基礎生物学II 1回目 10月1日, 10     秋元信一(農学研究院・昆虫体系)

講義予定 金曜10:30-12:00
10月01日(金曜)ガイダンス:多様性の生物学 (秋元)
10月08日(金曜)動物の栄養とエネルギー (上田)
10月15日(金曜)消化         (小池)
10月22日(金曜)動物の組織 1;細胞と骨格筋 (西邑)
10月29日(金曜)動物の組織 2;結合組織 (福永)
11月05日(金曜)体系学と系統学革命 (吉澤)
11月12日(金曜)系統学の方法     (吉澤)
11月19日(金曜)生物の大分類 1    (吉澤)
11月26日(金曜)生物の大分類 2    (吉澤)
12月03日(金曜)動物の組織 3; 乳腺と乳汁 (玖村)
12月10日(金曜)生殖様式、性の進化  (秋元)
12月17日(金曜)遺伝学の基礎     (秋元)
12月24日(金曜)集団における遺伝的変化 (秋元)
平成23年
1月07日 (金曜) 集団遺伝学の応用と保全 (秋元)
1月21日 (金曜)予備
1月28日 (金曜)試験日           (秋元)
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質問・連絡等があったら、代表の秋元まで連絡してください
メイル:akimoto@res.agr.hokudai.ac.jp tel: 706-2480 部屋:農学部3階南325
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この講義で特に注目するのは、
生物の進化、生物の適応、生物の多様性
「進化を考えに入れない限り、生物学のどんな現象も意味を持たない」(ドブジャンスキー)

・生物の現象(特徴)は、特定の力が働いて作り上げられた(自然選択、突然変異
・祖先の持つ特徴は、親から子への血統を通して変化し、現在の特徴をもつに至った(系統
  したがって、選択(自然選択、性選択)と遺伝と系統に対する理解が重要

生命の起源 
 一回きりのことだったのか?何回も起こったのか?
 (単一起源? 多数回起源?)
        答え:おそらく、1回だけ起こった。
1) DNAの塩基、配列3つの組で1つのアミノ酸を指定(例 CCAはグリシン)→遺伝暗号
   すべての生物で、共通の暗号が使われている
2) DNAは、糖とリン酸と塩基からできている(ヌクレオチド)。DNA分子には、光学異性体が存在する。分子の構成要素は同じだが、配列に違いがあり、鏡像関係。すべての生物で、DNAはD型、アミノ酸はL型

生物とは? 生命体に共通する要素
・細胞から成り立つ  膜によって周囲の環境からへだてられる
・秩序(組織化)     細胞内はいくつかのタイプに分かれ組織化
・感受性         外界に対する反応をしめす
・成長、発達、生殖    個体は成長し、遺伝物質を子孫に伝える
・エネルギーの利用(代謝) エネルギーの取り込み、活動
・適応にもとづく進化  
・恒常性         外界とは独立した内部環境の保持

ではウイルスは?
生物の最も基本的な特性は? 遺伝システムーー遺伝物質に生じた変化を伝える
 
生物の階層性
 
下層の集合により上層の新たな性質が決まる

細胞(基本単位)
特殊化した細胞群 → 組織(筋組織、神経組織)
器官(心臓、脳)
器官系(消化器系)
個体 (個体のために器官系は協調して働く)

集団・個体群(population)
種 (species)
群集(相互に影響を及ぼし合っている種の集合)
生態系(群集と環境を合わせた概念 例:河川生態系)
バイオーム(植生帯によって定義される広大な地域 例 熱帯雨林、ツンドラ)

生態学上の階層性:食物網(food web、食物連鎖)
 生産者(光合成生物:植物が代表的)
 消費者、分解者 (動物、菌):消費者=植食者、捕食者、寄生者

生物体系学(分類学)上の階層性
 Linnean hierarchy(リンネ体系)= 界、門、綱、目、科、族、属、種
 学名=二命名法 Homo sapiens

生物の多様性
生物多様性(Biodiversity)の急速な減少ムとりわけ熱帯雨林
  鳥では、2000年前と比較して、20%が絶滅、10%が絶滅危惧種
  魚では、20% 絶滅か絶滅危惧、植物では8種に1種が絶滅の危機

地球上に何種が存在しているのか?知られている種数は150万種ほど

既知の全生物 141.3万種  実際には1千万~1億存在するといわれている
昆虫 75.1万
その他全動物 28.1万
植物 24.8万
細菌 4千
ウイルス 1千

なぜ昆虫がこれほど多いのか?ム特殊化 specialization による多様性の創出
共進化が特殊化を引きおこし、種の多様性を増加させてきた
 種分化(speciation)--どのようにして新しい種が生じるのか?--異所的、同所的、側所的

昆虫の多様性ムム熱帯林の樹冠部での顕著な多様性が最近見出された
ペルーの熱帯林の1本のマメ科の木から43種のアリーイギリス全土のアリの種数に匹敵

生物多様性の起源ム「種分化 speciation」 極めて急激に起こることがある
アフリカ ビクトリア湖固有のシクリッド300種 1万2千年の間に種分化ム単一祖先
しかし、一般的に形態的に区別でき、共存する近縁2種は100万年以上前に分化している

生物多様性を保つ仕組み
撹乱の重要性が主張されている------ 平衡状態と非平衡状態
  中規模撹乱仮説ム中程度の撹乱を受ける場所で多様性は最も高くなる

生態系の物質循環
水循環 陸上から大気に行く水の90%は植物の蒸散作用によるもの
    森林が破壊されることによって水分は大気に返されなくなる→乾燥化の進行

炭素循環 毎年、大気の二酸化炭素の10%が植物によって固定され、炭水化物に変化する

生態系の栄養段階の相互作用
栄養カスケード ある栄養段階の効果が上位あるいは下位の栄養段階に及ぶ場合
トップダウン効果 上位段階から下位段階に影響が及び多様性・バイオマスを変化させる
ボトムアップ効果 下位段階から上位段階に影響が及び多様性・バイオマスを変化させる

生物多様性の減少
 人類活動(人口増大)
 侵入種 (外来種 ビクトリア湖に導入されたナイルバーチ)
 気候変動 (温暖化ム寒冷地に適応した生物の局所的絶滅)
 過去の大量絶滅 (5回の大量絶滅を経験ム最後は白亜紀ム第三紀境界)

日本列島の生物の多様性の高さー世界でも有数の多様性を保つ
-----暖流(黒潮)の影響が大きい→温暖な気候と多雨

氷河期にも、黒潮の影響で氷河による生物相の破壊を免れるーー「リフュージア」
ヨーロッパ、ユーラシア中央部、北米中部では氷河により生物相が破壊された

生物多様性はなぜ重要なのか?ム答のでていない問題
 生物の多様性が高いほど、その生態系は安定し、回復力が高く、生産性が高まるするという実験結果が存在する。種が多いほど、太陽からのエネルギー資源を効率よく使える。しかし、ある生態系には最低何種類存在しなければならないのかは不明

リベット説 飛行機を作っているリベット(鋲)の例え:いくつかリベットが抜けても問題ないが、ある数を超えると飛行機はバラバラになる。生態系における種もある数を超えて絶滅が起こると急に崩壊する可能性。種同士は相互作用で結ばれている。1種の絶滅も重大な影響を生態系に与える可能性がある

keystone species ある地域の生態系の要となる種