3. 間伐材の高温乾燥による建築構造材への利用開発
阪神淡路大震災以降,木造住宅に対する耐震強度・防火性能の強化とともに,住宅の構造・品質を改めて問い返すように設計・施工の管理方法の見直し,あるいは構造躯体の耐久,寸法安定性など,トータル性に優れ,居住者に配慮された安全性・居住性などを確保する方向性をうち出した法整備の動きが見られます。これらの大きな柱の一つは「性能」を重視した規定化の提示であり,これまでの材料・寸法などを規定していた仕様規定の概念から,より実態に即した内容に近づいたとも理解されます。具体的には,建築基準法の改正(平成10年)や住宅品質確保促進法の施行(平成12年),および製材の日本農林規格の見直しなどからこれらの大要を読みとることができます。
我々はこの性能規定に応じることのできる建築材料を,今後増大すると見られる道産間伐材(トドマツ・カラマツ)を使って民間レベルで生産供給が可能となるように研究を続けてまいりました。その一つが,特殊な手法を使わずに寸法安定性や耐久性を簡単に付与することのできる「乾燥技術」です。以下にその概要を紹介します。
●昭和50年代までの乾燥
良質な大径針葉樹材が豊富だった頃の建築用柱材は,木口断面で樹心部から離れた辺材を主体に四方柾あるいは二方柾目木取りが行われていました。また,これらの製材品は乾燥しないまま,あるいは短期間の天然乾燥を経て住宅用構造材として使われるのが大半でした。輸送途中や建築工期中に材表面の乾燥がある程度進められたものの,未乾燥状態で鉋削りや仕口加工などが施され,軸組されていったものと想像されます。
乾燥過程で生じる部材の収縮や形状の変化を考えると,居住後の隙間風・ドアなどの開閉困難などは当然予想されるトラブルですが,ここで唯一救われるのは使われた木材が良質な大径材であったことです。樹心から離れたところから木取られた四方柾目材はねじれや曲がりが生じにくい変形の少ない優等材であり,断面の寸法減りの問題さえクリアできれば,大きな問題は起きずらいと思われます。
●中小径材利用による乾燥問題
これからの道内における針葉樹人工林はそろそろ主伐期を迎えようとする時期に来ており,径14cm上の中大径材,特に28cmを超える大径材の増加が期待されています。ただ,この先,数十年後には,大径化といった素材生産状勢の変化も期待できますが,量的には依然として径級28cm未満のいわゆる中径材が大きな割合を占めると予想されています。
このため,これらの原木から住宅用柱や梁などの大断面製材を採るためには樹心を含む,あるいはそれに掛かる木取りとなり,利用する上では乾燥問題の介在が否定できません。「ねじれ」「曲がり」「割れ」および「強度」などによる製材品質の低下が主な問題です。このため,近年では集成材を含めたEW化に関心が寄せられています。
●心持ち柱材の乾燥条件の検討
しかし,接着剤を使わず自然素材そのままを活かした材料を望む声は根強く聞かれます。そのためには前述したとおり適切な乾燥処理を行うことが,形状変化・寸法精度,耐久,強度などの性能を確保する上で最低限の加工条件と言えます。また以前から,心持ち材あるいは心掛り材は特に割れの発生が危惧され,こうした利用は業界内であきらめられていた感があります。
しかし,これまで高温タイプの蒸気式乾燥装置を用いた一連の乾燥試験を通じ,木材の持つ可塑性を十分利用することにより,表面割れの抑制が可能であること,また狂いなどについても許容される範囲に仕上げることができることを確認してきました。我々はこの高温乾燥技術の普及を手掛けてきましたが,特にカラマツとは比較にならないほど表面割れの発生が多いトドマツの利用促進を図るべく,トドマツ心持ち正角材の乾燥実験を重点的に行い,得られた成果を技術移転しました。
●高温乾燥技術の民間移転
写真3 構造材にトドマツ心持ち材を使って建てられている個人住宅例
写真4 高温乾燥直後の桟積み状態
このトドマツ材を使用した住宅は,北海道ハウジングオペレーション株式会社(札幌)をはじめとする地場工務店によって建設が進められています(写真3)。乾燥は芦別にある「新住宅システム開発協同組合」が本成果技術を使い実施しています(写真4)。ここまでは,乾燥材をある程度の期間,倉庫内で養生され含水率の平準化を図り,その後,狂いを取り除くため「四材面自動すり直し機(写真5)」で通直に挽き直され要求寸法に仕上げています。
写真5 自動すり直し機
またこの完成品は最後に,グレーディングマシンによってヤング係数・含水率が製材面に印字され,製材品1本毎の性能が明確に示される仕組みです。当組合の技術者にお話を伺ったところによれば,今のところ,順調な生産状況のようですが,乾燥歩留まり(乾燥によって割れ・曲がりなどが発生し,当初予定した部材製品として使用不可となる不良率を差し引いた割合)は,8〜9.5割とのことで,胸をなで下ろす反面,2割の不良率に対し胸を痛めているのが正直な気持ちです。今後は歩留まり低下の原因(例えば,原木の材質(あて・水喰い),最適な乾燥条件の適用,あるいは乾燥装置の性能(温湿度・風速分布の均一性)など)を見極め,改善の可能性について検討する予定です。
トドマツ材については以上のような状況ですが,カラマツ材についても同様に構造材として住宅に利用されるケースが道内各地に点在するようになりました。また,高温乾燥され道外へ移出される事例も増えています。こうした住宅への実用例が試行的ではなく,次の段階へと本格展開され,本道林業・林産業の活性化につながることを期待しています。
●おわりに
木造住宅の性能が俄に問われはじめだした今日では,木材供給者は必然的に乾燥に取り組む姿勢を一層強化しなければ生き残れない時代となってきました。これに応えるように,様々な乾燥技術の開発や現象の分析,コスト低減化などをテーマに研究が盛んに行われるようになっています。高周波・熱気複合乾燥,蒸煮・減圧処理と自然乾燥の組み合わせ,パラフィンを使った液相乾燥法などは高温乾燥に追随する処理方法の一端です。
建設現場に到着する製材品に求められる品質は,「適正含水率」で「水分むらのない」,かつ「規定寸法が確保」された「通直」な製材と言えますし,加えて視覚的に嫌われるような割れなどの「欠損がない」ことも当然要求されるでしょう。これからも,この最終目標に向かって常にコストバランスを考えながら試行錯誤が繰り返される日々が続きます。
(中嶌 厚:林産試験場・製材乾燥科)