・Paracolopha morrisoni on Zelkova serrata

ケヤキフシアブラムシ--ケヤキに球状の閉鎖ゴールを作るアブラムシで、日本全国のケヤキに普通に見られる。2次寄主はササやメダケ。時として大発生する。わずかに兵隊を産出する。下の写真で、小さい幼虫が兵隊。実はこの種類、北米で記載された。日本では長くColopha moriokaensisという学名で知られていた。アジアから持ち込まれたササに寄生したものが北米で発見されたらしい。しかし、ここから話しが複雑になる。アメリカ合衆国の南部、アパラチア山地周辺には自生のササが分布している。このササからも本種が見つかったのだ。こうした個体の正体が分かっていない。2つの可能性が考えられる。1つは、アジアから導入されたものが急激に広がって、アパラチアまで拡大した可能性である。もう一つは、元々そこにいた可能性だ。後者が正しいとすると、本種はかつて(第三紀中期ごろまで)ユーラシアから北米までベーリング陸橋を介して広域に分布しており、北米では1次寄主のケヤキの絶滅後に2次寄主のササで単為生殖を続けてきたことになる。これが正しいとすると、北米の個体群と日本の個体群は遺伝的には大きく分化を遂げているはずである(撮影:札幌)

・Hemipodaphis persimilis on Zelkova serrata

ケヤキワタムシ---極めて稀なゴールアブラムシ。ケヤキの葉を巻く。ワタムシ科の最も原始的な特徴を保持。HormaphidinaeとEriosomatinaeをつなぐ位置にある。世界中の分類学者が本種をHormaphidinaeに含めるのだが、わたしだけがこれは系統的にEriosomatinaeだと言い張っている。本州では栃木県の一例のみ。札幌には本州から移植されたケヤキについて持ち込まれ(どこかは不明)、あるお屋敷の周辺にある数本のケヤキで細々と生きている。確実な産地はここだけ。近縁種はインドアッサム(2次寄主)、コーカサス地方(ケヤキの一種)、イタリアのシシリー島に分布(ケヤキの一種)(撮影:札幌)

・Colopha kansugei

カンスゲワタムシ---ナキリスゲに寄生し周年単為生殖。東京以西、南西諸島、台湾、中国南部、タイ北部、ネパールに至る広大な地域に同一種が分布。日本では神社の森の林床で採れます。自宅で大事に飼っていたら、大増殖しこんなになってしまった。アブラムシ自体は綿に隠れて見えません。ナキリスゲの世代はゴール形成者ではないが、この1次寄主世代がゴール形成者であったと考えられている。しかし、1次寄主世代は、1次寄主のニレ属植物とともにアジアから数百万年前(たぶん)に絶滅してしまった。以来、延々と単為生殖を続けてきたのだが、こうした種の遺伝的構成はどうなっているのだろうか。驚くべきことに、秋になると1次寄主に戻るための有翅型を生み出す。戻るところなどないのに!(自殺遺伝子が維持されている唯一の例ではないかという説あり)。

・Kaltenbachiella japonica, K. spinosa

ニレイガフシ、ニレオオイガフシのゴール。札幌(japonica)および美唄(spinosa)にて採集。この2種はきわめて近縁で、ごく最近、一回の遺伝的変異の結果種分化したと思われる。japnicaは非寄主転換性で、spinosaは寄主転換性。spinosaはきわめて稀な種で、本州ではここ15年ほど採集の記録がない。

・Kaltenbachiella nirecolaゴール

これも稀な種のゴール。リンゴを思わせる形状で、ちょっとおいしそうだ。

・Tetraneura数種のゴール

Tetraneura属のアブラムシは札幌では6種が共存し、1枚の葉にも複数種のゴールが作られる。T. sorini, T. radicicola, T. fusiformisのゴールが見える。結構美しいと思うのは私だけか。

・Tetraneuraのゴール形成者-幹母1齢幼虫

6種の幹母1令幼虫。こうした幼虫がゴールを形成する。Tetranuera属アブラムシは1令幼虫で最も種間の差がはっきりする。最も大きい種類がT. sorini

・Tetraneura sorini ゴール

小型で赤い。中で平均6頭の幼虫が産出される。

・Tetraneura sp. O のゴール、およびTetraneuraゴールに特殊化した捕食者(ヤドリノミゾウムシ)

赤色になるのは寄主木の性質で、ゴールが赤くならないハルニレの木もある。札幌、北大構内。いまだに未記載だが、まもなく名前が付きます。ゴール中で30頭の幼虫が生まれる。ヤドリノミゾウのメスが初期ゴールに産卵中。ゴール表面をかじってから、くぼみに産卵する。幼虫はアブラムシのみを捕食する。

・Tetraneura radicicolaゴール

きわめて小型で柄がない。平均8頭の幼虫が産出される

・Tetraneura yezoensisゴール

ハルニレとオヒョウニレの集団は異なるホストレースに属する

・Eriosoma moriokenseの葉巻ゴール

開放ゴールで中では幼虫が数百頭産出される。同属種幹母の入り込みが観察される。

・Eriosoma yangi parasiticum とE. y. yangi

ハルニレでは他種のゴールに対する寄生者であるが、アキニレではゴール形成者

・ユキムシ(トドノネオオワタムシ)

ゴールとゴール形成者の幹母1令幼虫