木材は可燃性で,木造建築物が大火の大きな要因となってきたことから,建築基準法による多くの規制を受けています。例えば,ホテルやホールの内装材は燃えたときの発熱量が少ないものでなければならない,住宅の外壁を板張りで仕上げようとしても自由にはできない,などの規制です。木造建築物を市街地から排除しようとする考えは,昭和25年に制定された建築基準法の大きな柱で,都市の不燃化は防火対策の根幹でした。
しかし,木造3階建て共同住宅を始めとする実大火災実験の積み重ねなどにより,防火性能を向上させた木造住宅の火災時の安全性が実証されてきました。このような防火技術の進展を反映し,ここ10年ほどの間に建築基準法の防火規制は,「木質系材料や木造建築物に対する規制の緩和」というかたちで大きく変化しました。例えば,準防火地域に木造3階建て共同住宅が建築可能となったこと,さらには鋼製に限られていた防火ドアを木材で製造可能になったこと,などです。平成10年の建築基準法改正では,必要な防火性能が満たされれば多様な材料・構造を認めるという「性能規定」の考え方が取り入れられています。
林産試験場では,このような建築基準法の改正によって新たに可能となった木製防火材料の開発をおこなってきました。平成12年には,北海道が実施している木材産業技術高度化促進事業の中から,2件の新しい木製防火戸が生まれました。一つは木製防火引き戸,一つは木製防火シャッターで,いずれも道内企業の手によって商品化され,建設大臣の認定を受けています。木材を防火規制のかかる建築物に新たに利用できるようにしたこれらの防火戸の概要を紹介します。
●引き戸タイプの防火ドア
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写真1 木製引き戸の耐火試験
これまでに認定を受けている300件以上の木製防火戸の多くは片開き戸で,次いで両開き戸となっています。これら開き戸と異なる用途・機能を持つ引き戸は,そのほとんどが鋼製となっています。
引き戸には,間口が広いために扉部分の面積が大きく,加えて,開き戸のような丁番,ドアクローザによる固定部分がないので,加熱による変形で扉と枠との間にすき間が生じやすい,という弱点があります。
このような弱点を補強するには,1.
かまちに難燃LVLを使用し,炭化・収縮による扉の変形を防止する,2.
扉と袖部との重なり幅を広くするとともに,発泡材の発泡圧で加熱時の変形を抑え,扉とドア枠に生じるすき間を埋める,3.
スチール製レール収納部を覆う木材の厚さを厚くし遮熱性を高める,といった処理が有効です。これを基に,久保木工(株)(北海道旭川市)が木製防火引き戸の認定を取得(乙種防火戸第1820号)しました(写真1)。車椅子を移動しなくとも開閉できることから,福祉分野への利用を図っているところです。
●木製防火シャッター
写真2 木製シャッターの一例
図1 木製シャッターの防火性能改良点
住宅の組み込み車庫のシャッターには通常金属製のものが使用されていますが,意匠性などが好まれ,木製のものも一部に見られるようになってきました(写真2)。しかし,シャッターは都市計画に基づく地域規制によって,防火上の制限を受けることが少なくありません。この場合,シャッターには800℃に達する加熱を受けたときでも20分間炎を遮る性能が必要とされます。
一般の木製シャッターを加熱すると,1.
板材の厚み不足による燃え抜け,2.
加熱によって板材が変形・収縮することによる継ぎ手部分からの燃え抜け,3.
シャッターと壁との取り合い部からの燃え抜け,が生じます。特に,板材を留めているビス周辺の木材が炭化すると,ビスの保持力が失われ,これに加熱による板材の変形が加わると,板材が拘束材から剥離・脱落し易くなります。このような弱点を改良するため,図1に示すような防火処理を検討したところ,セラミックファイバーを充填した断熱カバーを取り付けて,ビス周辺の木材の炭化を遅らせることが,シャッターの遮炎性向上に大きな効果を持つことがわかりました。
このような検討結果を基に,日本ドアコーポレーション(株)(北海道札幌市)が,木製シャッターとしては国内初となる建設大臣認定を得ました(乙種防火戸第1814号)。既に,釧路市内や苫小牧市内で使用されており,これからは市街化区域の60〜80%が準防火地域に指定され,防火シャッターの必要性が高い東京・大阪圏での需要が期待されています。また,明かり窓タイプの木製シャッターなどについても,防火戸仕様の開発を進めているところです。
(菊地伸一:林産試験場・防火性能科)
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