フラボノイドのうち,フラビリウム骨格を持つものをアントシアニジンと言い,その配糖体をアントシアニンと総称します.水溶性で赤〜紫〜青い色調をもつ花や果実その他植物体に含まれます.色素全体をアントシアンと総称します.糖にさらに有機酸が結合したものも多く見られます.数種類ずつのアグリコン,糖,有機酸の組み合わせと結合位置によって,多種類のアントシアニンがあります.
基本的にフラボンの配糖体と同様のスペクトルが得られます.もともと化合物が正電荷を持っている(分子量が奇数になります)ので,FAB(+)やESI(+)で測定すると,M+が得られ,また,グリコシド結合のところで開裂したフラグメントイオンが得られます.
基本的にフラボンの配糖体と同様のスペクトルとなります.有機酸が結合しているばあいも,基本的な解析方法は同じです.
溶媒のシグナル:試料は重メタノール溶液で1%程度のTFA-dあるいはDClで酸性にしたものが良く用いられます.TFAであればそのNMRシグナルも得られます.C-Fカップリングが大きいため,13C-NMRスペクトル中に116ppm付近に1J(C,F)=284 Hzの,159ppm付近に2J(C,F)=42 Hzのそれぞれ四重線が出ます.また,時間がたつとCF3COOCD3が生成し,CF3は+0.6ppm,C=Oは+1.1ppmシフトした位置に同じ形の四重線が,また重メタノールのCD3(49.0ppm)と同じ形のシグナルが+5.4ppmの位置に出ます.
マロニル基がある場合,そのメチレンのシグナルはサンプル調整直後はδH 3.3 およびδC 42 ppm付近に出ますが,徐々に溶媒中の重水素と交換してシグナルが消失します.また,このカルボン酸が重メタノールとのエステルになったシグナルが見られることもあります.
アグリコンのB環の水酸基の数が増えると赤→青色に,それがメチル化されると橙→赤へ色が変化します.溶液を酸性にすると青→赤へ変化し,B環に隣り合う水酸基があればAl3+添加により青色へ変化します.アントシアニンのUV-VISスペクトルは塩酸酸性溶液で測定しますが,そのときの吸収極大波長およびAl添加による色の変化でアグリコンの構造を推定できます.また,有機酸に固有の吸収極大波長から有機酸の種類を,可視部と有機酸由来の最大吸光度の比から有機酸の分子数を推定できます.
UV-VISスペクトルは,共役系があれば吸収を示し,それが伸びるほど吸収波長が長くなります.また,置換基によっても波長や吸収強度が影響を受けます.波長が350nmを越えると可視光であり,吸収された光の補色がみえます.
酸性溶液でNMRサンプルを調整する際,固体では青や紫のサンプルが紫〜赤色へ変化するのが見られます.乾固した状態と酸性状態の色からアグリコンの構造をある程度推測することができます.
アグリコンとなるアントシアニジンは以下のようなものが知られています.
配糖体となる糖は,フラボノイドと同様です.グルコースなどのアルドヘキソース(C6H12O6 : 180)がアグリコンの水酸基とO-グリコシド結合したものは分子量がアグリコンより162多くなります(分子式でC6H10O5).ラムノースなどのデオキシヘキソース(C6H12O5 : 164)では分子量はアグリコンより146多くなります.
アントシアニンに含まれるアシル基は以下のようなものがあります.有機酸が糖の水酸基とエステル結合した際に増える分子量と組成式を示しました(この有機酸の分子式ではありません).カフェオイル基が結合した場合と,グルコースが結合した場合いずれも分子量が162増えますが,C,H,Oの数は異なります.
フラグメントイオンは,有機酸と糖の間の開裂によるものは観測されにくいです.アシル化グルコースのある場合には,M+より以下の数だけ少ないフラグメントイオンが観測されます.
糖,またはアシル化糖 | M+より以下の数小さいフラグメントイオンが観測される |
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Glc | 162 |
malonyl Glc | 248 |
p-coumaroyl Glc | 308 |
cafeoyl Glc | 324 |
feruroyl Glc | 338 |