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草食大家畜の生産システムを研究する 畜牧体系学研究室

研究テーマ

草食家畜の土地利用型生産システムを追求しています

土地利用型の生産システム

私たちの研究室では、家畜生産を「土−草−家畜」という一つの生態系としてとらえ、教育研究の対象としています。単に家畜生産性の向上のみを考えると、作物を生産する土地はやがて荒廃します。持続性といった面からも家畜生産を考えなければなりません。また、家畜は生産物とともに大量の糞尿も生産します。糞尿を有効に土地へ還元し、化学肥料の投入量を最小限にするといった環境保全面も考慮しなくてはなりません。すなわち「地球にやさしい家畜生産システム」の確立を目指し、家畜の飼われている土地で生産される草資源を最大限用いて草食家畜を飼育することを追求しています。

放牧がメインテーマ

土地利用型の草食家畜生産には、草地から刈り取った草を畜舎内で給与する方法と、草地で草を直接食べさせる方法があります。もちろん、北海道においては牧草は成長できないので、冬季には畜舎内で貯蔵した飼料をを給与する方式になります。ところが、実際には、夏でも畜舎内で貯蔵飼料を給与している場合が多いのです。土地利用型の家畜生産を求める際に、収穫に必要な化石エネルギー、肥料、労働力などを低減することができる放牧が、春から秋までの草食家畜生産には理想的であることは間違いありません。しかし、放牧で草食家畜の高位生産を目指すのはなかなか技術的に難しいのです。それは、家畜舎の中では餌箱に一定品質の貯蔵飼料を毎日給与しますが、放牧では、日々質的・量的に変化する放牧地の草を動物に食べさせるためです。草の変化が、家畜生産の安定性をそこなうからです。こういった放牧における問題を解決するには、放牧地の草の生態や持続性、草食家畜の食草行動、栄養代謝、を明確にする必要があります。このようなことから、現在、研究室では放牧に関わる以下のようなテーマについて研究を進めています。

放牧地の草地生態と持続性

放牧地の草の生長は、放牧管理の方法と密接に関連します。放牧する家畜の密度をとことん高めていくと、草は早くなくなってしまい家畜の生産も損なわれます。かといって、密度を緩めすぎてしまうと草は伸びすぎてしまいます。そうすると、草の栄養価は低くなり、家畜の採食量も低くなってしまい、家畜の生産量は低下します。最適な密度で放牧し、草の生長を促進しつつ、草からの養分摂取量を最大限にする管理が必要なのです。こういった、いわゆる家畜と草の相互作用で得られる最大限の家畜生産量は、放牧を始める月日、牧柵の大きさなどによっても、大きく変わってくるのです。また、放牧管理や肥料の散布によって、土壌成分や土壌生物が変化し、草地の生態や持続性は管理する人の求めるものとならないこともあります。こういった、家畜、草、土壌の関係の折り合い方で決まっていく家畜生産量の見定め方や、メカニズムを解き明かし、効率的かつ最大限に土地からの家畜生産量を高める技術を求めなければなりません。

放牧乳牛の栄養管理

最近の乳牛は、遺伝的に改良され泌乳能力が非常に高くなっています。この能力を発揮させるべく、多くの場合は放牧を行わず、畜舎内で栄養価の高い穀類を多給しています。研究室では、この高能力牛を放牧で飼養する方法を模索しています。伸びすぎないで低い高さで再成長を繰り返す放牧草では、刈り取りの草に比べると栄養価は高いのです。しかし、それでも放牧草だけ与えた乳牛は、穀類を与えた乳牛に比べてその生産力はかないません。特に、栄養価や、草の量が低下する夏から初秋にかけては、エネルギー補助する飼料を給与する必要があります。しかし、その補助飼料の量は、放牧草の食べる量を制限したり、放牧草のそもそも持っている栄養価を損なうものではあっては、本来の目的に反して本末転倒となります。放牧牛に補助飼料を給与しすぎると、草の食べる量が減るし、消化性も低下するのです。そのため、少量の補助飼料で、草の採食量を減らさず、栄養価も維持する方法の検討が必要です。研究室では、従来より、穀類飼料の給与の日内タイミングや、トウモロコシサイレージの給与方法について、採食量、栄養代謝、採食行動、個体丸ごと総合的に検討し、最適な補助飼料の給与システムについて研究しています。

育成牛の早期放牧

牛乳を生産する乳牛を放牧で飼養する際に、栄養管理により草の採食量を最大にする工夫が必要なのと同時に、その育成過程で放牧草をよく食べるウシづくりが必要です。乳牛は分娩したあと泌乳する牛になるまで生れてから2年かかります。この2年間でそのウシづくりが必要なのです。乳牛の子牛は約2か月齢まではミルクで育ちますが、そのあとは固形飼料のみで育てます。この離乳のあとできるだけ早い時期から、放牧草をたくさん食べることのできるウシに育てるには、その採食の行動的な変化特性を理解する必要があります。研究室では、離乳直後の子牛を放牧した時の採食行動の発達や、1歳の牛と一緒に放牧することの採食行動の発達に及ぼす影響について検討してきています。

ウマの放牧時の栄養と草食特性

ウマの消化機構は同じ草食動物であってもウシとは全く異なります。これまで、研究室では、ウマの消化管内容物の流動様式、北海道和種馬の林間放牧におけるササ類など林床植物の選択や利用、それらの採食特性のウシとの違い、などを解明してきました。同じ草食動物であっても、その消化管の構造が全く違う結果、草の食べ方や消化の仕方、放牧地での食草戦略がことなります。草食動物の本来の姿とそのメカニズムを探求する非常に興味深いテーマです。このテーマから、個々の特性を生かした飼養管理の在り方を求めるだけでなく、本質的に草食動物は何を求めて栄養を満たそうとするのかを明らかにすることで放牧技術や新たな飼養管理の形を探求するヒントを与えるものと考えています。現在では、仔馬の放牧時の採食行動を詳しく観察し、その発達過程について研究を進めています。

ヒツジの放牧肥育

戦後間もないころまでは、わが国には100万頭近くの羊が飼育されていました。現在では、1.7万頭程度、北海道で9千頭程度です。以前多く飼われていた背景から北海道はジンギスカンが郷土料理のようになっていますが、現在はジンギスカンの肉は99%輸入です。輸入肉の価格に国内産は太刀打ちできないことが原因ですが、その現実を知る北海道観光者にとっては複雑な心境でしょう。わが国全体を見ても衰退しつつある地域の農業を活性化するためには、農業の多様性が必要であると言われています。画一的な方法で、生産効率を求めた食料生産がわが国はこれまで行ってきました。もちろんそれはいまでも食料安全保障の上では重要なのでで否定はしません。しかし、地域の農業者が高齢化し、後継者が増えない現状のなか、だれが地域の農村コミュニティーを支えるのかが課題になっています。多様な食材を多様な地域で多様な考え方の生産者が、多様なニーズを持つようになった消費者を支えることがこれからの農業には求められていくのではないかと考えられます。ヒツジは北海道農業のそのような多様性を高める一助になるものと思われます。また、穀物は使わず放牧で羊を肥育すれば比較的安く販売できます。こういった背景から、研究室では放牧で羊を肥育する研究を進めています。日本の消費者は、とくに放牧で飼育したヒツジ肉の特有の臭いに嫌悪感があります。研究室では、北海道で最近多く生産されるようになったワインの搾汁粕を同時に給与すれば、それに含まれるタンニンが消化過程の変化をもたらし肉の特有臭を消してくれるのではないかと考え、研究を進めています。

放牧肉牛の成長改善

現在、穀物を大量に給与して生産される牛肉生産が一般的に行われています。草を多く与えてえられる牛肉は赤身が多いものとなり市場価値は低く評価されます。しかし、研究室では、従来より、土地利用型の牛肉生産を追求してきました。その生産システムなど多くの成果を上げてきましたが、そのなかでも春から夏の放牧は非常にコストを下げる重要な飼養過程で、土地からの生産性を高めるうえで放牧は必須です。しかし、子牛の成長過程では、放牧によって体重が伸びない時期があります。研究室では、このような増体が停滞する時期の問題を明らかにし、それを改善する方策について研究を進めています。現在、北海道大学の研究牧場では日本短角種を飼育していますが、その母牛の特徴に乳量が非常に多く春生まれの子牛の初年度の放牧時の増体はきわめて良好であることがわかってます。しかし、皮肉なことに乳に頼りすぎているとせっかくの放牧が生きてこない面があります。具体的には、秋の放牧終了後の離乳後に大きく成長が停滞します。乳牛と同様、できるだけ早い時期に放牧草を多く摂取できるウシに育てることが重要と考え、哺乳子牛に放牧草摂取能力を高める方法を検討しています。

土地利用型生産の畜産物の特性解明

とくに放牧で飼育した、ウシの牛乳や牛肉は、穀物を多給したウシのそれらの生産物と比べると、その風味や食感は異なることが知られています。土地利用型の草食家畜生産をわが国に普通のものとして定着させるためには、土地利用型の生産物の特性を消費者に理解していもらうことが重要です。しかし、実際には、特に風味に関しては、原因物質やその発生メカニズムについては明確ではありません。研究室では、それらについて、放牧と舎内飼育の生産物の風味や含有物資の違いなど明らかにする研究を行っています。また、同様の粗飼料でも地域間でそれらが異なることも明らかにしてきています。一方で、この研究は、それらの含量などから土地利用型生産物のトレーサビリティーに応用ができるので、生産物流通において重要な研究テーマです。

エゾシカの対策

北海道ではエゾシカが近年激増し、現在約50万頭生息していると推定されています。その結果、酪農家などの生産基盤である草地の生産性に被害をもたらしていることが懸念されていいます。しかし、実際にはその測定方法の困難さから、その実態は明確ではない状況です。研究室では、これまでエゾシカの栄養学的生息可能頭数、エゾシカの強い生存力をささえる栄養生態、誘因や駆除方法などについて検討してきました。現在は、ウシの放牧が、エゾシカの放牧地への接近に及ぼす影響などを検討してます。

北海道大学 大学院農学研究院
基盤研究部門 畜産科学分野
畜牧体系学研究室

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