植物機能学専門分野  研究の概要                   

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       准教授
      山岸 真澄 (Masumi YAMAGISHI)
         連絡先 : yamagisi●res.agr.hokudai.ac.jp (●をアットマークに変えてご使用ください)



                                                (増田教授の研究内容紹介はこちら→)




ユリ(注1) の花色発現

 いま一番力をそそいでいることは、スカシユリ(注2)花弁における色素発現の制御機構を明らかにすること、です。

 今はまず現象を理解することから始めていますが、将来は、新しい花色をもつユリの育種に応用したいと考えています。

 スカシユリの花弁に蓄積する有色の色素にはアントシアニン(シアニジン)とカロテノイド(キサントフィル類とカプサンチン(注3))があります。このうちシアニジンがたまるとピンク色に、カロテノイドのキサントフィル類がたまると黄色に、カプサンチンがたまるとオレンジに、アントシアニンとカプサンチンが同時にたまると赤になります。白は有色の色素がいずれも無い状態です。

 また、スカシユリの花弁には斑点があり、昆虫が訪れるさいのネクターガイドとして役立っていますが、斑点にたまっている色素はアントシアニン(シアニジン)です。

 最初にアントシアニン、カロテノイド、斑点の遺伝様式を調べたところ、これらはそれぞれ独立していることが分かりました。たとえば、ピンクの品種と黄色の品種を交雑するとその後代には、ピンク、黄色、茶色(ピンクと黄色が混ざった状態で、中間色で見栄えがあまり良くないため、品種には利用されていません)と白が分離します(黄色は量的な制御を受けているので、真っ白なものはなかなか現れません)。また、斑点の発生も別個の制御を受けていることが分かりました。

 つぎに色素発現の制御機構です。アントシアニンの蓄積はMYBなどの転写調節遺伝子が制御していることが双子葉植物の花弁やイネ科植物の種子で分かっていますが、単子葉植物の花弁ではほとんど研究例がありません。スカシユリよりMYBを単離したところ、ペチュニアの花弁でアントシアニンの発色を制御している遺伝子であるAn2 とホモロジーの高いMYBがとれました。単子葉でAn2 タイプのMYBがとれたのはスカシユリが始めてです。また、花弁のピンクと斑点のピンクは、いずれも色素は同じアントシアニンですが、異なるMYBによって制御されていることが分かりました。

 カロテノイドの制御は複雑です。カロテノイド生合成遺伝子の発現を、カロテノイドを蓄積している品種と蓄積していない品種で調べたところ、これらの遺伝子はいずれの品種の花弁においてもフル回転で働いており、白花と黄色花の間で差はありませんでした。すなわちカロテノイド蓄積は、生合成された後に、色素が花弁に蓄積するところで制御されているようです。


   


『スカシユリ関係の業績』

Detection of section-specific random amplified polymorphic DNA (RAPD) markers in Lilium. M. Yamagishi, Theoretical and Applied Genetics, 91: 830-835, 1995.

PCR-based molecular markers in Asiatic hybrid lily. M. Yamagishi, H. Abe, M. Nakano, and A. Nakatsuka, Scientia Horticulturae, 96: 225-234, 2002.

Genetic analysis of floral anthocyanin pigmentation traits in Asiatic hybrid lily using molecular linkage maps. H. Abe, M. Nakano, A. Nakatsuka, M. Nakayama, M. Koshioka and M. Yamagishi, Theoretical and Applied Genetics, 105: 1175-1182, 2002.

A genetic model for a pollenless trait in Asiatic hybrid lily and its utilization for breeding. M. Yamagishi, Scientia Horticulturae, 98: 293-297, 2003.

Spatial and temporal expression of chalcone synthase and dihydroflavonol 4-reductase genes in the Asiatic hybrid lily. A. Nakatsuka, Y. Izumi and M. Yamagishi, Plant Science, 165: 759-767, 2003.

Mapping of quantitative trait loci for carotenoid pigmentation in flower tepals of Asiatic hybrid lily. M. Nakano, A. Nakatsuka, M. Nakayama, M. Koshioka and M. Yamagishi, Scientia Horticulturae, 104: 57-64, 2005.

Light-induced expression of basic helix-loop-helix genes involved in anthocyanin biosynthesis in flowers and leaves of Asiatic hybrid lily. A. Nakatsuka, M. Yamagishi, M. Nakano, K. Tasaki, N. Kobayashi. Scientia Horticulturae, 121: 84-91, 2009.

Carotenoid composition and changes in expression of carotenoid biosynthetic genes in tepals of Asiatic hybrid lily. M. Yamagishi, S. Kishimoto and M. Nakayama. Plant Breeding, in press

Two R2R3-MYB genes, homologs of Petunia AN2, regulate anthocyanin biosyntheses in flower tepals, tepal spots and leaves of Asiatic hybrid lily. M. Yamagishi, Y. Shimoyamada, T. Nakatsuka and K. Masuda. Plant and Cell Physiology, 51(3); 463-474, 2010.



(注1)ユリ
 花き産業においてキク・バラ・カーネーションと並んで重要な作物で、北海道においてはユリが作付け面積No. 1です。単子葉植物で、種子から育てると開花までに数年かかる、ゲノムが異常に大きい(100bp)、形質転換が難しい、といった特徴があり、遺伝子レベルの研究はあまり進んでいません。単子葉植物は、イネ科で遺伝子レベルの解析が進んでいますが、遺伝子のホモロジーがイネ科とそれ以外の単子葉植物の間であまり高くないため、イネ科の塩基配列情報がそれほど役に立たないという困難さがあります。


(注2)スカシユリ

 ユリ属(Lilium)は北半球の温帯から亜寒帯に広く分布しますが、そのうちおよそ半数の種は日本・韓国・中国などの東アジアに集中して分布しています。スカシユリは、東アジアに自生している原種のユリを用いて育種された種間交雑品種群です。


(注3)カプサンチン

 ご存知トウガラシの赤い色素です。花弁にカプサンチンを蓄積するのはユリだけだと思います。