テンサイミトコンドリアに含まれるプラスミド様DNA

はじめに

細胞質雄性不稔性(CMS)の原因遺伝子はミトコンドリアゲノムに求められる1.ミトコンドリアゲノムの解析にはミトコンドリアDNA(mtDNA)を調べるのだが、最近のCMS研究でmtDNA解析というと、高分子DNAの解析のみで終わってしまうことがほとんどである.しかしながら、植物ミトコンドリアには高分子DNAのほかに、環状や線状の低分子DNAが含まれていることがあり、しかもそれらの構成が正常とCMSで異なる場合がある.これらは、主ゲノムとは異なる自律的なDNA分子とみなされ、プラスミド様DNAともよばれる.ここでは、1980年代に行われた研究を元に、テンサイにおけるそうしたDNA分子を簡単に紹介する.結論から言うと、テンサイでこうした低分子DNAがCMS発現に関係している可能性は非常に低いとみなされている2.一方、ミトコンドリア遺伝という観点では、こうした低分子DNAの機能、維持、あるいは伝達の機構に関してはほとんど何もわかっていない.さらには、父性遺伝する可能性が指摘される分子種3など、興味深い挙動を示すものもある.これらの分子は一種の利己的な遺伝因子なのかもしれない.今後、別な形で研究が展開する可能性はあるだろう.

環状DNA分子

記載されているサイズが論文毎に若干異なることもあり、これまでにテンサイで発見されている小環状DNA分子種を論文間で比較し、異同を明らかにすることは困難である.しかしながら、情報を総合すると、テンサイには少なくとも5種類の小環状DNA分子が存在すると思われる.それらの特徴として、二本鎖DNAであること、高分子DNA(主ミトコンドリアゲノム)との相同性はほとんどないこと、および対応する転写産物が見つかるがタンパク質をコードしている可能性は非常に低いこと、があげられる.下表に基本情報をまとめた.

表.テンサイミトコンドリアから見つかる小環状DNA分子種2, 4, 5, 6, 7
細胞質小環状DNA分子種
a1.63 kbp1.57 kbp1.51 kbp1.45 kbp1.33 kbp
bMinicircle aMinicircle b Minicircle cMinicircle d
cX04983  X00641X04984
MFd(+)(+) (+)+
Owen+   (+)
I-12CMS(2) + +   +
I-12CMS(3) +       +

a文献2に基づく大きさ;b文献8に基づく名称;c塩基配列はこのアクセッション番号で入手できる;dこれまで必ず見つかっている場合は+で、見つかる系統と見つからない系統がある場合は(+)とした.

線状DNA分子

テンサイ野生亜種(Betavulgaris ssp. maritima)から発見された3.全長10408 bpであり(アクセッション番号Y10854で塩基配列を入手できる)、線状プラスミドDNAとよばれる.内部にORFがあり、この線状DNA分子の維持や複製に関わる機能を果たすと考えられる9.調べた限り、栽培テンサイからは見つかっていない3.ただし、父性遺伝する可能性が指摘されており3、今後花粉を介してこのDNA分子を保持するに至った系統が見つかっても不思議ではない.テンサイ主ミトコンドリアゲノムには、過去に線状DNA分子の挿入があったことを示唆する痕跡がある10, 11.これまでに被子植物で構造解析が行われたミトコンドリア線状プラスミドDNA分子はごくわずかであるので10、貴重な事例である.

引用文献

  1. Kubo T, Kitazaki K, Matsunaga M, Kagami, H, Mikami T, Malesterility-inducing mitochondrial genomes: how do they differ?, CriticalReviews in Plant Sciences, 30: 378-400, 2011.
  2. HalldenC, Lind C, Bryngelsson T, Minicirclevariation in Beta mitochondrial DNA, Theoreticaland Applied Genetics, 77: 337-342, 1989.
  3. Saumitou-LapradeP, Pannenbecker G, MaggoutaF, Jean R, Michaelis G, A linear 10.4 kb plasmid inthe mitochondria of Beta maritima, Current Genetics, 16: 181-186, 1989.
  4. Thomas CM, The nucleotidesequence and transcription of minicircularmitochondrial DNA's associated with male-fertile and cytoplasmicmale-sterile lines of sugarbeet, Nucleic Acids Research,14: 9353-9370, 1986.
  5. Hansen BM, Marcker KA, DNA sequence and transcription of a DNA minicircle isolated from male-fertile sugar beet, NucleicAcids Research, 12: 4747-4756, 1984.
  6. MikamiT, Harada T, Kinoshita T, Heterogeneity of circular mitochondrial DNA moleculesfrom sugar beet with normal and male sterile cytoplasms,CurrentGenetics, 10: 695-700, 1986.
  7. HalldenC, Bryngelsson T, BosemarkNO, Two new types of cytoplasmic male sterility foundin wild Beta beets, Theoreticaland Applied Genetics, 75: 561-568, 1988.
  8. PowlingA, Species of small DNA molecules found in mitochondria from sugarbeet with normal and male sterile cytoplasms,Molecularand General Genetics, 183: 82-84, 1981.
  9. HandaH, Linear plasmids in plant mitochondria: peaceful coexistences or malicious invasions?Mitohcondrion, 8: 15-25, 2008.
  10. Warren JM, Simmons MP, WuZ, Sloan DB, Linear plasmids and the rate of sequence evolution in plantmitochondrial genomes, Genome Biology and Evolution, 8:364-374, 2016.
  11. Unpublished data.

2016年2月22日