昆虫体系学教室における研究と教育

 昆虫体系学研究室は,1896年に松村松年を初代教授として開講され,昆虫を材料とした生物多様性の解明に取り組んできました.昆虫類は全生物の約半分を占めるほど多様なグループです.昆虫体系学研究室では,なぜこれほど多様な形態や,生活史や,行動が昆虫において進化してきたのかを,さまざまな手法を使って明らかにしようとしています.美麗なチョウの翅も,奇怪なクワガタの大顎も,複雑な寄生昆虫の生活史も,選択の働きを通して進化してきました.本研究室では,昆虫類の持つさまざまな性質を,進化のメカニズムとプロセスに注目して理解することをめざしています.昆虫類は多くの個体が比較的容易に手に入り,飼育も比較的容易なため,たいへんに優れた実験材料です.昆虫体系学研究室では,農業害虫だけでなく,さまざまな昆虫グループから材料を選んで基礎的な生物学(分類学,系統学,進化学,形態学)の研究を行っています.総合博物館の大原昌宏准教授とも協力し,フィールドでの調査と室内での実験を組み合わせた研究が主流となっています.農学部の中では多少異質な研究室ですが,常に世界に視野を広げ,国際的なレベルの研究をめざしています.
 本研究室では特に,分類研究から得られた真にオリジナルな知見を生かした自然史研究をめざしている点に最大の特徴があります.分類学はすべての自然史研究の基本となる学問ですが,近年,日本でも欧米でも,分類学者の数は減少しています.昆虫体系では伝統的に分類学を手がける研究者が多く,また自然史研究では必須の,多量の昆虫標本を保管しています.生物多様性の重要性が叫ばれる中,多様性を解明する技術を持った分類学者が減少していくことは重大な問題です.昆虫体系では,豊富な昆虫標本に基づいて昆虫の分類学者を養成することを目指しています.分類学研究から得られる情報はきわめて重要で,それまで全く知られていない新事実を数多く提供してくれます.