リピートフォトグラフィー

風景の今昔を比較する

 温暖化による植物の衰退、シカの食害、構造物の建築、廃屋の増加など、国立公園で自然・文化的景観の変化が進行しています。景観の変化と原因を明らかにすることは、持続的な管理運営に欠かせません。
 Repeat Photographyは、写真を過去と同じ場所・構図で撮影し,景観の経年変化を比較する手法です。アメリカの国立公園で、氷河の衰退、植生の変化、利用形態の変遷の分析に用いられています。
 私たちは,大雪山、支笏洞爺国立公園で、Repeat Photographyによる景観の変化の把握を行いました。このサイトでは,試験的に20組の写真をご覧いただけます。
 写真の収集は,東川町大雪山アーカイブス大雪山・山守隊,環境省支笏洞爺国立公園管理事務所,層雲峡ビジターセンターなどのご助言,ご協力をいただいています。

 自然景観に大きな変化は見られず1934年に指定された大雪山,1949年に指定された支笏洞爺ともに,国立公園の風景が長期に守られてきたことが分かります。その一方で,環境の変化,開発行為の変遷,利用形態の変化なども読み取れます。
 リピートフォトグラフィーは国立公園の風景を今後も保全していくためのモニタリング,管理運営の目標の共有に有効なツールと考えられます。
 この手法による国立公園の風景の変化の分析を,他の国立公園,やがては全国に広げていこうと思っています。関心のある方はご連絡ください。

北海道大学大学院農学研究院 愛甲哲也
tetsu@res.agr.hokudai.ac.jp


中央のスライドバーを左右に動かしてみてください。

大雪山:黒岳野営指定地

1970年代→2020年

使用されなくなった野営指定地の植生はいまだ回復していません。

大雪山:旭岳・姿見の池

1920年代→2020年

池の水量と堆積土にやや変化が見られる。

大雪山:天人峡温泉 羽衣の滝

1920年代→2020年

手前の樹木の繁茂以外には,大きな変化は見られない。

大雪山:旭岳温泉 白雲荘・湯の沼

1978年→2020年

改築,植物の繁茂が確認できる。

大雪山:天人峡温泉 七福岩

1980年→2020年

撮影時期の違い以外は,柱状節理にも変化は見られない。

大雪山:姿見

1986年→2020年

以前は雪渓での夏スキー,合宿などを見ることも多かった。

大雪山:大函

1920年代→2020年

大きな変化は見られない。往時の人気景勝地。

大雪山:映月峰

1963年→2020年

地形の変化はなく,裸地への植生の増加が見られる。

大雪山:北鎮岳・黒岳石室付近

1982年→2020年

撮影時期の違いにより雪形は異なる。黒岳のトイレの改修が確認できる。

支笏洞爺:支笏湖畔から樽前山

1922年以前→2020年

湖岸の桟橋以外の変化は見られない。

支笏洞爺:支笏湖畔 親水広場

1950年代→2020年

現在は園地となっている場所がバスターミナルとして利用されていたことがわかる。

支笏洞爺:支笏湖モラップから恵庭岳

1950年代→2020年

自然景観に変化は見られない。動力船,ヨット,手漕ぎボートが見える。

支笏洞爺:支笏湖畔 国道からポロピナイ・恵庭岳

1980年代→2020年

1984年まで有料だった道路の料金所が見える。奥の法面で樹木が成長したことががわかる。

支笏洞爺:洞爺湖畔

1930年代→2020年

現在は園地となっている場所に,桟橋,旅館があったことがわかる。

支笏洞爺:有珠山・昭和新山

1943年→2020年

昭和新山の形成直前と現在。農地の土地改良事業や施設の建設が行われたことがわかる。

支笏洞爺:洞爺湖町 国道から羊蹄山

1970年代→2020年

同じ位置にバス停がある。電柱,電線が目立ち,矢羽根が見られる。

支笏洞爺:四十三展望台から洞爺湖・中島・羊蹄山

1980年以前→2020年

展望台周囲の樹木が成長し,往時の展望を見られる場所を探すことは困難だった。

支笏洞爺:定山渓温泉 二見岩

1924年→2020年

地形に変化は見られない。以前は船遊びが行われていたことがわかる。

支笏洞爺:定山渓温泉 湯けむり坂から月見橋

1960年→2020年

橋,宿泊施設が改築されている。

支笏洞爺:夕日岳見晴台から定山渓温泉

1938年→2020年

地形に変化は見られない。樹木が繁茂し,往時の見晴らしは得られない。