基礎生物学II 14回目(最終回)     1月22日, 10

重要! 定期試験情報ム基礎生物学II(秋元)
日時: 1月29日(金) 10:30 集合  90分間
場所: E208 教室

「行動生態学」

○ 血縁選択ムムヒトの行動、遺伝にも関わる重要な考え方。
動物で社会を成り立たせている基本は利他性にある。自分を犠牲にし、他人に利益を与える行動がないと社会は成り立たない。こうした利他性の進化は、単純なダーウィン進化学では扱えない。ダーウィニズムを社会性の問題にまで拡張したのが血縁選択説
「自分で子を産まなくても、自分の遺伝子は残せる」(Hamilton, 1964)

自分を犠牲にして他人を助けるような「利他性」がどのようにして進化したか?自然選択は「利己的」な性質が有利になると予想される。しかし、社会を作る生物では、「利他性」が必要である。この問題は、ダーウィンをも悩ませた難問であったが、現在はW.D. Hamiltonの血縁選択説によって説明されている
社会性昆虫ムハチ、アリ、シロアリ 子供を産まない働きアリ、兵アリ(Worker,soldier)が含まれる
どのようにして不妊の個体が進化したのか

血縁度 relatednessムム遺伝子の共有率
子供を生むことの意味→遺伝子を残す(自分の持つ遺伝子総体の1/2が子に伝わる)
しかし、自分の兄弟も自分の遺伝子数全体の1/2を持っている
→自分の子と自分の兄弟は遺伝的には等価。したがって、子1人を生む変わりに兄弟1人が増えれば、自分の遺伝子は兄弟を通して伝わっていく。(子育てをするハチのようなケースを考えればよい)
→全く子を産まなくても(不妊)、母親の巣にとどまって、兄弟たちをたくさん増やすことができれば、兄弟経由で「不妊の性質」が後の世代に伝わっていく

自分自身の生存率の減少分(-C), 利益を与えた相手である血縁者の生存率の増加分(+B)
利益を享受した血縁者と自分との間の血縁度を r とすると、

B r > C  ならば利他行動が進化するーハミルトン則

自分自身を犠牲にして、兄弟を助ける場合であれば、C=1。自分と兄弟との血縁度は r=1/2なので、自分を犠牲にする行為が進化するには B=2となる。つまり、兄弟を2人以上助けることができれば、自己犠牲の性質は進化する。もっと血縁関係が遠い人を助けるのであれば、(Br)人を救わなければならないことになる。

自分の子の数をなにがしか減らして(-C)、血縁者の子を増加(+B)させる場合には式を少し変形する。自分と自分の子との血縁度は1/2なので、
  B r > C/2
親を助けて自分の兄弟を増やしてもらう場合には(社会性のハチの場合など)、親とのrは1/2なので、
結局 B > C であれば、利他性は進化する.(子と兄弟は等価)

・利他性が最も進化しやすい生物は、クローン増殖をする生物で、おなじクローン同士はr=1
  例 アブラムシ (兵隊アブラムシと通常幼虫を生むものがある)
・近親交配が一般的に行われている生物では、集団内で血縁度が通常の生物より高まっている。こうした生物でも集団内で利他性は進化しやすい
 例 シロアリ ハダカデバネズミ(東アフリカ) 哺乳類で唯一Queenと不妊の兵隊に分かれる

包括適応度(I) inclusive fitnessムム利他的行動の発達を含めて進化を考える場合の指標
適応度の概念を拡張ム「生物は包括適応度を最大化するように進化している」
通常の適応度を Wで表すと
            包括適応度の式 I = W ミ ΔWA + Σ ri ΔWi
行動としての「利他性」は遺伝子レベルでの「利己性」で説明できる。利他性を引き起こす遺伝子が最も有利となる場合がある。

○ 包括適応度の適用例 親子対立
母親が何回か繁殖して2頭以上の子供を育てる場合(1回目の子育て、2回目の子育て、--)、子供の養育をいつ打ち切るかについて親子間で対立が生じる
 母親は、ある時点で1回目の子育てを打ち切り、次の子育てを開始する。生涯を通じてできるだけ多くの子孫を育てようとするはずである(ダーウィン適応度最大化:母親と全ての子との血縁度は1/2)。しかし、ある特定の子にしてみれば、自分自身への適応度は1,他の兄弟への血縁度は1/2なので、子は母親が望むよりもより多くの養育を要求するはずだとの予測が成り立つ。

                     母親の包括適応度
I =

                    

      第一子の包括適応度

 第一子への投資量
  
進化生態学
  生物の属性を自然選択の観点から説明
   繁殖形質 (卵のサイズ、繁殖回数)、行動(子の保護、配偶行動)、生活史(寿命、世代数)、
   社会性(社会における不妊個体の進化)

生物学における属性の2通りの説明  どちらも必要
「なぜ---」に対する答えかた   例ムなぜ春になると鳥がさえずるのか?
1)至近要因による説明----生理学的な説明
   例 春→日長が長くなる→脳を刺激→ホルモン分泌→各器官を刺激
   一連の生理的メカニズムの説明、物質の特定、遺伝子の特定・発現解析
2)究極要因による説明ムム進化学的な説明
  その性質が個体の生存・繁殖にどのような意味を持つかを説明
   例 春のさえずりはなわばりの宣言
    さえずりの声の大きさとなわばりの大きさとの関係、繁殖成功との関係

進化生態学の基本的考え方ム「適応度の最適化」
戦略を少しずつ変化させると適応度も変化する。適応度を最大化する戦略(最適戦略)をとっているはず

適用例
1) 卵サイズの変異  栄養の乏しい環境では大きな卵サイズが進化する
2) 性比はなぜ多くの生物で1:1なのか?