5回札幌GMO対話フォーラム

日  時: 2007720() 13301630
会  場: コープさっぽろ北12条店 組合員活動本部
主  催: 遺伝子組換え作物対話フォーラムプロジェクト
共  催: コープさっぽろ組合員活動部
参加者: 13名(講師含む)( PJより5名) 総数18

進  行: 1334 開催挨拶 (コープさっぽろ、吉田)
       1335 話題提供者の紹介(松井)
       1340 佐野さんスピーチ、質疑応答
       1525 休  憩
       1535 意見交換
       16
30 終了


話題提供

佐野芳雄さん 北海道大学大学院農学研究院教授 

   『イネの育種研究、マーカー育種、元GM専門部会委員として』

要旨

 アフリカでは(しゅ)が違うアフリカとアジアのイネが混在していて、単植した場合に比べ収量が高くなっている。長い間混在することにより、収量が高くなるような性質をもってきた。収量だけではなく、環境の変化や病気などが蔓延した場合でも、どちらかのイネが生き残る、そういう保障がある。これは、現在進められている「同じものを地域一斉に植える」ことに対する警鐘になると考えている。イネには、栽培種と野生種があり、その間で交雑が起こり雑草タイプが出てくる。これはイネだけではなく、家畜や作物に共通の「生物が生存していくための基本的で重要な性質」である。イネは、野生種から有効な遺伝子を導入することで、環境、害虫や病気などの変化に耐え、何千年もいろいろな地域で生き残ってきた。北海道では、イネに関係して、冷害により突然変異が選ばれ、耐冷性を徐々に高めていったことで稲作地帯になったと言われているが、その突然変異とは普通の突然変異ではなくて、自然に交雑したものの中から強いものが生き残ってきたのである。

 作物の遺伝資源は、人類共通の共有財産であると考えられていたが、近年、その取扱いが大きく変更された。その時から出てきた意見のひとつが、「農民の権利」である。地球上の作物には、いろいろな変異が存在するが、遺伝資源は金や石油などの天然資源とは違い、何千年かにわたって農民や地域社会が自分たちの生活のために積極的に創造した産物である。遺伝資源を自分たちのために存続させてきた「農民の権利」といったものが、ますます強く主張されるような時代を迎えている。

 すべての生物は遺伝的につながりをもちながら変動する自然環境下に調和し、多様な遺伝子を保持して生きながらえてきた。それは、生物多様性条約やカルタヘナ議定書などを考える場合に重要な意味をもつと思う。現在、工業発展、都市化、グローバリズム、森林の伐採などにより、世界の作物の遺伝資源は激減している。これが大きな問題として出てきたのが「緑の革命」である。緑の革命とは、世界から飢餓をなくすための食糧の大増産計画のひとつで、草丈の低い品種、安い化学肥料、灌漑、農薬を使うことで小麦や米の収量を3?5倍に上げる。これが途上国の遺伝資源を圧迫する形になってきた。緑の革命をもたらせた有用遺伝子は、小麦の場合は日本の東北地方の在来品種、イネの場合は中国の在来品種や野生種から見つかったものである。在来品種や野生種は、重要な遺伝子をもっているにもかかわらず、世界中でどんどんなくなっている。また緑の革命の影の部分であるが、現在、灌漑のある水田をもつ層は全体の1/3 (?)くらいで、残りは灌漑のない貧しい層である。良好な水田をもち、農薬を使い、肥料もたくさんあたえられるような人々は、高収量品種により、収量が3倍になる、というように貧富の差が拡大した。社会学者が、こういった問題が起こることを警告し続けてきたが、格差はますます拡がっている。高収量をもたらすような品種というのは、GMOにもつながるが、ある特定の会社が作ったオールマイティの品種を植えた時の影の部分を我々は昔から見てきている。

 育種は、何千年かにわたり人間の経験によって少しずつ行われてきた。現在の育種の基本は交雑育種法で、交雑して変異を広げ、その中からいい遺伝子、組み合わせのものを品種として選抜する。それには、幅広い遺伝資源と選抜技術が重要である。分子マーカー育種とは、遺伝子導入は用いず、分子情報を利用して従来やっている品種改良をより効率化するための育種である。マーカーとは、DNAの塩基配列を示す目印になるようなポイントで、あるマーカーでは、ある特定の形質が変化するというような形で解析ができる。調べてみると、低温に対する抵抗性はいくつかの染色体の違う遺伝子によって支配されていること、雑草との競争では、特定の遺伝子が競争力を高めること、いわゆる「協調性がある」という反応が遺伝的に捉えられるということなどが分かってきた。雑草に強いといっても相手により、違う遺伝子が効いている。1つあればものすごく強くなるというような遺伝子はない。これは遺伝子の種類や組み合わせによって大きな変化がでてくるということで、遺伝子間には複雑な相互作用がある。遺伝子の最適な組み合わせを探しているのが現実の育種の姿である。もうひとつ重要なのは、地方ごとに環境が微妙にちがっていて、それぞれの風土に特有の作物ができているということである。特定の風土で、特定の遺伝子の組み合わせに生じた作物を長年にわたって農民たちがつみあげてきたのである。

 現在行われている品種作りは今までの環境を想定したものである。今後環境が変化する中でどのような品種を作るのか、それが地域のメリットになるのかが重要である。人と作物は共存関係にあり、人間だけでは生きていけない。人は今、自らの存続をあまりにも少数の作物に委ねている。人と作物、両方の存続のためには地球環境全体を考えた共存システムの育種を考えていかねばならない。研究者の社会的責任を考えると、GMに関しても本来は話すべきことがいくつもある。それを、科学的立場にたって正確に伝える姿勢は非常に重要だと考えている。今後も、研究者自身が良識をもってものを言うような努力をしていきたいと思っている。