今後の予定
12月15日 18:00~ 理学部5号館8階813にて
相馬雅代 (総研大葉山高等研・理研BSI/北大・理学研究院准教授 2010年2月赴任予定)
鳴禽類における体発達・歌発達に関わる個体発生要因:母性効果と兄弟間競争
2009/12/11 更新
利他行動の進化と血縁選択説
ダーウィンの進化論が広まって以来、ミツバチやアリにみられる
利他行動がなぜ進化したのかという議論は盛んに行われてきました。
今なお議論が盛んなこの分野においてHamiltonの血縁選択説は
重要な役割を担っていますが、この理論は誤解されやすく
それゆえに議論が混乱しがちです。
そこで今回は進化とは何か?なぜ利他行動が問題なのか?を解説した後、
Hamiltonの血縁選択説がいかにして利他行動を説明したかを解説します。
それをふまえた上で今問題となっている議論、特に群選択と血縁選択の関係を
紹介し、この理論が真社会性の進化をどう説明するのかを発表したいと思います。
動物の“心”に関する研究
-Do animals have mind? から What do animals mind?へ-
ヒトには“心”がある。それを疑う人はいないだろう。では動物にも“心”はある のか?ある人々にはそれは当然のように思われている。一方、懐疑的な人々は動物に “心”があることを否定する。ヒトに対する時のように答えが簡単に分からないのは、 なぜだろうか?ヒトは他のヒトの“心”を理解できるくらい高度に社会的で知的であ るが、動物の“心”を直感的に理解できるようにはできていない。そこで科学的な検 証が必要となる。 現在までに動物行動のデータが蓄積するに従って、“心”(内部の認知プロセス)を仮 定せずには行動の説明をすることが難しくなった。今回、動物の内部認知に関するい くつかの研究の成果を紹介し、この分野がとっているアプローチと、それによって科 学者がどこまで達することができたかを概説する。さらに、この“心”の問題に対し て、科学が将来的にどのような答えを与えてくれると期待されるかを紹介する。
植物の誘導防衛反応と植物間コミュニケーション
自然界で、植物は様々な被食を受けています。被食は光合成能力の低下など負の影響をもたらすため、 植物は多様な防衛戦略を進化させてきました。その中の一つに、被食を受けてからその後の被食を少 なくするために形態的・生理的な変化を示す、誘導防衛反応があります。さらに、この反応の中には、 被害個体の防衛反応を誘導するだけでなく、無傷の近隣個体の防衛反応を誘導する反応もあります。 この現象は「植物間コミュニケーション」と呼ばれ、複数の植物種で報告されています。また、その ほとんどで、被食部位から空気中に放出される揮発性有機化合物(VOCs)がシグナルとして機能する ことが報告されています。今回は、VOCsによる植物間コミュニケーションの例を紹介し、発表者の研 究対象であるセージブラシArtemisia tridentataの植物間コミュニケーションについて紹介したいと 思います。
- 環境科学院・生態遺伝学コース・大原研究室
- 石崎智美
- 2009/01/28
- 発表資料
あの手この手の行動生態学:親による子の保護のCase Study
形質の適応進化を扱う行動(進化)生態学には,毛色の異なる複数の研究アプ ローチがある。それぞれ説明している過程や説明の前提となる条件が異 なっているが,それを十分意識している日本人研究者はあまり多くないように見受け られる。形質の適応進化に対し説得力のある説明を与えるには,これら異 なる研究アプローチの協同が必要である。行動生態学を志す者にとって,各アプロー チの相違点や限界,あるいはアプローチ間の相互関係を理解することは必 須であろう。この講演では,まず行動生態学の異なる研究アプローチを概観し,それ らの相違点や相互関係を整理する。特に,日本では不思議なほど流布しな い量的遺伝学シカゴ学派の方法論に注目したい。次に,昆虫における親の投資,産子 後の親による保護行動や卵サイズの適応進化に対し,これらの研究アプ ローチを適用した演者自身の研究を紹介する。昨今,他分野に押され気味で少々元気 の無い行動生態学,若い皆さんにその魅力が少しでも伝われば幸いであ る。
- 鳴門教育大学 自然系(理科)教育講座
- 工藤慎一
- 2009/02/26
生態学と発生学の出会い -Eco-devoとは何か?
生物の体が1つの卵からどのように形作られていくのかは古くから研究されてきた。
この生物の発生・成長過程を研究する学問が「発生学」である。
生物の発生過程はその生育環境に併せて多かれ少なかれ変化するが,
いままでの発生学において,この「ゆらぎ」はあまり重視されていなかった。
しかし,近年,環境に応じて表現型を劇的に変化させる生物を材料に,環境がどのように発生過程に影響を与え,同一のゲノムから異なる表現型を生み出しているのか
が盛んに研究され始めた。
こういった研究分野は「生態発生学」(Eco-Devo)と呼ばれ,同一ゲノムから複数の表現型を生み出すメカニズムが明らかになりつつある。
演者は現在,クワガタの形態多型について研究を行っているが,
このクワガタの体・大顎サイズも,幼虫期の環境条件依存的に変化することが知られている。
この現象について,環境条件がどのように形態の変化を引き起こすのかを,発生学的なアプローチから解明しようと試みており,その研究成果についてもお話しする予
定である。
- 環境科学院・三浦研究室
- 後藤 寛貴
- 2009/03/04
アリの社会構造の関する最近の話題
遺伝的カースト決定は利己的遺伝因子で説明できるか
社会性昆虫におけるカースト分化は一般に表現型可塑性によって生じるが,近年遺伝
的なカースト決定システム(GCD)が一部の種で発見されている.遺伝的カースト決
定はどのように進化してきたのだろうか.本発表では,(1)完全単為生殖社会におけ
る女王型の社会寄生者,および (2)交雑に伴うGCDという2つのシステムを紹介し,
GCDに利己的な遺伝因子が関与している可能性について議論したい.
(1)感染する「社会の癌」:アミメアリにおける利己的系統の存続と起源
潜在的な利己的戦略のもとでの社会的共同の進化は,近年の進化生物学において主要
な問題のひとつである.単為生殖を行う社会性昆虫の一種アミメアリPristomyrmex
punctatus は女王を持たず,コロニー内の全個体が労働と繁殖との双方を担う共同繁
殖を行っているが,大型で発達した卵巣を持ち,労働を行わない利己的形質を持った
個体(大型個体)が一部集団のコロニーに混在していることが知られている.遺伝マー
カーを用いた集団解析により,大型個体の一部が遺伝的に独立した利己系統となって
おり,さらにその存続年数が18〜180年であることを推定できた.また室内飼育実験
により,この利己系統はコロニー内ではその頻度を増すが,コロニー全体の次世代生
産には負の影響を持つという,複数レベル淘汰を検出した.一般に利己系統は進化的
に短命であるが,アミメアリの利己系統は野外において,相対的に長期存続できてい
るように思われる.シミュレーションを用い,利己系統の存続条件を検討することで,
現実的な条件のもとで利己系統が長期存続できることが明らかになった.発表では利
己系統の進化的起源が祖先の女王カーストである,という仮説とその検証(進行中)
についてもお話ししたい.
(2) ゲノムインプリンティングがsocial hybridogenesisにおける女王分化の遺伝的
固定を促進しうる
social hybridogenesisとは,近年一部のアリで発見された,近縁な2種の交雑帯にお
いて女王が同種と他種双方のオスと交尾し,同種との交配では女王が,他種との交配
ではワーカーが生じるという特異な現象である.他種との交配でワーカーが生じるの
は,雑種不妊などの観点から説明可能であるが,同種との交配において元来存在した
表現型可塑性が失われる方向に進化が生じるメカニズムは,自らの次世代生産に必要
な要素を完全に他種に依存するということを意味しており,進化しにくいように思わ
れる.量的形質の遺伝モデルを用いて進化動態を記述することで,女王分化が遺伝的
に固定する条件を検討した.発生途上でカーストが自己決定可能であると仮定し,発
現量が多くなると女王に分化しやすくなる遺伝子を考えると,この遺伝子がインプリ
ンティング(アリルの発現が由来した親に依存する現象)を受ける場合に,受けない
場合に比べて高率での女王分化が見られた.またそのとき,アリルの発現は父由来の
ものに限られていた.この結果は,多数回交尾における父由来アリルと母由来アリル
のコンフリクトの観点から説明できる.発表では,社会性昆虫一般でのゲノム刷り込
み現象の可能性についても議論したい.
- 東京大学大学院総合文化研究科
- 土畑 重人
- 2009/04/01
動物における種内社会環境の解析:群れ形成および群れ内社会関係
群れ形成は、群れ内に社会的環境を作り出し、群れを形成しない場合とは異なる行
動形質を発現させうる。まず、群れ形成によって個体の行動が左右される事例につ
いて、発表者の小型鳥類の冬季群れに関する研究を交えて紹介する。
次に、群れにおける社会的環境を個々の個体間関係のレベルで研究するアプローチ
について紹介する。特に、多数個体からなる群れにおいては、群れ内全個体の間で
入り組んだ複雑な社会的関係が生じうる。近年、新たな解析手法の発展により、集団
内全個体間の社会的関係を「社会的ネットワーク」として総合的・幾何学的に扱う
ことが可能になった。これにより、社会的ネットワーク内での個体の状態が、その個
体の行動・特性にどのように影響するかを調べることができるようになった。
さらに、協力行動のモデルの一つである協同繁殖鳥類への社会的ネットワーク解析
の適用可能性について考察する。協同繁殖においては、親に加えてヘルパーが協力
的な子の世話(ヘルピング)を行う。これまでヘルピングは主に血縁選択により説明
されてきた。しかし、近年、ヘルピングには大きな個体差があり、この個体差は血
縁選択のみでは説明しきれないという指摘がなされている。協同繁殖種の群れはしば
しば複雑な社会構造を形成するため、血縁以外の社会的要因が各個体のヘルピング
投資量に影響を与える可能性が高い。社会的ネットワーク解析を導入することにより、
個体間の全ての相互作用パターンと、ヘルピング投資量を関連付けることができ
るようになる。これにより、群れ内の社会的関係がヘルピングの意思決定
に影響するかどうかを実証的に研究することが可能になる。これまでの研究における、
ヘルピングに影響を及ぼす社会的要因についての事例を紹介しながら議論を進め
たい。
- 環境科学院・木村研究室
- 野間野 史明
- 2009/05/13
体長の数倍も長い交尾器の進化
−トゲアシクビボソハムシ(昆虫網,甲虫目)を例に−
体内受精を行う動物では,交尾器を用いて精子がオスからメスへ渡される.しかし,
その雌雄交尾器の形態は,単に‘精子の受け渡し’だけでは説明できない多様性を示
す.こういった多様性は外部形態では区別がつかない種間でも顕著に現われる.この
ことは交尾器形態が他の形態形質にくらべ多様かつ急速に進化する傾向があることを
示している.
一般に,オス交尾器の形態的多様性は,性淘汰によって促されたとされるが,それ
を実験的に示した研究例は少ない.さらに,メス交尾器の進化に関してはほとんど分
かっていない.そこで,演者は,雌雄共に非常に長い特殊化した交尾器(体長の1.5
―2倍)を持つトゲアシクビボソハムシを材料に,雌雄の交尾器長に働く淘汰圧の検
出を目的として以下の実験を行った.
未交尾の雌雄を一回交尾させ, 1)交尾時間,2)産卵数,3)孵化率,4)子の生
存率を測定し,それぞれの生活史形質とオス&メス交尾器長の関係を調べた.また,
長いメス交尾器の維持コストを検出するために,5)交尾後のメスの寿命と交尾器長
の関係も調べた.結果は,1)〜4)の生活史形質の変異は交尾器長では説明されず,
交尾器長に働く初回交尾時の淘汰圧は検出されなかった.5)メスの寿命に関して,
メスの交尾器が負・体長が正の効果をもち,交尾器の長いメスほどその維持コストが
大きいという結果が得られた.
雌雄の交尾器長に働く淘汰圧は検出されなかったが,以上の結果に基づき,交尾器
長の進化と今後の課題について議論したい.
- 農学部昆虫体系学教室
- 松村 洋子
- 2009/05/13
トガリネズミの生態と土壌生態系との関係
トガリネズミは、ネズミと名前がついていますが、ネズミの仲間ではなくモグラ
の仲間です。北海道にはモグラが生息していないので、北海道においては、
モグラのニッチを占め、多くの土壌動物をたべていることは知られていますが、
その生態はよく知られていません。
一方で、土壌生態系は、地上部の生態系からリターを供給され、それを栄養源と
してリターを消費する課程でリターを分解し、栄養塩を地上部の植物に返す重要
な役割をしていることが知られています。その土壌生態系とトガリネズミは深く
関係していることが予想されていましたが、そのような研究は進んでいませんで
した。
今回は、トガリネズミと土壌生態系の紹介をしながら、現在行っているトガリネ
ズミと土壌生態系関わりあいの研究についてお話をしようと思います。
- 低温科学研究所・生物多様性
- 南波 興之
- 2009/05/27
気候変動が国内に生息するカエル類の季節活動に与える影響
現在、様々な生物が環境変動に伴う影響を受けている。このような変化は長期間
にわたって影響を及ぼし、その効果は地域、種によって異なる。現在、長期観測
によって得られたデータを用いて、様々な種に対して解析が進められている。カ
エル類についてはヒキガエル属、アカガエル属等の繁殖時期について行われてお
り、種によって産卵時期が早くなるものもあれば変わらないものもある。
本研究では、気象庁による国内の季節活動の開始日データ(1954〜2006)を用い
て、日本国内におけるニホンアマガエルの初見日、初鳴日及びトノサマガエル、
トウキョウダルマガエルの初見日の年変動、およびそれぞれに影響する環境要因
について解析を行った。年変動についての解析の結果、多くの地点にて初見日お
よび初鳴日の遅れが確認された。初見日および初鳴日を目的変数とし、初見日の
観測頻度が最も多い4月の気候条件(気温、降水量、湿度の月平均値)および積
雪量を説明変数として重回帰分析を行った結果、初見日は4月の温度、降水量、
湿度が負の要因となっていることが示唆された。
全国的に4月の平均気温は上昇傾向にあるが、その変化は小さい。しかしなが
ら、4月の平均湿度は過去50年間急激な減少傾向にあるため、季節活動開始日が
遅れてきていることが考えられる。
- 環境科学院・動物生態
- 高井孝太郎
- 2009/06/24
鳴禽類における体発達・歌発達に関わる個体発生要因:母性効果と兄弟間競争
鳥類は生活史形質に著しい多様性を示し,中でも発達様式は,早成性から晩成性
までの幅広いスペクトラムに分類される.中でも鳴禽類のような晩成性の鳥種
は,機能的に未分化な状態で孵化し,その後の短期間に急速な成長を遂げる.こ
のため晩成性鳥では,発達期のコンディションが個体の適応度に関わる形質に与
える影響が大きい.個体発生に関わる生態学的要因は数多くあるが,本発表にお
いては,親の投資配分や子の成長戦略の進化に関連する主要因として,ヒナ間競
争及び母性効果の双方に焦点をあて,その身体発達・歌発達との関連を,行動生
態学的見地から検討し議論したい.
- 総研大葉山高等研・理研BSI/北大・理学研究院准教授(2010年2月赴任予定)
- 相馬雅代
- 2009/12/15