個体群生態学的研究では、長期モニタリング・データを基礎にしたデモグラフィー(人口統計学)的研究が行われ、エゾマツとトドマツを中心にして定量的な解析が成された結果、新事実が明らかになってきました(森林の個体群動態学)。一方、植食者を対象に森林植物の食害抵抗性(被食防衛)の研究が進められてきました。主にこの2つのアプローチを紹介します。~
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 森林樹木の新葉の最大10%程度は、森林性昆虫やその幼虫(植食者)によって食害を受けています。しかし、森林植物も漫然と食害を待っているわけではありません。その防御の仕方は多様で、葉を硬くする、厚くする、毛状体(トリコーム)などの物理的防御と毒性のある化学物質や硝化不良を引き起こす化学的防御、そして開葉のタイミングをずらすなどの生物季節的防御など、が挙げられます。これらについて森林保護学の視点から情報を収集しています。~
 
 * 森林の個体群動態学 [#m5c8afcf]
 植物個体群は様々な環境条件あるいは個体間の競争にさらされ、その姿を変えていきます。その、森林植物の個体群動態がもたらされる要因を明らかにすることは、森林管理を行ううえで重要な情報です。本研究室では、多様な森林生態系において、動態をもたらす要因を検討しています。
 #contents
 
 ** 北海道の針葉樹天然林の動態 [#g68262f7]
 ***研究目的 [#z37f0dc9]
 北海道にはエゾマツ('''Picea jezoensis''')やトドマツ('''Abies sachalinensis''')を主体とする、広大な針葉樹天然林が存在しています。この針葉樹天然林は、エゾマツの優良大径木を供給し、また、生物多様性を保全する上で重要な役割を果たしています。しかし、
 - 過度の伐採
 - 十分な保育が行われなかったこと
 - 特にエゾマツは、天然林において更新可能な条件が制限されていること
 
 から、近年、針葉樹天然林において新規個体の更新が不良であり、更新メカニズムを解明することが急務となっています。
 
 そのため、本研究室では、エゾマツとトドマツを対象に、両樹種がどのような条件の下で更新が可能なのかを明らかにするための研究を行っています。
 これまで、エゾマツとトドマツは似たような環境で更新しているとされてきましたが、調査の結果、更新に適した条件は、2種でかなり異なっていることが明らかとなってきました。
 
 ***調査地の様子 [#x4efed24]
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 調査地は北海道日高支庁管内日高北部森林管理署110林班です。調査地内には1haのプロットが設置してあり、DBHが5cm以上の上木に関しては、約20年間毎木調査が行われています。
 
 われわれは、2004年に、このプロット内に50m×50mのプロットを2つ設置し、基本調査区としました。
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 ***主な結果 [#l2a1ff3c]
 エゾマツ
 - 発芽:発生したばかりの倒木で集中的に更新する。ただし、エゾマツの樹皮のように、表面に凹凸があって種子が乗りやすい倒木でのみ可能(トドマツの倒木には定着できない。下の写真参照)。逆に、20mm以上のコケ群落がある倒木では定着が困難。地面ではまったくといっていいほど更新が見られない。~
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 左がエゾマツの樹皮、右がトドマツの樹皮。~
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 - 生残:個体サイズが小さいうちはコケがなくても生残できるが、個体サイズが大きくなると、コケがあるほうが生残率が高くなる。暗い環境ではトドマツよりも枯死しやすい。
 
 
 トドマツ
 - 発芽:発生した倒木に、コケが生えないと定着できない。コケの高さは、定着に特に影響しない。また、地面でも相当数が更新している。
 - 生残:コケの影響は、エゾマツと同様である。ただし、エゾマツよりも暗い環境で生残できる。
 
 このように、両種の更新に適した条件には違いが見られることが、具体的な条件の違いとして明らかになってきました。これらの結果は、特にエゾマツの更新補助を行おうとする際、どのような条件を形成したらよいか、ということに関して、有用な知見を提供できると考えられます。~
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 ** 北海道の落葉広葉樹林の動態 [#j9562522]
 ***研究目的 [#y8caff3e]
 本研究室では、1954年に発生した、洞爺丸台風による風害を受けた落葉広葉樹林の動態を、風害発生直後から継続して調査しています。風害後の林分の回復過程を明らかにすることで、北海道では頻度が低い、大規模攪乱が森林動態に与える影響を明らかにすることができると考えられます。
 
 近年、森林の発達過程を明らかにするためには、長期的研究が重要であることが認識されるようになってきました。
 
 1990年代に入ってからは林分動態の継続研究も数多く見られますが、まだ継続年数の少ない研究が多く、数十年規模の研究は少ないです。また撹乱レジームや個々の樹種特性、初期更新動態は明らかになりつつありますが、林分や個体群毎の胸高直径や胸高断面積の成長量、枯死量、進界量といった、より詳細な林分構造の動態を解明するために必要なデータは、まだ不足しています。
 
 こうした中で、本研究室では、苫小牧研究林の落葉広葉樹林での風害後50年目の継続調査を行いましたが、このデータは50年間の動態を個体レベルで追っており、詳細な林分構造の解明が可能であるという点で大変貴重です。撹乱後の個体群の成長様式が明らかになることで、広葉樹林の林分発達過程の一端が明らかになるといえるでしょう。
 
 本研究では、胸高直径(DBH)5cmごとの推移行列を作成し、これまでの林分動態の経過を解析するとともに、推移行列による将来の林分構造の変化を予測することで、大規模攪乱後の北海道の落葉広葉樹林の発達過程を明らかにすることを目的としています。
 
 ***調査地の様子 [#n7b38b8a]
 調査地は、北海道大学苫小牧研究林です。下の写真は1954年の洞爺丸台風による撹乱を受けた直後の苫小牧研究林(左)と、2004年の風害後50年が経過した苫小牧研究林(右)です。~
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 ***主な結果 [#a95ba0ea]
 - 本数密度・蓄積:攪乱直後から本数密度、蓄積(胸高断面積合計BA)ともに増加し続けていました。しかし、近年では、BAは増加し続けていますが、本数密度は減少に転じています。
 - 林分構造:攪乱後から更新が起こり、また、残存個体が成長することで、DBHの頻度分布は、極端なL字型分布から、緩やかなL字型分布へ移行しました。近年では、小さい個体は多いが、中間サイズの個体が少なく、大きい個体が増加したことで、いわば二段林に近い構造となりつつあります。新規個体は発生しても、大きい個体の増加によって暗くなった林床では死亡率が高く、それ以上大きくなれないのです。推移行列を用いた予測では、林分構造は、この二段林構造の傾向がますます強くなると予測されました。
 - 樹種特性:In preparation...
 
 なお、本研究の一部は、日本森林学会で発表しました(保存してご覧ください)。近々、投稿論文として発表する予定です。
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 ** 針葉樹林から針広混交林へ [#b62f163b]
 ***研究目的 [#zebedd85]
 近年、林業の停滞から、各地で針葉樹人工林が放置され、問題となっています。こうした針葉樹林に対し、広葉樹を侵入させることで、単に木材生産だけでなく、生物多様性の保全といった多面的な機能を発揮させる管理が盛んになっています。
 
 このような針広混交林への誘導を行ううえでは、どのような条件の下で広葉樹種が針葉樹林に侵入するのかを明らかにすることが必要不可欠です。そのため、本研究室では、北海道で主要な針葉樹人工林である、カラマツ林やトドマツ林への広葉樹の侵入過程を研究してきました。~

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研究紹介/植物個体群動態学 の変更点