エピソードとしての面白さを多少感じていただけるなら,記録として残す意義があろう.特に発端が意図的ではなかったことを強調したい.著者らは,ミニサテライトを探す目的でテンサイミトコンドリアDNAの塩基配列を調べていたわけではない.むしろ,担当した学生が偶々繰り返し配列に気がつき(高い能力と偶然),それを「面白い」と感じたこと(個性・センス)が契機となった.もう一つ背景として重要だったのは,研究グループ全体でミトコンドリアDNA構造多型に興味があり,ミニサテライトにおける繰り返し数の違いがその指標になる可能性を全員が直ちに理解できたことがあげられる(問題点の共有).例えば,当時のPIが「つまらないので,そんな実験はやめてプロジェクトに集中しなさい」と命じていたら(実際は逆で,データを見て面白がってくれた),研究は続かず,基礎研究にも応用にも使えるミトコンドリアマーカーは誕生しなかっただろう.もっとも,このような偶然の発見を拾い上げる余裕のあったことが一番の幸運だったのかもしれない.

 教科書に載るような発明・発見にしばしば偶然の要素が加わるのは科学史の伝えるところで,学生諸君の中にはそうしたストーリーに憧れて研究を志す者もいると思う.本稿で紹介した研究は「小ネタ」に過ぎないが,新しい発見の種子が身近にあることが伝われば幸いである.

 

References

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2019.6.5