講師 犬飼 剛  (Associate Prof. Tsuyoshi Inukai)

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研究テーマ


1)植物における抗ウイルス、抗菌性物質としてのアスコルビン酸の役割

2)イネのいもち病菌に対する量的抵抗性の機構

3)イネ胚乳デンプン合成系遺伝子の発現制御に見られる遺伝変異とその育種利用


1)植物における抗ウイルス、抗菌性物質としてのアスコルビン酸の役割

 ビタミンCとして知られるアスコルビン酸は生体内で抗酸化物質として働く。私たち人間を含む霊長類は自分の体の中でアスコルビン酸を作ることができないため主に植物から摂取するが、植物の細胞にはmMレベルで多量のアスコルビン酸が蓄積されており、有害な活性酸素の消去以外にも細胞内のレドックス制御、植物ホルモン合成における補因子、細胞分裂や細胞伸
長における制御因子として多様な役割を担っている。アスコルビン酸の働きはこれだけに留まらず、ウイルスなどの病原体に対する防御物質としても働いていることが最近明らかになってきた(Shimura et al. 2008, Fujiwara et al. 2013)。ウイルスは植物の防御機構であるRNAサイレンシングをサプレッサータンパクを使って抑え増殖する一方、植物はこのサプレッサーの働きをアスコルビン酸を使って抑えようとするのである。植物とウイルスの間で起きているカウンターパンチの応酬である。このアスコルビン酸はウイルスに対するものとは別のメカニズムによって他の病原体に対しても働いている可能性があり興味は尽きない。



2)イネのいもち病菌に対する量的抵抗性の機構

 植物はカビ、細菌、ウイルスなど多くの病原体の攻撃を受けるが、これに対して植物も様々な方法で身を守っている。これには基礎抵抗性、遺伝子対遺伝子抵抗性などが知られているが、他にも圃場抵抗性あるいは量的抵抗性と呼ばれる抵抗性がある。病原体のレース変動に弱い遺伝子対遺伝子抵抗性は多系品種という形で利用される一方、圃場抵抗性はレース変動に対し安定しているという大きな利点があることから基本形質として品種に付与される。私たちは、イネ育種上重要ないもち病圃場
抵抗性を取り上げ、その機構を明らかにする目的で研究を進めている。量的形質である圃場抵抗性は複雑な遺伝をするため、遺伝学的な手法で対象遺伝子(量的形質の場合、QTLと呼ぶ)を絞り込みその特性を評価しているが、アフリカ原産の陸稲品種に由来する抵抗性QTLは日本のいもち病菌に対して高い効果を示し育種素材として有用であることが明らかとなった。また、その遺伝子の候補を絞り込む過程で見えてきたのは、圃場抵抗性には強化された基礎抵抗性という側面があるのではないかということである。今後、遺伝子を特定することでそれを明らかにできると考えている。


3)イネ胚乳デンプン合成系遺伝子の発現制御に見られる遺伝変異とその育種利用

 胚乳デンプンはアミロペクチンとアミロースという2種類のグルコースポリマーから構成される。同じグルコースポリマーでありながら、これらの分子は飯米の食感に正反対の影響を与える。すなわちアミロペクチンは粘り、アミロースはその粘りを抑制する。それゆえアミロース含量はイネ育種における重要な選抜形質となってきた。アミロース含量はアミロースとアミロペクチンの合成速度のバランスによって決まるが、これまで関心はもっぱらアミロース合成遺伝子(Wx遺伝子)の発現制御に当てられてきた。私たちはアミロペクチンの合成速度にも大きな種内変異があること、またそうした変異の一部は転流産物(ショ糖)に対する遺伝子の応答性の違いによることなどを明らかにしてきた。こうした変異はコメの食味だけではなく、登熟速度、収量性にも影響を与えていると予想される。アミロペクチン合成系遺伝子の発現制御因子を特定し、それらの変異を使って理想的なイネ品種の育成につなげたい。

 


最近の発表論文


1) Fujiwara, A., Shimura, H., Masuta, Sano, S., and Inukai, T. (2013). Exogenous ascorbic acid and its derivatives are effective antiviral agents against a plant virus. Journal of General Plant Pathology 79, 198-204.


2) A. Fujiwara, T. Inukai, B. Kim and C. Masuta Combinations of a host resistance gene and the CI gene of Turnip mosaic virus differentially regulate symptom expression in Brassica rapa cultivars. Archives of Virology 156:1575-1581.


3) S. Ohnishi, I. Echizenya, E. Yoshimoto, B. Kim, T. Inukai and C. Masuta Multigenic system controlling viral systemic infection determined by the interactions between Cucumber mosaic virus genes and QTLs of soybean cultivar. Phytopathology 101:575-582.


4) A. Fujiwara, H. Shimura, S. Sano, T. Inukai and C. Masuta. Screening of antiviral agents to inhibit RNA silencing suppressors of plant and animal viruses. P1.13. Proceedings of Antivirals congress (2010)


5) T. Inukai and Y. Hirayama Comparison of starch levels reduced by high temperature during ripening in Japonica rice lines near-isogenic for the Wx locus. Journal of Agronomy and Crop Science 196:296-301(2010)


6) B. Kim, N. Suehiro, T. Natsuaki, T. Inukai and C. Masuta  The P3 protein of Turnip mosaic virus  

can alone induce hypersensitive response-like cell death in Arabidopsis thaliana carrying TuNI.

Molecular Plant-Microbe Interactions 23:144-152(2010)


7) A. Uchibori, J. Sasaki, T. Takeuchi, M. Kamiya, A. Tazawa, T. inukai and C. Masuta QTL analysis for resistance to Soybean dwarf virus in Indonesian soybean cultivar Wilis. Molecular Breeding 23:323-328 (2009)


8) B. Kim, C. Masuta, H. Matsuura, H. Takahashi and T. Inukai Veinal necrosis induced by Turnip mosaic virus infection in Arabidopsis is a form of defense response accompanying HR-like cell death. Mol Plant Microbe Interact 21:260-268 (2008)


9) G. Ravelo, U. Kagaya, T. Inukai, M. Sato and Uyeda Genetic analysis of lethal tip necrosis induced by Clover yellow vein virus infection in pea. J Gen Plant Pathol 73:59-65 (2007)


10) T. Inukai, M. Isabel Vales, K. Hori, K. Sato and P. M. Hayes RMo1 confers blast resistance in barley and is located within the complex of resistance genes containing Mla, a powdery mildew resistance gene. Mol Plant Microbe Interact 19:1034-1041 (2006)


 

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