[[2016年北方森林学会春季行事の報告]]

2016年北方森林学会春季行事の報告

写真提供:道総研林業試験場 長坂有さん

2016年6月27日(月)、「平取町:アイヌ伝統文化と森林資源〜持続可能性を高めるための取組のいま〜」をテーマに、春季行事を開催しました。

当日は好天に恵まれ、北海道大学3名、北海道科学大学4名、東京大学北海道演習林3名、森林総合研究所北海道支所8名、森林総合研究所林木育種センター1名、北海道森林管理局6名、日高北部森林管理署2名、三菱マテリアル不動産(株)2名、その他4名、今回の行事を担当した道総研林業試験場から8名の合計41名の参加がありました。

平取町では、平取町役場アイヌ施策推進課アイヌ文化保全対策室の吉原秀喜室長、山本雄さん、アイヌ施策推進課イオル整備推進係の藤谷直樹係長に、資料の準備、見学箇所での説明、昼食の手配等、全面的なご協力をいただきました。
【平取町立二風谷アイヌ文化博物館】

学芸員の長田佳宏さんに解説をいただきながら、博物館の展示を見学しました。オヒョウの樹皮がアットゥシに加工されて衣類になる様子や、カツラで作られた丸木舟など、アイヌの伝統文化に森林資源が深く関わっていることを学びました。

写真提供:森林総合研究所林木育種センター 今井啓二さん

一方で、交易によって入手された綿にアイヌの文様を施した衣類や、鉄鍋の利用など、本州などの文化に影響されながらアイヌ文化が形成されてきたことも知ることができました。

■平取町立二風谷アイヌ文化博物館
【沙流川歴史館】

博物館、歴史館の館長を務められている森岡健治さんに解説をいただき、二風谷ダム周辺を中心とする地域の歴史を学びました。
【昼食】

参加者に実費1,500円のご負担をいただき、アイヌテイストのお弁当をいただきました。トゥレプシト(オオウバユリの団子)は多くの参加者が初めて食べたのではないかと思います。伝統的な食べ物だけでなく、平取名産のトマトも入っていました。

写真提供:森林総合研究所林木育種センター 今井啓二さん

■ランチハウスBEE

博物館周辺の「チセ」では木彫りなどの実演が行われており、お話を聞くことも出来ました。

【イオルの森】

アイヌ語で「イオル」とは「狩場」という意味だそうです。

1997年に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が制定され、平取町は2007年、白老町に次いで2番目のイオル再生事業の対象地に選定されています。平取町では209haの町有林を「イオルの森」に指定し、アイヌ文化の伝承活動に有用な樹木や野草などを育て、必要に応じて素材を採取できるシステムを目指しています。

国有林で採取したオヒョウの山取り苗を昨年秋に植栽した場所を見学しました。イオルの森の森づくりは始まったばかりです。北方森林学会会員の多くの知見が現場で求められていると感じました。

写真提供:道総研林業試験場 速水将人さん
【育苗畑】

「イオルの森」だけでなく、国有林や社有林の協力も得て、アイヌ文化のための森づくりが行われています。これらの取組には、沙流川流域から採取した種子から作った苗木や山取り苗が使われており、育苗畑で育てられています。

【質疑応答・意見交換】

アットゥシの原材料となるオヒョウは地域内で確保するのが難しく、2014年3月に北海道と北海道森林管理局によって「オヒョウの持続可能な利用方策〜二風谷アットゥシ原材料の安定確保に向けて〜」がまとめられ、各地の道有林や国有林で採取されるようになっています。また、チセの屋根を葺くヨシやゴザに使われるガマなども、苫東地区など他地域でも採取しているとのことでした。

アイヌの伝統文化を維持するには、そこで使われる自然資源を持続的に利用する必要があります。苗木の育成や植栽などに関して参加者からいくつかのアドバイスが出されましたが、森林資源の管理技術について、北方森林学会への期待も大きいと感じました。

今回の春季行事は、平取町のみなさまに多大なご協力をいただきました。改めて御礼申し上げます。これをきっかけに、アイヌ文化についての理解が深まり、関連する研究など次のステップに繋がることを期待しています。
2016年春季行事担当 道総研林業試験場 明石信廣

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