交換性のプロトンを消去するためにD2Oを添加する「重水添加」は少ない試料に対して行うと重水の残留プロトンが大きくなり目的シグナルの観測を妨げたり位相の歪みの原因になってしまいます。少ない試料はあらかじめD2OまたはMeODに溶解と濃縮を数回繰り返してD/H交換を行います。MSを測定せずNMRのみ測定する試料なら、濃縮して容器を移し替える操作の途中から用いる溶媒は全て重水素化溶媒とします。
含水結晶を作るものや糖など交換性のプロトンを有する化合物は、これらを重水素に置換しておけばNMRスペクトルの質は劇的に向上します。NMRシグナル強度はモルに比例します。水や溶媒は分子量が小さいので試料に微量含まれている場合でも巨大なシグナルを与えてしまい、目的物のシグナルの観測を妨げます。これが重水素化溶媒であれば問題はありません。
微量試料を調整する場合、重水素化溶媒は0.5mlづつアンプルに分けて売られているものを用います。瓶入りを購入したなら、開封時にアンプルに分けて使います。空のアンプル管が売られています。
NMRから回収した試料でMSを測定する場合はこれと逆に軽水や軽のメタノールに溶解〜濃縮を繰り返して完全にHに置換しておく必要があります。部分的に重水素化された試料ではそれぞれの質量数のイオン強度が下がってしまい、感度の極端な低下を引き起こすからです。